Fate/the alter   作:zaregoto

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このお話で、前半戦終了となります。

アニメで言えば、1クール目が終わります。

ラストまで付き合ってくれると、嬉しいです。


#14 束の間の休息

 幸福とは、いったいどういう認識から、そうであるとされるのだろうか。例えば、お茶の中の茶柱とか、土手で見つけた四つ葉のクローバーとか。そういう、小さな幸福は、たぶん誰もが幸福だ、と認識できるだろう。けれど、大きな幸福は違う。

 

 大金持ちになることが幸福。人生の伴侶を見つけることが幸福。そういうような大きな幸福は、人生観によって大きく認識が食い違うだろう。

 

 まぁしかし、幸福というものすらを学ばずに生きてきたのであれば、それはその人にとって幸福ではなく、ただの出来事であり、万人が思うであろう認識は発生しない。

 

 それでも、この一時は俺にとって幸福だ。生きてきた中で、最もと言ってもいいかもしれない。協会から逃げだしてから、師匠のもとで修業を積んで。その中で、良いことはあったかもしれないけど、幸福であった時はきっと、なかったと思う。

 

「キリツグ、キャスター、おはよう」

 

 俺たちが間桐邸から桜を救いだしてから、およそ3日が経った。俺は士郎の家の縁側でキャスターとのんびりしていた。

 

 絵に書いたようにボーッとしていたところで、士郎に声をかけられた。士郎の体からは、ほんのり湯気がたっていた。

 

「あら坊や、早いわね」

 

「まあな。朝の鍛錬と、セイバーと剣の稽古だ。キリツグたちは?」

 

「俺たちは・・・そうだな、ボーッとしてた」

 

 他に言い換える言葉が見つからなかったので、やっていることをそのまま言ったが、士郎は苦い顔をしていた。

 

「そ、そうなのか。今から朝御飯作るから待っててくれ」

 

「ああ。悪いな」

 

 ライダー戦後、士郎にも思うところがあったらしく、現在はセイバーから剣技の教えをこうていた。彼には戦ってほしくないのだが、まぁ、彼がそうしたいなら止めはしない。それを眺めるアーチャーの目は、気になるけれども。

 

「マスター」

 

「あん?なんだ」

 

 不意に、キャスターから声を掛けられた。

 

「この聖杯戦争は、いったいどうなるのでしょうね」

 

「さあな。この状態が続くなら俺は嬉しいけど。まぁ、英霊からしたら、たまったもんじゃないんだろうな。自身の野望が、いつまでたっても成就しないんだから」

 

「そうね・・・・・・」

 

 そう言ったキャスターをふと見ると、どこか遠い目をしていた。何かを諦めたような目、なのか?いや、彼女からはそういうマイナスの感情は感じられなかった。

 

「キリツグさん!」

 

 そんなとき遠くの、門のところから声を掛けられた。

 

 青年が走って近づいてくる。

 

「おお。慎二か」

 

 間桐慎二であった。

 

「おはようございます!早いんですね」

 

「ま、まあな。お前、敬語やめろよ気持ち悪い」

 

「いえ!あなたは僕の師匠のような人ですから」

 

「俺はなんもしてないぞ」

 

「いえ!あなたは僕に、『道』をくれたんだ」

 

 あの戦いの中で、慎二に埋め込んだ疑似魔術回路。それは驚くべきことに、慎二の体にとてもよくマッチングしていたのである。

 

 実は、彼の家系の魔術回路は途切れたわけではなく、体の奥底に沈んでいたらしい。故に魔術回路がないものだと、認識されてしまったのだ。しかし、俺が埋め込んだ疑似魔術回路のお陰で、眠っていた回路が目覚めたらしい。

 

 それから、こんな風に俺を師匠のように仰いでいる。うっとおしいったらありゃしない。ミスタウェイバーも、こんな風に感じているのだろうか。いや、俺はこんなにうっとおしくないと思う。そう願いたいな。

 

「まぁ、お前がそう思いたいなら、勝手に思えばいい。それよか、今日はいったいどうしたんだ?」

「桜を迎えに来たんです。桜がいないと、家が汚くてしょうがなくて・・・」

 

 自分でやれよと思ったが、俺も誰かにやらせるだろうと考えてしまったので、言わないでおいた。

 

「居間にいるから、行ってこい。ついでに朝飯も食べていけよ」

 

 自分で作ってるわけじゃないのに偉そうだな、と感じた。自分でな。

 

「はい!では、また!」

 

 慎二は意気揚々と走り去っていった。

 

「アイツは・・・丸くなったのか?」

 

「気持ち悪いくらいにね。それでも、あれがあの坊やの本質なのかもしれないわ。士郎が言っていたでしょう?根は優しいと」

 

 慎二が行ったあと、そんな会話をした。

 

 もしあれが慎二の本質で、前の慎二が少しおかしかったのだとしたら、何が彼をそうさせたのだろうか。いや、言うまでもないかもしれない。きっと、魔道がそうさせたんだ。自分が魔術を使えないから、プライドの高いアイツの精神は歪んでしまった。

 

 まぁそれでも、今は元に戻ってるのか。しかし、元に戻った方法も魔術だなんて。皮肉も甚だしい。

 

「そう、願いたいな」

 

 希望と願望を込めて、そう呟いた。キャスターはそう言った俺を不思議そうに見つめる。俺も対抗して見つめたが、俺の方が先に折れて、というより恥ずかしくなって、目をそらしてしまった。それを見たキャスターはクスリと笑った。

 

 すると、居間の方からガヤガヤとした声が響いてきた。どうやら、慎二が居間に着いたらしく、凛と一悶着繰り広げているらしい。

 

 耳を澄ませて聞いてみる。

 

「ちょっと!あんたまた来たの!?」

 

「五月蝿いなぁ、遠坂は!僕はキリツグさんと、桜に会いに来ているんだ!別に君に会いに来てるわけじゃない!」

 

「そんなこと百も承知よ!もしそうだったら寒気が止まらなくなるわ!」

 

「な、なんだとぉ!?」

 

「に、にいさん」

「ほら、慎二も遠坂も、いい加減やめろよ。桜が困ってるじゃないか」

 

「衛宮は「士郎は黙っていなさい!」いろ!」

 

「もう、にいさんも・・・ね、ねえさんも」

 

 とまぁこんな具合だ。普通の日常、なのだろうか。俺はこんな平和で過ごしたことがないからあまり理解が及ばない。けれど、幸福であるということは分かる。何せ、今まで感じたことのないものだからだ。

 

「あの子達も、まだ子供ね」

 

「そうだな。・・・聖杯戦争のせいで、アイツらは争うことになった。もし、聖杯戦争がなく、更に言えば魔術というものがなかったならば、アイツらは普通にいられたのだろうか」

 

 ふと、そんなことを口走ってしまった。魔術の否定を、吐いてしまった。魔術の大先輩であるキャスターは言った。

 

「そうとも限らないわよ。魔術がなくても、争いはある。常にどこの時代、世界でも。それがなくなったときは、きっとこの星から人間がいなくなったときね。そもそも、あの子達の繋がりは、魔道よ。なかったとしても、ああいう風な光景が存在するとは限らないわ」

 

 確かに、そうだ。争いはなくならないし、人間の本質も変わらない。変われないから、今もこうして普通に生きているんだ。

 

 それは少し、寂しいのかもしれないな。

 

「ところでマスター」

 

「何?」

 

 俺が押し黙ってしまったところを見計らって、キャスターが口を開いた。

 

「あなたが聖杯にかける思いは、なんなの?」

 

「つまり、叶えたい願い、ってことか?」

 

「ええ。参加して、更に二人のサーヴァントを使役するようなマスターだもの。思いの丈はあるのでは?」

 

 俺は考える振りをした。考える必要などなく、俺の願いは決まっていたからだ。

 

「あー、キャスターには悪いけど、俺にそういうのはないんだ」

 

 キャスターは、声もなく驚いた。

 

 そう。願いがないということが、願い。言い方がおかしいかもしれない。しかし、特にないのだから仕方がない。

 

「元々参加する意思はなかった。それが、イリヤスフィールと出会って、成り行きで参加することになった。そもそも、ここに来たのだって切嗣っていう士郎の親父に会うためだしな。まぁ、俺の目的の根本には、聖杯戦争の調査があるんだが」

 

 ミスタウェイバーに言われたからってのが大本命なんだが、しかし切嗣に会いに来たってのが本命なのかもしれない。

 

「つくづく、あなたは面白い人ね」

 

「ああ?!なんだよ」

 

 キャスターは口に手を重ねて、婦人がやるような笑い方をした。正直ばばくさいと思ったが、言ったら恐らく殺される。

 

「士郎も言っていたわ。自分に願いはないと。この聖杯戦争を止めることが自分の願いだと」

 

「アイツは参加してないぞ?」

 

「もしも、の話よ。二人で話せる機会があったのでね。そういう類いの事を聞いたの。でも」

 

 キャスターは少し話すのをためらった。

 

「なんだよ。どうかしたのか?」

 

「彼は、異常よ。あなたの言う願いはない、と彼の言うそれとは、恐らく根本的なところが違う。彼はそのあとも続けて言ったわ。自分の知らないところで人が死ぬなんて耐えられない、と」

 

 キャスターは無表情だった。しかし、声色、彼女の纏う空気感が、それをそうとはさせなかった。

 

 前から思っていたことだった。彼の、衛宮士郎の異常性。死地に赴くのを躊躇わない、彼の心。彼がキャスターに言ったことは酷く破綻している。それは、彼の異常性をとてもよく表している言葉だった。

 

 正義の味方。彼の目指す、目標だ。しかし、夢と目標は違う。夢は、見るものと思いを馳せるものであり、必ずしも叶うわけではない。彼は、彼の完成形として正義の味方という存在を心に秘めている。死んだ、切嗣を追うように。

 

 果たしてそれが良いことなのか。俺も一種の憧れのようなものがあった。しかしそれは、幼少期だけだ。現在は少し違う。もし彼が生きていたならば、彼の隣で共に戦地へ赴きたいと。そう思っているだけであり、彼になりたいとは、あまり思っていなかった。

 

 まあ、士郎が見ているのは、切嗣の正義の味方という外観なのだと思う。あの人は、誰よりも人間らしいはずだ。

 

「アイツは、人間の身でありながら、英雄のそれとまったく違わないことをなそうとしている。しかしアイツはただの人間。実に中途半端で、どうしようもなく下らない。アイツの投影は、そういうことなのかもしれないな」

 

「と言うと?」

 

「アイツは英雄にはなりきれない。言いたくはないがただの偽物だ。それがアイツの投影の根源」

 

 しかし、本物になろうとする意識なある分、偽物は本物よりも本物だ。それでも彼の場合は、ただの理想。完全な偽物ではなく、なりたいと思うだけだ。

 

「・・・こんな話はやめよう。そろそろ朝飯ができる頃だ」

 

「そう、ね。そうしましょう」

 

**********

 

 賑やかな朝食を終えると、学生組は学校へ行った。色の濃い集団がぞろぞろと。変な噂たてられても知らんぞ?

 

 ともかく、今家には俺とセイバー、キャスター、更にライダーの4人だ。こっちもこっちで濃いけどな。こんな英雄様たちと、1つ屋根の下で、とか。聖杯戦争様様ってわけだ。

 

 ライダーは朝食の片付けをしていた。姿はあのコスプレみたいなやつじゃなく、普通のお姉さんって感じだ。そう。みんな、普通の人間なんだよなぁ。聖杯戦争なんかなきゃ。まぁ、聖杯戦争がなかったらこんな状況は生まれなかったんだから、なんとも言えない。

 

 ちなみにライダーがなぜまだここにいるのかと言えば、それは慎二が魔術回路を手にいれた事に起因していた。魔術回路を手にいれたということは、サーヴァントを使役する方法を得たということに他ならない。故に、今あの令呪はライダーのものとなる。ま、これはコトミネとの約束に反することになるんだけどな。

 

 ざまぁみろってわけだ。

 

 緑茶を飲みながら物思いに耽っていると、セイバーがこちらをちらちらと見ていることに気がついた。

 

「どしたんだ?セイバー」

 

「い、いえ。なんでもないです」

 

 なんか取っつきにくいな。ふむ。

 

「なんでもないことないだろ。なんかこう、モヤモヤするから言ってくれ」

 

「は、はい」

 

 意を決して、セイバーは口を開いた。

 

「あの、ズボンのチャックが開いています」

 

 えぇぇぇぇぇえ!?

 

 ズボンのチャックのこと??俺はてっきりシリアスパートに行くもんだと思ってたんだけどぉ!それがチャックかよ!確かに、俺の剣がこんにちはしちゃいそうだけど。あ、パンツをはいていないわけではない。決して。

 

「な、なんのことを言っているのかなセイバー。これはその、ファ、ファッションだよ!」

「せ、聖杯からはそのような破廉恥な情報はもらえなかったのですが」

 

「あったり前だろ!人々の意思というものは、絶えず変化していくのだよ!変化なくして、改革はない!」

 

「そ、そうなのですか。勉強になります。、、、なるほど」

 

 何がなるほどなんだぁぁぁぁ!!

 

 俺は急いでチャックをあげた。

 

「キリツグ、あなたはそのような趣味趣向をお持ちなのですね」

 

 洗い物を終えたライダーが、背後から寒々しい声色で投げ掛ける。前方は奇異な目を向けるセイバー。まさに前門の虎、後門の狼。いやさ、前門の獅子、後門の蛇ってわけか。

 

 笑えねぇよ。

 

 




休息編はまだ続きますです
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