魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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リアルが忙しく、更新滞って申し訳ないです><
地味に改訂や誤字脱字・三点リーダなども直してますので、お許しください……

フフフ、また明日から地獄の7連勤が始まるのか……orz
(↑そんなシフトを組んだ自分の責任ですね、はい)


08:なつかしい気配 そして 疑問

08:なつかしい気配 そして 疑問

 

最初は、気づかなかった。

 

テーブル席に座って、頼んだランチセット――『かるぼなーら』っていう麺とサラダ、+100円したから飲み物とデザートが付く――が運ばれて来るまでの間、僕は店内を観察していてソレに気が付いた。

 

「……?」

 

調理場を横切った男性。

一瞬見えただけのその姿に、僕は違和感を感じて注意を向けた。

料理が運ばれてからも、意識をそちらに割きながら――念のため言わせてもらうと、料理はきちんと味わって頂かせてもらった――観察を続ける。

 

作業の合間にだけ垣間見る事ができるわずかな機会から情報を集め、精査、推測を交えて結論を導き出す。

 

 

男性を見て、僕の出した一時的な結論。

 

それは、“剣士”。

それも、僕に近い鍛え方。

この国の『剣道』みたいな精神の鍛錬などでなく、人を斬るために特化した武術を突き詰めた者。

 

服やズボンの上から窺える腕や脚についた、しなやかで強靭な筋肉の質と量、そして左右の筋肉量の均衡。

一定の、乱れることのない歩幅に、些細な足運びの妙。

耳を澄ますと聞こえる、独特の歩法が奏でる軽快な音楽。

 

上げ始めればきりが無い。

僕は行動を観察し、最終的な結論に至った。

 

腕の筋肉量から察するに、彼の使う武器は刃渡りがそれほどない刀剣類。

かつ、両腕とも同じ位の筋肉量であることから、流派としては二刀流。

脚の筋肉の付き具合から鑑みるに、“戦闘すたいる”は反撃を軸に戦う“かうんたーすたいる”ではなく一瞬で敵の間合いに飛び込んで戦う“一撃必殺すたいる”。

 

仮に戦ったとしても、苦戦こそすれ負けは無い……と思う。

ただ、第一線からは去って久しいみたいだ、何と言うか纏う空気が僅かに鋭さを欠く。

 

だけど、彼から薫<かお>る武術の残り香、こればかりはどんなに時を経ても消えることはない。

 

 

そして僕は同時に考える。

 

 

『どうして、彼ほどの剣士が戦いから身を引けたのだ?』…と。

当然、僕の世界にも体の衰えや完治しなかった怪我を理由に軍を退役する剣士や魔法使いは居る。

 

だけど、得てしてそういう人々は、後進の育成に励む・武具店を開く、自身の戦いで培った魔法の叡智を書物として編纂する……といった戦場から程近い道に進む。

 

理由は簡単。……どうしても戦いから離れられない。戦場での高揚を忘れられない。戦場から薫る死の匂いの誘惑に耐えられない。

非日常から日常へ戻れない。

命を賭す戦い以外に生きる意味を見出せない。

 

僕だってソレは同じだ。短い間とはいえ、いまこうして平和な時を過ごしていると、夢の世界にでも迷い込んだ、あるいは半身を失ったような奇妙な喪失感が感じられる。

 

だからこそ僕は興味を引かれた。

 

彼が戦いから離れ、こんな風に喫茶店をやっていられる理由を知りたかった。

 

だから僕は――――

「お待たせしました。食後のコーヒーとデザートの翠屋特製シュークリームです」

――――デザートを配膳し、去ろうとした彼の背中に、殺意をぶつけた。

 

 

結果は、顕著だった。

 

 

去りかけた彼の動きがピタリと止まる。

 

「……お客様、ご用件は?」

「……聞きたいことが、あります」

「そうですか……。桃子、他の皆も、後の片付けは僕がやっておくから、もうあがっていいぞ~!」

 

厨房に向けて放たれたその声に、各々から返事が返ってくる。

気配がひとつ、ふたつと離れて行き、残ったのは僕と彼の二人だけ。

彼はそのまま、入り口の立て看板を引っ込め、扉に掛かっていた札を『Closed』にして戻ってくる。

 

「すいません、気を使わせました」

「構わないさ、時間的にもうランチタイムは終わりだから。皆もしばらく休憩時間だ。……それに、皆に聞かせられる話でもないだろう?」

 

表面上柔らかな笑顔を浮かべてはいるが、その目は研ぎ澄まされた戦闘者の目だ。

何か不審な動きをしたら、見逃さず反応するだろう。

 

「そうですね。……僕に戦闘の意思はありません、どうぞお座りください」

「では失礼するよ」

 

彼が僕の対面の席へと腰を下ろす。

 

「僕の名前はジーク・G・アントワークです。好きなようにお呼びください」

「……ではジーク君で。僕は高町士郎。士郎が名で高町が姓だ」

「じゃあ士郎さんということで」

 

お互い、一片も気を抜かず慎重に自己紹介をする。

握手などは交わさない、当然だけど。

 

「さて、君がこの街……いや、この店に来たのは――――」

「――――偶然です。こんな平和なセカイで、僕みたいな人間に出会って驚いてますから」

「それは私もだけどね。娘と同じくらいな年の子に、店でいきなり殺気を浴びるとは思ってもみなかった」

 

“僕みたいな人間”。明確に言わずともそう言うだけで分かり合える。

それはつまり、士郎さんも“僕みたいな人間”だったということの証左だ。

 

僕たちの間に沈黙が降りる。

 

それを破ったのは士郎さんだった。

 

「ジーク君、君は聞きたいことがあると言ったね。……それはなんだい?」

「それは――――」

 

僕は――“しゅーくりーむ”とコーヒーを頂きながらだけど。…非常に美味だった――戦いから身を引けた理由を問いかけた。

その問いを聞き終えた士郎さんが、ふむ。と腕を組む。

 

彼はしばらく沈黙し、口を開く。

 

「家族を愛しているからかな。……君は誰かを好きになったことがあるかい?」

「無いです」

 

僕は即座に否定する。

王族に恋愛という概念も自由も存在しない。

 

国を安泰、発展させるために、隣国の見ず知らずの相手と結婚させられる。

仮にも一国の王子だった僕にもそれは当てはまる。

 

『誰かと恋に落ち、愛をつむぎ、結婚する』

 

そんなこと、夢のまた夢。それ以前に夢見ることさえない。

……だから僕は“人を好きになった”という経験もないし、それがどういうものなのか想像も付かない。

 

「年齢的に、仕方ないといえば仕方ないのかな? まぁ、それじゃあ分からないかもしれないな」

 

僕のその返答に、士郎さんが困った風な笑みを浮かべると、改めて口を開いた。

 

「……私は桃子、妻と結婚し、子供が出来てからも“そういった仕事”をしていた。……そしてその仕事の最中に怪我をし、しばらく生死の境をさまよった。

 そのあいだ妻はもちろん、家族に心配をかけた。一番下の…君と同じくらいの年の娘は親に構ってほしい盛りだったろうに、私の怪我のせいで構ってやれず随分と寂しい思いをさせてしまった。

 だから私は怪我が治った後、“仕事”から身を引いたんだ。愛している家族に心配をかけず、一緒に暮らせるようにね。……これが私の戦いから身を引いた理由だ、納得できたかい?」

「……理由はわかりましたけど、理解は出来ないです」

「そうか。…ま、いつかわかる日が来るさ」

 

そう言うと、士郎さんが席を立った。

会話はこれで終わり…ということだろう。

 

「そういえば、君はいつまでこの街にいる予定だい?」

「……さぁ?しばらく居ることになると思います」

 

時空の乱れは収まるどころか、徐々に強さを増してきている。

こんな現象は、初めてだ。

 

「そうか。話してみた感じ、君は悪い子ではなさそうだ。暇があったらまたおいで」

「……お金があったら来ます」

 

……暇かどうかである以前に、お金が無い。

 

先ほどまでとは違う、なんと言うか……非常に痛い沈黙が辺りを支配した。

 

「……元同業者のよしみで、コーヒーとデザートくらいなら半額で提供してあげるから」

 

同業者――僕は魔法騎士だから、恐らくどこかで見解の相違があるんだろう――じゃないけど説明が面倒だし、当たらずとも遠からずだろうから気にすることは無いだろう。

 

というか、殺気がこもっているわけでもないのに、視線に痛み…もとい悼みを感じたのは……さすがに情けないなぁ。

と思う僕であった。

 

 

◇◇◇

 

 

翠屋を後にした僕は、今度は明確な意思を持って住宅街を歩いていた。

僕の手に握られているのは士郎さんから頂いた、お店の外に置かれていた黒板に字を書くためのチョーク。

束で貰ったソレを使って、僕は一定の距離、一定の範囲ごとに小さな魔法陣を書き、それに魔力を込めると同時に隠匿の魔法をかけていく。

 

事故現場で感じられた3つの魔力反応。

それらといつどこで戦<や>り合う事態になってもいいように、準備をする。

 

『不測の、自然の状態での戦いでこそ真価が現れる』そういうやつもいるけど、僕に言わせれば大馬鹿だ。

常に最悪を想定して対策し行動する。戦いに身をおき、命を懸ける者なら当然の行動だ。

 

そして、そんな風に道を歩いていたとき、大きな魔力の胎動が僕を襲った。

 

「ッ!?」

 

今朝調べた魔力と同質な、だけどもっと大きい反応。

 

場所も悪い、方向で言えば今いる地点の真逆。

……おまけにその地点までの道のりもわからない。

 

「ああもう!」

 

今この時間はアリサが通う学校の終わる時間。

もし帰り道ででも出くわしたら不味い。

 

アリサに危害が加わらない場所や時間帯だったら無視するつもりだったのに!

 

護衛として雇われている以上、不確定要素は潰す。徹底的に潰す

 

僕は意識、そして体を戦闘態勢へと切り替えた。

髪が白銀へと変貌し、自分ではわからないけど瞳が碧色に変化する。

 

僕は脚に力をこめると、近くの住宅の屋根へと駆け上った。

穏行の魔法を使って姿・気配を隠しても、自身から発する音は消せない。つまり、飛行魔法を使ったら風切り音で周囲の人間に不信感を与えてしまう。

 

だから僕は“飛ぶ”のではなく“跳ぶ”。

 

僕は屋根を蹴ると、魔力が発生した方角に向かって一直線に向かう。

屋根を飛び石代わりに、飛行ではなく跳躍で目的地へ。

……これなら道がわからなくても問題ない!!

 

 

僕は疾風のごとく空を駆けるのだった

 

 

 

 




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