00:プロローグ
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暗い、闇の中を、僕は膝を抱え流されていた。
故郷を追われ、異世界を転々と渡る日々。何処へ行こうという目的意識もないまま、何処ぞの世界に偶然流れ着くまでそれが続く。
何もないその空間をたゆたい初めて三ヶ月を過ぎたところで、日数を数えるのを止めた。
偶然着いた世界にさえ滞在するのはごく短時間、それでいて最小限。
空腹を満たすだけの最低限の食料・飲料などを摂取したら、『世界を渡る』魔法を使って時空の狭間に身を委ねる。“常人なら”3日と経たず水分が不足して脱水症状に陥り死に至るだろうけど、あいにくこの身はその程度じゃ死ねないのは良く知っていた。
……流される間、やる事は無い、…だけど考える事はある。
『あのときの選択は、正しかったのか?』
僕は何度も、それこそ数え切れないくらい自問してきた。
故郷の街――都市国家…もっというなら貿易都市ってやつ――を襲った狂信者の集団。
目的は『世界の破壊と再生』……正直、僕には彼らのやりたい事の意味がわからなかったけど。
その集団の名は『輪廻の終焉』、彼らは国境を跨いで、大陸中にはびこっていた。
故郷を襲われる以前から周辺国家は危機を予測、連合軍を結成し、彼らの撃滅のため戦っていた。
実際、その集団は壊滅寸前。
全滅までもう一歩って所だった。
そんな時、故郷にそのメンバーが紛れ込んで起こした細菌テロ。
……時期が悪かった、そのときは年に一度の祭りの最中、警備も甘くなっていた。
ばら撒かれた細菌は、考えうる限り最悪の効果。
それは『人間を含む生物全ての凶悪モンスター化』。
街の騎士団――とっても強かった。だからこそ大国に周囲を囲まれていても、独立を保っていられた――も防衛態勢をとったけど、手遅れだった。
……その事件が起こったとき、僕は街を囲む城壁の外にいた。
父上――同時に街の代表…つまりは王様ってこと。よって僕も『王子』ってことになる。『元』って付くけど――と喧嘩して、街を飛び出してたんだ。
父上は都市を結界で囲んで、被害が城壁の外に拡大しないように手を打った。
だけど、それはつまり『自分も逃げられない』っていうことに他ならない。
父上は僕に『結界内の消滅』を命じた。
反論したけれど、意見は覆らない。
……最終的に、僕は自分の意思で故郷を消した、王家に伝わる禁じられた魔法で。
そのあと、僕は連合軍に身を投じた。
親から授かった…というよりはもはや血統である膨大な魔力。そして、亡き師匠達に教え込まれた剣術。
生まれつき攻撃魔法が使えない身体だったけれど、敵を蹂躙するには充分すぎた。
返り血を浴びながら戦い続け、最後にはこの手で相手のリーダーの首を討ち取った。
『敵を倒す』、その目標を遂げてしまった僕にやる事など無かった。
残滓すら残らずに世界から消滅した故郷。僕は故郷にほど近く、同時に故郷の聖地でもあった泉のほとりで空を眺めていた。
そんな僕に刺客が差し向けられた。
殺されかけた理由は、『一人で国一つ消せる危険因子の抹殺』。
彼の話によると、自身は尖兵で、ここには連合軍が向かっているとの事だった。
…僕だって、次の王として教育を受けてきた。
だからこそ理解できる。危険分子は潰すに限るということを。
だって、それが失敗したからこそ、街は攻撃されたんだから…。
…僕は泉に身を投げた。一度は一緒に戦った人たちに剣を向けたくはなかったし、…それ以前に生きる事に疲れちゃっていた。
………知らなかったことだけど、その泉には妖精がすんでいた。
『ご先祖様ー―つまりは初代様――は泉の妖精と恋に落ち、結ばれた』そういう伝説は確かにあった。でもそれはおとぎ話にすぎないとされていた。
住んでいたのは初代――つまり、何代か前の人。他界してるから会ったことは無い――と結ばれた妖精の末裔。
僕は彼女に助けられた。
同情してくれた彼女に、初代が後世に残さず、心の内に秘めた禁術『時空の転移』を教えられ、故郷のあった『世界』を離れた。
……彼女には感謝してもしきれない。
旅立つ僕に餞別として、妖精の製法で作った剣に盾、鎧までくれた。
けど、旅立った僕は、目標も、生きる意味も見つけられず、ただ流れのままに生きるだけ。
闇の中、考える事は一つ。
『あの時、こうしていればよかったんじゃないか?』
『もしかしたら』なんて現実を考えるなんて不毛な事だとは思うけど、考えずにはいられない。
あの時もう少し考えていれば、父上や母上、剣の師匠や魔法の師匠、街の人々を救えていたんじゃないか…って。
「!?」
思考の海に落ちていた僕を暫くぶりに表へ引き上げたのは、不意に発生した時空の揺れ。
咄嗟の対応も出来ないまま、僕は半ば強制的にその揺れの発生した世界へ引きずりこまれたのだった。
2013/06/13:感想にてご意見を頂いたため、それを鑑み表現を増量並びに訂正。