Fate/the alter   作:zaregoto

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#12 平和へ向けて

 絶望という絶望が、僕を襲う。

 

 様々に形を変えて、確実に僕を殺そうとしている。このなにもない空間で、僕はただひとり、佇んでいた。

 

 人も、動物も、植物も、建物も、何もかもが存在を拒否されていた。それを行っているのは、僕なのか、それとも他のなにかなのか。わからないけれど、残念な気持ちでいっぱいなのは、そういうことなのだろう。

 

 僕は罪を犯した。償いきれないほど、大きな罪である。

 

「「僕には、生きる価値なんてない」」

 

 口から出したのか、それとも心で思ったのか、その認識すら危うい世界で、そう認識した。

 

 すると、前方に何かがあることに気がついた。あれは、、、。

 

 不思議に思い、恐る恐る近づいてみた。

 

「うっ、、、ぐすっ、、、」

 こどもが、泣いていた。なんの存在も感じられなかった世界であるのに、また、現在もそうであることは変わらない世界であるだろうに、僕は、そのこどもに声をかけた。

 

「どうしたんだい?どうしてここに?」

 

 自分が思える最大限の優しさで接する。とは言え、こどもは好まないが。

 

「、、、」

 

 こどもはこちらを向いた。外見から推定される年齢性別は6,7歳の少女。金髪をなびかせながらこちらを向いた。

 

 そして、僕の顔を見たまま、静止した。

 

「ま、迷子かい?」

 

「、、、、、、」

 

 問うてみても、返答をする気配はない。

 

 困ったなぁ、と思いながら辺りを見回してみる。かわらず、真っ暗な世界がどこまでも続いていた。

 

 すると、不意に、不意に声が投げ掛けられた。

 

「■■■■」

 

 とても懐かしい、声だ。恐らくというか、この空間には確実に僕と、この子以外は存在しないだろうから、この声は、、、。

 

「き、君は、、、?」

 

「、、、、フフッ」

 

 先ほどと同じように、僕を見つめたまま、そのまま、はにかんだ。

 

 僕は、この笑顔を見たことがある。そう思ったときだった。彼女が、手を伸ばした。

 

「!?」

 

 僕は一瞬身構えたが、それをする必要はないとすぐに悟った。

 

 伸ばされた手は僕の頬へと置かれ、そのままいとおしそうな表情で僕を見ているのだ。

 

 どこか懐かしい、その子は僕から離れない。

 

「僕は、君とどこかで会ったことがあるの?」

 

「大丈夫よ」

 

 優しさを孕んだ、彼女の言葉が僕に届く。ドクドクと、血液が身体中に循環している音がわかるくらい、音が止んだ。その前も、音すら存在していなかったように思えたが、これは、それ以上集中しているということに他ならなかった。

 

「安心しなさい。大丈夫、大丈夫だから。安心して、目をさましなさい。あなたはもう、一人じゃないでしょう」

 

「君は、、、」

 

 誰なのかは分からない。分からないけれど、これは。

 

 心のそこからの信頼感。そして、安心感。この少女はそれらすべての善なる感情を兼ね備えていた。

 

 僕は、、、。僕は。僕は。僕は。僕は。

 

 必要ないわけじゃない。だけど。

 

「まだ一緒にいてあげられる。だけど、そろそろ一人立ちしなきゃね。■■■■」

 

 捨てた名前を彼女から告げられる。

 

 そうか。そうなのか。彼女は。彼女は!

 

「、、、!?」

 

 彼女が何者なのか。それが分かった瞬間、目の前が光に包まれた。僕は、一瞬でそれに飲まれてしまった。

 

**********

 

「キリツグ!キリツグ!」

 

 誰かに、肩を揺らされている。うっすらと視認できるので、きっと凛だ。

 

「凛か」

 

「よかった。起きた、、、」

 

 僕の顔を見て、安堵の表情を浮かべた。

 

「大丈夫?キリツグ」

 

 イリヤも心配そうに僕を眺めている。

 

「ああ。大丈夫だよ」

 

「、、、キリツグ、どこか変わった?」

 

 今度は不思議そうに僕を見ているイリヤ。

 

 僕が、変わった?いや、それは。

 

「僕のどこが変わっているの?」

 

「僕?」

 

 僕以外の二人が不思議そうに顔を見合わせた。

 

「あなた、僕なんて言ったことあったかしら?」

 

「えっ、、、」

 

 そうだ。僕はいつ、僕であると思っていた。いや、僕という自分は、すでに捨てたはずだ。

 

「そうだ。俺は、俺なんだ、、、、」

 

「大丈夫なの?本当に」

 

 俺は、大丈夫なのか?大丈夫、、、のはずだ。そうでなければ、おかしい。もう、迷わないと決めたのだから。

 

「あぁ。大丈夫だよ。そんなことより、どうなったんだ」

 

「そうね。状況を説明したいけど、結構色々あったから、とりあえずみんなと合流しましょう。それからよ」

 

 そこから移動するため、腰をあげた。しかし、体制を崩し、また倒れてしまった。

 

「ぐへっ」

 

「だ、大丈夫?!」

 

「あぁ。気にすんな。さぁ、行こう」

 

「え、ええ」

 

 正直なことを言うと、四肢に感覚があまりない。しびれていると言えばそうであると言えるが、そうでない感じもある。この体に、ぴったりフィットしていないような感覚があるのだ。

 

「何があったんだ。俺は、いったいどこから覚えていない。それすら分からない」

 

**********

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

「やめろ!慎二!」

 

 そこには圧倒的に不利な状況があった。間桐慎二は、今この戦争で敗退しようとしているのだ。

 

「くそっ!くそっ!ライダー!なんでそっち側にいる!?」

 

「すみません、シンジ。キャスターに令呪を奪われてしまったようです」

 

「そうね。あなたは詰み、よ」

 

 冷や汗を流し、ビルの屋上の縁まで走る慎二。正気を失ったように半狂乱である。

 

「ライダー、あなたにあれを殺させてもいいのだけれど」

 

「、、、、、、」

 

「くっ!やめろ、キャスター!それは、、、俺が、俺が許さないぞ!」

 

「別にあなたの命令に従う必要はないわね。まぁ、マスターと連絡がとれないから、この行為は独断なのだけれど。いいわよね」

 

 キャスターは手に魔力を貯める。慎二は縁に立ち、今にも飛び降りそうだ。

 

「やめろ!だめだ!慎二!逃げろ!」

 

「ぇ、衛宮ぁ、、、」

 

 悲痛で、小さな叫びが俺に届く。いつになく弱々しいその声は、彼が彼であるということを疑問に思わせるような感じだった。

 

 咄嗟に、慎二を守るような形で、慎二を背にキャスターに対し立ちはだかった。セイバーは俺のサーヴァントではないし、ライダーも今はキャスターの支配下にある。

 

「俺がやらなきゃ、誰がやるってんだよ!」

 

「そう、じゃあ死になさい。あなたの正義とやらを抱いて!」

 

「士郎!」

 

 セイバーが叫んでいる。しかし、動くそぶりは見せない。否、動けないのだろう。

 俺は、ここで死ぬのか?キャスターの魔弾を受けて、命を落としてしまうのか?嫌だ、、、。そんなの、だめだ!

 

「----------投影(トレース)開始(オン)!」

 

 アーチャーの持つ双剣を投影出来たのは、奇跡だと思っていた。バーサーカーにやられた時、一瞬だけそれを投影することができた。しかし、それは脆く、弱く。だからこそ、俺は大怪我を負ったのだ。

 

 それから想像した。サーヴァントもいない俺の最後。いつか、本当に死んでしまう時が来る、のではないかと。

 

 しかし、切嗣にもらった命を、無下に捨てるわけにはいかない。あの大災害で死んでしまった、幾千の命を背負っていると思うと、余計にそう感じる。

 

 何故俺なのか。

 

 俺でなければならなかったのか。

 

 そう考えない日はなかった。

 

 しかし、あのとき、俺の恐怖心は、希望へと変わった。

 

『俺が代わりになってやるよ』

 

 あのときの切嗣の顔は忘れられない。どこか嬉しそうで、しかし悲しそうだった笑顔。

 

 切嗣を救いたい一心で、そう言ったのだが、あれは自分を肯定していたのだろうと、思う。子供ながらに、俺はあのとき完成したのだ。

 

 俺は自らが思う最強の剣を創造する。

 

 俺の思う正義。光。希望。それらすべてを内包した、勝利の剣。

 

「ハァッ!!」

 

 キャスターから、魔弾が放たれる。サーヴァントでは受けきれる程度の魔力量。しかし、ひとたび人間がそれを受ければ、大怪我は免れない。

 

「目の前で、人が死んでいくのは!もう見たくないんだよ!」

 

 そして、投影が完了する。

 

 迫る魔力の塊を打つべく、創造された一振り。

 

 それはまさしく、約束された勝利の剣(エクスカリバー)であった。

 

「なっ!?」

 

「あれは、私の、、、」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

 

 剣に接触すると、魔弾は弾け、爆発した。

 

「あれは、セイバーの」

 

 煙が舞い、それが晴れていく。

 

 そこには、うずくまる青年と、剣を構えた青年がいたのである。

 

「その程度の投影魔術で、私のを受けきったというの?!」

 

 しかし次の瞬間、士郎が創造した剣は粉々に砕け散ってしまった。

 

「う、うがぁぁあぁぁあぁ!!!」

 

 それと同時に、士郎にものすごい激痛が襲った。四肢が千切れてしまうのではないかと思われるほど、強い強い痛み。

 

 士郎は、その場にうずくまってしまった。

 

「無理な投影だったようね。あなた、魔術回路がズタズタじゃない」

 

 そう解説するキャスターだったが、士郎には、それどころではなかった。

 

 止まない痛み。アーチャーのものを投影するとき以上に、それは尚も襲う。

 

「キャスター!それ以上は、私が許さないぞ」

 

「あら、セイバー。私たちは同じマスターを持つ同志よ。マスターの不利益になることは避けないと。それを阻むのであれば、誰であろうと殺すわ」

 

「マスターが、それを望むと思うか!」

 

「あの人は、そういう人間よ」

 

「黙れ!」

 

「それに今のあなたじゃあ、私を倒すことは出来ないわ。そのボロボロの体で、何ができるというの?」

 

 セイバー達の口論が、段々と遠くなっていく。まずい。これは、本当に。

 

 士郎が自分を諦めかけたその時だった。

 

「やめとけ、キャスター。それにセイバーも」

 

 微かに見えた彼は、俺が目指した男と重なって見えた。

 

**********

 

「士郎!」

 

 凛が叫ぶ。

 

 屋上に着くや否や、目を疑うような光景が広がった。

 

 士郎に攻撃しようとしているキャスターに、それを阻もうと剣を向けるセイバー。キャスターの傍らにいるライダー。

 

 どこでどうなって、こうなったのか、さっぱり見当もつかなかった。

 

「、、、、、、ふん」

 

 少しセイバーを睨んだあと、キャスターは士郎に向けていた手を下ろし、そのまま霊体化した。

 

「マスター!」

 

 セイバーが、俺に向かって走ってきた。

 

「何があった」

 

「あなたとのパスを感じなくなり、魔力供給が絶たれたのです。しかし、それでもこの場をやり過ごさなければならないと思い、宝具を使用しました。、、、そんなことより、士郎が!」

 

「分かった。その前に、パスを繋ぎ直す」

 

 キリツグはセイバーの額に手をおいた。

 

「これでいいだろ。士郎を頼む」

 

「わ、分かりました」

 

 その行為が嫌だったのか、恥ずかしかったのかは定かではないが、少し動揺したセイバーだったが、士郎の元へと向かった。

 

「さてと、次はお前に聞こうか。ライダー」

 

 俺は、一人になったライダーへ向けて言った。そのライダーからは、表情が読めない。

 

「何があった」

 

「、、、キャスターの宝具ですよ。それで、無理矢理マスターとの契約を切らされたのです」

 

「なるほどな。キャスターも宝具を使ったのか。あとで、それについても聞かないと。、、、それでだ。だからキャスターは、間桐を殺そうとしたのか」

 

「ええ」

「それを、士郎が立ちはだかった、と。、、、士郎らしいな」

 

 そのことは、容易に想像がついた。しかし、俺はキャスターの行動には賛成だった。元凶を叩かなければ、いずれまた起こる。だからこそ、協会も動いたのだ。

 

「士郎、、、俺たちはいずれ、敵同士になるのかもな」

 

 そう小声で呟き、俺は間桐の元へと向かった。

 

 彼はガタガタと震え、うずくまっていた。

 

「おいクソガキ」

 

「ッヒィ!!」

 

 あからさまに驚いたような声をあげた。

 

「お前の元凶は、今どこにいる」

 

「な、なんだよ!なんなんだよ!!お前ら!」

 

「黙れ、聞かれた事だけに答えろ。でなければ殺す」

 

「なっ!」

 

「や、やめてくれ、キリツグ」

 

 痛みを圧し殺して、声を発する士郎。しかし、俺は士郎に耳を貸すことをしなかった。

 

「お前が考えたことじゃないだろ。お前みたいな三流が、一人でできることじゃない。これは、学校に仕掛けられた物とは少し違う。これほど大規模な魔方陣をお前ごときが。、、、言え。マキリ・ゾォルケンはどこにいる」

 

「ゾォルケン、、、?」

 

 不思議そうな目を向ける慎二。どうやら、こちらの呼び名は知らないようだ。

 

「分からなかったか。なら、こっちはどうだ。、、、間桐臓硯はどこだ」

 

**********

 

「ん、、、くぁ!!」

 

 士郎は寝室で飛び上がりながら起床した。しかし、体の痛みは治っていなかった。激痛とまではいかないだろうが。

 

「おはようございます。士郎」

 

「、、、セイバー」

 

 傍らではセイバーが、ちょこんと正座していた。

「俺はどうなった」

 

「、、、リンの見解では、投影を行った際、魔術回路を損傷してしまったようです。だから、外見的な傷はありませんが、、、」

 

 そうだ。俺は奇跡を投影したんだ。セイバーの剣を投影できた。しかしおかしいのは、あのとき、失敗すると思わなかった事だ。確かに不完全だったために、少ない威力で剣は破壊されてしまった。

 

「セイバー、すまなかった」

 

「?」

 

 なんのことを言っているのだろう、とでも言いたげな表情で俺を見た。

 

「俺の力がなかったばかりに」

 

「それは、、、」

 

 遠くをみるような目で、俺を見つめるセイバー。

 

「そんなことないです、士郎。あなたは、あなたなりに頑張ったと思います。けれど、サーヴァントと戦うのであれば、あのようなことは二度としてほしくない。マスターがやって来なければ、今頃は、、、」

 

 セイバーは想像しているのだろう。俺がいなくなった世界を。だからこそ、遠い目、なのか。心配してくれるのは嬉しいが、俺は戦力にはならなかったと言っているのと変わらなかった。

 

 確かに、サーヴァントと戦うのなら、もっと鍛える必要がある。

 

「セイバー」

 

「なんでしょうか」

 

「俺に、剣を教えてくれ」

 

「剣を、ですか」

 

 剣の英霊であるセイバーに教えてもらえるなら、これ以上の師はいないだろう。

 

「、、、分かりました。あなたのことを鍛えましょう」

 

「すまないな、セイバー」

 

 セイバーに感謝を述べ、一呼吸置く。置いたのだが、それ以上会話が続かなくなってしまった。

 

 、、、俺は、セイバーとどんな話をしていたのだろう。いや、あまり話をしていないのかもな。セイバーとの稽古で、少しは話せるようになりたい。

 

「体の具合はいかがですか?」

 

 耐えかねたのか、セイバーから話しかけてきた。

 

「若干痛みはあるけど、動けないほどじゃあ、、、っつつ!」

 

 士郎は痛みから、体をよろけてしまった。それをセイバーに受け止められる。

 

「あっ、いや、すまん」

 

「いえ。そんなことより、肩を貸しましょう。居間で皆さんが待っています」

 

 士郎は自分一人だけ恥ずかしがっていたことに、さらに恥ずかしがっていた。しかし、さらにさらにそれを増長させることがあった。

 

「、、、、、、」

 

「うわぁぁぁ!」

 

 襖の隙間からキリツグがにやついた顔で覗いていたのである。

 

「どうかしましたか?士郎。、、、ん?マスター!いたのですね」

 

「オー。いたよいたよー」

 

 さらにニヤニヤしてそう言う。

 

「な、なにもなかったぞ、キリツグ」

 

「知ってる知ってる。ずっと見てたからな」

 

 終始にやけた顔で話続けた。しかし、急にその表情がなくなった。

 

「さて、行くぞセイバー」

 

「分かりました」

 

 そう言ってその場を去ろうとするキリツグ。俺は慌てて呼び止める。

 

「き、キリツグ!どこかへいくのか?」

「ああ」

 

「どこへ」

 

 俺の顔をじっと見つめ、言った。

 

「間桐桜を救いに」

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