Fate/the alter   作:zaregoto

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#00 訪れ

 久しぶりにあの人の夢を見た。真っ黒な服を身に纏った、俺にとっての正義の味方の夢だ。

 

 この夢を見るのはおよそ10年振りであった。それまで、彼のことを忘れてしまったわけではなかった。ただ、彼に追いつくべくただただ走り続けていたら、結果的に彼になることが目標ではなく、自らが思う正義を目指すようになっていたのだ。なので、あのときに救ってくれた彼と同じになったとは、あまり言えない。

 

 あのときは最悪だった。いや、最悪なんて生ぬるい。

 

 それは絶望。もはや、絶望そのものを形態化したようなものであった。

 

 その場にいた人間すべてが死に絶えた。ただ一人、この俺を除いては、であるが。もちろん、この俺もほぼ危篤状態であった。息をすることすら苦行に思え、このまま死んでしまったほうが、楽なのではないかと錯覚するほどであった。

 

 そのとき、彼は現れた。仰々しい箱を片手に、彼は現れたのだ。

 

 俺は、安心したのだろうか。そこから、俺の意識は事切れた。

 

 彼が何をしたのかはわからなかった。しかし、あの状態からほぼ全快状態にまでもっていくような所業は、もはや奇跡の類であった。

 

 そう・・・。彼は、この俺にとっての正義の味方だったのだ。

 

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 キリツグは、成田空港に降り立った。真っ黒な服を身に纏い、はっきりいってその場で思いっきり浮いていた。

 

「ここがニッポンか。なるほど。なかなかどうして、平和なところじゃないか。緊張感がない。ハハ、こんなところで聖杯戦争が行われていたと思うと、いささか疑いを覚えるな」

 

 心の底からの笑ではないと思う。形式的な愛想笑いを浮かべていた。この格好でそういう行動をしていると、不気味さに拍車がかかる。

 

「冬木へは、どう行くのか・・・。タクシーとかは、苦手なんだよなぁ。長くいるようなら、移動手段を購入しないとな」

 

 彼の名前はキリツグ・E・ペンドラゴン、かの有名なアーサー王の血筋、とされているが、真偽は不明だ。だが実際に彼はアーサー王の生まれ故郷である、英国西南端の半島コーンウォールにある小さな村出身であるのは確かなのだ。

 

「さて・・・意を決しないと、な」

 

 キリツグは目的のために歩き出した。

 

**********

 

 あれからかなり時間がたったが、やっとこさ冬木の地に降り立った。いくつもの車を乗り継いで、やっと着いたのではあるが、日本というのはなんて複雑な土地なのだろうと、少しゲンナリしていた。

 

「あの人の、いる場所・・・。確か、あの人、アインツベルンの関係者だったはずだ。だからこそ、俺はここにいるのだが」

 

 俺がいるのは、深い森の入り口。アインツベルンの森とでも言うのだろうか。普通に存在している森とは、少しばかり違っている。

 

 情報によると、前回の聖杯戦争で拠点にしていたとされている場所だ。なんとまぁ、堅苦しいイメージの強いニッポンで、これほど大きな場所を所有できるとは、アインツベルンはさすがに名家なだけある。

 

 ちょうど目で見て、森とそうでないところの手前に立っていた。意を決して足を踏み入れる。しかし、キリツグは、妙な感覚に襲われた。なんというか、鋭い針でチクチクと刺されているような感覚だ。なるほど。

 

「結界・・・か」

 

 そう、結界である。それも複雑な。相当高名な魔術師によるものだろう。この森全体に貼られているのだと思うと、少し寒気がする。とんでもない魔力量に、だ。

 

 侵入者除けのコレがあるとうことは、だれか人が存在しているということ、だ。魔力探知型の結界なので、そっち関連の者限定の結界だろう。

 

「あの人がこれをかけたのか・・・。まあ、あれだけのことをやってのけたのだから、こんなこと、簡単なんだろう」

 

 魔術師殺しと吟われた人だ。だからこそ、魔術のことも理解しており、そういう呼び名がついている。でも、あれから10年。まだ、敵がいるということなのか。それとも、、、。

 

 キリツグはよし、と一息入れ、森に足を踏み入れた。

 

***********

 

「・・・かわいいネズミが入り込んだみたい。なんらかの意志があってこの森のここに、来てるみたいね。一直線にこっちに向かってる」

 

 少女は、ティーカップを片手にメイドであろう人にそう言った。

 

「どうする?イリヤ・・・。私たちが行ってもいいけど」

 

 中世にタイムスリップした、と言っても過言ではないくらい煌びやかな装飾を施した部屋で、おそらくここの主人であろう少女とそのメイド二人が話していた。

 

「どうしよっかなー。始まるまで暇だし、私が行ってもいいんだけどねー。でも、そこまで骨のあるヤツじゃないと思うけど」

 

 小悪魔のような表情で、あからさまに迷ったような素振りをする少女。そして、紅茶を一口すする。

 

「だめです!お嬢様自らがお行きになるなんて・・・。いけません!私たちが行きます!」

 

「えー、セラは心配しすぎなんだよ。大丈夫だってば、バーサーカーも一緒だし」

 

「ですが・・・」

 

 その時、少女は驚いたような表情を浮かべた。

 

「あれ?どうして?なんで?」

 

「どうしたの?イリヤ」

 

 怪訝な顔を浮かべながら、言う。

 

「もうここに着いたみたい。おかしいなぁ、さっきこの森に入ったばかりなのに」

 

「なんと・・・!?」

 

「へー、すごいねー」

 

 森の入り口にいた侵入者の反応が、一瞬にして自分の城の近くに移動していたのだ。これには少女も、素直に感心した。

 

「じゃあ・・・お迎えしてあげよう。ここに来てから、初めてのお客様だもの、丁重にしてあげないと、ね」

 

 少女は啜っていた紅茶を置き、席を立った。そのあとに、メイドも続く。

 

 少女は少なからず、侵入者に対し期待感を抱いていた。

 

**********

 

「うへー・・・、でっかいなー」

 

 目の前にはドが付くほど大きな城が存在していた。いや、この日本にこんな本格的な城があること自体、おかしなことなんじゃあないだろうか。やはり、アインツベルンはおかしい。

 

「探し回るのも面倒だから、魔力の中心に飛んでみたんだが、まさかこんなもんがあろうとは。無駄な魔力使わなくても、すぐに見つかったのかもしれない。それにしても、すげぇなあ、アインツベルン」

 

「すごいでしょ?」

 

 どこからか、声がした。幼い、女の子の声だ。ふと前方に目をやると、それは城の門の向こう側からしているようだった。

 

 なんでこんなところに。

 

「ああ・・・さすがアインツベルンだよな。やることの規模が違う。まさか城ひとつ建てちまうなんて」

 

 この城の大きな扉が開く。ゆっくりと仰々しく開くそれの先には、少女と二人の女性がいた。

 

「ようこそ、アインツベルンの城へ」

 

「あ、おお、おう。これはこれはどうもご丁寧に」

 

 丁重な扱いを受けたので、こちらも一応礼儀を正しくしておく。だが、二人の女性と、その後ろのなにかが発する殺気によってそれは相殺されている。

 

「なんだか、お前勘違いしてるぜ?アインツベルンのお姫様。俺は戦いに来たわけじゃあないんだが」

 

「そうみたいね。サーヴァントの気配もないし、見れば令呪の発現もない。じゃあ何をしにここへ来たのかしら」

 

 この少女から聖杯戦争という単語が発せられたことに驚いた。しかし、恐らく彼女もアインツベルンの関係者。おかしくはないだろう。

 

「へぇ・・・お前、聖杯戦争を知ってるのか。それとももしかして参加するのか?だとすれば、前回からまだ10年しかたってないのに、アインツベルンはやる気だな」

 

 少女は俺のことを見据える。無表情で。

 

 あー、無駄話はすんなってわけか。

 

「人を探しに来たんだ」

 

「人?」

 

 少女は表情を変えた。先ほどの俺を疑ったような表情はそこにはないが、訝し気な語調であることは変わっていなかった。

 

「前回の聖杯戦争の参加者で、生き残ってるらしいんだけど」

 

 少女の顔は表情を失っていく。どうやら、この子はそれに心当たりがあるようだ。

 

「衛宮切嗣ってしってるか?確か、前回はアインツベルン陣営で参加していたはずなんだけど」

 

 そう言い放った後、しばしの間が空いた。風がゴォーっと音を立てながら二人の間に流れた。

 

「あは・・あはははははは」

 

 少女は突然笑いだした。まるで、この男は何を言っているのかしら、とでも言いたげに。すこし、狂喜じみていた。

 

「どうした?いきなり笑い出して」

 

「いえ?ただちょっとおかしくなっちゃって」

 

 目に涙を浮かべながら、ごめんなさいと形式上の謝罪を述べた。

 

「あはは・・・、アナタ名前は?」

 

「は?なんでそんなこと」

 

「いいから・・・はやく」

 

「俺は・・・」

 

 少女の真剣な面持ちに、一瞬言葉に詰まってしまった。気をとりなおして、もう一度言う。

 

「俺は、キリツグ。キリツグ・E・ペンドラゴン」

 

 驚いた、のだろうか。微かに頬の動きが見えた。とはいえ、反応したということは、この子は切嗣を知っている。

 

「そう・・・あなたキリツグっていうのね。あなたの言う切嗣との関係は?」

 

 少女の声に、少なからず重みを感じたのは、気のせいなのだろうか。気のせいということにして、言葉を紡ぐ。

 

「あまり関係はないんだがな。過去に命を救ってもらった礼があるんだ。そのときのことを忘れないためにも、彼の名前を借りている」

 

 あまり過去は語りたくないが、真剣な表情からして、適当なことを言えば、本当にやられてしまうだろうと、感じた。

 

「ふふ・・・そういわれてみれば、あの男に似てるかも」

 

「なんだ、やっぱり知っているんじゃないか・・・じゃあ」

 

 その瞬間、俺の体は聞いたことのないような音を上げながら、後ろへ吹っ飛んだ。

 

「ッカハ・・・!?」

 

 見れば先ほどのメイドが俺に向かって蹴りを入れているではないか。

 

 なんだ、俺は蹴り飛ばされたのか。

 

「っつつ・・・いてぇなあ。いきなり何すんだよ」

 

 魔術による身体の補強を施していたことと、寸前に勢いを殺す体制になれたので、痛みはさほどではないがそれでも、痛いことには変わりなかった。

 

「だってあなたキリツグなんでしょう?だったら・・・」

 

 少女の後ろからナニカが現れる。徐々に姿をあらわにするナニカは、想像以上の威圧を向けながら、俺に正対していた。

 

「殺すね」

 

「うお・・・っちょ!?」

 

 ナニカは俺に向かって吹っ飛んできた。確かな殺気を孕みながら。目にも止まらぬ拳戟。それらを間一髪で避け続けた。先程かけた魔術のおかけで、動体視力は上がっているが、、、。

 

 この巨体でどうやってそんな動きができるんだ。くそっ!

 

「これ、もしかして狂化の魔術なのか・・・。こいつ・・・サーヴァント、バーサーカーか!」

 

「ご名答、でもすごいね。バーサーカーの攻撃をかわすなんて。ふふ、面白いお兄ちゃんだなぁ」

 

 ニコニコと笑いながら、バーサーカーに命令を下している。

 

「ははは、これでもギリギリなんだ。英霊相手にそんなできるかよ・・・っとうわっ!?」

 

 足を挫いて、躓いてしまった。まさに、終わり、の情景である。要するに、フラグがたった、と言えよう。そのフラグが生を意味するのか、死を意味するのか。

 

「ててて・・・まったくこんなところで終わりなのか?」

 

「お兄ちゃん、ドジっ子だね。こんな状況で緊張感がほぐれるようなこけ方だったよ」

 

 確かに、俺も後ろのメイドたちも俺の行為に、緊張感というか、殺気が微かに和らいだ気がした。あくまでも、気がした、のである。そいつらが俺を殺そうとしていることに変わりはない。

 

「うっせぇ、ほっとけ。・・・なぁ、殺す前に切嗣がどこにいるか教えてくれないか?」

 

 まぁ、殺される気はさらさらないがな。

 

 少女は少し考え、バーサーカーを静止させた。

 

「あっちにいるよ」

 

 そう言って少女は上空を指さした。

 

「あ?あっち?」

 

「うん。お空の上」

 

「待てよ・・・えっと・・・」

 

 少女は笑顔でこう言った。

 

「切嗣はね、死んじゃったんだ」

 

 




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