字数が短いのはご勘弁をば…
49.5:八神はやて『我が家の末っ子の恋愛事情』
~Side八神家~
――トントントン
小気味良い一定のリズムで包丁を動かし野菜を刻む。
少し前まで広い家に一人暮らしであった少女の日常は歳の誕生日を機に一変し、自らを
一人用の料理だった時に比べ、明らかに手間は数倍になったけども大人数で囲む団らんは忘れていた家族という物を思い出させてくれ、少女――――八神はやてはとても幸せであった。
「はやて、ちょっといーか」
「んー、どーしたんヴィータ、晩ご飯はもうちょっとやから我慢してーな?」
「いや、晩ご飯の事じゃなくて、ちょっと調べて欲しい事があるんだ」
「わかった、ちょっと待っててぇな」
キリの良いところまで調理を進め、包丁を置くとはやてはヴィータに向き直る。
「さて、急にどうしたんヴィータ?」
八神はやては不安げな顔で思案する、家での末っ子役であるヴィータに内心で首を捻る。
「えっと、はやてはジークのこと知ってるよな?」
「え、ま、まぁな、ヴィータがよく話してくれる友達のことやろ?」
動揺から上擦りそうな声を必死に取り繕い、はやては頷いた。
我が家の末っ子が男友達と二人きりで出かけると知り、『すわデートやて!? 私だって男友達と出かけたことあらへんのに!?』、『我が家のヴィータに悪い虫が!?』とシャマル――新しく増えた家族の一人だ――と一緒に尾行……もとい見守りをしたのはつい先日のこと。
興味8割心配2割くらいで付いて行ってみれば、現れたのは青みがかった艶のある長い黒髪を後頭部で括った中性的な少年。
仲睦まじげに歩く二人をトラブルで見失うまで、シャマルと二人『ぐふふ』と変な笑い声を漏らしつつ追いかけた事を思い出す。
はやての脳内では、友達以上恋人未満の二人を想像し、何ともいえない笑みを浮かべているのだが、其れはそれ、これはこれである。
「うん、そうジークの事なんだけど……、今日夕立があっただろ――――」
かくかくしかじか、まるまるうまうま
「――――というわけで、ジークの湯上がり姿を見てから、ジークの姿を思い出すとなんか胸の奥がキュンってして、心臓がバクバクするんだけど、ちょっと闇の書でアタシのプログラムににどっかエラーが出てないか調べて欲しいんだけど……はやて、ちゃんと聞いて――――」
「――――シグナム! シャマル! 緊急事態や、ちょっと集合!!」
「え、私のこれ、実はかなり不味いエラーなのか!?」
「大丈夫や、ちょっと私たち3人で会議するから、ヴィータはちょっと待ってぇな?」
何事かと2階やリビングからやってくるシグナムとシャマルを寝室へ連れ込む。
「我が主、私は――――」
「――――ザフィーラは雄だからダメや」
「――――……承知」
女所帯の男性とは、得てしてこんな扱いである。
数十分後、部屋から出てきたはやてが『ガシリ』とヴィータの両肩を掴む。
「ヴィータ、その胸の奥がキュンとする件、もしかしなくても恋とちゃうんか?」
『コイ』
予想外のその単語に、ヴィータは脳内で主の発言が『恋』だと変換されるまで間が空いた。
「は……? いやいやまさか、そんな事無いって。闇の書のプログラムの私たちにそんなモン有るわけ無いじゃんか」
「そうです、
「そもそも私たちは闇の書の騎士として生きてきた時間があるから、見た目以上に年上だし……」
同じく闇の書の騎士であるシグナムも
「そんなはず無い、私の乙女センサーがビンビンに反応しとるもん!」
「ヴィータちゃん、試しにその彼の事を思い浮かべてくれる?」
「お、おう」
目を爛々と輝かせる主の姿に狼狽えつつ、ヴィータは目を瞑るとついシャマルに指示されたように先ほどの光景を思い出す。
湯上がりの僅かに湿る髪に上気した肌、シグナムの大きすぎるシャツを着て、半ばまで隠れた両手で小動物のように温かいミルクを飲んでいた姿だ。
「うーん、体温と脈拍数の若干の上昇は見られるけど、システム的なエラーは出てないわね」
「恋愛感情が数字で計れるもんなら苦労はせぇーへんよ!」
「とは言っても、ヴィータ本人に自覚が無く、プログラムをモニターしても誤差の範囲内……やはり勘違いなのでは?」
「そうそう、勘違いだって――――」
――Prrrrr,Prrrrrrr
「――あ、電w――」
リビングの端で電話がコール。
車イスをそちらへ動かそうとしたはやての横を一陣の風が駆け抜けた。
「――もしもし、八神です……ん、大丈夫だって、別に気にすんなよ…………うん、ちょっと待ってて」
受話器を持ち上げて声を聞き、相手が誰だか分かった途端に滅多に浮かべないような笑顔で、いつもより柔らかなトーンで話す妹分の姿に八神はやては目を白黒させる。
「はやてー、晩ご飯までもうちょっとかかる?」
「あ、えっと、30分くらいかな?」
「おっけー。アタシちょっと部屋に行ってるから、晩ご飯になったら呼んで」
母機で受けた電話を子機に切り替え、小走りでリビングを後にするヴィータを見て全員が視線を交わすと、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで全員揃って扉に耳を当てた。
『もしもし、お待たせジーク――――いや全然大丈夫、そういや今日アイス食べた話そうと思って忘れてたんだけど、新発売のアイス有るだろ――――そう、そのCMの奴!――――そーなんだよ、新味2種類有るから別々買って半分こしないか?』
扉の向こうから聞こえるのは楽しげなヴィータの声。
どんな表情を浮かべているのか、見なくても手に取るように分かる明るい声だ。
「……なーなーシャマル、私の思い過ごしじゃなきゃ会話の内容が、ただの友達同士にしては親密すぎるような感じがするんやけど」
「た、確かにそんな感じね……」
『――――オッケー、じゃあ次会ったときは頼んだ。――――え、翠屋の新商品の味見?行く行く!――――それじゃあ映画見てから翠屋でいっか――――待ち合わせは駅前でいいんだよな。じゃ、また週末に』
「……なーなーシグナム、気のせいじゃなきゃ男の子と映画館デートの約束をしてるようにしか聞こえへんのやけど」
「主はやて、お、落ち着いて下さい」
『ん、じゃあジーク、また寝る前にでもちょっと電話していいか?――――じゃ、そろそろそっちも晩ご飯の支度が有るだろ。ん、じゃーな、また夜に』
「ザフィーラぁ……、普通友達の異性と寝る前に電話とかするもんなんかなぁ、私の人生経験が乏しいだけなんかなぁ……」
「……私からは何とも」
目が生気が失われ始めた自身の主に掛けるべき声が見つからない。
「うぉ!? 何でみんな居るんだよ!?」
扉を開けた先に階下に居るはずの面々の姿が有ったことにヴィータが驚愕の表情を浮かべる。
「……ヴィータ、ちょーっとお話、しよっか?」
この“お話”でヴィータのジークに対する態度が若干変わるのだが、それはまた別のお話である。
50話は年末を目標に(小声
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前話でも少し触れましたが、FGOのフレも募集中…
私のIDは『493,933,614』、プレイヤー名は『イリアシオン』ですので、よろしければ是非…
では次回更新までしばしお待ちください。