魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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UAが50000突破いたしました、皆様いつもありがとうございます。

追記:タイトル話数が『33話』になっていたので、『32話』に訂正。


32:時空管理局~巡航艦『アースラ』~

32:時空管理局~巡航艦『アースラ』~

 

 

「……ふぅん、転移した先で待ちかまえられてるかとも思ったら、案外そうでもないのか」

「……君と君の仲間、あと黒服の探索者とその使い魔。その4人のおかげで、僕を含めたこの船の全戦力のほとんどがやられてるからね」

 

 黒服の執務官とやらに連れられ、僕と白服・ユーノはアースラという敵の本陣へ乗り込んでいた。

 ちなみに執務官は、海水に突っ込んだせいで髪と服がしっとり塗れて、なおかつ磯臭い。

 

 はいている靴からは、『ぐちょぐちょ』と水が染みてる音がする。

 気持ち悪いんだよね、靴に水が入ってると。

 

 周囲の気配を探りつつ、周囲を観察する。

 白服とユーノは、何やら魔法で密談してるみたい。

 試しに割り込んでみたら上手く行ったので、とりあえず聞いておく。

 

『時空航行船?』

『そう、世界と世界を渡る船って言えば早いかな?』

 

 ……ふぅん?

 この船が時空の海を世界から世界へ渡る船なのか。

 あぁ、これがいわゆる“戦艦”とかいう船なのか?

 

 調べてみると、確かに現在地は世界の狭間の時空間……だと思ったら何かが違う。

 片手間に深く精査して、その理由が判明した。

 なるほど、なるほどね。

 

 “全くの別物なのか”

 

 それなら納得だ。

 今更ながらに、自分のいる場所を知る。

 

 勝手に自己完結して、内心でうなずく。

 

「あぁ、そういえば君たち、いつまでもその格好のままじゃ窮屈だろう。バリアジャケットは解除していい」

「あ、はい」

 

 白服の着ていた服がアリサの小学校と同じ制服に替わり、持っていた杖も赤い玉に変わる。

 ……いやいや、何でこいつは敵地かもしれないところで武装解除してるのか。

 

 取りあえず、『バリアジャケット』ってのが何だかわからない。

 言葉尻から考えると、『防護服』?

 横文字、慣れてきたとは言っても完璧じゃないし。

 

「君もそのバリアジャケット解除したらどうだ。というか抜き身の銃を仕舞え!」

「銃は良いけど、服は脱がない。……なに、僕の裸でも見たいの?」

 

 半歩引いて、腕で体を隠して見せる。

 僕の行動にユーノが『そういう趣味なの!?』と言った目でみるが、白服は『なんのこと?』って感じだ。

 

「人聞き悪いこと言うな! バリアジャケットの下は普通の服だろう、普通は!」

「……ユーノ、バリアジャケットやらは私服の上に防護用の服を展開する形態の魔法?」

「え、あぁ、はいそうです」

「そう、ありがとう」

 

 答えてくれたユーノに礼を言う。

 これで取りあえずの疑問は氷解した。

 

「これ、バリアジャケットじゃなく、現物の服。魔法的に加工してるから魔力を帯びてるだけ」

「……魔法的な加工? ……まあいい、そういうことなら脱げとは言わないが……」

 

 いかにも渋々と言った表情で黒服がうなずいた。

 露出狂のケは僕に無い。

 

「まあいい、とりあえずフェレットの君は元の姿に戻って良い、その方が楽だろう」

「そうですね」

 

 ユーノが光り、その姿が人型になった。

 

「ふぇ!? え!? ユーノ君って男の子だったの!?」

 

 ……あれ、気づいてなかったのか。

 

「……君たち二人に、何か見解の相違でも?」

 

 どうやら二人、ちょっと意志疎通が足りなかったらしい。

 

「とりあえずその話は後でゆっくりしてくれ、行くぞ」

 

 

◇◇◇

 

 

「……これが世に聞く『和の心』というやつ?」

「えっと、これが一般的な和の心だと思われちゃ心外かな……って私は思うの」

 

 艦長室と言われ通された先は、僕が未だ良く把握できていない“和風文化”の固まりみたいな感じだった。

 これが和の心なのかと感心しかけたけど、白服の言葉を信じることにした。

 業腹だけど、明らかにこの世界の組織じゃない人間よりかは、和の心について信憑性が高い。

 

「艦長の趣味はこの際置いておいて、話を進めよう。」

「そもそもの始まりは、僕がジュエルシードを発掘したことなんです――――」

 

 ユーノが話したことを簡単に纏めるとこうだ。

 

 古代遺跡の発掘を生業とするユーノが、ジュエルシードを発掘。その輸送中に事故でジュエルシードをこの世界にバラマいてしまった。

 管理外世界と呼ばれるこの世界への渡航許可を管理局に取ると同時に、ジュエルシードの回収を開始。

 しかし、元々戦闘が専門では無かったため、2個目の封印中にジュエルシードの暴走体に敗北。

 偶然魔法の資質を持っていた白服に力を貸し、ジュエルシードの収集を続け今に至る……と。

 

「立派な考えだわ」

「だが、無謀すぎる」

 

 ……僕の押さえ込んだ歪みが発生するまで、介入してこなかったくせに良く言う。

 そもそも、ジュエルシードの危険性を含めてユーノが連絡済みだったのに、問題が起こってから動くのか。初動が遅い。

 

 艦長とやらと黒服の言葉に、僕は内心でそう毒づく。

 

 そんな話をしつつ、やはり白服の魔力がこの世界はおろか、時空管理局の中でも上位5%に入ること、ユーノの一族が遺跡探索を生業(なりわい)にしていることなんかを聞きつつ、会話は進んでいく。

 

「そっちの二人の話は理解した。次は君の番だ、特に君には聞きたいことが山ほどある」

「……面倒くさい、さっさと済ませて」

 

 遅くなるとアリサが心配するし。

 

「では貴方がこの件に介入した経緯と意図について話してもらえるかしら?」

「……時空間を旅してるときに、時空の揺れを受けてこの世界に落とされた」

「まて、じゃあ出身は?」

 

 黒服の質問に、肩をすくめる。

 

「確実に貴方たちは知らない世界」

「……どういうこと?」

 

 自信をもって断言する僕に、艦長殿が問いかけた。

 僕はさっき確信した事実を簡単に説明する。

 

「時空管理局なんて存在を聞いたことも無いのも理由の一つだけど、本質は単純な話。僕の認識する“世界”と貴方たちの認識する“世界”が根本的に異なってる。簡単に説明すると、こう」

 

 僕は、一般的にトウモロコシと呼ばれる野菜を虚空から取り出した。

 

「この中の1粒がこの世界、えっと――――」

「――――……第97管理外世界?」

「ん、そう」

 

 僕は指さした粒に、目印代わりに針を刺す。

 

「で、貴方たち管理局とやらがある世界が……」

「第1世界『ミッドチルダ』ね」

「じゃあそれはココで」

 

 さっき刺した針とは離れた粒に、違う針を刺す。

 

「これら一粒一粒が貴方がたの言う世界の単位。僕のいう世界はこういうこと」

 

 僕は幾つものトウモロコシを取り出して、その中から適当な一つを選び取った。

 

「僕のいう世界はこういうこと、粒じゃなくてこのトウモロコシの房の1つ1つが世界。つまり、この時空と、僕の生まれた時空は全くの別位置にある物」

「な……、つまり僕たちの認識する世界と君の言う世界の規模は全くの別物だと!? そんな突拍子も無いこと、信じられるか!」

「理解してもらおうとは思わないから別にいい。ただ、それならそれで僕の使う魔法がココにいる面々と違う理由の説明になるけど。世界が全く違うなら、発展した魔法や使う魔法が違うのも当然の流れ」

「む……」

 

 とっさに上手い反論が思いつかなかったのか、黒服が黙り込む。

 

「その話は一旦後に回しましょう。今ここで世界の枠組みに関して話しても証明する手段がないもの」

「……そうですね」

「賢明な判断だと思う」

 

 ここで話すには時間が惜しい。

 

「……とりあえずアントワークさんが言ってるのは、世界は管理局っていう人達が考えてるより多いってこと?」

「とりあえずはその認識であってると思う……合ってますよね?」

「まぁ大体はあってる」

 

 今はソレくらいで十分。

 

 

◇◇◇

 

 

「じゃあ次は、貴方ともう一方の探索者、あとお弟子さんについてかしら」

 

 振られたその話題に、僕は内心で心を引き締めた。

 ここで下手な対応をすると、アリサ達にまで累が及んで不味くなるかもしれない。

 

「そう、どっちから聞きたい?」

「ではお弟子さんからで」

「……概ね、ユーノと白服の関係に似てる。」

 

 僕はチラッと二人に視線をやって、話し続ける。

 

「さっき言ったとおり、この世界に落ちて、その時に色々あってある家にお世話になることになった」

 

 思い出してみると、少し前の事のはずが異様に内容が濃く、何から話したものかしばし悩む。

 少し悩んで、結局僕は簡単に纏めることにした。

 

「ジュエルシードの暴走が発生して、その対処に動いたのが最初。しばらくは一人で動いた、だけど体が本調子じゃなかったこと、ジュエルシードの危険性が想定以上だったこと。この二つから、素養があったその家のお嬢様に手伝ってもらうことにした」

「そうなの……。あら? ということは、お弟子さんはなのはさんより経験が浅いって事かしら?」

「そう、ちなみに今日が初陣。相手が弱くて助かった、これで自信がつく」

「……うちの隊員、もう少し鍛え直さないと駄目ね」

 

 まぁ、確かに少し鍛え直すべきだろう。

 そうしたらアリサの成長にあわせていい実戦相手(実験台)になってくれるかもしれないし。

 

 そんなことを思いながら、何か言いたそうに視線を向ける白服に目を向けた。

 

「なに?」

「その子ってどんな子なの?」

「守秘義務あるから言わない。強いて言うなら、年はお前や僕と同じくらい」

「そう言えばあの子や貴方をサーチャー越しに見たのだけど、写すとどうしてもぼやけてはっきり映らなかったのは……それも貴方が?」

 

 あぁ、やっぱり監視してたのか。

 内心の納得とともに、その理由を軽く説明しておく。

 

「む……? ん、あぁ。着てるコートに認識阻害の魔法を込めてあるからそのせいだと思う」

「服に魔法を込める……か。今日だけで良くわからない技術がポンポン出てくるな……」

 

 黒服が目頭を抑えてうめく。

 いい気味だ、まったく。

 

 

◇◇◇

 

 

「じゃあ次はは貴方の魔法ね。発動時に魔法陣も出たりでなかったり、デバイスも使ってるようには見えないなんてイレギュラーにもほどがあるわ」

「魔法の形態が違う。その答えで十分だと思うけど」

 

 僕の言葉に、艦長が困った顔で首を傾げて見せた。

 

「具体的に……って言っても私たちの魔法を知らないから比較は無理か……。試しに何か披露してくれない? あ、もちろん安全なものよ?」

「……適当な紙を数枚。それと何か書くもの」

 

 僕が取り出したものじゃ、何か仕込んだのかと思われてもしかたないし。

 

「えっと、じゃあこの便せんとペンでいいかしら?」

 

 3~4枚出された紙と、一本の黒いペン。

 受け取って、その内の1枚に基礎的な魔法陣を大きく一つ、10秒足らずで書き上げる。

 

「フリーハンドで……見事なものね」

「なんだか、とっても魔法使いみたいなの!」

 

 艦長のほうは感嘆の声を、白服の方はなんだか目をキラキラさせてこっちを見てる。

 というか白服、そういうお前も魔法使いだろう。

 

 対する黒服とユーノは僕の一挙一投足を見逃さないように注視。

 前者は警戒、後者は学者って仕事柄からくる興味だろう。

 

 一度見直し、ペンを置く。

 どうせこの部屋の中は監視されてるんだろうし、極力相手に情報を与えないように。

 

「……『宿(やど)れ』」

 

 魔法陣に人差し指を当てながら魔力を流し、ほんの一言。

 それで魔法は組みあがる。

 

 ぱたぱたぱた、紙がひとりでに折られてゆく。

 ものの数秒で、ただの紙が手のひら大の一羽の紙の鷹になる。

 

「「「……!」」」」

 

 4人の目が見開かれてるが、これは断じてただ自動で折り紙をしてくれる魔法ではない。

 それを証明するために言葉を重ねる。

 

「『動け』」

 

 ただの紙のオブジェだったソレが羽ばたき、そして飛んだ。

 部屋の中を飛び回りだす。

 

「コレくらいで充分?」

「え、あぁその、この魔法はいったい?」

「物体に仮初めの命を与える魔法、簡単なものだから複雑なことはできないけど」

 

 艦長の言葉に、簡単に概要をはなす。

 

「スゴい! ねぇ! 私にもできる?」

「試してみればいい、……たぶん無理だけど」

「試す前から無理って言っちゃダメだよ!」

 

 更に一枚紙に魔法陣を書いて白服に渡し、やってみさせるが紙は全く動かない。

 ほかの3人も同様だった。

 

「むぅ、確かに魔力が発生してるのは感じるから魔法なのは違いないのに……。デバイスとかを隠し持ってたりは?」

「僕は喋る珍妙な杖なんて持ってない」

「私たちが見てた感じだと、デバイス使わないで殴って蹴って、鉄砲撃ってで敵を倒してたの……」

「暴走体相手に、肉弾戦挑もうとするか?」

 

 じゃあどうしろと。

 

「素手の方の攻撃の威力はウチのクロノが身を持って体験してくれたから、効果は実証済みだけど、質量兵器で暴走体に太刀打ちなんて出来るものかしら?」

「銃も弾もこの世界の物。ただ、その市販品――市販されないものも混じってるとは言わない――に魔法的に少し手を加えただけ」

「……ソレを見せてもらうことは?」

「見るだけならどうぞ、これも理解は出来ないだろうけど」

「映像記録を残しても?」

「どうぞお好きに」

 

 弾丸を1発、ひょいと投げ渡す。

 しげしげと弾頭に刻まれた文字に目をやるけど結局理解できなかったようで、写真を何枚か撮ると返してくれた。

 

「分かりました、仮ですが貴方の魔法が我々の物と別々の物としましょう」

「艦長!?」

「一応後で無限書庫に調査依頼を出してみるけど、こんな魔法聞いたことがないもの」

 

 理解が早くて助かった。

 

 その後もいくつか魔法に対する相手の疑問と、それに対する僕の応答が繰り返される。

 割と平穏に続く会話、だけどこれらは本命の質問ではなくただの探り。

 

 あくまで表面上だけ緩みだしていた空気は、続く言葉で一気に緊張状態に陥った。

 スッと目を細めた彼女が幾分張りつめた空気を纏う。

 

「私たちが一番知りたいのはね、貴方が次元震を起こしたジュエルシードに使った魔法なの」

「……ふん、それが本命か」

「え……? え?」

 

 変質した雰囲気に付いていけない白服が戸惑いの声を上げるが構うまい。

 さて、これからが本番だ。

 




繋ぎのお話です。

>白服とユーノは、何やら魔法で密談してるみたい
距離があったら無理ですが、目の前での念話なら盗聴できます。

>現物の服。魔法的に加工してる
需要があるようなら、後で細かな解説入れます。

>ユーノが光り、その姿が人型になった。
温泉回で、アリサの裸を見たとジークが知ったら……合掌

>これが世に聞く『和の心』
よく話題に上がる『リンディ茶(緑茶にミルクと砂糖がIN)』ですが、緑茶を良く知ってる日本人から見ると異質なだけであって、海外の人から見れば『おー、抹茶ラテねー!』って感じだと思う。

>あの子や貴方をサーチャー越しに見たのだけど、写すとどうしてもぼやけてはっきり映らなかった
このお陰で、なのはやユーノは映像越しだと『正体不明のジークの弟子=アリサ』だと認識が繋がらない。

>無限書庫に調査依頼を出してみるけど、こんな魔法
Vividにて『ファビア・クロゼルグ』が『魔導師ではなく正統派魔女(トゥルーウィッチ)』という設定があるので、この世界ではジークの使うような魔法は過去に廃れてしまった……とも受け取れる。
つまり、知らなくても仕方ない。

そういえば、拳銃……質量火器に関してですが、知らない人のために補足。
リリカルなのはのドラマCD(StrikerS サウンドステージX)において、とある非魔導師の鑑識官が『デバイス登録された拳銃』を所持しています。このことから察するに、一定以上の立場?があれば所持の許可は下りる模様。
まぁ、これ以外の所持例に心当たりはないですが・・・

では、ご意見ご感想お待ちしております。
感想をいただけると、……作者は就活を頑張れます(小声

割と感想には長々と返事をしますので、気になる方は過去の質問を見てみられるといいかもしれません。

次回更新:1週間~10日後くらいの間に。

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