魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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| |д・) ソォーッ


52:騒乱の足音

52:騒乱の足音

 

 ジョディさんがやってきた翌日の夜、僕の部屋には屋敷の魔法関係者が勢ぞろいしていた。

 

「で、用件って言うのは?」

 

 フェイト、アルフと一緒にバルディッシュを介し、呼び出しを掛けてきたアースラの艦長と対峙する。

 

「用件は……そうね、“次元渡航者に対する注意喚起”といったところかしら?」

「注意喚起?」

「そう、注意喚起。最近、貴方達がいる第97管理外世界を中心に、付近の管理外世界で魔導師や魔法生物が襲撃される被害が相次いでてね」

 

 その言葉に僕は目を細めた。

 

「被害というと、狙いは?」

「金品狙いではないわ、同時に命が奪われたわけでもない……狙われたのは、リンカーコアよ」

 

 その言葉にフェイトとアルフが目を見合わせた。

 

「ジーク君は魔法体系が違うせいか、リンカーコアは無いようなんだけど、フェイトさんやアルフさんは狙われる可能性が高いの……これに関しては、既になのはさんにも伝えてあるわ」

「時間帯、あと相手について分かってるのは?」

「時間は概ね第97管理外世界の夜から早朝に掛けて、相手についての詳細はまだ不明……ただ、魔法生物の怪我を見た限りでは魔力砲じゃなくて切創や殴創、フェイトさんみたいな近接系の魔導師じゃないかって事くらいかしら」

 

 『で、ココからが本題』と画面の向こうで艦長が姿勢を正す。

 

「この事件に関して、私たちは第97管理外世界に捜査本部を設置することにしました。なのはさんは管理局の“現地協力者”という扱いで、有事の時は協力してもらうことになったのだけど……貴方達もどう?ってお誘い」

(てい)のいい戦力扱いされる気しかしない」

 

 フェイトに対する襲撃の可能性が有るからと言って、管理局が専属の護衛を付けてくれる訳でもない。

 というか、時の庭園でプレシアに一蹴された戦力を見た限り、管理局の面々が束で護衛するより僕独りの方がよっぽどいいだろう。

 

「でしょうね、私でも貴方達の立場なら断ると思うわ。……今のは建前、本音は敵対だけはしないでちょうだいってお願いかしら」

 

 僕たちと未知の相手との二正面作戦は避けたいのだろう、僕とフェイトだけでもあの艦の人員じゃ捌ききれない戦力だ。

 

「そちらがこちらに敵対しなければ、こちらとしても積極的に敵対する予定はない」

「そう、それを聞いて安心しました。いちおう、現地本部って事で部屋を借りてるから、何かあったらそっちを訪ねて頂戴ね」

 

 そういって現地本部の住所を教えて貰う。

 

「とりあえず情報提供には感謝する」

「リンディ提督、ありがとうございます」

「いいのよ、管理外世界に滞在する魔導師に対する危険情報の提供は、管理局の仕事の一環だもの。それじゃ、くれぐれも気をつけてね」

 

 フェイトとアルフに向けてウィンクを一つ、其れだけ言って通信が切れる。

 お役所仕事も大変だ。

 

「ジーク、どうする?」

 

 フェイトの言葉に少しだけ思案して口を開く。

 

「管理局の情報通りなら、狙われるのはフェイトとアルフ。これから屋敷の防衛機能も警戒状態に切り代えるけど……」

 

 話しつつ、屋敷周囲を警戒する鋼鷹の数を増やしがら警戒網を広げる指示を出す。

 話を聞く限り、昼間に襲撃してくる可能性は低そう……と言えども、敵の規模・思想が分からない以上、下手な思いこみは危険……。

 

 屋敷で穴熊をしているフェイトを引きずり出すために、アリサやジョディさん、鮫島を人質に取るような下衆外道な連中の可能性は否定できないし。

 

「しばらくの間は、フェイトとアルフは僕が夜に外出するときは一緒」

「ジークごめんね、アリサの護衛だけじゃなく私とアルフまで……」

 

 しょんぼりとしていたフェイトだったが、何かに気づいたのかハッと顔を上げた。

 

「……あれ、つまりおはようからおやすみまでジークと一緒?」

「うーん、いろいろと手間掛けるねぇ」

「というか既に昨夜のおやすみの段階から一緒だった気が」

 

 きらりん!

 と目が輝くフェイトと、其れを見て僕にすまなそうに応えるアルフ。

 

「とりあえず、フェイトもアルフも、その奴らからの襲撃があったら僕の指示に従って?」

「OK!」

「はい」

「あいよ」

 

 んむ、あとは鮫島とアリサに概要を話しておこう。

 内心でそう決意するのと同時に、アリサがひょっこりと僕の部屋に顔をのぞかせた。

 

「あ、ジーク、フェイトにアルフも、夕食前にやってたTVゲーム決着つけに行くわよ」

「ん」

「うん、じゃあ私お茶淹れてくね」

「んむ、手伝う」

「じゃあ私は先にゲームのセッティングしに行くわね」

 

 僕たちは分かれて動き出す。 

 不穏な気配を漂わせた会談を思い返しつつ、僕は厨房へと歩くのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「――――ヴィータ、ホントに大丈夫?」

「ん……、おー、大丈夫だ」

 

 翌日、実に10日ぶりにヴィータと会った僕は、どうも精細を欠くヴィータに今日何度目かになる言葉を掛ける。

 2日に一度くらいのペースで遊んでいた僕たちだったのだけど、ここ数日どうもヴィータの都合が悪く、今日の昼過ぎから夕方4時までの予定で久しぶりに会えたかと思えば、何だか心ここに有らずと言った感じ。

 

 あとは……寝不足?

 さっきから目元を揉んだりこすったり、かと思えば信号待ちで立ったままうとうとしたり……。

 

 んむ……、ゲートボールの練習でもしようと思ったけど、やめておこう。

 

 ちょっと挙動が危なっかしいヴィータの手を引き、道中のお店で鯛焼きとお茶を買って近くの公園のベンチまで歩く。

 

「小倉とクリーム」

「……おぐら」

 

 ひょいっと袋から小倉と思われるほうを取り出して、ヴィータに渡す。

 

「緑茶とほうじ茶」

「んぁ、緑茶」

「はい」

 

 半分くらいかじったところで、お茶のキャップをゆるめヴィータに手渡す。

 くぴくぴと喉を潤すヴィータを見守る。

 

「はふ」

「一息付いた?」

「……ついた」

 

 目元をくしくしと擦り、手を前に体ごと大きく伸ばす。

 

「……おつかれ?」

「んー……ちょっと、な」

「最近会えないのもそれが原因?」

「ああ」

 

 言葉からにじみ出る疲れも、体から漂う気配もズシリと重い。

 

「僕が手助けできることなら助けるけど?」

「……いや、だいじょーぶだ。これは私たち……はやての問題だから」

「ん、その問題を聞くのも?」

「わりぃ、今はまだ話せねー」

「そっか」

 

 そこまで長い付き合いでは無いけれど、こう言ったヴィータが心変わりして教えてくれる……何て事無いとは分かっている。

 

「……クリスマス、クリスマスまでには全部片づけて、話せなかったこと、全部話す」

「ん、分かった、それまでは何も聞かない、遊びにも誘わないようにする。……夜の電話、控えた方がいい?」

「…………電話……いっけね、忘れてた!」

 

 いきなり目を見開いたヴィータは、背負っていた呪いウサギのリュックをガサガサと漁ると何かを取り出した。

 

「見ろ!」

「おおー、今やってるCMの奴?」

「おう!」

 

 真っ赤な二つ折りのケータイを見せ、ふふんと胸を張るヴィータ。

 最近テレビのCMで流れてた新しい奴だ。

 なんでも、画面の方にもカメラがついて、自分の顔を簡単に撮れるんだとか。

 ケータイにも呪いウサギの小さなキーホルダーがついている。

 

「ジークといつでも電話できるようにって、はやてが買ってくれたんだ」

「ん、よかった」

 

 僕とヴィータはケータイを交換しあい、それぞれの電話番号と携帯のメールアドレスを入力して返却する。

 その際、お互いの手首に少し前の旅行で送りあったトンボ玉のブレスレットが光ってるのをみて、ちょっと嬉しくなる。

 

 

 ――――Piriririririri!

 

 

 手元に戻ってきた僕のケータイが着信で震える。

 ちらりとヴィータを見てみれば、ケータイを耳に当てて笑う姿が。

 

「……ヴィータ?」

「…………」

 

 問いかけるも、目で『早く出ろー』と促される。

 それ以上何も言わず、僕は素直に通話ボタンを押した。

 

『もしもし』

「ん、もしもし?」

『……よしよし』

 

 満足げに頷いて通話を切る。

 

「……さっきの話だけどさ」

「んむ?」

 

 僕はヴィータの言葉に何のことだったかと首を捻る。

 

「夜の電話の件だよ、なんつーかアレだ…………割と電話楽しみにしてるから、ちゃんと毎日掛けてこい、というか掛かって来なきゃアタシから掛ける」

「ん、りょーかい」

「ワンコールで出ろよー?」

「ん」

 

 僕の言葉にヴィータは満足げに頷く。

 その日はそのまま公園で、時間までヴィータと他愛ない話を続けるのだった。

 

 




更新遅れてすいませぬ……
感想などで心配してくださった方々、ありがとうございました。

今年度一年、仕事が激務でございました…
いや、FGOとかエスコン7とかはぼちぼちやってましたがね。

感想・激励などもらえると嬉しいです。

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