魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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03:予想外な状況

03:予想外な状況

 

「…………あれ? ここ…どこ?」

 

目の先には天井が見える。

……というか、僕は何でベッドにいるの?

 

寝た覚えはないよ?

 

「っ…よいしょっと」

 

僕は反動をつけて身体を起こす。

 

部屋の調度品は…うん、かなりいいやつだ。見た目は普通だけど、細かい所まで綺麗に作り込まれてる品々。

 

……って、いつの間にか服も変わってるし。

 

 

………何があったか思いだそう。

 

 

…確か、いきなり時空の狭間から叩き出されて――――

 

 

ガチャリ

 

 

この部屋の扉が開く。

 

「…ん?」

 

僕はそちらに目をやる。

 

扉の向こうから金髪の女の子が顔を出し、僕と目が合うと石になったかの様に動きを止めた。

 

「ジ、ジ、ジ、ジーク!? 目が覚めたのね!? パパ呼んで来るからおとなしくしてなさいよ!!」

 

勢いよく扉が閉められ、ダダダ……....と足音が遠ざかっていく。

 

……あぁ、思い出した。

 

 

――――アリサ、アリサ・バニングス。僕は彼女を助けたんだった……。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「まずは娘を助けてくれた事、礼を言う。…ありがとう」

 

アリサの父親…らしき人が僕に向けて頭を下げる。

 

「……えっと、どう、いたしまして…」

 

………人にこんなふうに『ありがとう』って言われるの…いつぶりだろう。

 

この人がアリサのお父さん…。

この部屋まで走ってきたみたいだ。息がかなり荒い。

 

「…パパ、名前、名前」

「む、そうだなアリサ。私の名はデビッドだ」

 

デビッドさん?が、アリサに小突かれて自己紹介をした。

 

「……僕は、ジーク・G・アントワーク、です」

「ああ、知っているよ」

 

………何だろう、この徒労感は…!

 

「あんた、2日も寝っぱなしだったのよ?」

 

………え?

 

「……2日?」

 

僕は首を傾げた。

 

「………覚えてないの?」

 

僕は素直に、こくこくと頷く。

 

「アンタ、2日前、自己紹介したあとすぐに倒れたのよ……」

 

………ああ、それ、たぶん、貧血。

血、流し過ぎてたか……。

 

それよりも――

 

「…アリサ、ケガ無い?」

 

僕はデビッドさんと並んで座っていたアリサに手を伸ばし頬をつついてみた。

 

………うん、ふにふにしてる。腫れてはない。ちゃんと治ってた。

 

…あれ?

アリサの顔が赤い…

 

「アリサ、熱あるの?」

 

僕は手を上にスライドさせて、おでこに当てた。

…うぁ。どんどん真っ赤になってく。こんな症状見た事ないよ?

 

 

うん、『治療してあげた子の健康状態を気にかける』。僕のこの対応は間違ってないはず。

治療後の病状確認は重要だからね。

 

 

「………あ、―――」

 

アリさがぷるぷる震えながらうつむいちゃった。

 

「……?」

「―――あんたのせいでしょうが!!」

 

 

………まさか!?

 

 

異世界から来た僕自体が病気の原因…!?

しまった…!その可能性は考えてなかった!!

 

……早くこの場を離れなくちゃ…。

 

「………お世話になりました。すぐに出て行きます」

 

僕は小さく頭を下げてベッドの上でくるりと回り、床に足をつける。

 

「は!?なんでそうなるのよ!?!?」

 

……それ以外にどう解釈すればいいの?

 

「ふむ、私としてもそれは困る。……あの場に何故君がいて、何が起こったのか。私は君に聞かなければならない」

 

デビッドさんの鋭い眼光が僕を貫いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…実際に目にしてもいまだに信じられん」

「本当に魔法なのね…」

 

…僕としては2人のその反応にビックリ。

 

 

説明を始めてすぐにわかったこと。

それは、この世界には『魔法』という文化、そして技術が無いって事実。

 

 

……僕としてはそれが信じられないんだけどね。

 

天井の明かりは『電灯』っていうものらしいけど、僕はガラスの球体の中に光を閉じ込める魔法だなぁ。って解釈だったのに…。

 

話が進まなかったので、簡単な魔法をいくつか披露して『魔法』って存在の証明。

それから時空の狭間から叩きだされた時からアリサ救出戦の説明まで行って――――

 

「…納得してもらえました…よね?」

 

――――今は、2人が現実を直視するのを待っているところ。

 

……2人には、故郷の事は喋っていない。

………まだ僕の中でも整理がついてないし、ちゃんと話せるかもわからない。

 

 

………それに――――

 

 

「…OK。理解したわ。つまりアンタはこの世界の住人じゃなく、異世界の人間。世界の間を移動してる最中にいきなり…地震みたいなものに出くわした。結果としてこの世界に落ちてきて、誘拐されていた私を助けた。……あと、その地震の影響でこの世界から出られない。……これでいい?」

 

 

――――話したとき、拒絶されるのが………怖い。

 

 

僕は内心の想いを表に出さず、アリサの言葉にうなずいた。

 

「…うん、概<おおむ>ねは」

 

「わかったわ!じゃあアンタ、ウチに住みなさい!!いいでしょ、パパ?」

 

……え?

………なんでそうなるの?

 

「ああ、娘の命の恩人だ。構わない」

 

……デビッドさんまで…!?

 

「…え、いや、でも――――」

「――――いいからおとなしくお世話になってなさい!いいわね!!」

 

……よくない。

 

僕のそんな内心のつぶやきを無視して、アリサは一方的に話を終わらせると部屋から去っていった。

 

明日は、『学校』というものがあるからもう寝るらしい。

…『学校』っていうのは、よく分からないけど。

 

今の時間は…夜の11時。

きっと、学校っていうのは朝早いんだろう。

 

「……まぁ、娘は言い出したら聞かないからな…。我が家だと思って滞在してくれ。……何なら永住してもいいぞ?」

「………前向きに検討しておきます」

 

こういっておけば何事も穏便に納まる。昔、師匠がそう教えてくれた。

 

「…さて、私には聞きたい事がもうひとつある」

「…?」

 

…まだあるの?

 

「君は、これまで、いったいどんな人生を送ってきた?」

 

……ッ!?

 

「…どういう、意味ですか?」

 

僕は動揺を押し隠し、聞き返す。

 

「君が倒した男達…、ああ、彼らについては安心してくれ。警察…つまりはこの国の治安を守る組織に引き渡した」

「…それは、よかったですね」

「……この話には続きがあってね、その関係者に話を聞く機会が有ったんだが、…興味深い事を教えてもらったよ」

 

…僕は、沈黙を貫く。

 

「彼らは、人間の急所を的確に攻撃されていたらしい。一歩間違えば命すら奪える箇所をね」

 

…当然だ、敢えてそういった箇所を狙ったんだから。

 

「…その人はこうも言っていたよ『普通、人間というのは急所を攻撃するときにはどうしても躊躇<ためら>いが生じる。当然だよな、命を奪うかもしれないんだ。でもこの犯人達につけられたキズはためらわれた痕跡が無い。……こいつらを倒したのは人を殺す事を辞さない人間だ』…とね」

 

「……じゃああなたは、…あなたはどうしてそんなキケンな人間を家に居させるような真似を?」

 

……僕はデビッドさんの言葉を否定しない。

………否定など、出来るはずがない。

 

想いに反して、結果的に僕が手を掛けた街の人。

憎しみ、怒りを抱いて明確に『殺す』意志を持って斬った故郷の仇〈かたき〉達。

 

万を軽く凌駕するヒトの血で、僕の手は染まってる。

 

 

見知った人を斬るのはためらわれる。だけど、僕は僕に仇なす者、身内――もう、居ないけど…ね――に害なす者は慈悲なく斬り伏せる。

 

 

『生命〈いのち〉というモノは平等だ』そんな事を言う奴が居るかもしれない。

 

 

……でもそれはウソ。

 

 

そう言ってる人だって、『身内』と『見ず知らずの他人』、命の天秤にかけられたら『身内』をとる。

 

ニンゲンなんて、そんなものだから……。

 

「君を家に置いた理由かい?」

 

僕は黙ってデビッドさんの瞳の内を覗く。

…真意を、知りたかった。

 

「私の私見だが、君は本来…とても優しい子なんじゃないかと思ってね」

「…何を、根拠に?」

 

そんな風に思える理由が、…わからない。

 

「…ふむ、勘だよ、勘。……そう睨まないでくれ、冗談だよ。………私は仕事上多くの人に会う。…人を見る目はあるつもりだよ」

 

デビッドさんの目は、妙に確信を持っているようだった。

 

「…とりあえず、しばらく……お世話になります」

「ああ、狭い屋敷だが寛いでくれ」

 

デビッドさんが部屋を出て行く。

 

 

…確かに僕の住んでいた城よりは狭いと思うけど、……世間一般ではかなり広い部類なんじゃない?

 

 

僕はそう思いながら再びベッドに身を委ねる。

傷はふさがってるけど、血が足らない。

 

……休息が、必要だった。

 

 

 

この時は全然思いもしなかったけど、これが僕の人生の3番目――1番目は故郷のテロ、2番目はアリサとの出会い、…だ――の転機。

 

 

心の闇から、僕が引き上げられる、その、……第一歩だった事に、………間違いは無い。

 

 

 

 




…色気が、足りないなぁ。

次回は、ジークがちょっと子供っぽくなります……たぶん。

アニメ展開に入るのは、数話先の予定です。
では。

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