17:振って湧いた休日の邂逅 うぃず(with) 金色の魔法使い
――――その日、僕は金色の魔法使いに出会った。
◇◇◇
「なるほど、父さんが言ってたのは君のことか」
「……お互い、致命傷を負う前に気が付いてよかった」
……まぁ、あのまま続けていれば十中八九僕が勝っていた――自惚れでは無い、生身ならまだしも魔法を使って負けるとは思えない――だろうけど、そんなことを言ってわざわざ雰囲気を悪くすることもない。
無事、お互いの素性を把握できた僕は、彼に誘われ屋敷内に招かれていた。
今この部屋に居るのは計4人。
ボク、恭也――姓で呼ぶと、マスター士郎とごっちゃで分かりにくい――、月村忍――恐らくこの家の主――、家令長のノエル――鮫島と同じ雰囲気――、この4人だ。
「恭也もキミも怪我が無くてホントによかった……」
「……仕事の都合上、身を隠す必要があったとは言え断りもなく敷地内に侵入したこと、申し訳ありませんでした。お詫びいたします」
「いいのよ、気にしないで。お陰で屋敷の警備に穴があるって分かったことだし」
……いやいや、本当にこの屋敷は何に備えてるんだ?
屋根の上に対空兵器でも付け足す気なんだろうか。
月村さん、何で『グッ』って拳を握って意欲的に改善をしようと……。
…………うん、きっと家庭の事情か何か。
僕は深く考えないことにした。
「……で、ジーク君は何の目的でこの屋敷に?」
僅かに剣気を放ちながら、恭也がボクにたずねてくる。
『僕の仕事を明かしてもいいものか?』
そんな剣気を華麗に受け流した僕は、少し悩んで口を開く。
「……いま、こちらに遊びに来ているアリサ・バニングスの警護役。今日はお休みだったのだけど、やることが無くて結局警護をしてたら見つかって、現在に至ります」
『アリサの“しんゆー ――きっと、“友達”の上位個体だろう――”とやらの家族の方々に納得してもらったほうが動きやすいだろう』……そんな考えである。
下手に言い繕って、アリサの家に確認でもされたら面倒だし。
僕の答えに、忍さん――仮にも年上の女性を呼び捨てには出来ない、男は時と場合によるけども――が家令のノエルさんに目配せすると、彼女は目礼してその場を後にしていった。
予想が正しければ、バニングス家に確認を取りに行ったんだろう。
どうやらこの家も、ちょっと世間一般――今更だけど、アリサの家はこの国の一般的な水準からみるとかなり裕福。とてもじゃないが“一般”の範疇に入らないことを最近知った――ではないみたい。
ただし、“表側”や“裏側”という意味でだけど。
「ふむ、それにしても見事な武技だった。敵味方なんかじゃなく、一人の剣士として最後まで戦ってみたかった」
「……僕はそうでもないです」
僕のそんな言葉に、恭也が神妙な表情を浮かべる。
「……なにか嫌な経験でも?」
「……言いたくないです」
僕の態度に、目の前の二人が目を見合わせた。
「……ん、別に言わなくていいわ。どうしても聞かなきゃいけない事じゃないんだし」
「ああ。忍の言うとおりだ。俺じゃ相談に乗れないと思うが、父さんならきっと相談に乗ってくれる。心の整理がついたら話してみるといい」
「……気遣い、ありがとうございます」
――――ザワリ……
チビリ、出された紅茶に口を付けた瞬間、僕は近くで発生したジュエルシードの鳴動に僅かにに動きを止める。
とても近く。
この屋敷の敷地内。
自然、僕の纏う雰囲気も硬くなった。
「……どうした?」
この中で唯一、そういった気配に聡い恭也が僕の異変を感じ取る。
「……野暮用です、お気遣い無く」
そう返事をしながら一息にカップ内の紅茶を飲み干すと、僕は立ち上がった。
「どうしたんだ? とりあえず屋敷の敷地内に不穏な気配は感じないが……?」
恭也が忍さんに視線を向ける。
「家のセキュリティにも何の反応もないわよ?」
突然の僕の行動に首を傾げつつ、忍さんがそう返す。
当然、彼らに魔力の反応など気付けるはずも無い。
同時にジュエルシードの発動する気配が波となって僕を襲う。
「……これは、僕の領分の問題ですから」
「なんだかよく分からんが、手伝おうか?」
その発動に少し遅れ、最近馴染んできたユーノの魔力が、彼?の発動した結界魔法――僕には初見の魔法だけど、魔力の質で大体の効果は察することが出来る――が徐々に僕たちへ近づいてきて――――
「いえ、貴方達が関わるべき事じゃ――――……ああ、もう聞こえないか」
――――世界を、ウチとソトに切り離す。
二人の姿が、僕の目の前から消えた。
『恐らく、ソトとウチの時間進行をずらす系の結界だろう』、僕はそう当たりをつける。
『紅茶、美味しかったです』
結界に隔てられているからから、聞こえるはずもないので、僕は書置きを残して窓からその場を後にする。
アリサが結界内に取り込まれなかったことに内心で安堵。
対物・対魔獣戦だったら結界の外から引っ張り込んででも参加させた――1度の実戦経験は5回の訓練より得るものが多い――だろう。
だけど、ユーノの反応があるということは、あの“お漏らし少女”も一緒に居る――僕に言わせてみれば、『どうしてこんな所(アリサの“しんゆー”の家)に居るんだか』……だ――可能性がある。
同じ学校の生徒らしいし、何よりニンゲンに
初めての実戦で、ニンゲンと戦わせるのは宜しくない。
師匠が見ていたら過保護と笑うだろうけど、初めての弟子で、何よりも……初めての友達だ。
これくらいの甘さは許される、きっと。
「……あっちか」
僕は、魔力反応の高い方向へと空を駆けたのだった。
◇◇◇
「……にゃんこ?」
猫だった、子猫だった。
……ただし一軒家くらいに大きいのだけど。
「ア、アントワーク君!?」
「ジークさん、何時の間に!?」
「ん、ユーノ、久しぶり」
目の前の現実――おっきな子猫――から目を逸らしながら、眼下の二人を見下ろしつつユーノに挨拶する。
「ふぇ!? 私は!? 私はスルーなの!?」
「お漏らしは黙ってて」
「にゃあ!? 男の子はそういう事を思っても言っちゃいけないと思うの!! デリカシーに欠けてるの!」
お漏らしの発する雑音を右耳から左耳に素通りさせ、僕はユーノに問いかける。
「……で、これは何?」
「えっと、ジュエルシードの効果は知ってますか?」
「知らない」
今更ではあるのだけど、特に効果に関心を持たないまま今日に至ってる。
「ジュエルシードは、『持ち主の願い』を叶える宝石なんですが……融通の利かないところがありまして」
「……つまり?」
「たぶん、あの子猫の『大きくなりたい』という想いが正しく叶えられたのかな……と」
「…………なんていう欠陥品」
改めて分かったけど、僕も1個持っているこの『ジュエルシード』とやら、中々に扱いにくい代物のようだった。
どうでもいいことだけど、子猫の首輪や鈴まで大きくなってるね。
「取り合えず、あの猫からジュエルシードを取り出して封印しなくっちゃ……!」
「……僕がやる」
僕は空中で身を躍らせ、猫の鼻先で滞空する。
『にゃー?』
いきなり眼前に割り込んできた僕に、子猫の歩みが止まった。
本当は可愛らしい鳴き声なんだろうけど、これだけ大きいせいで声が低く、重く聞こえる
僕は大きく息を吸う。
そして――――
「……にゃあーー」
――――
「……えっと、ユーノくん。アントワークくんは……何してるのかな?」
「…………うーん、会話……かな?」
後ろで二人が何か言ってるけど、僕は無視して目の前の子猫に向かう。
『ふにゃーー?』
「にゃ、にゃー。ふしゃー」
『にゃあー♪』
「にゃーお」
彼女――女の子だった――は少しの対話で、僕と意思疎通してその場に伏せてくれた。
うん、理性のある魔獣は暴走してる魔獣と違ってやりやすい。
「「いやいやいやいや!?」」
「……二人ともうるさい、何か言いたいことでも有るの?」
ミィ――さっき自己紹介された――の耳の裏を掻いてやりながら、僕は二人に向き直る。
「何で!? 何で猫と会話出来ちゃうの!? ユーノくん! 魔法ってなんなの!?」
「ぼ、僕にも分からないよ! そんな魔法聞いたこと無い!」
「……魔法使いなら、理性のある魔獣と最低限度は話せて当然」
……例えば街の近くにやってきて営巣を始めた野生の龍種に『この近くにニンゲンの街があるから、ちょっかい出したり出されたりしないようにしてね?』と交渉するのは当然だろう。
対話が成立しない――種族とか体質(人間が主食とか)――魔獣にはしょうがないけど、基本的に理性のある高位魔獣と人間は持ちつ持たれつだ。
世界は人間だけのものじゃない。
ちなみに、僕たちが乗り物にしていた飛竜だってきちんと書類を交わして雇用の契約をする。
『週休2日3食込み、月給は金貨5枚分の買い物権(当然雇用主が買いに行く)』って感じだ。
僕の国では父と竜王の間で友好条約が結ばれてたから、その辺りの規則はきちんとしている。
竜としては週に5回ちょっと軽い運動をするだけで食事と贅沢が出来るし、人間は人間でかなり便利な移動手段が手に入るのだ。
「…………魔導師の世界は奥が深いの」
「いや、僕もそんな“当然”は知らないから。勘違いしないでね?」
……むぅ、この二人は他種族に会話を試みないのか。
そんな不満を心に抱きながら地に降り、僕はミィにジュエルシードを摘出する話しをしようとして――――
「…………いきなり、何の用だ」
――――ミィに向かって放たれた金色<こんじき>の魔力弾を、右手に握ったベレッタM92FのSRゴム通常弾で相殺した。
「……バルディッシュ、フォトンランサー、連撃」
離れた電信柱の上、金の髪に赤みがかった瞳。
黒紅のマントを身に纏ったその少女は、僕の言葉に答えることなく追撃を放ってきた。
「…………魔導師?」
僕は空いていた左手にも同じ拳銃を握り、放たれた10発近い魔力弾を全て迎撃し撃ち落とす。
反動は強化された筋力と、魔術制御で押し留める。
「……ユーノ、あれは知り合いか」
「い、いえ! でも僕と同じ世界の魔法、同系の魔導師です!!」
「……そう」
「え? え?」
「なのはも急いでバリアジャケットを!」
「う、うん!」
ユーノと言葉を交わした一瞬の合間にその少女は距離を詰め、僕とユーノ、そしてお漏らしを見下ろす高さの樹に陣取った。
「……同系の魔導師と、質量兵器をつかう……現地の魔導師。……ロストロギアの探索者か」
「ッ!? この子、ジュエルシードの正体を……!?」
……このタイミングで言うべきことじゃないんだろうけど、口ぶりから判断するとどうやら彼女は僕とお漏らしを仲間だと思ってるらしい。
……無性に殺意が芽生えた。
「バルディッシュ」
『Scythe form. Set up』
「……杖が喋った、しかも勝手に魔法発動した」
「……? インテリジェントデバイスだから」
彼女の杖が何かを発声し、魔法刃を持つ鎌へと変形した。
これはアレか!? 僕たちの世界で実現不可能と言われてた『意思と発声器官を持たせ、自動で詠唱し戦う魔法杖』か?
僕はたった今、不可能が可能になる瞬間を目の当たりにした。
金色の子が首を傾げてるけど、そのインテリ何とかの事は知らないし。
未知の技術だ……。
きっと僕の目は、興味で輝いていることだろう。
「……?? ……申し訳ないけど、頂いていきます」
その声とともに、金色の少女が僕に向かって突進し鎌を振るう。
足元を狙ってきた辺りを
脚に攻撃を加え怪我を負わせることで機動力を削ぐのは、戦士なら知っていてしかるべき戦法だ。
しかも『大鎌』という武器は剣や槍と違って攻撃をあてるのが難しい。
目測を誤り、対象と近すぎると柄の部分に当たってしまい斬ることが出来ず、かといって遠すぎると刃自体が届かない。
玄人向けの武器なのだ。
現に僕も戦場で相対したことは数えるほどしかない。
だけど当てればその刃の切っ先は一撃で肉を大きく裂き、相手に甚大な怪我を負わせることが出来るのも事実。
高位の使い手ともなると、その一閃で敵の首を複数一気に斬り飛ばしたりする。
見た目僕と同じくらいの年齢で、大鎌を使ってくる相手がいるとは思わなかった。
彼女のその一振りを、僕は後ろに跳ぶことで避ける。
『Arc Saber』
少女は避けられた事に対し微塵の停滞もせず、更にもう一閃し手に持つ鎌から三日月形の刃を飛ばして追撃まで放ってきた。
「……おもしろい」
滞空中、かなりの速さで弧を描き近づいてくるその刃を見て小さく
次の瞬間、防御の上から着弾し、僕を小さな魔力爆発が襲った。
爆炎で僕の視界が閉ざされていた、ほんの僅かな時間に距離を一気に詰めてきた彼女の上段からの一閃を――――
「……久しぶりに、骨のある相手と戦えそう」
――――虚空に浮かせた総計64本のナイフ、その内の2本を交差させ、防ぐ。
驚愕に見開かれる彼女の双眸。
先ほどまで全くの無表情だったことを思い出し、『ああ、そんな顔も出来るんだ』。そう思考の片隅で考えて…………残り62本を眼前の少女に殺到させる。
◇◇◇
これが僕とフェイト、“運命”と言う意味の名を持つ金色の女の子とのいささか過激過ぎる出会いだった。
質問や感想、誤字脱字などありましたら、感想欄からお願いいたします。
極力早い返答を心がけますので、ご容赦くださいませ。
地味に変わっている点:ナイフの数が、改定前は総数24振りだった。原因は、アリサが強化されたため。……アリサぇ