魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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昨年内に次話を投稿するといったな、あれは嘘だ!
……いやホントごめんなさい。




16:激突

第16話

 

Side.Arisa

 

ジークに師事してから、分かったことがある。

底が見えない、私とどれだけ実力差があるのか分からない。

 

魔法を学べば学ぶほど、ジークが遙か彼方にいるのが分かる。

 

「……っ」

 

眼前で止められた杖を跳ね上げ、その勢いを使って石突きで胴体を狙い――――既にそこにジークは居ない。

 

「……」

 

表情を揺らがせもせず、私の攻撃を下がって避ける。

 

魔法の発動からして、全く違う。

前に聞いた話によると、ジークはありとあらゆる事に意味を見いだして、“魔法”を組み込んでいるらしい。

 

私が聞いた限り、こんな方法で魔法を常時発動できるらしい。

 

マンガやアニメみたいに、呪文や手で印を組んで魔法を使う……魔法使いらしいと思う。

戦闘時に、足や腕の運びかた・移動の仕方で魔法を組む……まだ普通。

防御の時、武器を動かす軌跡で、空中に見えない魔法陣を描くのは……まぁまだわかる。

歌とか口笛なんかで魔法を組むなんてのは、それこそファンタジー向けだと思う。

 

呼吸のリズム・間隔で魔法を構成、心臓の鼓動のリズムで魔法を構成、まばたきの回数で魔法を構成……もう、理解できない。

 

心臓とかって、不随意筋だから意識的に止められないはずなんだけど、ジークはそれをやってのける。

信じない私に、心臓を三三七拍子で動かして見せた時点で、ジークはそういうもんなのだと、割り切ることにした。

 

まぁ、何が言いたいのかっていうと、純粋な魔法合戦じゃ勝ちようが無いって事。

ジークもそんなことは百も承知だろうし、望んで無いと思う。

 

「『ブレイズ』っ!」

 

コートの内側に両手を突っ込んで、魔力刃の柄を掴めるだけ掴んで目の前へバラマくと、声を張り上げる。

放られた柄に、魔力の刃が生えた。

 

魔力のナイフは、重力に逆らって空中に固定される。

 

「術式付与、障壁突破!」

 

これで、準備と“仕込み”は済んだ。

 

ここで私に取れる戦術は3つ。

一つ。私の周りに滞空させて、ジークが接近戦を仕掛けてきた場合の壁にする。

二つ。このナイフの群れだけを突っ込ませて、出方を探る。

 

そして三つ目――――

 

「鏃(やじり)の陣 壱型|<アローヘッド・ワン>!」

 

――――この群と共に、突貫する。

 

実質、この手段しか取れない。

長期戦になればなるほど、技の引き出しの少ない私に、取れる手段は減っていく。

 

だから、狙うのは短期決戦ただ一つ!

 

私の命令に従って、30近くの刃が、私の前に円錐状へ並ぶ。

さながらそれは、ジークに向けられた巨大な槍<ランス>。

 

「突撃ッ!」

 

それが魚の群れのようにジークへ向かう。

私は筋力強化を脚に掛けて、死角へ周る。(練習の時点で試したら、100メートル走のタイムが4秒切ってた)

 

「……ん」

 

目を、スッと細めたジークが、息を短く深く吸うのが視界の端で見えた。

 

「A――――An!!」

 

耳をつんざくような大声。

反射的に体がビクリと跳ねそうになるのを押さえ込む。

 

ただし、押さえこめたのは体だけ。

正面からジークの声を浴びた剣群の陣形は声の衝撃で崩され、四方八方へと散らばっていた。

 

「ちょ、そんなのアリ!?」

「近接戦技『響声|<ひびきごえ>』って技名がある。音声に魔力を乗せて、牽制や威嚇に使う。分類は攻撃魔法じゃなく体術と筋力強化の混合」

「説明どうも!」

 

律儀に説明してくれてるジークに杖を振るう。

もう止まれない距離に来てたし、散らばったナイフの陣形を再構築する時間を稼ぐっきゃない。

 

「イン……パクトっ!」

 

互いの武器同士がぶつかるホンの刹那、瞬間的な加重魔法の発動、ここ1週間の修行の成果だ。

 

トラック同士が激突したような音と共に、物干し竿と私の杖が衝突する。

真っ向から攻撃を受け止めたジークが、20メートルほど先まで砂煙を上げて後退する……が、全く体勢が崩れてない。

 

「おぉ、重い重い。今のでどのくらい?」

「……杖の重さを2tに、発動時間は0.001秒」

 

無論0.001秒なんて、素の状態じゃ知覚しようもない。

攻撃の当たる瞬間だけ、視力と思考力の強化魔法を併用した上での一撃だ。

 

「そう、其れだけ出来てれば上々。可能ならば攻撃が当たる瞬間までは、逆に杖の重さをゼロにして、速度を乗せるべき」

「そこは練習中よ!」

 

それをしながら強化魔法をかけつつ攻撃は、さすがに処理が追いつかない。

 

勝つためには、“罠”をはった場所にジークを誘導する、ただそれだけ。

それだけの事が、難関なんだけどね・・・・・・。

 

私は、どうやってジークを罠に誘い込むかを考えつつ、再度魔法を構成するのであった。

 

 

◇◇◇

 

 

Side.Sieg

 

 

・・・・・・ふむ。

 

10分近く、武器と魔法を交し合ったところで、僕はいったん手を止める。

 

アリサの動きから、ある一地点に僕を誘導しようとしてるのは理解できた。

 

偶に視線を誘導したい場所に向けるから、バレバレだ。

後で注意しておかないと。

 

既にアリサは息も上がって満身創痍だし、戦いを引き延ばすのは無駄か。

敢えて誘いに乗って、どんな策を張ってるのか見てから止めを刺そう。

 

偶然を装って、アリサの望む場所へ踏み込んだ。

 

「!!」

 

『してやったり』って表情を浮かべるアリサ。

いきなりそんな顔をしたら、『何かあるよ!』って自分から言ってるようなものなのに……。

まぁ、それは追々直していくよう教えよ――――

 

「……む!」

 

踏み込んだ瞬間いきなり地面が液状化して、僕のふくらはぎの半ばまでを一気に飲み込んだかと思えば、次の瞬間にはもう地面は元のように固まっていた。

 

設置型の魔法?

何時の間に……なるほど!

 

「掛かったわね!」

 

アリサが杖の石突で地面を叩くと、僕を中心にした円の上、六芒星<ろくぼうせい>の基点の地中から現れる6つの柄が浮かび上がる。

 

「……最初か、僕の響声で柄が散ったときに、一部を透過の魔法で地下に埋め込んだのか」

「その通り! これでしばらくは身動き取れないし、物干し竿も振りにくいでしょ!」

 

全く持ってその通り。物干し竿の長さが、ここにきて悪影響を及ぼすとは想定外。

ふくらはぎまで埋まったせいで、その長さが仇になった。

 

「まだまだ続くわよ! 『ブレイズ』、行きなさい!」

 

剣郡を2分割して、その場を動けない僕の真上と、地面スレスレからの同時攻撃。

さらには視線の先で、アリサがこちらに向かって槍投げの要領で、下がってから助走を付けている。

 

多分、投げる杖にも着弾の瞬間に重量増加が掛かるように魔法を待機させてあるだろう。

……いや、見た感じ、それに加えて障壁突破の魔法も重ねがけしてる。

 

避けられず、防げもしないとは……エグイ、なんともエグイ。

さすがは僕の弟子だ、うん。

 

 

――――ただ、相手が悪かったね。

 

 

この設置魔法で動きを封じるんだったら首元まで、最悪でも腕が動かないように沈めておくべきだった。

 

僕は物干し竿を真上に投げる。

 

 

「『回れ』」

 

 

頭上に浮かんだ物干し竿が、僕の上で高速で回転する。

その竿の動きは、僕の頭上には銀の円盤が浮かんでいるように見えるだろう。

これで真上から降ってくる剣郡は捌<さば>ける。

 

続いて、言葉と両の腕で地面から来る剣郡と、アリサの投げる杖を捌く術を組む。

 

 

『地に沸く清き泉の加護を以()て、我に守護の要害を与えたまえ…「玲瓏絶禍(れいろうぜっか)」』

 

 

口を動かし呪文を紡ぎながらも、手で高速で印を組み、指で虚空に魔方陣をなぞる。

僕を基点に水晶のように澄んだ壁が現れ、僕を囲んだ。

 

「幾ら防御を固めたところで!」

 

アリサが勝利を確信した笑みを浮かべながら、杖を僕へと向けて投擲した。

 

剣郡が防がれるのはアリサも分かっているだろう、本命はこの杖だ。

流石に動けないこの状態で、これを食らったら衝撃を逃せない分、痛いじゃすまない。

 

見た感じ、音速に近い勢いで迫る杖。

 

僕は、防ぐでも避けるでもなく、“食らわない”選択肢を選んだ。

 

 

「『開け』」

「……はぁ!?」

 

玲瓏絶禍に杖がぶつかる直前で、僕が開いた時空の門に杖が吸い込まれていった。

 

門の先は、僕がいつも荷物をしまいこんでる空間のようなもの。

つまり、無限の空間が広がってるところだと思えばいい。

 

そしてこの魔法の便利なところ、それは“準備さえしておけば、どこにでも出口を作れる”ことだ。

 

「ちょっと! 私の杖はどこn――――ごっふぅッ!?」

 

愕然とするアリサの真正面に開かれた出口から、自分の投げた杖が勢いそのままで飛び出してくる。

 

アリサに作った戦装束なら、この程度の攻撃は軽減するから大丈夫。

大丈夫、死にはしない。……ただ、何もいえず悶絶する位には痛いだろうけど。

 

当然避けられなかったアリサの鳩尾(みぞおち)に、杖が突き刺さる。

女の子があげちゃいけない声が出てるけど、聞かなかったことにしよう。

 

吹っ飛ばされたアリサは、そのまま後ろ向きに倒れこむ。

 

拘束を強引に外して近寄って確認してみると、アリサは完全に気を失っていた。

 

こうして、最終講義は僕の勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……ん」

 

アリサが声を上げ、小さく身じろぎする。

薄く目を開けたアリサが、寝起きの焦点の合わない目で周りをみやり、最後に僕と目が会った。

 

期せずして、僕とアリサは見つめあう。

睡眠から覚醒したのか、徐々にアリサの目に理性が宿っていき。次の瞬間――――

 

「わっひゃいっ!?」

 

飛び起きようとして、傷口が傷んだのかそのまま悶絶状態に陥った。

うぅむ、なんという変な悲鳴。

 

「起きた?」

「なななな、何で私はジークに膝枕されてるわけ!?」

 

 

そう、今の僕は気を失ったアリサを膝枕していた。

 

 

「これは、目の前に倒れた異性が居るときにやるべき様式美だと教わった、違う?」

「ま、また変な知識をッ! 今度はなんてタイトルの本からの知識よッ!?」

「いや、さっき鮫島に教わった」

「鮫島ぁッ! どこに居るの!」

「アリサのご両親に写メを送らねば! って去ってった、写真をたくさん撮った後に」

「……死にたい」

 

起き上がることを放棄したらしいアリサが、両手で顔を隠した。

かと思えば、指の隙間からじっとこっちを見てる。

 

「……どしたの?」

「…………で、結果は?」

 

そう言えばこの講義、アリサがジュエルシードの件に絡めるかどうかの試験をかねているんだった。

 

「問題なし。基礎は抑えられてるし、後は追々技術と知識を追加していけば大丈夫。後は経験とか所謂“戦闘勘”みたいな物を養ってくこと」

「……よし」

 

アリサが小さくガッツポーズ。

 

「……精進を怠るなよ、わが弟子よ」

「はい、お師匠サマ。これからも、ご指導ご鞭撻よろしくお願いします」

 

お互いにそう言いあってから、小さく笑いあったのだった。

 




次の投稿は……2週間以内?

説明会やらなにやらで、非常に慌しいです、はい。

ご意見ご感想、誤字脱字などありましたら、感想欄からご指摘お願いいたします。

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