魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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就活忙しいです……はい。 (--;

そういえば、就活の移動途中の電車内で、ふと隣に座った方のスマホ見たら、本作を読んでいらっしゃる方がいました。
……世界って思いのほか狭いもんですねぇ。


21:ここは湯の街、海鳴温泉!&和(ワ)んだふるな出会い?

21:ここは湯の街、海鳴温泉!&和(ワ)んだふるな出会い?

 

 

電車・バスといった公共交通機関を乗り継ぎ、僕と鮫島は無事旅館に向かう。

本当は鮫島が『車をお出しします』と言ってくれたんだけど、僕がそれを断った。

 

鮫島の慰安旅行なのに当の本人が運転しちゃ話にならないし、こんな機会でもなくちゃ電車に乗って遠出――基本的に外出は徒歩か駆け足か鮫島任せだし――出来ないから。

 

 

1時間半ほど乗り物に揺られ、僕たちは旅館に到着。

 

 

鮫島がフロントで受付をする姿を見つつ、僕は周囲をきょろきょろと観察する。

おぉ、あれは鹿威し(ししおどし)、現物は初めて見た。

 

「ようこそ当旅館へ、お待ちしておりました。……後ろのお子さんは、お孫さんでしょうか?」

「えぇ。そんなところですな」

「ふふ、周りに興味津々みたいですね」

「こういった所に泊まるのは初めてですからな、気になっているんでしょう」

「可愛い盛りですねぇ。……では、こちらへサインをお願いいたします」

 

僕が旅館の中庭に視線を奪われているうちに鮫島が手続きを終わらせたらしく、僕たちは部屋へと案内された。

 

「では、ごゆっくりお(くつろ)ぎ下さいませ」

 

案内の女将さんが去ったのを確認し、僕は足早に室内の探索に入った。

 

「むぅ!? 室内なのに草の匂い……鮫島、これが畳の匂い!?」

「はい坊ちゃま。これが日本人の心に訴えかける“和”の匂いでございます」

「室内なのに、草原に寝転んだ時みたいな……。鮫島、畳すごい!」

 

僕は興奮して畳を『ぺしぺしぺしぺし』と叩く。

 

「気に入っていただけたようで、私も日本人として鼻が高いです」

 

旅館に到着――付け加えるならアリサと同じ旅館の“別館”とのこと――し、部屋に入ると漂ってくるのは本の中でしか聞いた――この場合は“読んだ”?――ことのない畳の匂い。

事前調査によると、匂いの原料は材料の“イグサ”で、この香りには鎮静効果があるらしい。

 

しかも、空気中の水分を吸って、室内の湿度を保つことも出来るとか……。

 

石造りの建物が多かった僕としては、床材に草木を使おうとする発想が無かった。

この国の昔の人間の発想、学ぶべき所が多すぎる。

 

 

そのまま僕は室内の探索を続けた。

 

 

「鮫島、これは?」

「お茶のセットでございますな」

「お茶……じゃあこれが“きゅーす”ってやつ?」

 

僕は異国情緒(いこくじょうちょ)溢れる形状の陶器を鮫島に見せる。

 

「左様です。お屋敷では紅茶を出すことが多いですのでお目にかかる機会は少のうございますが、こういった日本の茶器も揃っておりますので、帰ったらお見せしましょう」

 

鮫島が置かれていたセットを使ってお茶を淹れてくれたので、一緒にあったお菓子に舌鼓を打ちながら、二人でちょっと小休止。

紅茶と風味が違うけど、緑茶って奴も中々美味しい……はふぅ。

 

 

小休止終了、探索続行。

 

 

その後も室内中を事細かに調べつくした僕は、最後に取っておいた箇所に注目する。

 

部屋の僅かに奥まった場所、この国では“床の間”とか呼ばれる場所の壁に掛けられた1枚の書。

その名も『掛け軸――なんて書いてあるかはぐにゃぐにゃで読めない、下手なのか達筆なのか……恐らく後者――』!

 

僕の事前調査によると、この国に古来より生息する“ニンジャ”といった人にして人ならざる者たちがいた。

諜報活動から護衛、要人の暗殺までこなす万能性。

更には壁を走り、水の上を駆け、火を吹く事まで出来たとか。

 

時代とともに進化を続け、最近では“強化外骨格”と“ステルス迷彩”とやらを装備した『サイボーグ・ニンジャ』なる者の存在がゲームで語られていた。

グレイとかいうあのサイボーグニンジャ、見た限りだとかなりの強敵。油断したら僕も危ないかもしれない。

 

で、昔のニンジャは常在戦場(じょうざいせんじょう)の意識の元、いつ何時に攻めてこられても対応できるよう屋敷内の各所に抜け穴や仕掛けを施していたという……。

 

そのうちの一つに、『掛け軸などの家具の後ろに通路を隠し非常時の脱出口とする』といったものがあった。

そう、僕は今この国の神秘の一端に触れているのかもしれない。

 

心躍らせながらも、冷静に掛け軸に手を伸ばす。

もしかするとこの裏には……!

 

心を落ち着け、一息にめくり上げる。

 

「………………」

 

……現実は非情だった。

掛け軸の後ろは普通に壁、通路など影も形も無かった。

 

「……む? ジーク坊ちゃま、どうなされました? 肩を落とされて……」

 

僕は黙って掛け軸を元に戻す。

 

「なんでもない。……鮫島」

「はい、何でございましょう?」

「……現実って、残酷だよね」

「ですな。それでも人は理想を夢見て、努力し続けるのですよ」

 

僕のつぶやきに返ってきたのは、思った以上に深い言葉。

 

「……鮫島はカッコいいね」

「年の功にございますよ」

 

『ニヤリ』と鮫島が唇の片端を持ち上げ、笑う。

僕の中で鮫島の株がすさまじい勢いで上昇したのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「タオルは――――」

「――――湯船にいれちゃダメ」

 

 

――――鮫島と僕の間で矢継ぎ早に言葉が飛び交う。

 

 

「湯船に入る前に――――」

「――――身体を洗って清潔にしておく」

 

 

――――互いに正座、目を逸らすことなく掛け合いは続く。

 

 

「湯船では――――」

「――――泳がない」

 

 

――――暫しの問答を終え、鮫島が静まり返った。

 

 

「……ふむ、これなら大丈夫でしょう。行ってらっしゃいませ」

「行ってきます」

 

敬礼とともにお風呂セットを持って温泉に向かう。

今まで繰り広げられてたのは、鮫島による『公共浴場に入る時のマナー講座』の最終口頭テスト。

 

お風呂に入るにも色々な礼儀があるのだ、この国は。

 

鮫島に着付け方を習った浴衣(ゆかた)(?)を纏い、僕は男湯へと走……る訳にはいかないので、早足で向かう。

この『浴衣』とやらも、襟の合わせ方を逆にすると死人を意味する着かたになるとか。“左前”とか言うらしい。

 

そんなこんなで、鮫島のお眼鏡にかなった僕は悠々と浴場へ向かえているのだ。

 

ちなみに鮫島は『私はしばらく部屋で休んでから行きますので、御気になさらず』とのこと。

 

「Lu~♪」

 

鼻歌交じりで男湯に向かう。

僕達の部屋は別館なので、お風呂はアリサの泊まる本館に行かなきゃならない。

 

アリサに見つかるようなヘマはしない。

館内図で女湯と男湯が離れてる(一日ごとに、男湯と女湯が入れ替わるらしい)のは確認済みだし、アリサの気配を確認しながら移動している。

曲がり角で、いきなり出くわすような事態には陥らない。

 

 

だからこそ、その出会いは想定していなかった。

 

 

「……お前、ニンゲンじゃないな」

「…………!」

 

前から来た橙の髪を持つ女性、僕はすれ違いざまに足を止め、そう声をかける。

動きを止めたその女性同様、僕も脚を止めた。

 

「……狼……いや、犬? 詳しいことは分からないけど、そんな妙な気配、ニンゲンから出るモノじゃない」

「……ニンゲン形態なのに見抜くとか、アンタ何者だい?」

 

見なくても、彼女の体が強張るのが手に取るように分かる。

 

「……僕も似たようなモノだから、見抜くのは訳ない」

「ふぅん、、似た者……ねぇ? ……ん……え!? ……アンタがフェイトの出くわした“銀髪”の魔法使い……だけど髪は黒……じゃないね、何色だいその髪の色?」

 

通話の魔法でも使ったのか、虚空に意識を向けていた彼女が素っ頓狂な声を上げた。

僕の戦闘状態の姿を知ってるということは、白服組み(おもらし&ユーノ)か黒服(フェイト)位だとおもうのだけど。

 

僕は後ろで(くく)っている自分の髪をつまんでみせる。

見た目は黒だけど、光の加減で所々に青色や翡翠色の光沢が混じって見える。

 

僕が普通の人間じゃない事の証左でもある。

 

烏羽(からすば)色と呼ばれてる。……年がら年中、白銀の髪な訳じゃあない。……で、お前は……ああ、よくみればフェイトに良く似た魔力の気配を感じる……使い魔か何か?」

「まぁね」

「それで、この場所に何か用? 返答次第ではこの場で――――」

 

浴衣の袖に手を隠し、拳銃を実体化させると同時に殺気を纏う。

前回の教訓から、サイレンサーなるものを装備してるので、無音とは言えないまでもかなり音量を低減した。

これなら、攻撃と同時に相手を巻き込んで無作為転移に持ち込めば、幾らでもごまかしが聞く。

 

「――――ちょい待ち!? ……この付近でジュエルシードの反応があったから、回収のために来ただけさ」

「……『僕の護衛対象がこの旅館に居る、ちょっかい出すな』、そう伝えればフェイトは理解する」

 

僕の言葉に彼女が頷いた。

 

「了解、伝えとくよ。……まったく、心臓に悪いったらありゃしない。風呂上りだってのに嫌な汗を掻いちゃったよ。……入りなおそうかね」

「……相手の力量を測れるだけお前はマシ。……もう一人の探索者は、相手との実力差すら把握できてないのに攻撃してくる」

「そりゃ厄介だねぇ……。ま、長話もなんだし、私は退散するよ。それじゃあね」

 

彼女が僕の認識範囲外に立ち去るのを待ってから、拳銃を異空に仕舞う。

気を取り直して、温泉に向かおうとしてふと気付く。

 

「……名前、聞きそびれた。……まぁいいか」

 

次の一歩を踏み出すと同時、そのことは思考の海の奥底に沈むことになる。

それよりも今はお風呂に入ることが僕にとっての優先事項だった。

 

 

◇◇◇

 

 

その後は誰に遭遇することも無く、僕は無事に男湯の脱衣場に入り込んだ。

空いていた籐籠(とうかご)に服を入れて、浴場に足を踏み入れ――――

 

「――――……む?」

「――――……ジーク君?」

「――――……士郎さんと……恭也……さん?」

 

出会う予定のない人達と、遭遇することになったのだった。

 




あまり変更点は無いはず……しいて言えば、少々加筆したのみです。

一応、参考までに烏羽色のイメージ画像URLを付けておきます。
実際のカラスの写真ですが、たぶんこれが分かりやすいかと。
先頭にhをつけて検索どうぞ。
ttp://pds.exblog.jp/pds/1/200803/20/81/a0083081_1543303.jpg
(これより良い画像があれば教えていただけると幸いです。実際のカラスの画像である必要はありません)

ご意見ご感想・誤字脱字・質問などありましたら感想欄からご連絡くださいませ。
では、これからも拙作をよろしくお願いいたします。


P.S:アリサの(戦闘力的な)成長予定
釘宮病で魔法少女……なにを言いたいかわかるな(煽り)?
※予定は未定、未来は不確定。

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