これはまだ星光の殲滅者がシュテルという名前が付けられる前の話。
どんな運命が彼女を導いたのか──それは何の変哲もない時空管理局の平社員と帰結し、新たな物語の始まりへと……
(訳:この作品はシュテルんがまだ星光の殲滅者としか表記されてなかったなのポ1の頃に書かれた作品になっています。複雑な設定を考えるほどの作品でもないのでご都合主義でオリ主と彼女が出会い、それっぽい恋愛をしているという感じの物になります。そして特にオチもなく明確な終わりもないのでご了承ください)

※過去ににじファンで投稿されていたものです。arcadiaとのマルチ投稿になります

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この本は……まさか闇の──写真集!?

 

「女の子を置いて仕事に行くのはどうかと思いますが、そこの所はどうお考えでしょうか?」

「確かに我が家に一人の少女を置いていくというのは些か、気まずいものだけど、仕事だから仕方ないよね?」

 

 目の前の少女に必死に言い訳を言う。

 生きて行くためにはしょうがないのだ。働かなければお金は手に入らない。

 だから、俺も泣く泣く彼女を家に取り残して仕事に出なくてはいけない。

 

「ならナズリーは私が留守番している間に、何をされても問題ないということになりますね」

「え!? 何!? 何かしたわけ!?」

「おっと、こんな所に保健の教科書がー」

 

 いつにもまして淡々としかし甘い声で言った。

 感情のこもっていない青い瞳で俺を攻めるように見つめてくる。

 

「普段にもまして棒読みだ。というか、それは俺のッ!?」

「そうですか、そうですか。ナズリーは同じ顔でもそちらの方がいいと言うのですね」

「お、同じ顔って言っても彼女とセイちゃんの間には埋めようにも埋まらぬほどの差があるんだ」

「フフフ、大丈夫です。私はナズリーが思っている以上にナズリーの理解者ですから。……さて」

「待て待て待て、セイは勘違いをしている! セイちゃんと高町教導官では埋められないほどの愛の差があるんだ。もちろん、セイが圧倒的勝利という意味で」

「……ッ!? そ、そうですか。確かに比べるまでもなく、彼女と私では差がありすぎますね」

 

 いつの間にか起動させた紫色のデバイスを一瞬上げかけたが元の待機状態に戻す。

 この動作だけで、かなりヒヤリとする。

 セイちゃんの言葉は温かみが欠けていて冷たく感じるが、よく聞くとほんの少しだけ暖かみを感じさせてくれる。

 最初の頃には気づけなかった温もりに気づけるようになって、ちょっとした優越感を覚える。

 

「なら、こんなものは早く消してしまいますか。ナズリーの有害にしかなりませんからね」

「え、ちょッ」

「……何か?」

「い、いえなんでもありません」

 

 俺は逆らうことが出来ない。

 出来ないが、彼女の気持ちがヒシヒシと伝わってくるので悪い気分じゃない。

 むしろ、いい気分。ああ、彼女の想いを感じれてるからいい気分かもしれない。

 

「なんだかニヤケて気持ち悪いですね。しばらく話しかけないでください」

「え、嘘、なんで、そうなるの!?」

「…………」

 

 やばい、無視されるというのはかなり精神的に来る。

 気持ち悪いはいいんだ。最近は吹っ切れてそれが褒め言葉のように感じられるから。

 でも、無視は初体験。

 これはキツイ。

 このキツさは、高町教導官に鍛えられる新人たちの悲鳴を遠くから聞いていて、新人たちを助けることの出来ない無力さを味わうぐらいに精神にキツイ。違う課まで聞こえてくるのだからすごい。六課の訓練場が五課の隊舎に近いのが原因かもしれないが。

 

 

「そんなに落ち込まないでください。冗談ですよ」

「ほ、本当?」

「うっ、罪悪感を感じますね、その瞳を見ていると。本当です」

「良かった。本当に嫌われでもしたら……」

「さり気無く私に依存してますね。全く、じゃあ今日の夜ご飯は何がいいですか?」

「セイの料理なら何でも」

「都合がいいんですから。30分ほど待っててください。今日はたまたまいいお肉が手に入ったので豪勢にしますから」

「うお、ラッキーだね」

 

 セイの料理はうまい。

 どこで習ったのかは知らないが、この世界ではない世界の料理をよく作ってくれる。

 そして、それがたまらなく美味いのだ。

 当たり前だが、セイちゃんが何を作っても美味しいのは間違いのないのだが。

 これ次元世界の真理。

 

30分ほど待つと本当に料理が出来上がったみたいだった。

 肉料理のフルコースだった。

 ジューシな唐揚げ、生姜焼き、ローストビーフ、焼豚、トンカツ、ステーキなどなど。予め、下ごしらえをしておかないと作れないものまであった。

 

「いいお肉って牛だけじゃなかったんだ」

「不満、ですか?」

 

 瞳が特になんの感情も浮かんでいないのになんだか潤んでいるように見えて、言葉はどこか不安げだった。

 俺は首を大きく横に振る。

 

「ぜんっぜん! どれも美味しそうだよ。なんというか、活力がつきそうだよね! ありがとう!」

「大したことじゃありません。それより冷めないうちに食べましょう」

「そうだね」

 

 セイの言うとおりに、俺とセイちゃんは料理がずらりと並んでいるテーブルの定位置につく。

 椅子が二つ、並ぶように置いてあった。

 右に俺が座り、左にセイちゃんが座った。

 隙間はほとんどなく肩と肩がすぐにでもぶつかってしまいそうな距離。

 

「あのーセイ。対面じゃないの?」

「椅子を置く場所を間違えちゃったようです、てへ」

「全然感情のこもらってない『てへ』をありがとう。ぶりっ子ならイラッとくるけど、セイだとそれ以前の問題だね」

 

 おかしいですね、これが効果抜群とナズリーの同僚に聞いたのですがと言葉を零すセイ。

 明日はどうやら質量兵器を持って通勤する必要ができてしまったようだ。

 

 ちなみに、感情のこもってないてへに効果はない。

 ただセイ補正がかかって、なんとなく可愛く感じるだけだ。

 

「まっ、その『てへ』云々は今度始末するとして、なんで置く場所を間違えたの? というか何故移動させた?」

「私としたことが大きなミスでした。ですが、今さら移動させるのは億劫なので今日はこのままでは駄目でしょうか?」

「いや、それはいいけどさ。俺が左利きなのは知ってるよね?」

 

 右側に座っているので、左肩や肘がぶつかりそうで、動かしづらい。

 これではせっかくのセイの料理を食べ損ねてしまう。

 それは俺としては如何ともし難いことだ。

 だからといって入れ替わるのは出来ない。

 セイも同じように左利き。

 選択肢は場所の移動しかないのだが。

 

「そうですね。なら……こういうのはどうでしょう?」

 

 お箸という食べ物を掴む道具を器用に扱って、一つの唐揚げをとる。

 湯気が軽く出ているの目視できるほど熱々で、箸で挟んだ瞬間に、ジュワっと肉汁が出る。

 見るからに美味しそうな唐揚げ。見ただけで美味しいと感じられる唐揚げだ。

 

「はい」

「え?」

「はい、食べてください」

 

 そして、それを俺の口元まで持って行き差し出す。

 セイちゃんの青い瞳が俺の顔を覗く。

 試されていると反射的に思った。

 

「い、いいのか」

「ナズリーのために作ったのですから当たり前です」

「そ、そうか。じゃあ」

 

 パクっと一口。

 程よい大きさで、一回噛むと先程見た以上のジョーシーサがあることを実感できる。

 だけど、

 

「あ、あ、あふぃい!(あ、あ、熱い!)」

「熱すぎましたか?」

「へほ、ふふぁい!(でも、美味い!)」

「美味しいですか、良かったです」

 

 表情は変わらず変わらないが、声には安堵と喜びが混じっているような気がした。

 そう感じ取ることが出来た。

 

 唐揚げ。美味い。から、うま。

 セイに食べさせてもらった相乗効果。

 二乗、三乗、四乗のウマさだたった。

 これならこの唐揚げとセイちゃんだけで今日炊かれているお米は全部食べれそうだ。

 

「では、全部食べてくださいね」

「ふぉちほんはー!(もちろんさー!)」

 

 俺が今いる場所は間違いなく天国。

 昔に比べて表情と、遠慮の無くなったセイを見たら、これで俺はいつでも死ねる。じゃなかった、これで俺は明日からまた頑張れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 欝だ、死のう。

 そう考えてた時代が、俺にやって来ました。

 いやだね、仕事がさ。

 お隣さんの機動六課って言うんだが、あそこがしょっちゅうどんちゃかどんちゃかするわけなんだ。

 

 まず部隊長さん。

 これがえらいべっぴんな訳だ。一部では小たぬきだとか、空気だとか言われているがそんなことはないね。

 あの人の胸のサイズはでかすぎず小さすぎずのジャストフィットエネルギーの塊だ。

 我らが男の魂の塊さ。

 だから、もしあの人を愚弄するような若造が出たら、俺が粛清せねばなるまい。

 相手がお偉いさんだったら勘弁だけど。

 

 次に分隊長さんその一。

 黄金色の黄金率な髪をしているべっぴんさんだ。一部では黒い死神だとか、おっちょこちょい執務官だとか言われてるが、そんなことはないね。

 あれはドジっ子属性で、周りの男に「護ってあげなきゃ」と思わせるものさ。

 現に彼女に堕ちた男の数は数知れずだ。

 死神って多分、男の魂を根こそぎ奪うという意味でついたんかね?

 

 最後に高町なのは教導官だ。

 なぜフルネームかって? そりゃあ俺が一番押している人だからさ。

 巷では、教導官なのに鬼軍曹だとか、白い悪魔だとか、次期魔王候補だとか言われてるがそんな事はないね。

 あの人は天の使いさ。

 白くて、羽を持っいて、天に導く砲撃を思っているのだから間違いないね。 

 

 彼女らは皆同年代なのだが、雲のような人たち。

 

 それが機動六課さ。

 だから仕事が嫌になるわけだよ。

 お隣さんはあんなにもべっぴんばかりなのにこちらと来たら、我侭な小さい幼女と、しゃべらない石像なお年寄りしかいないんだから。あとは全員むさい男。可笑しいよね。笑っちゃうよ。

 

 そして、それは今日も今日とて変わらない。

 

「なにが『無限書庫に行って、これらの資料を撮ってきて欲しいのらー』だよ。口の周りに今日の昼飯の赤いケチャップが付いてんだよ。思わずふきふきしちゃったじゃないか」

 

 とぼとぼと無限書庫に行く。

 のろのろと全くのやる気のない歩き方で無限書庫に到着する。

 出迎えてくれたのは、

 

「なんだ、ただのフェレットか」

「ただのフェレットじゃないよ!?」

「フェレットが喋ったー」

「よく聞くセリフだけど、君のは何の感情もないね! 驚いているように聞こえない」

「何言ってんの? ここは魔法のある世界だよ? フェレットが喋るなんて幼女が事務長になるくらい不思議じゃないことだよ」

「君の事務の長は幼い子供なんだ……」

 

 フェレットに感情があるわけがないのに。

 俺はとりあえずリストをフェレットに言い渡し、適当に無限書庫内を閲覧する。

 物凄い量の本がある。本棚の高さも半端ないが、本の分厚さも半端ない。ここでならもしかしたらトレーニング施設並みのトレーニングが出来るかもしれない。

 そんな事を考えていたら、惹かれるように一冊の本を手に取った。

 黒い、とても黒い本だった。

 まるで闇ッ! 真淵の見えない沼ッ! 底知れないッ!

 そんな本だった。

 

 本を開くが、何も書いていない。

 全て空白。

 タイトルもない。

 

「なんだ、つまらん」

 

 惹かれたように感じたが全くもってそんな事はなかったのかもしれない。

 俺が惹かれたのだから、高町なのは教導官の闇写真集だとか、そんなものとばかり思っていたのに、期待はずれだ。

 そういえば、今家にいくつ高町なのは教導官の写真集があるかなと数えながら、本を元の場所にもそうとした。

 だが、ふいに声が声が聞こえた。

 どこかで聞いた覚えのある声だ。それも俺が大好きな人のはずの。

 しかし、どこか違う。もっと感情の無い、平坦な声。

 

──ありがとう、これで私は存在できる。

 

 耳を疑った。

 声がどこから聞こえてきたか分からないが、上を見上げ、下を見て、左右を見渡すが、誰もいない。

 これが念話の類であると気付いたのはそれから少し後のことだ。

 俺は慌てた。

 なんだか危ないものを見つけてしまったような気分だ。

 何かの封印を解いてしまった、みたいな感じの。

 無限書庫から気付いたら飛び出して、隊舎に帰ってきてしまっていた。

 

 どうやら相当に前後不錯誤で、魂がどっか逝っちゃった状態だったようだ。

 そろそろ真面目に死ぬことを考えたほうがいいかもしれない。

 

 隊舎では幼女事務長に、

 

『もうっ、サボっちゃ、めっ、ですからね』

 

 と怒られてハートブレイク。

 やってらんねーぜコンチクショウと普段の素行の良さ(自称)が吹き飛び、荒ぶりながら帰路についた。

 冷静さがどこかへと旅に出てしまっていたのかもしれない。

 

 そのまま家に帰ると出迎えがいた。

 俺は五課では珍しく寮暮らしじゃない。

 俺は人とコミュニケーションがとるのがどうやら上手くない性格らしく、最低限の両暮らしを義務つけられた3年間を経て、はれて一人暮らしするようになったのだ。

 彼女などいるはずもなく、俺一人の家。

 だから出迎えなどいるはずがないのに、彼女がいた。

 

「おかえりなさい、マイマスター」

 

 流れるように綺麗な茶色い髪に、憧れのあの人とは色違いのジャケットを着た、青い瞳の女性。

 その姿は間違い無く、高町なのは教導官と瞳の色を除いて瓜二つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人生初の共同生活。

 仕事を初めて初の死にたいと思わない生活が俺にやってきた。

 それは天国のようであり、複雑な事情が交わる厄介な生活であった。

 

「つまり、あの本が君を封印していたもので、開けることで呼び覚ますものだったと」

「あなたには感謝してもしきれませんね。完全に元にというわけではないですが、こうやって生きることを実感できたのですから」

「よしてくれ。俺は本を開けただけだ。他に何もしてない」

 

 彼女は魔力の残滓だという。

 だから今保持している魔力を失えば、存在を失ってしまう。

 だが、使わずに入れば普通の人間として生きて行けるという。

 

「魔導師としてはもう生きれないのですけどね。野望は……ああ、そもそも無かったことになるのでしょう。私はただの魔力の残滓なのですから」

 

 切なそうに言っているのに、何の抑揚のない声だった。

 あの人と同じ声なのに違う。

 いや、彼女は彼女だ。比べるのは失礼に価するだろう。

 

「魔導師として生きられないのは辛いかもしれないけど、何も生き方はそれだけじゃないさ。それに、ただの魔力の残滓っていうのはヤメないか? 生きてるんだからさ」

 

 冒頭に欝だ、死のうと行ったやつのセリフじゃないかもしれないが。

 そう思いながらも、彼女の為を思い言う。

 

「別に悲観はしてませんよ、マイマスター」

「それもヤメてくれ。君は俺のデバイスじゃなかろうに」

「元デバイスです」

「元だ。俺はこう見えてもユニゾンデバイスでも生きてれば、女の子なら女の子扱いするんだ。だから君も立派な女の子」

「女の子なら……男なら?」

「知らん、自分で考えろ、という」

 

 世の中は女の子に優しくあるべきだと兄さんは思うのです。

 男が女のを護る世界。良い世界じゃないか。

 現実は男より強い女ばかりで、護られる必要性を感じさせてくれないけど。

 俺は女を護れる程強くないけど。

 

「非常な方ですね」

「ま、普通だよ。それよりどうするんだ、これから?」

「どうするとは? 貴方は私のマイマ──」

「それをヤメろって。自由にしていいって言ってるんだから」

「初耳ですが?」

「じゃあ、言うよ。俺に拘る必要ないから自由にしなよ。女の子は猫のように気ままな生き物なんだから」

「決してそんな事はないかと思いますが……それに、急に自由と言われても困ります」

「そっか。そうかもしれないな」

 

 今日目覚めたばかりの女の子。

 もしかしたらこの世界の仕組みだって、常識だって知らないかもしれないのだ。

 だったら、いきなり自由でいいとか言われても困るのかもしれない。

 やりたいことが無いのじゃなくて、やりたいことが分からないのだから。

 俺は心の中でそれとなく察した。

 

「それじゃあ、見つかるまでこの家にいるといいよ。どうせ、ほとんど家にいないし、それでも男が気になるなら、俺は寮にでも入るから。

寮は無料だからお金は気にしなくていいし。安月給とは言え、三年間溜め込んだ貯金もあるし、局員というだけで優遇されるものもあるから」

 

 例で言うなら隊舎の食堂がいい例だ。

 無料配布で、味はまずまずレパートリーもそこそこで悪くはない。

 隊舎にいるだけで食住だけはなんとかなってしまうのだから。

 

 それに、俺と彼女が一緒の家、一つ屋根の下というのはどうも……自分に自信が持てない。

 相手は俺の憧れの人に瓜二つ。

 ただでさえ、その手(女の子との縁)とは遠ざかっている局員なのだから、暴走したときどうなるか分からない。

 男はみんな狼なんて、ウチの同僚は幼女事務長に教えていたが、全くその通りだ。

 異論なんてあるわけがない。

 

「そこまでしていただく訳にはいきません。私としては寝る場所があれば十分だと思ってました」

「女の子にそんな対応してたら男としてね。ここは俺の顔を立てるってことでね?」

「……」

 

 どこを捉えているか分からない瞳が、一瞬だけこちらを見たような気がした。

 

「分かりました。甘えさせてもらいます。元より、ここに図々しいながら住まわせてもらう予定でしたし、出ていってもらう必要はありません」

「住まわす?」

「だって私は貴方の……いいえ、なんでもありません」

「よし、じゃあ当面はこれで。自由なんだからやりたいことが決まったらいつでも出ていって構わないよ、出来れば一言かけてくれると個人的には嬉しいけど」

「はい、分かりました。ええと」

「ああ、そういえば、自己紹介がまだだったね。俺の名前はナズ・リー。短い名前だから皆、ナズリーとそのまま呼んだりするね」

「では、ナズリー。私の名前は星光──」

「じゃあ、セイ、でいっか。あ、馴れ馴れしいか?」

「……いいえ、構いません。では、これから」

「ああ、これから」

『よろしく(お願いします)』

 

 思わぬ女の子との共同生活が、一時的にとは言え始まったことで俺は舞い上がっていた。

 でも、分かってはいた。

 いつしか別れが来るということが、ならば今だけでも、楽しんでおくべきだと思いながらも、ちゃんと自重するように心がける。

 世界は女の子に優しくなくちゃいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 服、買いに行かなかったの?」

 

 仕事から帰ってきて、待っていたのは変わらずバリアジャケット状態のセイだった。

 セイと出会ってから一週間が経ち、幾ばかかお互いが互いの生活に慣れた頃、いくら万能なバリアジャケットとは言えいつも同じ服では、女の子としてどうなのかと思い、服を買うように言ってお金を渡し仕事に出た。

 内心、仕事中も帰ってきた後どんな私服が見られるかという下心を自分の心に存在するのを感じながらも、やはり楽しみにしていた。

 わくわくうきうき、思わず上機嫌に仕事をしてたら、幼女事務長に今日は早めに上がるように言われた。

 

『なんだか今日のなずりー怖い、です』

 

 だそうだ。

 なんだそれ、気に食わん。

 人が一生に一度あるかどうかの本気を出したというのに。

 同僚が羨ましそうに見ながらも、大丈夫かと心配そうに声をかけてきた。

 おかしいだろ、今まで無いぐらいに絶好調なのに心配そうにって。

 腹が立ったので、嫌がらせにお隣りの六課さんから聞こえてくる謎の悲鳴集を奴に送りつけた。

 機器を起動させると自動的になるように。

 奴の驚き青ざめる顔が目に浮かぶわ、がはは、良い気味だ。

 

 今日の盃を同僚の蒼白な顔に決めて、家に帰ると変わらない服装のままのセイがいたのだから、驚きの声をあげるのは当然の成り行きだった。

 

「ええ、行きませんでした」

「場所がわからなかったのか? いや、地図はセイのデバイスに送ったから分からないはずがないか」

「場所は分かったのですが、服が決まらなかったのです」

「ん? 好きなのを買えばいいんじゃないか?」

 

 俺には女の子の服装なんて分からない。

 男の服装だって分からないのだからなお分かるはずがない。

 分かるのは変態と、我らが変態同僚だけだ。

 

「そうですね。そうなんですが、基準がわからないのです。着る服の基準がわからないので、ナズリーに聞いてみようかと思いまして」

「あー、そういうことか。でも、俺にもそれは分からないが?」

「構いません。ナズリーの感性のままに答えてくだされば」

「ん、そういうものなのか?」

「そういうものなのです」

「そっか、そういうものなのか」

 

 心なしかホッとした表情をしたように見える。

 最近は見間違いかもしれないが、セイの表情が少しながら見えるようになってきた気がする。

 まあ、ハッキリとは分からないのだけれど。

 

 うーむ、セイの服の買い物に付き合わないといけないとなると休日が必要か。

 有給は沢山あるが、休みがもらえるかどうかは別問題だし。

 最悪はサボるという手も考えるべきか……

 

「ちょっと待っててくれ、電話してみるから」

「そんな急に決める必要は──」

 

 セイがなにか言おうとしたが、遮るように電話がつながり、会話をする。

 

『もしもしー、どうしたんですかー? なずりーからとは珍しいですね?」

「いや、有給が欲しいので」

『分かりましたー。ゆっくり休んでくださいね。今日のなずりーはおかしかったですから』

「いや待て、いやいや、休み自体は非常に嬉しいけどッ! その後のおかしかったについて──」

『ゆっくり休むのですよー。それでお休み明けにはいつもの元気じゃない、絶望感漂う姿で来てくださいね』

「違う、色々と間違ってる!」

『ばいにー』

「おいッ!」

 

 無情にも電話が切られる。

 耳に強く残る電話が切れた時の電子音が、余計に切なさを感じさせた。

 

「どうしたのですか? 何やら騒いでいたようですが?」

「い、いやなんでもないッ!」

 

 慌てて手を左右に振り繕う。

 別に俺にこれといってやましいことはないが、なんとなセイの前では格好良くしていたい。

 

「明日、休みがとれたよ」

「そう……ですか」

 

 いつもより強く言葉を発していたような気がする。

 喜んでくれたかなと思って顔を覗くがいつもと変わらない平然とした顔だった。

 

「それじゃ、行くか」

「はい、お願いします」

 

 僅かばかりというのには嘘が過ぎるほど明日の買い物に高揚しながらも、床へついた。

 明日がほんとうに楽しみである。

 

 

 

 

 

 地上ミッドチルダの繁華街でもあるクラナガン。

 飲食店はもちろんの事、デバイスなどの魔導師御用達のお店から、市民の防犯グッズ、最新の流行を取り入れたファッションまでもが揃う、ショッピングモールがある。

 このモールはクラナガンの中では一番店の数が多く、最も人気が高いため、毎日賑わっている。

 今日も上へ下への大賑わいだ。

 ちょっとしたお祭り気分を味わいたいならここはまさに最高の場所だが、俺のように孤高(友達がいないことを誤魔化している)を望むものには一人で来るならちょっと遠慮したい場所だ。

 

「多いですね」

「だね。いつものことだけど」

「ここではぐれては非効率的です。手を繋ぎましょう」

「え、あ……」

「これで効率的です」

 

 冷たい表情とは打って変わって温もりを感じられる暖かい手だった。

 初めての感覚でもあった。

 人の手がこんなに暖かいなんて……ありきたりなのかもしれないが、俺の心境はまさにそれだ。

 それに、意外と小さい。

 女の子の手なんだなと改めて思わされる。

 

「意外と、大きいですね」

「あ、ああ、まあな」

 

 同じことを考えていたらしい。

 なんだか少し恥ずかしかった。褒められたからだろうか。

 

 目的地に着くまでそれから無言だった。

 言葉を出す間が惜しまれる、のだろうか。

 心地の良い時間でもあった。

 それでいて、自然に振舞えているような。

 そんなどうしても理解しがたい感覚。

 今日は初体験ばかりだ。

 

「着きました」

「お、おう。これはなかなか」

 

 女性の着る服を売るショップなんてまずいかない。

 男服のあるショップだっていかないのだから当たり前だ。

 誰かにプレゼントしたりするなら、経験があってもおかしくなさそうだが、贈る相手がいるとしたら、間違いなく子供服だ。

 幼女が着る服はレディースじゃない。

 

 セイが適当に服を捜し回る。

 俺も手を引っ張られて、連れまわされる。

 やがて、気に入ったのがあったのか、二つの服を手にとって、試着室に入る。

 さすがに、手は離している。

 離れる瞬間に思わず「あ」と言いそうになったが、こらえた。

 あの手の感覚が名残り惜しかった。

 

 2・3分ほど待つと一着目を着終えたセイが目の前に現れる。

 

 純白のワンピースだった。

 普段のセイのイメージとは異なる真逆の色だが、そのギャップがいい感じだった。

 とにかくいい感じ、それ以上の言葉は俺には思いつかない。

 純真だとか、清楚だとか、言いようはあるのかもしれないが、美しいとか綺麗では足りない。

 

「どう、ですか」

「…………え、ああ、すまない。その感想がない」

「……そうですか。分かりました、ではもう一つの方を」

 

 そう言って再び試着をし直すセイ。

 カーテンの一つ隔てた先には、先程のような綺麗なセイがいるかと思うと興奮すらも追いつかない、感動しているとさえ言えた。

 まだかまだかと待ちわびる。

 数分が長く感じる。

 その様子を感じ取ったのか、店員の人がフッと笑みを零した。

 

「彼女さんですよね?」

「い、いえ、違うんですけど?」

「あら、そうなの? さっきの彼女相当落ち込んでたわよ」

「え、分かるんですか?」

「感想言われないなんて言われたらね」

「うっ、ち、違うんです」

「分かってるわよ。でも、ちゃんと言ってあげないと」

「はい。……あ、なんで分かったんですか? セイはあの通りいつも無表情というか」

「本当に無表情の子なんていないわよ。でも、そうね、あえていうなら同じ女の子だから?」

 

 貴方はもう女性の部類じゃ、普段の俺ならそんな言葉が出たかもしれないが、今はそんな場合じゃなかった。

 カーテンが開かれ、セイが姿を現す。

 

「あ……」

 

 もはや言葉にならない。いや、さっきからなってない。

 今度は先ほどとは真逆の、彼女のイメージそのままの黒を貴重とした衣装だった。

 さっきよりも大人しげで大人な雰囲気を纏わせるもの。

 白のラインがいい具合に黒を強調し、スカートのちょうどいい短さが、彼女の若さを引き出させていた。

 

「今度は、どうですか」

「ごめん、さっきと同じで──」

「……そう、ですか」

「同じで、言葉にならないくらいすごくいい」

「……ッ!? すみません、この二つをお願いします」

 

 俺の言葉を聞いてすぐに買いに動くセイだった。

 店員さんのその服は着たままで結構ですよという声がレジの方向から聞こえ、買い終わるとセイが隣に来ていた。

 心臓の音が聞こえそうなほど、近い距離。

 

「ありがとうございます」

「え、あ、こ、こちらこそ」

 

 変な返事をしてしまった。

 苦笑が漏れる。しかし、それもやがて普通の笑いとなり、

 

「全く何を言ってるんですか」

 

 一緒に笑った。

 初めてハッキリ見たセイの笑顔だった。

 青い瞳に吸い込まれるようにその笑みに俺は見惚れていた。

 

 ここで確信したのだった。

 だから何の準備もしてなかったし、場所もどうかと思うけど、素直な気持ちを言った。

 言わずにはいられなかったんだ。

 

「付き合ってください」

 

 セイは呆れながらも、その馬鹿な言語に返事をくれた。

 

「ナズリー……貴方という人は、もっと場所を……いえ、これがナズリーらしさですね。私の答えは決まってますよ」

 

 はい、喜んで。

 

 天にも登る気持ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も私は置いてけぼりですか?」

「そう言われても、困るって」

「難しいことは言ってないのですが?」

「はいはい、分かってるって」

 

 全く、困ったちゃんだよセイは。

 こんなに昔から我侭だったかな?

 もっと、クールで、私は別に、みたいなタイプだった気がするんだが、それは俺の思い違いかね。

 記憶捏造しちゃってたかな、俺は。

 ビューティに、どんなものよりも美しい思い出にしちゃってたのかな。

 

「早く帰ってくればいいんでしょ」

「そうは言ってませんよ」

「じゃあ、どうしっろってんだよー」

 

 俺だって仕事行きたくないわい。

 あの幼女事務長、見た目通りの年齢だと思ってたが実は、俺より倍の年齢だったんだぞ。

 詐欺だよ詐欺。

 管理局の内部で詐欺事件が勃発してますよ。

 

「相変わらず困った人ですね」

「うるせー」

「……いってらしゃい」

 

 そっと、頬にキスをしてくれた。

 もはや慣れたもんだ。

 

「あいよ。死んでくる」

「生きて帰ってくださいね」

「行ってきます」

 

 さーて、今日もいっちょ本気だして頑張りますか。

 そうすれば、早く家に帰れるっしょ。


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