魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

33 / 60
来週忙しいので、ちょっと早いけど更新。
その代わり、次の更新が少々遅れる見込み。

……忙しい理由? ははは、最終面接が月・水・金があるのでね(虚ろな目


31:時空管理局執務官

31:時空管理局執務官

 

 

『掌を掴まれた』

 

 それに気づいた瞬間に腕を振って拘束から離れると、目の前の黒服の少年へ蹴りを放つ。

 

「……!」

 

 だけど蹴り出した僕の靴裏は、彼の割り込ませた手甲に防がれた。

腕を振って拘束を解き、蹴った勢いで後ろへ一気に距離を稼ぐ。

 

 いきなり割り込まれたのは転移か、あるいはただ単に速く動いたのか。

判断が付かず、再度攻撃に移るのがはばかられる。

 

「……戦いの途中に割り込むとか、無粋にもほどがある」

 

 銃口をそいつへ向けて牽制しながら、そう言葉を投げた。

 黒服を挟んで反対側に移動した白服の方は、いきなりの事態にどうしたらいいか分からないよう。

 

「時空管理局執務官のクロノ・ハラウオンだ! ここでの戦闘は危険すぎる、双方杖を下げろ! 話を聞かせて貰う!」

「断る、そんな組織聞いたこともない。そんな組織の命令、誰が聞くか」

 

 一応、この世界については色々勉強してるのだ。

 適当に組織の名前をでっち上げて、油断させ近づこうとする(やから)かもしれないし。

 

「な!? 君だって魔導師だろう! そんな言い訳通用するか! それ以前に君は質量火器所持の現行犯だ、管理局法違反でついてきて貰う!」

 

 ……ダメだこいつ、言葉が通じるのに会話が成立しない。

 そんな法を()く組織、知らないと言ってるのに。

 

 無論、この国の法律で銃の所持が禁じられてるのは知ってるけど、ソレはソレだ。この国の治安機構にばれなきゃいい。

 『バレなきゃ犯罪じゃないんです』なんて言葉がこの国にはあるらしいし。

 

「それでも嫌だと言ったら?」

「力ずくで連れていく!」

 

 もうやだコイツ、それとも僕の言語理解が間違ってるの?

 

「スティンガー!」

『Stinger Snipe』

 

 現れた光球、計8つ。

 それらが高速で一斉に僕へと放たれた。

 

 この速度なら、避け――

 

「ッ!」

 

 ――避けた光球がそのまま軌跡を描いてターンし、僕を再撃しようと殺到した。

 僕自身が加速し距離をとり、そのまま離脱。

 追尾性は、落ちない。

 

「誘導型か、面倒な」

「無駄口を叩く暇があったら投降しろ!」

 

 そう言い放つ黒服の周囲には新たな光球が4つ待機。

 僕の出方次第で、あれを追撃に撃つつもりだろう。

 

 間違いなく白服よりは対人戦に慣れている。

 

 逃げ回ってるのも芸がない、反撃に移ろう。

 

 一瞬の最大加速、追ってくる光球と距離をとって反転し、正面から向かい立って拳銃を構える。

 着弾まで、猶予はおそらく5秒足らず。

 

 一秒一弾一球で迎撃、しかも目標は拳大でこっちへ猛スピードで接近中。

 言葉にすると無理そうに見える。

 

 だけど、戦いに重要なのは武器に対する最低限の技能、そして――

 

「な!?」

 

 ――ここ一番の一瞬で極限まで集中力を上げられること!

 

 バババババッ!

 

 僅かに間を空けながらの5連射で、光球を相殺した。

 その光景に黒服が絶句する。

 

 僕はそのまま振り返り、黒服へ接近を狙った。

 驚きはそのままに、黒服が反応を見せる。

 

「S2U!!」

『Stinger Ray』

 

 周囲に滞空していた弾が、一直線に僕へと迫る。

 相対速度も加わって、その速度はさっきの物よりも圧倒的に早い……だけど軌跡は直線!

 

 両腕にそれぞれ魔力の盾を纏わせる。

 四式対魔防戦技――――

 

「騎士団流魔力手甲『戦鎧(いくさよろい)』!」

 

 この魔法は、金属鎧を身につけず高速近接戦を挑む剣士――故郷では先陣を切って敵陣に突貫、一撃離脱攻撃が専門の『抜剣隊』なんていう部隊もあったくらいだ――が攻撃を受ける瞬間によく使う魔法だ。

 発動時間がほんの1秒足らずという制約はあれど、その防御力は非常に高い。

 

 腕で光の弾丸を真正面からではなく横から当てて逸らし、そのまま砕く。

 迎撃の衝撃で腕に若干の痺れ、そのまま『戦鎧』を破棄する。

 

「!」

 

 黒服はもう驚かない。接近戦を覚悟して、ただ口を強く引き結び杖を構えて待ちかまえていた。

 近接戦の覚えが有るのか、その構えはサマになっている。

 

 ……いい対応、あの程度じゃ僕が止まらないと想定していたか。

 

 直前で身体強化と速度上昇の魔法を重ね掛け。

 まずは牽制、鞭のようにしならせた左脚で肩を狙う――が杖で受け止められ、そのまま流される。

 

 脚を振った勢いで1回転、左手で抉るように撃ちおろす!

 その攻撃も杖の柄で止められるが、勢いは殺しきれなかったようで、黒服は背後へとたたらを踏んだ。

 

 距離は取らせない。……僕は空中で更に一歩踏み込んで、下がった分以上に近づく。

 

 両膝、両足、両手両腕。

 連撃を放つ僕に、黒服は防戦に追いやられる。

 

 腕と杖で辛うじて防いでいる様子だ、たぶん近接格闘は本領じゃないんだろう。

 かくいう僕も手足を使った肉弾戦は本領とは言えないせいか、止めを刺しきれない。

 

 数秒間の攻防、軍配が上がったのはこちらだった。

 

 手数で上回った僕の左拳が、相手が握った両腕ごと杖を弾く――が最後の足掻きか、弾かれつつも杖の石突きで右手から拳銃を弾き飛ばした。

 

「しま……っ!」

 

 がら空きの相手の胴体、対して無手の僕。

 予備の拳銃を取り出そうとはしない。

 

 銃を弾かれた右手を握り、構えた。

 体全体で、螺旋を描くように拳を振り……抜く!

 

「騎士団流格闘戦技『破城(はじょう)』!」

 

 足裏から膝、腰、肩、腕……そして拳へ。

 螺旋に(ねじ)られていた体を戻す勢いを魔力で増大、そのまま拳に乗せる。

 

「ガッ……!?」

 

 斜めに振りおろされた拳は、黒服のみぞおちに吸い込まれるようにめり込む。

 寸前で何らかの防御術式を感じ取るも、気にも留めず貫いた。

 

 そのまま流星の如く、黒服は海面へ飛び、数度海面を跳ねた後と海中に突っ込んだ。

 

 手ごたえあり、内臓破裂とまでは行かないけども、まぁ1週間は固形物を食べれないだろう。

 

「……ふぅー」

 

 残心、止めていた息を一気に吐く。

 

 ――――Piririri!Piririri!

 

 その瞬間、ポケットにしまっていた携帯電話が鳴り響いた。

 あたふたと取り出すと、画面には『アリサ』の文字。

 どれが通話ボタンか5秒くらい悩んで――買ったときにアリサが何時間も教えてくれたけど、電話とメールくらいが今の僕の限界だった――電話にでた。

 

「も、もしもし?」

『もしもし、ジーク!? そっち今どんな状況?』

 

 通話ボタンで合ってた。

 なんか、電話口の向こうから爆発音やらなにやら、戦闘音が聞こえてきてる。

 

「『時空管理局』とかいう組織の人に襲われて、倒したところ」

『奇遇ね、私とフェイトたちもその組織を名乗ってる人たちと戦って――あぁ、いまフェイトが最後の人を倒したわ』

 

 ……!

 しまった、アリサの方にも行ってたか……!

 

「……大丈夫だった?」

『大丈夫よ、ジークより弱かったから。フェイト達と私、8:2で受け持ってちょっと手こずったけど、傷一つ無いわ』

 

 こっちは質、あっちは数で押してきたのか。

 フェイトとアルフ二人がかりとはいえ、ほとんど受け持ってくれたのか。

 フェイト:アルフ:アリサで、5:3:2くらいの比率かな。

 

 それより問題なのは、管理局というのがこっちを観察しているらしいってことか。

 相手側は、それぞれ十分だと思って戦力送ってきたんだろうし。

 

「なら良かった。……あれ? そういえば模擬戦はどっちが勝ったの?」

『……フェイト。負けちゃって、ごめん』

 

 戦闘後だからか高揚していた声音だったのに、一転して『ずーん』と沈んだ声になるアリサ。

 声からは悔しさと情けなさが滲み出てきているように感じられた。

 

 話を聞いてあげたいけど、今はその場から離れることが重要。

 

「そう、その話は帰ってから細かく聞く。ちょっとアルフ、いやフェイトに代わって貰ってもいい?」

『フェイトに? いいわよ、ちょっと待って』

 

 フェイト~、ジークがちょっと話ししたいって。

 ふぇ、ジークが? この通信機、どうやって使うのかな?

 ボタンとか押さないで、普通にそのまま話せばOKよ。

 

 そんな向こうでの会話の後に、耳元からフェイトの声が聞こえた。

 

『えっと、フェイトです』

「ん、とりあえず勝利おめでとう。で、いきなりで悪いけど『時空管理局』って言うのは知ってるか?」

『……うん』

 

 ……なるほど、良い関係じゃなさそうだ。

 

「フェイト、僕たちどうも管理局とやらに目を付けられてたみたい。監視の目を逃げる方法、ある?」

『多重転移で、後を追われないようにすれば、たぶん行けると思う』

「んむ……。頼みが有るんだけど、いい?」

『私に出来ることなら、いいです』

 

 良かった、断られたら大変だった。

 

「僕の弟子と一緒に転移して、逃げてもらえる? ア……彼女、まだそういう監視の目から逃げる魔法、使えないから」

『わかった。場所は?』

「彼女の家で、そこなら結界も張って有るから安全。細かい場所は彼女に聞いて」

『わかった。ん、(電話の向こうで何かやりとりしてる声が聞こえた)代わるね』

 

 どうもこっちの様子は監視されてる節がある。極力、アリサの名前は出さないほうがいい。

 ちょっとの間をおいて、アリサに代わった。

 

『もしもし、私はフェイトに付いていくのはいいけど、ジークは?』

「僕も僕で逃げ――いやちょっと待って」

 

 僕の前にいきなり現れた半透明な画面とそれに映る女性の姿。

 電話口を指で押さえる。

 

『初めまして、時空管理局次元空間航行艦船『アースラ』艦長、リンディ・ハラオウンです。先ほどはこちらの執務官が失礼をいたしました。お話を聞かせていただいても宜しいでしょうか?』

 

 ふむ……。

 

「あぁ、もしもし? 管理局とやらから連絡があった、ちょっとお話(落とし前を付け)に行ってくる。晩ご飯までには帰るから」

『なんか不穏な響きが聞こえたんだけど!? ねぇ!?』

 

 ははは、なにを言っているのやら。

 

『……し、心配する訳じゃないけど、病み上がりなんだから、気をつけなさいよ?』

「わかってる。じゃ、フェイトによろしく」

 

 僕は通話終了のボタンを押す。

 

「失礼、待たせました」

『いいえ、それくらい構わないわよ……。もう一方で戦っていた仲間の方にも来て欲しかったのは事実ですけど』

「冗談がお上手で、敵地に赴くのに弟子を連れて行くわけには行かないでしょう?」

 

 相手さんの言葉に嫌味で返しておく。

 

『そちらの白服の子も一緒にお願いね?』

「は、はい!」

『たぶん、貴方にやられた執務官もそろそろ復帰してくると思うからちょっと待っててね』

「あぁ、はい。 ……そうそう、言い忘れてました――」

 

 僕は全力で上っ面だけの笑顔を作って言い放つ。

 

「――そちらの出方によっては、船ごと壊して逃げさせていただきますので、死にたくなければ注意してください」

 

 さて、何が出てくることやら。

 

 

◇◇◇

 

 

Side.アースラ

 

「クロノ執務官のバイタル、確認できました!」

「もう一方に派遣していた局員チームの転送を確認、直ちに救護班を向かわせます!」

「もう一方の捜索者一行が多重転移で逃走……ロストしました」

「……そう」

 

 スタッフから矢継ぎ早に入ってくる報告にアースラ艦長、リンディ・ハラオウンはため息とともにうなずきを返した。

 

 2箇所での戦闘行動で、本艦の切り札であるクロノと、一般局員隊が敗北。

 更にはロストロギアの確保も失敗……ああ、白服の子がクロノを落とした子に渡しちゃったわね。

 渡すのを渋ってたみたいだけど、フェレットの子が必死に説得したみたい。まぁ、あんな戦いを見せられた後じゃ仕方ないわね。

 

 ウィンドウに映る向こうの風景に、更にため息。

 

 ……良いことは、交渉のテーブルに着いてくれたことくらいかしら?

 

「艦長、残存部隊を編成し待機させておきますか?」

 

 オペレータのアレックスの提言を一考し、否定する。

 

「……止めておきましょう。へんに感づかれて、あの子に艦内で暴れられたら厄介だもの。最悪、私が刺し違えて食い止めるしか無くなるわ」

 

 艦長になって以来、対人戦なんて暫くぶりだけど……

 クロノが負けた以上、あの子を相手取れるのは、私だけだもの。

 

 この世界に来て初めての出動で、戦闘要員が一気に戦闘不能になるなんて……。

 ロストロギアの回収、どうしましょう?

 

「……はぁ」

 

 いきなり前途多難な任務に、私は何度目かわからないため息を吐くのだった。

 

 

 




クロノさん、相も変わらず不憫な初登場(他の方のSSを見つつ)
しかしながら、単純な時間で言うと、現時点で最もジーク相手に持ちこたえた人である……。

特にコメントも無かったので、アリサVSフェイトは、キングクリムゾンされました、ご容赦ください。

ご意見ご感想、誤字脱字等、ありましたらお聞かせください。
また、設定などで疑問点があった際もお答えいたします。

評価などもいただけると、励みになります。

p.s感想返しは、基本的に次話投稿前後に纏めて行います。
ご了承くださいませ。

p.s2 早いですが感想返しを行いました。
あと、なのはさんの待遇改善は数話後に待っていますので、ご安心くださいませ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。