魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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皆様、4ヶ月ほど何の告知もないままに、更新を途絶えさせていた事、まことに申し訳ありませんでした。

2~4月とリアルがごたごたが続き、4~5月と新学年が始まった影響でずるずると今まで更新がとまってしまいました。
ちまちまと、新話は書き溜めてたんですよ(小声)?

時間に余裕が出来てまいりましたので、更新を再開したいと思います。

更新速度は2~4日に1度くらいのペースで行こうかと思ってます。
リアルの事情で、毎日更新は厳しそうなので……><


09:魔犬、出会い、そして……魔法使い

09:魔犬、出会い、そして……魔法使い

 

空を駆けた僕は、十分もしないうちに魔力発生の目的地階下に到達した。

 

アリサに教えてもらった知識が正しければ、ここは神社。…この国独自の神を祭る一種の祭儀施設みたいなものらしい。

そしてどこの世界でも同じく、祭儀場というものは周辺で最も高い位置に作られる。

 

だから僕は――――

 

「……なんでこんなことしてるんだろ」

 

――――ため息を吐きながら飛行魔法を使って石段上の神社に向かっていた。

 

……いや、だってね、面倒くさいでしょ。階段を駆け上るのは。

というわけで、魔法の隠匿なんかより、楽なほうを選ばせて貰いました~。わーい(棒読み)。

 

……考えてみたらね、ここにアリサのいる確率は低いんだよ。

帰りは鮫島がアリサを迎えに行くのが日課で、この山の麓には鮫島の車が停まってなかった。

あんな事件があった直後だし、アリサを一人で帰すことはまずあり得ない。

 

つまり、アリサがここに寄り道をしている可能性はほぼゼロ。

 

そう考えるともうこれより上に行く必要はないんだけど、ここまで来たからには原因を突き止めたほうがいい。

 

「……原因め、覚悟しろ」

 

僕は不穏な気配を振りまきながら宙を翔け、ものの数十秒で階段の終焉へと到達し、そこで――――

 

「なのは! レイジングハートの起動を!!」

「え? 起動って何だっけ?」

「え゛!?」

 

――――迫る魔獣を前に、あたふたしている一人の少女とその傍らに立つ(ちなみに2足歩行だった!!)人語を話す一匹の小動物に遭遇した。

 

 

◇◇◇

 

 

「……?」

 

魔獣と少女と小動物、この3つを見て一瞬で判った……というか感じられた事。それは目の前の3つが僕が事故現場で命名した仮称α(小動物)、β(魔獣)、γ(少女)だって事だ。

 

けど不思議なのは、事故現場でβを倒したはずのγが、なんというか、間違って戦場に迷い込んだ町娘ちっくな雰囲気……はっきり言えば違和感しか感じない。

魔獣と相対してるのに、気迫……というか戦う覚悟が感じられない。

 

目の前の魔獣くらい呼吸するように容易く殺()れるからの余裕か、あるいはただ単に目の前の脅威を理解できないダメな奴なのか……間違いなく後者だと僕は断言できる。

 

とり合えず、目の前の少女と一匹を見殺しにするという選択肢は消えた。

 

目の前で死なれるのは気分が悪いし……それに――どちらかというとこっちが本命の理由だけど――着ている服が、アリサの通っている学校――私立聖祥大付属小学校。えすかれーたー式に中学、高校、大学があるとアリサに説明されたけど、いまだに僕は“えすかれーたー”と“えれべーたー”の区別が付かない。いいじゃないか、上下に移動する手段に変わりはないんだし……――の制服だ。

 

万が一アリサの知り合いだったら、彼女が悲しむかもしれない。

護衛対象の“めんたる”面にも気を配るのが一流の護衛である条件らしい。これは一流の執事である鮫島が教えてくれたことだ。

 

ちなみに、鮫島には『なれる! 一流執事!』『これであなたも護衛(ガーディアン)!』という書物をもらった。

とりあえず、覚えて実践してみる。

 

というわけで残った選択肢は1つ。それは『元凶の排除』、……ということで――――

 

「……始末する」

 

――――“狩り”を開始した。

 

 

◇◇◇

 

 

「ひゃっ!?」

「うわっ!!」

 

僕は地に足を着くと後ろから一人と一匹の間を駆け抜け、真正面から魔獣に接近した。

 

それと同時に頭の中で“獲物”の情報を整理する。

敵は魔犬型で小型――故郷には家一軒分の大きさの魔犬がいる――種、4つ眼で口部には鋭い牙。注意すべきはその体躯と牙。

 

……そう、“たった二つだけ”。

そしてただの牙と体躯など脅威に値しない。

 

「……ふん」

 

ゴキリ…!

 

「グォォォォォォッ!?」

 

僕はただ自分の身体を強化し、自分の速さと近づく相手の速さ、その二つを拳に乗せて鼻面を殴っただけだ。

吹っ飛んだのは明らかに僕より巨躯な魔犬のほう。感触からして、相手の顔面の骨は砕けている。

 

たかが魔犬相手に策なんて必要ない。ただ力で蹂躙する。

 

僕は、殴り飛ばされ未だ空中に浮かんだままのソレに対し、瞬動――超高速移動する技。魔法というより体術に近い――でその吹き飛び方向に回り込むと、今度は下から突き上げるようにソレを殴る。

魔犬なんてモノは足場がなければ何も出来ない、ただの肉の塊だ。

 

僕はそのまま瞬動を繰り返し、ソレを宙に浮かべたまま全方位から殴打する。

 

とり合えず、一秒間に八回を目安に拳を叩き込む。

四肢の骨を粉々に、体中の骨全てを最低一度折ったあたりで殴打は終了。

 

一瞬、宙で静止したソレに、僕は両手を組んで槌が如く振り下ろした。

 

「………………」

 

もはや何の声も発しないソレが、地面に叩きつけられ地面を陥没させる。

魔犬の返り血で両拳が紅い。

 

……剣を持てれば一瞬で頸を落として楽に“殺して”やれるんだけど、素手だからしょうがない。

ちなみにこの場合拳銃を使うのは論外だ。対人用の非殺傷弾で倒せる魔犬がいたら見てみたい。

 

「……ォォォォォォオオオオオオッ!!!!」

 

……完璧に殺したはず。

だからこそソレがあげた雄たけびに、僕は眉をひそめた。

砕いたはずの骨が治り、粉砕したはずの四肢で立ち上がろうとする魔犬の姿。

 

「そこの小動物、これは不死身の生物なのか?」

 

目の前の魔犬から目を離さずに、僕は一番状況を理解してそうな背後の小動物に語りかける。

……不死の生物なら、少々どころかかなり厄介だ。

 

「い、いえ!おそらくその原住生物の体内に取り込まれたジュエルシード……魔力の核になっているものがその異常な回復力の原因です」

 

何故か小動物の声が震えてるんだけど、僕何かしたっけ?

 

不死じゃないならそれに越したことはないね。

…それにしても、『核』か……。

 

僕は目を細め、注意深く魔力の流れを感じ見る。

 

普通のときよりも魔力に近い今なら、朝のように魔法を使わないでも魔力の基点探しくらい造作もなくできる。

 

「……見つけた」

「……は?」

 

間の抜けた小動物の声。

 

「核、見つけた。どうすればいい?」

 

僕は自分の言葉に補足を入れる。

知らないものにうかつに手を出すとろくでもない目にあうのは常識だ。

 

「え、えっと、核の位置がわかったなら封印を――――」

「――――やり方がわからない」

 

僕は小動物の言葉を遮る。

“じゅえるしーど?”ってものがどんなものかわからない以上、最適な封印が出来るはずがない。

 

「じゃ、じゃあ僕たちが封印しますから、その原住生物の動きを止めてください!……やり過ぎない程度に」

 

……殺()りすぎない程度?

うん、つまり半殺しにしろと。

 

………………いまこそ拳銃を使おう。

 

下手に素手で殴るより、拳銃を使ったほうが確実だ。

手加減を間違って殺しちゃうこともない。

 

僕は異空間にある僕の倉庫――的確な説明が出来ない。……いつでもどこでも使える物入れって言えば伝わるかな?――から虚空にM92F(けんじゅう)を2丁取り出すと、両手で掴み取る。

 

練習が足りなくて、敵に弾を中てる確信が持てない。

……それならば、中てられる距離まで敵に近づけばいい。

僕は地を蹴ると、再度魔犬に肉薄した。

 

 

ガガガガガン!!

 

 

魔犬の喉笛、そして腹部に零距離から連続して銃弾を叩き込む。

銃の反動は、強化した筋力で上手く相殺する。

殴っていたときの感じだと、そこが一番肉質が柔らかかった。

大砲を撃ったあとのような、硝煙の臭いが鼻に付く。

 

魔犬の体躯を紫電が奔り、その動きを停めた。

 

そして――――

 

「な、なのは!封印を!!」

「う、うん!レイジングハート、セットアップ!!……リリカルマジカル、ジュエルシード、シリアルⅩⅥ。…封印!!」

 

――――戦いが、終わった。

 

 

◇◇◇

 

 

「…あ、あの――――」

 

あっけない終わりに虚無感を味わっていた僕は、背後からの少女の声に振り向いた。

 

「ん?」

「――――ひぃ!?な、何でもないですっ!!」

 

何でもないと言うわりに、その少女の顔は恐怖に歪んでいる。

……いや、ホントになんでそんなに怯えられてるんですか、僕は?

何かしたっけ?

 

「え、えっとですね、とりあえずその手や服、顔に飛び散ってる返り血と質量兵器がなのはを怯えさせてるので、どうにかしていただけると……」

「……あ」

 

小動物の指摘に、僕は間抜けな声を上げる。

 

……盲点だった。

両手、そして体中が返り血に染まって、なおかつその手には鈍く輝く鋼鉄の武器。

そしてさらには無表情。

 

…………確かに客観的に見るとかなり恐怖を与える姿だ。

 

僕は銃をしまうと、布を取り出して返り血をふき取る。

乾く前にやっておかないと、こびりついて落ちにくくなってしまう。

 

ふきふきふき…と

 

「……落ちた?」

「は、…はい」

 

少女が頷く。

 

「……貴方は、現地の魔導師の方でしょうか? 僕の名前はユーノ・スクライアといいます」

「あ。わ、私は高町なのはです!!」

「(……魔導師?)……声が大きい」

 

僕は小動物の言葉に違和感を覚えつつも、それを表情には出さない。

 

「ひいっ!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」

「………………ジーク・アントワーク」

 

よく判らない初対面のこいつら相手に、『G』の名を教える必要もない。

………僕にとって大事なものなのだ、『G』の名は。

 

それにしても、僕は悪くないはずなのに、そこまで怯えられるととても傷つく…。

 

「……えっと、じゃあ、ジーク…君?」

「気安く名前で呼ぶな」

「ひぃ!?」

「…………僕はここの魔法使いじゃない。この場に来たのもただの気まぐれ」

 

僕は話の通じそうな小動物のほうの問いに答えてやる。

 

「そうでしたか……。このたびはご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ありませんでした」

「問題ない。確認したいことが合ったから来た、謝まらなくていい。……じゃ、僕は帰る」

 

この神社の高さから飛べば、下の人たちに見つかる可能性を限りなく低く出来る。

地を蹴りかけた僕を、少女が呼び止めた。

 

「あ、あの!よかったら一緒にジュエルシード探しを手伝って――――」

「――――やだ。手伝う義理はないし、こっちにだって仕事がある」

「でも――――」

「――――なのは!!……すいません、無理を言ってしまって…」

 

礼儀正しい小動物…ユーノって言ったか。

僕は認識を改めながら頷いた。

 

「……仕事の障害になったらこっちで始末する。それ以外は勝手にやって」

「いえ、それだけでもありがたいです」

「ん、ユーノは名前で呼んでくれてかまわない。……じゃ、ユーノとあとついでに少女Aも、また機会があれば」

「し、少女A!? その未成年犯罪者の名前みたいなのはイヤなの!! 私は、た・か・ま・ち、な・の・は!!」

「……うるさい黙れ静かにしろ」

 

騒がしい少女を睨みつけて黙らせる。

僕は地を蹴ると空へと舞い上がり、一匹と一人から離れると、アリサの家――視力を強化したらすぐに見つかった――へまっすぐ翔けるのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

時は流れて、夜。与えられた僕の部屋。

夕食を食べ終えた僕とアリサは机に向かっていた。

 

何をしているのかと言うと――――

 

「はい、ジーク、次はこれを日本語に訳しなさい! 『I am home.』」

「アリサ、僕を馬鹿にしてるのか? 『私はホメです』でしょ?」

「んなわけないでしょうがっ!? 誰よホメって!? なんで『私は家です』っていうベターな間違いじゃなくそんなぶっ飛んだ解答になるのよ!? 『私は家にいます』っていう意味よ!!」

 

――――英語の勉強である。

 

日本語――ひらがな、漢字、基本文法は網羅した。カタカナ語は鋭意努力中――の勉強がひと段落した僕は、新たな言語に食指を伸ばしていた。

 

「はい、次! 次の会話文を英訳せよ『ごめんなさい。僕は英語がしゃべれないんです』」

「えーっと、『Sorry. I can't speak English.』。…………アリサ、その問題文おかしい。なんで英語がしゃべれないことを英語で謝ってる?」

「……問題文がおかしいわね」

「あとこれも。…次の英文を和訳せよ『The cat's name is Mike.』。『そのネコの名前はマイクです』が正しいんだろうけど、一緒に書いてある図が三毛猫なんだけど。……『そのネコの名前はミケです』の方が正しいと思う」

「………ジーク。この国の英語教育は色々と遅れてるのよ、きっと」

 

アリサが書店で買ってきたという英語の教科書をパタリと閉じると、そのまま僕のベッドに倒れこんだ。

 

「今日の授業はここまで」

「ん、わかった」

 

僕はノートとペンをしまうと――言葉に自然とカタカナ語が混じっている。これが僕の努力の成果だ!!――アリサの隣に倒れこんだ。

 

「……それにしてもジークってなんだかんだ言って理数系は散々だったけど語学に関してはかなり優秀よね~。日本語の勉強を始めてからたった数週間で英語の勉強に入れるなんて。教えるほうも結構楽しいわ」

「アリサの教え方がいいから」

 

先生役をやれるアリサの能力がすごいんだと思うけど。

 

「…………」

「…………」

 

その会話を最後に、お互い何とは無しに黙ってしまい、僕たちの間に沈黙の帳(とばり)が降りた。

チラリ、隣に目をやると、同じくこっちを向いたアリサと目が合ってしまう。

 

「な、なによ」

「……なんでもない、よ?」

 

この戦場でも感じたことがない焦りは何だろう。

アリサも似た気持ちだったのか、強引な感じの話題転換をしてきた。

 

「そ、そうだ! 今朝言ってた魔力の件はどうだったのよ」

「え、ああ、うん。このセカイの魔法使いに会った。小動物に連れられたアリサや僕くらいの女の子」

 

それを聞いたアリサが『日曜8時からやってるアニメみたいな話ね』と肩をすくめる。

 

「……それって逆じゃないの? 小動物を連れた魔法少女じゃなくて、小動物に連れられた魔法少女って……」

「だって、小動物のほうが有能そうだったから」

 

それを聞いたアリサがなんとも不憫そうな表情を浮かべた。

 

「ちょっとその子に同情するわ……」

「事実だし」

 

僕は少女A――名前を覚える価値は無さそうだった――を思い出し、内心でうなずく。

あの少女は、魔力が水のように満ちた水瓶みたいな存在。

戦場に立つ器じゃない。

 

「まあいいけど……どんな子だったの?」

「アリサの学校の制服着てた……割には頭が良さそうじゃない子」

「魔法って実はとっても身近な存在なのかしら。……それにしてもそこまで言われて……不憫な子」

 

アリサはちょっと顔をしかめた後、遠い目をして見も知らぬ少女に向かって憐憫の情を向けていた。

 

ただしそれはほんの刹那のこと。

 

アリサがいきなりベッドから飛び起きた。

その目は爛々と輝いている。

 

「……どしたの?」

 

僕も身体を起こし、アリサに頸を傾げた。

 

「ジーク! 私たちのこの世界にも、貴方みたいなイレギュラー以外にも魔法という理(ことわり)は存在する…そうよね!?」

「……断言は出来ないけれど、状況を鑑みるに、恐らくは」

「で、ジークの見立てだと、その子は魔法ってモノに慣れてない……つまり、少し前までは魔法の存在を知らなかった。それから推測できるのはその子が生粋のこの世界の人だったって事!

どうして魔法が使えるようになったかは判らないけど、それは元々この世界の人間にも魔法を扱えるだけの素地が有ったってことよね!?」

「もしかして、アリサ……」

 

僕はようやくアリサの言わんとしていることを察した。

 

そしてそれは――――

 

「ジーク、あなたは私に魔法を教えなさい!!」

 

――――僕の想像を裏切らないものだった。

 

 

おまけ

 

Another Side

~ジークが少女A(なのは)の話をしていたころ~

 

「へくしょん!!」

「わ!? なのは、大丈夫? カゼでもひいた?」

「引いてないと思うんだけど…。誰かにウワサでもされたのかな?」

「? この世界の人たちは、自分がウワサされるとくしゃみが出るの?」

「うーん、昔からそういわれてるけど迷信みたいなものだか――――へくしょん!? ひ、ひた(舌)はんだ(噛んだ)~!?!?」

「なのは!?」

 

おしまい

 




2013/06/10改訂
地の文や、描写などを調整
ご意見ご感想などありましたら、コメントにてどうぞ^^

P.S:私のもう一作の『ウィッチーズ~』のほうは、明日更新する予定です。

以下、改定前のあとがき

猫に関しての英文は、中学校時代に実際に出題され、物議をかもした問題ですww
アリサに魔法使いのフラグが立ちました。

念のため言っておきますが、なのは的な『魔導士』ではなく、別口の『魔法使い』です。

また、主人公のセリフへ徐々にカタカナ語が混ざり始めました。彼の進歩にご期待を

なのはの扱いが酷い件:…仕様です♪

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