魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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自動更新第二弾

ちょっとした裏話。
本作のイメージソングはdoaの『英雄』だったりする。


42:時の庭園~突入戦~後編

42:時の庭園~突入戦~後編

 

 

「話を戻そう――――」

 

 僕はユグドラシルを地面に突き立て自立させると、着ていたコートのボタンをぷちぷちと外していく。

 管理局には話さないつもりだったけど、考えが変わった。

 

 どうせ追求されるのだし、僕以外に再現不可能な理由を見せてやろう。

 

「無論、理論は有っても易々と実現はできないアプローチも考え出された。そして、僕の家系は敢えてそれを選んだ、まぁ逆転の発想と言うべきなんだろうけど。……ユーノは薄々察しが付いたっぽい?」

「……推測は立った、けど突拍子が無さすぎて断言は出来ない」

「それは重畳」

 

 一応ユーノにはヒントも出していたけど、あれだけの情報で推測が立てられたのなら見事なものだ。

 

 縫いだコートを近くにいたフェイトに預け、着ていたシャツの袖元のボタンを外して一気に二の腕付近まで捲りあげる。

 

「それは……なに……?」

「ジーク、その腕っ……!?」

「嘘、腕が……」

 

 

 袖に隠されていた手首から肩まで、そこには有るべきはずの腕が無かった。

 

 

 分かりやすく言ってしまうと、今の僕の腕は手首から先しか無い状態だ……ホラーっぽい。

 さすがに手が消えると不味いので、皮膚の見える箇所――顔とか手とか――は何とか実体を保っている感じだ。服を全部脱げば、今の僕は生首と手首だけが浮かんでる状態なのでは無かろうか。……視認したくは無いので見ないけど。

 

 周囲がそれぞれ驚愕や動揺を露わにする中、ユーノだけは硬いままの表情を揺るがさない。……推測通りか、すばらしい洞察力だ。

 

「どうしたって、生身の肉体じゃ、一つの生命じゃ一度に扱える魔力、というよりは御しきれる魔力には限度がある。それならどうすればいい? 僕たちはそこで発想を逆転させた」

 

 魔法の制御をしない前提なら良いのだけど、それは魔法とは言えないので除外する。

 話しつつ、もう一方の袖も捲ってみせる。案の定、そちらの方も手首より上が存在しない。

 

「僕たちのアプローチはね、

 

――――『魔法使い自身が魔法そのものになってしまえばいい』って物だ。

 

肉体の枠から外れて、魔法を使う側じゃなく魔法になればいいんじゃないか? っていう理論らしい」

 

 話している間に制御がゆるみ、残っている手首が若干透け始める。

 

「待って、それじゃ辻褄が合わない……! 肉体を捨てて魔法に成れたとして、その後に元に戻れるはずが――」

「――ん、戻れない」

 

 プレシアの言葉にうなずくことで答えてみせる。

 

「数百年前にこの理論を初めて提唱した人は、そのまま人間にも戻れず意識も保てず()まい。そう上手い話は無かった」

「じゃあ貴方だって――」

「それを克服したのが僕の家系というわけ」

 

 フェイトがはっとした表情を僕に向ける。んむんむ、以前少し話したとはいえ察しがいいな。

 

 妖精の血を引く僕の家系、その中でも先祖帰りという形で少なくとも半分近くがヒトでなしになっている僕という存在だからこそ、選べた手段と言える。

 

 ――無論、ノーリスクという訳じゃない。

 

 大きな魔力を運用すればするほど、徐々に徐々に体からヒトの割合は失われていく。

 それに僕だって加減をミスったら、この理論の提唱者の後を追う羽目になるだろう。

 

「プレシア・テスタロッサ、詰みだ。貴女じゃ今の僕には及びようも無い……もう一度聞く、投降の意思は有るか否か?」

「――――ふふ、フフフフフフ、ハハハハハハハハハッ!」

 

 俯いていたプレシアが、狂ったような笑い声を上げる。

 顔を上げたプレシアの顔は、戦の前夜の兵士に見られるような、覚悟を決めたものだった

 

 

「私は……私は貴方みたいに“今”も、“未来”も見れないのッ! 私にはアリシアしか、アリシアの居た“過去”を取り戻さないと“今”とも“未来”とも向き合えないのよッ!」

 

 

 ……その覚悟見届けた、もはや何も言うまい。

 

 

「ならば最後に一つ、今のうちに清算しておきたいことがある」

 

 僕は虚空からスッと1枚の羊皮紙を取り出した。以前管理局陣営とフェイト陣営、そして僕らとの間で取り交わした、ジュエルシードを賭けた戦いの誓約書(37話参照)だ。

 

「既に一部は破綻している契約だけど、僕達が勝利した以上、特別条件として提示した要求に関して話しておきたい」

「あぁ、そう言えばそんな話も有ったわね……。いいわ、聞かせなさい」

 

 フェイトの体に刻まれていた傷を見て以来、念のため伏せておいた札を役立てよう。

 僕は羊皮紙と筆記用具を、プレシアへと魔法で寄越す。

 

「文書に纏めてある、これを見て良ければ下の書名欄にサインを。それで契約は成立する」

「これは…………ふん、そう。貴方も物好きね……いいわ、ソレは貴方にあげる、勝手になさい」

 

 文書に目を通したプレシアが僅かに目を(みは)った後に、サインをしてこちらへ寄越した。サインが書かれているか、一応確認する。

 

「……確かに。では、頂いていく」

「貴方が何でそんなモノを欲しがるか、理解に苦しむわ」

 

 プレシアが僕から視線を外してフェイトを見やり、『ふん』と鼻で笑って見せて、すぐに僕へと視線を戻した。

 

「言いたい事はもう無いでしょう? 私はアルハザード行く、もう止めさせないわ」

「僕からはな」

 

 僕はそう言って半歩横へずれる。

 

 

「――私から、伝えたいことがあります」

 

 

 僕がつい寸前まで立っていた所へ、フェイトが一歩踏み出して来てそう告げる。

 

「私は……私はアリシアになれなかったただの失敗作で、偽者なのかもしれません。

 だけど、生み出してもらってから今までずっと……今もきっと、母さんに笑って欲しい幸せになって欲しいって気持ちは本物です――私の、フェイト・テスタロッサの本当の気持ちです」

 

 そこまで言ったフェイトが、何か握った手を胸元に持ってくる。

 

「それにこんな私にも、友達になってくれる子が居て、一緒にデートしたりもして……。こんな幸せな気持ちになれるのは、母さんが私を生み出してくれたからだから――」

 

 フェイトが唇に薄く微笑みを浮かべ、プレシアに頭を下げた。

 

「――母さん、私を生んでくれて……ありがとう」

「――ッ……!」

 

 その言葉に口を開き かけたプレシアだったが、何かを言いかけたところで唇を噛んで天を仰ぎ沈黙する。

 もう一度口を開け、何かを言おうとしたプレシアが再度口を閉じ――数瞬して搾り出すような声を出した。

 

「――貴女はもう(・・)私のモノじゃ無いわ。貴女が思ったように勝手に生きて……勝手に死ぬと良いわ」

 

 それだけ言ったプレシアが、手にした杖の石突で床を叩き――それを皮切りに再度次元震が発生する。

 

「母さん……!」

「私は」

 

 これ以上フェイトに言うことは何も無いと言わんばかりに繋がっていた視線を切ると、僕のほうへ視線を向ける。

 

「私は行くわ、アルハザードへ」

「勝手にしろ、お前の選んだ選択だ。――契約外だけども、尻拭いはしてやる」

「あぁ、契約と言えば……私のジュエルシードはもう好きになさい。これだけの次元震を引き起こせれば十分」

「んむ」

 

 それだけ言って背を向けると、アリシアの遺体が安置されたポッドに寄り添った。僕とプレシアとの最後の会話は、それだけだった。

 

「――よせ!」

 

 黒服の静止に振り向くことは無い。より強くなった震動に崩落が開始し――プレシア達は崩れ行く足場と共に虚数空間へと落ちていく。

 

「母さん!」

 

 思わずといった感じにフェイトが飛び出し、眼下へ消えていくプレシアに手を伸ばすが、届くことは無い。

 フェイトに追いすがるようにアルフが追って体を支える。

 ついには天井から崩れ始め、虚数空間へと消えたプレシアとアリシアのポッドへ手を伸ばすフェイトと、それを支えるアルフに目掛けて落ちる岩盤を、ユグドラシルを一閃して消し飛ばす。

 

『みんな! 庭園から脱出して! 崩壊まで時間が無いのッ!』

「分かった! エイミィ、脱出ルートの指示を頼む!」

 

 アースラから撤退の指示が出るが、暴走をそのままに素直に従って黒服たちと戻るわけにも行かない。

 

「アースラの通信の人、転送の装置は動きそう」

『ちょっと待ってね――――OK、1回くらいは行けるって!』

「そ、なら帰り道はそちらに任せる」

 

 フェイトとアルフを引き起こし、アリサと高町の方へ押しやった。

 

「ちょ、危ないって言ってるのにジークはなにするのよ!?」

「大丈夫だとは思うけど、この次元震が断層を起こさないように相殺をかける」

 

 市街地での相殺のときと比べ、今回は更に大きい物だ。それ相応の覚悟を持って挑まざるを得ない。

 プレシアという一人の人間が、願いを突き通して旅逝く様を見たのだ……フェイトに対しての行いには言いたいことがあるけども、尻拭いをしてやろう。

 

「――――バッカじゃないの?」

 

 押しやったアリサが、『ふん!』と鼻息も荒くこちらに寄って、そのまま僕と手を繋ぐ。

 

「私は、私は守られてばっかはイヤで、ジークの隣で戦うために弟子入りしたんだから、危なかろうがなんだろうが最後まで付き合うわよ!」

「……いや、万が一って事も――」

「――私の師匠で、大事な友達で、護衛を名乗るならそれくらいやってのけなさいよ……!」

 

 言葉は強いけど、声からは震えとともに、組まれたアリサの腕からは意地でも話さないという意志がひしひしと伝わってくるようだった。

 

「……そ。弟子で、大事な友達で、ご主人にそこまで言わせたなら……やるしかないか」

 

 …………少し、弱気になっていたのかも知れないなぁ。

 

「わ、私もジークと一緒に残る!」

「フェイトが残るって言うなら、私も残るよ」

 

 アリサに遅れてフェイトがもう片方の空いた手に、アルフはススッと背中に近寄って、僕を後ろから抱きすくめた。

 ……頭にアルフの胸が乗っかって、非常に重い。

 

 念のため、僕達を包むように球状の障壁を展開し、外界と遮断する。

 

「私も――――」

「定員オーバーだ、管理局組みは勝手に帰れ」

「しかし――『クロノ君、なのはちゃん、急いで! 転送装置の出力が不安定になっちゃう前に早く』――……くっ! すまない、任せたッ!」

 

 高町と黒服まで面倒は見切れない。

 アースラからの通信もあり、黒服が高町を強引に引っ張って視界から消えていく。

 

 

 さて――――

 

 

「次元震確認、震動波形確認――」

 

 両手が塞がっているので、剣群の要領でユグドラシルを眼前に浮かべて干渉を開始する。

 市街での発動の時よりも規模が大きい、慎重に加減をしつつ……されど魔力運用は大胆に。

 

 

 現状を把握、逆位相の次元震を発生させ……

 

 

 拍子抜けるほど簡単に、あっけなく次元震は収束を遂げる。手早くプレシアのジュエルシードを回収し、防御のために貼られていた障壁を転移の術式に転用して、僕たち3人と1匹は地球のアリサ邸へと帰還を遂げた。

 

「ここは……私の家……?」

「戻った……の?」

 

 無事に屋敷に転移し、アリサとフェイトの声を聞いた僕は目の前が真っ暗になり――

 

「ちょ、ジークしっかり――――急いで運ぶよ!」

 

 

 ――そのまま意識を失ったのだった。

 

 

 




>……ユーノは薄々察しが付いたっぽい?
ユーノは有能、次元世界を又に掛けるWikipediaみたいな存在。

>『魔法使い自身が魔法そのものになってしまえばいい』
レンタルマギカ理論。

>「貴方が何でそんなモノを欲しがるか、理解に苦しむわ」
伏線、とここに書いて置くのは作者自身が見返すためだったりする(小声

>一緒にデートしたりもして……。
アリサ:『!?』

>――母さん、私を生んでくれて……ありがとう
ちょっとだけ、プレシアは『ウルッ』と来てたりする

>私のジュエルシードはもう好きになさい。これだけの次元震を引き起こせれば十分
原作だとプレシアの所持していたものは行方不明になりますが、本作では主人公サイドが全取りです。

>……頭にアルフの胸が乗っかって、非常に重い。
ちょっとそこ代われ! by作者

>あっけなく次元震は収束を遂げる
市街地の時よりあっさりなのは、それだけ主人公の力が開放されてるから
……つまり、そのフィードバックも(意味深

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