魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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今回のあらすじ:混浴

みんながアルフとの混浴を所望した結果がコレだよ!!(訳:更新が遅れて申し訳ない……)

内定を取ったら更新しようと思ってたんだ、うん……内定、どこかで売ってないかなぁ(白目

あと、入浴中の飲酒は危険なのでやめましょう。


25:月下の混浴

25:月下の混浴

 

 

「むぅ……」

 

 ジュエルシードのせいとは言え、完全に目が覚めてしまった。

 部屋に戻り、布団に入って眠くなるのを待つか、思案しつつほとんどの明かりが落とされた旅館へ戻る。

 

 隠密の魔法を使い、気配を消して正面から旅館に入った。

 

 時間としては、この国で言う『草木も眠る丑三つ時(深夜2時すぎ)』……とやらだ。

 従業員で起きているのは、寝ずの番をする者くらいだろう。

 

 人っ子一人居ない廊下を『てとてと』と歩き、部屋に戻る途中にふと壁にかけられた標記に気づく。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『←大浴場 山の湯   大浴場 海の湯→』

『入浴時間 02:00~12:00 14:00~00:00 ※00:00~02:00、12:00~14:00に関しましては、浴室の清掃を行うため、ご入浴できません』

『また、夜間の清掃後から浴場が入れ替わります ただ今の時間は、男湯:『海の湯』、女湯:『山の湯』です』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「おぉ」

 

 僕が昼間入った山の湯は、屋内が主の大浴場――打たせ湯やら、泡風呂、サウナなんかがあった――だった。

 しかし、ちょうど今は昼と入れ替わって海の湯のほう。

 

 たしかこっちには、大きな露天風呂があったはず。

 

 ……これは、行かざるを得ない。

 

 幸い、お風呂に必要な道具は一揃い持ち歩いてるから、部屋まで取りに帰る必要もない。

 それに、たぶん清掃明けのこの時間なら、ほとんど人も居ないだろうし。

 

 お風呂に入って体を暖めてから寝なおそう。

 僕はそう結論付けると、足音も軽やかに、海の湯へと向かうのであった。

 

 

◇◇◇

 

 

 脱衣所に入ってみると、案の定誰もおらず、服を入れる藤籠(とうかご)が全て空な事からも、無人であることは明白だ。

 いそいそと服を脱ぎ、勇み足で大浴場を通り過ぎて、目的の露天風呂に向かい――――

 

「――――……なぜ居る」

「――――……キャアァアア!?」

「――――ちょ!? とりあえずボーヤは後ろ向いて、フェイトはとりあえずバスタオル巻きな」

 

――――ちょっと前に別れた、フェイト・アルフと出くわしたのであった。

 

 

◇◇◇

 

 

「げ、一日ごとにお風呂が入れ替わるのかい!?」

「ん」

「あっちゃー、知らなかったよ。昼過ぎと同じつもりで、空から侵入しちゃったからねぇ……

 まぁ、他の男が居なくて良かったよ」

 

 しまったと言わんばかりの表情で、アルフが頬を掻く。

 出くわしてしまった僕たち三人は、それぞれタオルを巻いて――無論、綺麗なタオルだ――なし崩し的に混浴していた。

 

「わ、私たちここに居ちゃ駄目だよね。ね、アルh――――」

「大丈夫、まったく問題ない。ここの条例だと、混浴の禁止は10歳以上から」

「あぁ、それなら問題ないねぇ。フェイトはまだ9歳だし」

「む、そういうアルフは?」

 

 フェイトの言葉を僕が否定し、アルフもそれに同調した。

 興味がてら、アルフにも歳を聞く。

 というか、今は人型とはいえ、犬が素体の使い魔である以上、この人間向けの条例の対象にはならないんだろうけど。

 …………厳密には僕も、この条例の対象にならないな。

 

「え、外見は16歳で、実年齢は2歳児」

「なんだ子供か」

「アンタだって子供だろうに」

「ごもっとも」

「「ははははは」」

 

 アルフと二人で笑う。

 

「……なんで二人は、そんな自然に会話してるの。私は顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのに……」

「「え、タオル巻いてるし、恥ずかしがる必要ないよね?」」

「…………ぶくぶくぶく(そういう問題じゃないよぅ……)」

 

 流石の僕も、フェイトが水中で何言ってるのか分からない。

 ちなみに、フェイトはいつも後ろで二つに縛っている髪の毛を、お湯につけないようタオルで頭上にまとめてる。

 かくいう僕も、髪は長いから似たような感じ。

 

 アルフはアルフで髪を上げている……が、さっきから頭で犬(狼?)耳がぴょぴょこしてる。

 

「アルフは……犬?」

「いーや、狼。……耳触ってみるかい?」

 

 耳を見てたら、アルフがこちらに頭を近づけてくれたので、後学のために触らせてもらうことにした。

 

「ふむふむ」

 

 狼が素体だと聞いたので、狼耳の付け根と裏のあたりをカリカリと掻いてみる。

 犬系の扱いは、軍用犬とバニングス家の飼い犬たちで慣れてるし。

 

「あ……ふぅ、……ん」

「こことかはどう?」

 

 経験則に(のっと)って、あごの下もなでてやる。

 

「んっ……わふ」

「ええんかー? ここがええのんかー?」

 

 撫でるときのお約束――この世界のテレビを見て知った――の言葉を言いながら、アルフを構い倒す。

 

「ぐるるるるー」

 

 うん、見た目は人だけど、喉を鳴らしてるところを見るとやっぱり狼(犬)だ。

 

「うーむ、少年の撫でテクは一流だね!」

「ん、慣れてる」

「そーかい。じゃあ、お返しに私は髪を洗ってやろう」

「んー、ん、分かった」

 

 まぁ変な真似しても対応できるからいいか。

 二人揃って湯船から出て、シャワーのあるスペースに移動する。

 

 一応は気を張りつつ、髪を洗ってもらう。

 

「んむ、存外に洗い方が丁寧?」

「フェイトの髪を洗うので慣れてるからね」

「なるほど」

「フェイトね、昔独りで頭洗ってるとき、目を瞑ったまま桶を探してたら、お風呂に落ちて溺れたことが――」

「――なんでそのこと言っちゃうの!?」

 

 後ろで『ざばぁ』と音を立ててフェイトが立ち上がる気配。

 そのまま『じゃばじゃば』とお湯を掻き分けてこちらに近づいてくる音。

 そんなフェイトに、アルフが手を停めて振り返る。

 

「あ、こらフェイト、タオル巻いてるのに、そんなに急いで歩いたら転んじゃ――」

「――っあ!?」

 

 アルフの忠告が役立たず、後ろでフェイトが前のめりに足を滑らせたのを正面の鏡越しに見る。

 この温泉、地面は石畳だから、転ぶと洒落にならないくらい痛い――

 

「――大丈夫?」

 

――だから、地面にぶつかる前に受け止めた。

 

「え、ちょ、速ッ!? 今ここに居たよね!?」

 

 アルフが僕と、頭を洗っていた状態で止まっていた手元を交互に見やる。

 受け止めた僕の胸元から顔を上げた状態で、酸欠の魚みたく口をパクパクさせてるフェイト。

 

「……フェイト?」

 

 あまりに反応を返さないものだから、空いている手で頬をぷにぷにと突いてみる。

 

「ふにゃあぁ!?――ぁ!」

 

 飛び退(すさ)ろうとして、今度は後ろにバランスを崩して転びかける。

 

「んむ、危ないから気をつける」

 

 黙って背後に回りこんで、お姫様抱っこで抱き上げた。

 もはや、僕がアルフの所まで連れてったほうが安全だ。

 

 とことこアルフのところへ歩きながら、気になったことを聞いてみる。

 

「……フェイトは、もしかするといわゆる『うっかりやさん』?」

「……ひ、否定できない、かも」

「……うぁ、フェイトが見事に手玉に取られてる。というか、フェイトのあんな表情始めて見た」

 

 顔が真っ赤、お湯につかり過ぎてのぼせたんだろうか?

 僕がさっきまで使っていたものとは別の湯椅子に視線をやり、魔法で浮かせてこちらに持ってくる。

 そしてそのまま、僕の座っていた湯椅子の前に置いて、そこにフェイトを座らせた。

 

「物の(つい)で、頭洗ったげる」

「え、はわわ、あうあう……えっとその、お、お願い、します?」

「ん、お湯かける、目(つむ)ってて」

 

 桶に溜めたお湯を、フェイトの頭に掛けた。

 シャンプーを手にとって、フェイトの髪をわしゃわしゃと泡立てる。

 

「……あぁ、そういや私も少年の頭洗ってる途中だったね」

 

 アルフが僕の洗髪を再開した。

 んむ、人の頭を洗ったげるの……結構久しぶり。

 僕の部隊で副隊長やってた彼女に仕込まれたシャンプー技術、未だに錆付いてない。

 

「あ、そうそう――」

「うん?」

 

 一つ思い出し、フェイトに向けて口を開く。

 

「――一応、お湯の入った桶は右横にあるから、今度は探して湯船に落ちないように」

「はうっ!?」

 

 僕の言葉に、うっかりやのフェイトは目を開いてしまう。

 

「っ!? 目にシャンプー入ったっ!?」

 

 おろおろと手探りで湯桶を探すフェイトだが、間隔を誤り手を引っ掛けて湯桶を倒す。

 一通りわたわたと独りで慌て、ようやくこちらに振り返る。

 

「じ、ジーク、顔にお湯掛けてっ」

「……はいはい」

 

 手元にあったシャワーで、顔の泡を流してやる。

 

「……ねぇアルフ?」

「なんだい少年?」

アルフのご主人様(うっかりやさん)は、いつもこんな感じ?」

「…………戦闘のとき以外、こんな感じだねぇ」

 

 なんと容赦のない物言い。

 

 ……次回の戦闘のとき、この話題を振れば勝手に自滅してくれるんではなかろうか。

 そんな感じの収穫があった一幕だった。

 

 

◇◇◇

 

 

 一通り頭を洗い終え、僕たちは湯船へ戻る。

 体を洗うには、タオルを外さなければいけないから、今回は省略。

 

「うっかりやさんうっかりやさん」

「……むぅー」

 

 ジト目でこっちを見るフェイト。

 

「……ふーんだ」

 

 そっぽを向かれた。

 ちょっと腹が立ったので、ちょっと前に街を散策してるときに100円ショップで買っていた、小さな水鉄砲を取り出す。

 フェイトがそっぽを向いてるのをいい事に、魔法で洗い場からシャンプーを取り寄せ、石鹸水を作り水鉄砲に充填する。

 

 アルフは僕が何をしようとしてるのか察したらしく、苦笑して静観の構えを取っていた。

 

「フェイトフェイト――」

「――……なn」

「――えい」

 

 容赦せず、振り向いたフェイトの顔に引き金を引いた。

 飛び出すのは弾丸ではなく石鹸水。無論……目に入ったらとても痛い。

 

「~~~~~ッ!?」

 

 無言で眼を押さえつつ、フェイトが悶絶した。

 

「ふぅー」

「なんで、やり遂げた感じで息はいてるの!?」

 

 半泣きでこっちを見るフェイト。

 ……うぅむ、楽しい。だけどこれ以上やったら、変な性癖が芽生えそうだ、……自重しよう。

 

「アルフも気づいてたなら止めてよ……」

「私の中の本能が、『面白そうだから放置』って」

「本能に流されちゃダメだと思うな……」

「いや、本能とか直感はとても大事、だからアルフはそのまま本能に忠実であればいい」

 

 フェイトが『え゛?』って表情でこっちを見てるけど、気にしない。

 

「そう? じゃあ本能に忠実に、ドッグフードをおつまみにお酒飲んでみたい。ほら、たしかこの国の文化には、露天風呂で浮かべた桶の中に、徳利とかツマミを入れといて呑む習慣があるって聞いた」

「お酒はあるけどドッグフードは……いや、干し肉がある、犬用じゃないけど」

「お、ビーフジャーキーとお酒、いい組み合わせじゃないか!」

 

 んー、んー……まぁいいか。

 僕たちは湯船の端の段差になってる所に移動して腰掛ける。

 肩まで浸かった状態だと、お風呂の深さと僕たちの身長的に辛いから、上半身だけお湯から出てる状態だ。

 

「葡萄酒の白でいい?」

「いいよ」

 

 桶の中にグラスとボトルを入れて浮かべるけど……なんか違う気がする。

 やっぱり日本酒とやらのほうがサマになるんだろうけど、残念ながら手元に無い。

 

「んぁ、栓抜きある?」

「え、必要?」

 

 ボトルを手に取りもう一方の手を一閃。

 ゴトリと鈍い音を立てて、ボトルの上部が切れ落ちる。

 

「……なにやったんだい?」

「こう、手でスパッっと」

 

 分かりやすいように、僕は手を温泉に漬け、高速で振りぬく。

 ――次の瞬間、お湯が左右に割れた。

 

「……ねぇアルフ、私も素手でこれくらいやれないと、ジークには勝てないのかな?」

 

 なんかフェイトが小さく震えてる。武者震いとかいう奴かな?

 

「……い、いや、フェイトはフェイトらしく鍛えれば良いんじゃない?」

 

 まったく持ってその通りだと思う。

 そう考えつつ、グラスに注いでアルフに渡し、僕の分もグラスに注ぐ。

 

「んむ、美味しい」

「あ、コラ、子供がお酒飲んじゃ駄目だぞ」

「大丈夫、生まれ故郷では飲酒可能」

 

 鮫島が見たら怒るかもしれないけど、僕だってたまには飲みたい。

 

「あー、それじゃあアリなのかね?」

 

 アルフが首傾げて唸ってるけど、気にしない。

 うむうむ、この干し肉の塩加減が絶妙。

 二人で注いだり注がれたりしながら飲み進める。

 フェイトには良く冷えた麦茶を贈呈しておいた。

 

「……ジーク、お酒って美味しいの?」

「僕は美味しいと思う」

 

 興味津々といった感じで、僕の持つグラスを見るフェイト。

 

「……フェイトはお酒飲んだことは?」

「無いよ」

 

 飲ませても大丈夫?

 僕が視線で問いかけると、アルフは『少しくらいなら大丈夫だと思う』といわんばかりに小さくうなずいて見せた。

 

「待ってて、呑みやすいの開ける」

 

 僕は別のボトルを取り出して、今度は普通にコルクを抜く。

 ボトルを切っちゃうと、呑みきるしかないからね。

 グラスに注いで、フェイトに渡す。

 

「……あ、これ甘くて美味しい、ジュースみたい」

「でしょ?」

 

 ほんの少し舐めるように飲んだフェイトが、驚きの表情を浮かべる。

 ちょっと珍しい製法の葡萄酒、確かこの国で言うと……貴腐ワイン?

 

 こくこくと飲んで、グラスを空にしたフェイトに、もう一杯注いであげる。

 

「ありがと、ジーク」

「まぁ、1~2杯なら大丈夫でしょ」

「うん、大丈夫らよ?」

「……」

 

 ……若干、大丈夫じゃないかも知れなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

「えへへ、このお酒おいしーね?」

「(ねぇアルフ、フェイトってお酒弱い?)」

「(……見た感じ完全に酔ってる、しかも酔うと性格変わる感じかね? 精神リンクで、なんだか凄い“ぽわぽわ”してるのが伝わってくる)」

 

 フェイトの目がトロンとして、空のグラスを両手で包むように持ちつつ、幸せそうに笑ってる……というのが今の状況だ。

 

 2杯目をチビチビ飲み、グラスを空にしたあたりで、なんとなくフェイトの感じがおかしくなってきてる。

 たぶん、半身とは言えお湯に浸かってるのと、初めてなぶん、酒精のまわりが早いせいだろうけど……

 

 ちなみに僕とアルフはそうでもない。

 

「(……大丈夫?)」

「(ほんとに不味かったら、バルディッシュが警告するし、アルコールの分解もしてくれる……たぶん)」

「(バルディッシュすごい)」

「(You're welcome)」

「(フェイトが不味そうだったら伝えて、酔い覚ましの薬飲ませるから)」

「(……Thank's)」

 

 フェイトから少し離れ、アルフ(ほごしゃ)を交え話し合う。

 アルフがどこからともなく取り出したバルディッシュとそう話す。

 

「ねーねー、ジークも飲もー?」

 

 少し目を離してた隙に、自分で注いでもう一杯飲んでたらしいフェイトが、こっちに擦り寄ってくる。

 

「ジーク、アルフとくっつき過ぎー」

「……フェイト?」

「えへへ、私もくっつくー」

 

 フェイトが僕と腕を組ませ、ぴったりとくっついてくる。

 ……これはアレだ、酔っ払うと性格が変わるタイプだ。

 

 くっついてくるフェイトの身体は、ちゃんと毎日戦闘訓練を怠って居ないせいか、うっすらと付いている筋肉のせいで、触れる肌の感触は柔らかいというより、しなやかで弾力がある感じ。

 

「フェイト、お酒ストップ。ちょっと酔いすぎ」

「酔っへないれすもーん」

 

 ……どの世界でも、酔ってる人はみんなそう言うんだよ、フェイト。

 というか、呂律(ろれつ)が回らない口で、何が『酔ってない』だ……。

 

「……ん、わかったわかった、フェイトは酔ってない」

「そのとーり!」

「じゃあ酔ってないフェイトは、この麦茶飲んで。お湯に浸かりっぱなしだし、そろそろ熱い。冷たい麦茶を飲むべき」

「飲む~」

 

 酔っ払いは否定すると反抗するから、肯定しつつ多少強引にでも話を持っていけばいい。

 大丈夫、判断力が鈍ってるから強引でも何とかなる。

 

 麦茶の入ったグラスをコクコク飲むフェイト。唇の端から、僅かに零れたひと雫がツッと一筋の線を引いた。

 

「麦茶美味し~、ジークの体もひんやりして気持ちい~」

「……まぁ、アレくらいじゃ酔わないから」

 

 お風呂とお酒のせいで体が温かいフェイトと比べたら、大半の人はひんやりしてるだろう。

 

「ふふふ♪」

 

 フェイトが腕に引っ付いたままニコニコしながら、僕の肩に頭を乗せる。

 そしてそのまま僕の体に付いてる古傷を、指でツーッとなぞり出す。

 ――――むず痒くてちょっと身じろぎしたら、フェイトが急に一人で立ち上がった。

 

「……どしたの?」

 

 酔っ払いの行動は、理性に則ってないから想定できない。

 

「……暑い」

「あぁ、うん、もうちょっと麦茶飲む?」

「――脱ぐ!」

「こら待て止まれ」

 

 言うが早いか、体に巻いていたタオルをばっと脱ぎ去るフェイト。

 

「ちょ、フェイト!?」

 

 のんびりお酒を飲みつつ見守ってたアルフが慌てて立ち上がった。

 

「すずし~」

「……目のやり所に困るんだけど」

 

 酔ってる人が、我を忘れて脱いじゃってるのを見るの、どうかと思うし。

 ……そしてフェイト、裸で抱きつき直すのはどうかと思う。

 

「アルフ、フェイトに酔い覚ましを飲ませても?」

「……お願いしたほうが良さそうだね。バルディッシュも手伝って上げなよ」

『OK、Ring Bind』

 

 僕は酔い覚まし薬の入ったビンを、黙って動けなくなったフェイトの口に突っ込むのであった。

 

 

◇◇◇

 

 

僕とバルディッシュの尽力によって、酔いが醒めたフェイトは酷いものだった。

 

「……うー」

 

 フェイトは残念なことに、酔っている間の記憶が飛んでしまうタイプではなかったらしい。

 つまりは、自分のやらかした事を事細かに覚えているというわけだった。

 

 タオルをきっちりと巻き直し、さっきまでのくっ付き具合は何処へ行ったのか、間に3人分くらい離れて肩までお湯に浸かり、さっきから『うーうー』唸りっぱなしだ。

 

 アルフはそんなフェイトを、なんとも生暖かい目で見守っている。

 

 こういう時は余計なことを言わず、相手から言い出すのを待ったほうがいい。

 僕は経験に基づき、フェイトが言い出すのを待つことにした。

 

 僕はボーっと夜空を眺める。

 空には綺麗な満月が光っていた。

 

「……ジーク、私の裸、見ちゃった……よね?」

 

 『うん』と素直に答えても、『いいや』と嘘をついても、不味い方向にしか行く気がしない。

 フェイト自身、見られた自覚があるんだろうし。

 

 話題をそらしてごまかそう。

 

「……今夜は月が綺麗」

「…………恥ずかしくて死にたい」

「初めてお酒飲んだから、仕方ない」

「仕方ないじゃすまないもん……」

 

 ……話し方が若干幼児退行してる。

 そして涙目でほっぺたを膨らませながら、お湯に口まで沈めてブクブク泡立てて凹んでるし。

 あぁ、僕と初めて会ったころの、キリッとしていたフェイトは何処に。

 

「母さんとアルフやリニスにしか見られたこと無かったのに……」

 

 試しに飲ませてしまったのは僕なので、流石に少々罪悪感がある。

 どうしたものかと考え、以前酔っ払ってた師匠に与太話ついでに聞いた『風呂で期せずして異性と鉢合わせた場合の対処法』を実践してみることにした。

 

 水音を立てないよう、静かに気配を消しながら、無音でフェイトの傍まで寄る。

 

「フェイト」

 

 急に掛けられた声に、フェイトの体が小さくピクリと跳ねた。

 

「……なに?」

 

 『別に驚いてないよ?』とでも言いたげな表情で、フェイトがこちらに顔だけ向ける。

 

「フェイト、綺麗だった」

「ふぇっ?」

 

 師匠から学んだ対処法は到ってシンプル、すなわち『褒めて褒めて褒め倒せ』。

 褒められてうれしくない人は居ないから、褒め倒してごまかせと言うのが師匠の言だ。

 

「き、綺麗なんかじゃないよっ……。わ、私なんて毎日訓練してるから、腕とか筋肉ついちゃってるもん……!」

「うん、知ってる。体全体に筋肉が薄く、それでいてバランス付いてたから、体のラインが滑らかで、芸術品みたい」

「そ、そんなこと無いよ!?」

「む、フェイトは僕がお世辞を言うように見える?」

「あぅ……」

「それに――」

 

 その後も僕は美辞麗句を並び立て、フェイトを褒めそやしていく。

 

 結果、数分と()たずして、フェイトが()を上げた。

 やたら滅多らに褒められ続けたフェイトの脳は、一時的に思考停止状態らしい。

 

 今のうちに撤退しよう。

 

「じゃ、僕はそろそろ上がる。二人も(のぼ)せないうちにあがるといい」

「あいよ~。ボーヤ、お酒ご馳走様。……あ、フェイトに何か伝えとく?」

「んー」

 

 なにか伝えることが有ったかと首をひねり、ふと思い出す。

 

「温泉の入湯料、あとでフロントに払っとくよう言っといて」

「……あ、そういや払って無かったね」

「僕たちは今日で帰るから、入れ替わりで一泊しても良いと思う」

「考えとくよ。それじゃ、また今度……ってのもおかしいね」

 

 まぁ、確かに今度あうときは、十中八九ジュエルシードの争奪戦で、可能なら出くわさないのが最善だろうし。

 

「……故郷の傭兵の流儀で言うなら『またいつか、きっと何処かの戦場で』だけど」

「じゃあそれをちょっと借りて、『またいつか、きっと何処かの発動場所で』ってとこかね」

「違いない。じゃ、長湯には気をつけて」

 

 それだけいうと、僕は露天風呂を後にした。

 

 

 ちなみに、アルフに言った傭兵の言葉には続きがある。正式にはこうだ――――

 

 『またいつか、きっと何処かの戦場で――――願わくば、今度は共に並んで戦えることを』

 

 僕とフェイト達が味方同士となる未来があるのか否か、こればかりは流石の僕も分からないのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 そして、なんて言うか……この旅行にはオチが付いた。

 

 翌朝、僕と鮫島はアリサ達に先んじて屋敷へと帰った。

 ……うん、そこまでは良かった。

 

「ただいま~♪」

「おかえり、アリサ」

「お帰りなさいませ、アリサお嬢様」

 

 帰ってきたアリサを玄関で迎え、持っていた荷物を預かる。

 鮫島は洋服などが入ったカバンを持って洗濯に、僕はアリサの手荷物を預かって私室まで“えすこーと”していく。

 

「私がいない間、屋敷の方はどうだった?」

「特に問題もなく平和だった(……はず)」

 

 語尾に小さくそう付け足しながら部屋の扉を開けて、アリサを先に通してから追従し私室に入る。

 

「荷物、どこに置く?」

「あ、ベッドまで持って来ちゃっていいわよ」

 

 ベッドに座るアリサからの言葉、それに従って僕はカバンを運び込む。

 

“ぽむぽむ”

 

 指示を仰ごうとした僕に、アリサが無言で自分の隣の場所を叩く。

 僕は素直に従ってアリサの隣に腰を下ろした。

 

「はいコレ、ジークへのお土産ね」

 

 がさごそ…と手持ちの袋を漁っていたアリサが僕に箱を渡す。

 表には『海鳴温泉饅頭』の文字が踊ってる。

 

 

 …………ここで僕は初歩的なポカをやってしまった。

 

 

「ん、これ旅館の部屋に置かれてたお菓子、美味しかった」

「……うん? ……ジーク、今なんて?」

「……あ」

 

 ……僕は屋敷で留守番していることになってたんだった。

 

「急用を思い出し――――」

「――――逃がさないわよ?」

 

 ……逃げ損ねた。

 立ち上がろうとした僕に先んじてアリサが動く。

 

 一瞬とは言え、(ほう)けてしまっていた僕は僅かに後れをとった。

 

 僕の襟を掴んだアリサが、そのまま僕を背中からベッドに引き倒す。

 最近目に見えて上達してきたアリサの魔法、そのうちのひとつ『筋力強化』。

 不安定な体勢だったのも裏目にでて、碌な対応もできなかった。

 

 そのまま流れるような動きで僕の腰あたりに馬乗りになって動きを制限。

 さらには両手で僕の肘をベッドに押さえ込んで――手首を押さえ込むより肘を押さえ込んだほうが、効果的なのだ――完全に僕を捕縛した。

 

 この間、僅かに0,2秒。

 ……弟子の成長をこんな形で実感するとは思ってなかった。

 

 試しに抜けようとしてみるけど、物理的には――方法を問わなければ手段はあるけど――どうしようもない。

 

「……お見事」

「ありがとう。……さて、まずは何から聞こうかしら――――」

 

 イイ笑顔で思案するアリサに、僕は師匠から教わった『寝所に押し倒されたときに言わねばならない台詞(せりふ)』を言ってみる。

 

「――――……優しくしてね?」

 

 『涙目で、僅かに頬を赤らめること』という師匠の注意も忘れない。

 

「ッ…………ふん!」

「ぎゃふぅ」

 

 胸にアリサから強烈――魔力による強化済み――な頭突きをくらい、僕は悶絶する。

 

「と、ときめいてなんて無い。普段とは違う、涙目で押し倒されてるジークのギャップに私がときめくなんて――――」

「痛たたたた……アリサ、何か言った?」

「うるさい! 気のせい、気のせいなんだからぁ!」

「……ごふぅ」

 

 鳩尾に頭突きが決まって、意識が薄れていくのに、なまじ丈夫なせいで完全に意識を失えず、苦しさだけを延々と味わう羽目になった。

 

 ……いま言葉は届かないけど、もしあの世で師匠にあったときには渾身の力で殴ろうと、僕は薄れゆく意識の中で堅く誓ったのだった。

 




本作のフェイトさんはお色気担当になりそうな感じ……?
ただし、お色気担当でも恋仲になれるかは未定という。

タグの『ヒロインは○○○と○○○○』の4文字枠に入ることが出来るのか……
予告として、無印終了時点で一人が埋まり、A's終了時にもう一人が埋まります。

酔うと、姉のアリシア(漫画版・劇場版準拠)とマテリアルズのレヴィが混じった感じの性格になります。

そして、条例を楯に混浴を肯定する主人公は、たぶん初出じゃなかろうか。


>僕の部隊で副隊長やってた彼女に
 部隊の女性メンバーに、訓練の後で女子風呂に引っ張られて行った過去。

 『タオルで隠してくれないから、目のやりどころに困った。というか、みんな僕が戸惑ってるのを見て楽しそうだった』byジーク
 『問答無用で女湯に連れて行かれるわが弟子よ。師匠権限だ、代わr――』by後に血まみれで見つかった師匠(顔に『女の敵』とかかれた張り紙

ジークが今の性格(あまり喋らず、ほとんど無感情)になったのは、故郷が無くなった直後から。
それ以前は、ちょっと大人びてはいたものの、年相応の男の子(ただし今より強い)。

主人公であるジークは、最初のほうに比べるとずいぶん雰囲気が柔らかくなってきている(はず)。

>「……今夜は月が綺麗」
>「…………恥ずかしくて死にたい」
この二人、地球(日本)生まれではないので、夏目漱石や二葉亭四迷の逸話を知らない設定。(意味が分からない方は、『夏目漱石 月が綺麗ですね』でググって見ましょう)

P.S:内定欲しいです……。
内定もらえたら、週に一度更新を半年続けられると思います(白目

とりあえず、29話まではストックありますが、各々が文字数1万近いので、適度に切って4~5千字に分割します。

追記:フェイトの性格がなんか違う……という意見ありましたら、ご連絡ください。

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