最終話まで、あと少しです。
あのあとは大変だった。
セイバーはなぜか、なぜか目をあわせてくれないし、ライダーはライダーで、俺から視線をはずそうとしない。魔眼殺しをかけているので、俺が石になることはないが、石になってしまいそうで怖い。いやさ、石になるというか、凍りつくというか。冷ややかすぎる目ということだ。
そして今はセイバーとともに、溜まりに溜まった洗濯物を畳んでいるのだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
たいっっっっっへん!気まずい!顔をうつむかせ、こちらを向かない。どうしようもないくらい、セイバーが俺を拒否している。
「セ、セイバー」
「・・・・・・」
「あ、あのぅ」
またか?またチャックが御開帳してるのか?いや!それはないはずだ。あのあと、チャックが壊れてしまうのではないかと感じさせるくらい上げた。だから、俺の聖剣が抜刀されていることなど。いや、もしかして、それのやりすぎでチャックこわれた???
そう思い、自分の股間を確認する。とくに何もない。・・・股間を確認するって、文字にするとなんか、変態みたいだ。
「キリツグ」
「ふ!ふぅへいっ!!」
突然声をかけられたので、ちゃんと返答することが出来なかった。吸い込んだ息が変なところに入ったのか?・・・とてもどうでもいい。どうでもいいけど、セイバーの表情はどうでもよくなかった。
「・・・ギャグパート続行ってわけじゃないみたいだな。シリアスパートにしたいわけか」
「私は、分からなくなりました」
「あ?なんのことだ」
いつになく真剣な表情。いや、もしかしたらさっきもそういう話をしたかったのか?それを俺の聖剣が邪魔をしたのか?だったら、悪いことをしたな。
「士郎の学校での戦いの時、アーチャー、ギルガメッシュと会っていたことは言いましたよね」
「そんなこと言ってたな。別に俺は気にしてないけど」
ワイシャツを畳む手を止めて、こちらをむくセイバー。
「あのときに、ギルガメッシュから言われたのです」
**********
「お前は、英雄王!なぜここにいる!」
月を背に、堂々と立っているのはあの英雄王であった。彼は前回の参加者であり、旧知と言えば旧知の仲。自分と同じように召喚されたのかという驚きと、あのあと、どうなったのかという純粋な興味が混在していた。
「やはりお前だったか。ふむ、なるほど」
英雄王はニヤリと笑い、ゆっくりと近づいてくる。それと同時にセイバーは身構える。
「戦いに来たわけではない。ただ、あのときのように話をしようと思ってな。今回は、酒はないが。征服王もおらぬことだし」
そうは言われても、おずおずと戦闘体勢を解くような仲ではない。未だ見えない剣を構えながら、話を聞いた。
「もう一度聞こう、セイバー」
そう、ギルガメッシュに告げられ一瞬身構えをとく。
「お前にとって、王とは」
あのときと同じ質問。征服王から告げられたのと。
「何を、いまさら」
「いまだからこそだ。我はお前の真意を問いたい。他ならぬ、お前の、な」
そう言ったギルガメッシュは、何かを含んだ言い方だった。
「私にとって、王とは・・・」
そう考えた瞬間、何かが頭の中を覆った。そして、何も考えられなくなる。いや、思い出せなくなるといった方がいいだろう。
自分が駆け抜けたブリテンの地を。共に戦った、盟友を。
「どうした、騎士王。話せないのか?」
急かす英雄王などは頭になかった。今あるのは、あの時代を思い出せないという混乱。
「ふん、やはりか」
「どういう、意味だ」
「お前は、お前ではない。実に滑稽だ。そのような下等なものに成り下がりおって。興醒めだ」
そう言って、英雄王はその場から去ろうとしている。しかしそれをみすみす逃すセイバーではなかった。
「逃がすと思うか、英雄王」
「逃げるのではない。見逃すのだ。我の興味はもはや、貴様にはない。とくと、往ね」
刹那、英雄王の背後の空間が歪んだ。そしてその中からは、数多くの武器という武器が姿を表す。
「貴様を潰すことなど容易だ。今の貴様ならばな。しかし、それは面白くない」
英雄王の輝きが、目を眩ませる。ここで挑んだとしても、負ける。それは誰から見ても明白であった。
「貴様のような、贋作ではな」
**********
「贋作?」
セイバーは不安を孕んだ顔でギルガメッシュとの会話の一部始終を話した。
「分からないのです。私という存在が、なぜここにいるのか」
今まで見せたことのない顔で、話す。
「確かに私の願いは、ブリテンの救済。しかし、それに至るまでの経緯が思い出せない。まるで経験したことがないかのように、記憶に存在していないのです」
「もしかしたら、召喚に失敗していたのかもしれないな。そのおかげで、記憶を所々失ったのかも」
一応フォローしておく。しかし、今のセイバーには全く意味がなかった。
「戦う意味も、見出だせない。しかし私はセイバーであり、マスター、あなたのサーヴァントである」
そう言って、俺の目を一点に見つめた。
「私は、誰だ」
その瞬間、何かが俺の中でくっついた。失った記憶なのか、しまいこんでしまった記憶なのかは分からない。しかし、目の前にいる一人の少女が、今は堪らなく愛しく、それと同じくらい悲しく思えたのだ。
「セイバーは、セイバーだ」
俺がこんなこと言うのはおかしい。けれど、言わずにはいられなかった。
「お前がどこの誰だろうと、俺には関係ない。セイバーはセイバーで、アーサー・ペンドラゴンなんだろ?だったらそれでいいじゃないか」
「私は、私」
「そうだ。お前は、お前だ。例え偽者だったとしても、俺にとってはお前がアーサー王なんだ。最優のサーヴァント、セイバーなんだよ。それを、忘れないでほしい」
少しだけ、セイバーの表情が柔らかくなる。それを見て、俺の心も暖かくなっていった。
「だが、あなたは前に、私は王には向いていないと言った」
不貞腐れたように言うセイバー。
「それとこれとは話が別だ。確かにお前が、アーサー・ペンドラゴンという一人の少女であることは認めた。しかし、お前を王と認めたわけじゃない」
「あなたには、王がなん足るかを理解できているのですか?」
セイバーから問われる。確かに、いきなりそう言われたら言葉がなくなる。ふむ。
「王とは、孤高であり、更に独裁的だ。それでも民に信頼され、愛される者こそが、真なる王。まぁ、その二つは一見したら実に相対的なんだがな。だけど、そういうことなんだ。王さまってのは、見る人間全てが、見とれられなければならない。王とはつまり、才能の1つ」
あ、これじゃあセイバーを真っ向から否定していることになるじゃないか。まぁ、でも1度批判しているんだから、今更意見を違えるのは、違う気がする。
「それは、民を愛していないということですか」
「違う。王が民を愛するんじゃない。民が王を愛するんだ。出なければ、王政は実現しない」
「・・・・・・」
いっそう重苦しい空気が流れ始める。話題が話題だけに、シリアスになるのは当然なんだが、更に加えてセイバーの信条まで抉っているわけだ。なんというか、好感度下がりまくりじゃないか?俺。
「あー、いや、まぁ、そのなんだ。つまりは人それぞれってわけだ」
「あなたは」
セイバーが口を開く。批判の嵐が来るかと思ったが、表情からはそれが伺えない。
「おかしな人ですね。私を蔑んだり、擁護したり」
「いや、蔑んだりはしてないつもりだけど」
覇気がなかった。そのくらい、彼女はまいっていたらしい。嘘でも持ち上げた方がよかったか?いや、それはよくない。セイバーにとっても、俺にとっても。
「そうだ、セイバー」
「ん、なんでしょうか?」
「街へ行こう」
*********
「というわけで、来たぞ」
「何がというわけなのか、全く理解できないのですが」
俺の後ろには、無理矢理連れてきたライダーと、セイバーがいる。息抜き、という呈でここまでやって来た。留守番はキャスターに任せてある。本当なら、キャスターも一緒に来てもらいたかったのだが、キャスターからの答えはnoだった。
「ま、あれだな。現地調査を兼ねた、息抜きだ」
「息抜きなどと、こんなことをしている間にもどこかで戦いが」
そう言うセイバーだが、表情は柔らかい。こうやって見ていると、本当に普通の女の子みたいだ。
「前にも言ったが、ほとんどのサーヴァントはこちら側の陣営にいる。多分大丈夫だろ。多分だけど」
「私は本を見たいのですが、どこかいい場所を知っていますか?」
ライダーは普通に乗り気だった。
歩いておよそ30分くらい、ライダーお目当ての古本屋を見つけた。店構えはTHE古本屋で、店名も古本屋である。もう少し捻りを加えてもバチはあたらなかったのではないだろうか?
というか、歩くだけでお目当てのものが見つかるとは思っていなかった。適当に歩いていただけなのに。
「よってもよろしいですか?」
目を輝かせながらそう言うライダー。紫色の髪を風に靡かせ、その問いの答えも聞かず店内へ入っていった。
「あっ、おい!」
「行ってしまいましたね」
「割りと常識人だと思っていたが、やっぱり英霊か」
どっかおかしいって意味だ。
「それは、いったいどういう意味でしょうか?」
「それは!どっかおか・・・なんでもない」
話の流れで言ってしまいそうになった。しかし、セイバーの表情を見て我にかえった。
「マスター」
「ん?なんだ?」
セイバーの表情は弱冠曇っている。自分がおかしいのだ。当たり前。俺もそんな時期があった気がする。
「どうして、街に?」
「んー、そうだな」
正直、意味がなかった。良いように言えば、セイバーの気を紛らわせるためだし、悪く言えばただ暇だっただけだ。悪いのかは分からないが。
「普通に休息だよ。気を張り巡らせていても疲れるだけだしな。今日は思いっきり楽しんでくれ」
「はぁ・・・」
セイバーが困っている。まぁそりゃそうか。いきなり連れてこられて、楽しんでくれ!と言われても楽しめるわけがない。俺は絶対無理だ。やっている側が言うことではないけど。
「とりあえず、俺たちも入ろう」
「ええ」
俺たちも店内に入っていった。
店内も普通の書店には並ばないような本がたくさんあった。ライダーは、それらをじっくりと見回っていた。
「どうだ、ライダー。お目当ての古本は見つかったか?」
「目当てというものは、これといってはないですが、これほどの古きよきものを見るのは好きです。こういうようなものに囲まれて、仕事をしてみたいものです」
「ライダーみたいな女の子がここで働いてたら、1日で大繁盛するかもな」
それを聞いたライダーは、不思議そうな顔で俺を見る。
「な、なんだよ」
「いえ。あなたは、私を恐れないのですね。更には私のことを女の子、と。そのような背格好には見えないと思うのですが」
確かに、数日前までは殺しあっていた仲だ。端から見れば異様な光景。俺達の関係を知っていればの話なのだが。
「これでも、死地は潜り抜けてきたつもりだよ。あれしきのこと、怖くもなんともない」
少し、嘘をついた。
「そうですか。面白い人ですね」
そう言って、ライダーは微笑んだ。メデューサといえば、蛇の化け物として有名だが、今の彼女がそうだと誰かに言われたとしても、些か疑問を覚える。というか、まったく信じないだろう。
「そう言えば、騎士王は?」
「ん?あぁ。セイバーなら、ほら、あそこだ」
セイバーは洋書のコーナーで、ある本をかじりつくように見ていた。いや、見いっていたという方が正しいだろう。
「あれは、何を読んで?」
「アーサー王伝説の原本だ。俺が見つけて、言ったらあんな感じ。自分がどんな風に描かれているのか、気になるんだろ」
それはデマカセだった。セイバーは、自分の記憶を取り戻そうとしているのだろう。とは言っても、あれは物語。恐らく、彼女の望むような内容ではないだろう。まぁ、どんな風なのか気になるってのは、少しはあるんだろうが。
「そうですか。それは面白い体験ですね。私の場合は、神代のことなので概ねは人間の想像です。それに、自分が化け物として描かれているものを見ても、ね」
「そりゃ、そうだわな」
これに関しては苦笑いするほかなかった。
「私はもう満足なのですが、セイバーは」
「ああ。ちょっと呼んでくるよ」
そう言って、セイバーの方へと近づいていった。
「セイバー?」
返事がない。それほど集中しているのか?
「セイバー」
「私は・・・」
「ん?」
意味深な表情を、俺に向ける。
「私は、どうすればいいのでしょう」
「は?どういう」
「これは、確かに私の物語だ。しかし、私は英雄ではない」
おかしなことを言い出した。
「何いってんだよ。お前は英雄だ。だからこそ、聖杯から呼び出されて、ここにいるんだろ」
「英霊ではあっても、英雄ではない。現に、私はブリテンを救うことができなかった。騎士たちからの信頼さえ、もはや」
またヒステリックになりだした。セイバーって、こんなやつだっけ?召喚された直後はまだ普通だったのに。
変化が見られるようになったのはライダーと学校で会ったあと。つまり、セイバーがギルガメッシュと話をしたあとということになる。それほど、ギルガメッシュの言葉が響いたのか?いや、まあ、神代の英雄だからな。言葉の一つ一つが金言そのものなんだろうが。
「もう、出ましょう。すみません、こんなことを言って」
「いや・・・あ、あはは」
もはやなんというか、笑うしかなかった。
古本屋をあとにしたあとは、その辺を適当に歩いてみた。お洒落な喫茶店に行ったり、ゲームセンターというものに行ってみたり、できる限り、普段は出来ないようなことが出来る場所を回っていった。
それでも、セイバーの顔は変わらず暗い。
俺とライダーは、ただ困ることしかできなかった。
そして日も傾き始めてきた頃、俺たちはあの公園にたどり着いた。ここは、イリヤとたい焼きを、王さまと酒を飲んだ場所だ。故に、俺からしたら印象深い場所だった。
「疲れたー」
ベンチに腰を掛けながら口から溢す。
「そうですね。今日はいい気分転換になりました」
そう言うライダーだが、視線はセイバーの方へ。ライダーもライダーなりに、セイバーが心配なのだ。
「これでは、いつまでたってもあのままですね」
「ああ。正直いって困る」
「それは・・・」
ライダーは、その言葉自体が困るとでも言いたげな表情だ。
「まぁ、そのうちなんとかなるさ。アイツはあれでも王さまだ。なんとかなる、というかなんとかするよ」
その瞬間だった。
暗い暗い、嫌な感じが流れてくる。言うなれば闇。それは俺の心臓の鼓動をはやめ、あたりを一気に違う場所へと変貌させるかのようだった。
「これは」
感じたことがある。これは、ライダーを探していたときに似ている。記憶のない、あのとき。これを機に、俺は意識を失った。しかし、今回はそのようなものは感じなかった。確実にそれが何かを視認できる。
「あれは、人でしょうか」
ライダーの向ける視線の先には、人影がひとつ。それも、どこか見覚えがある。
「マスター!これは、一体」
セイバーも、変化を感じたのか武装をする。そして、剣を構えた。
あの人影は、日常的に、どこかで、いや。あれは。
俺か?
「キリツグに、そっくりですね。肌は浅黒く、奇妙な入れ墨も施されているようですが」
ライダーは、冷静に判断しているがこれが何なのかまったく理解できない様子だ。
「生き別れの兄弟か何かか?面白くねぇんだよ。こんな禍々しい魔力。封印指定もんだぞ」
その俺に似たナニカは、まるでこの世界にある、全ての悪を身に纏ったような感じだ。そのくらい、禍々しい。
「よう、数日前振りじゃねえか」
馴れ馴れしく、その
「悪いが、俺はお前に会った記憶なんてものはない」
「あ?まさかあれしきのことで記憶が飛んだってのか?血相かいて俺のことを探しているのかと思っていたが、そうでもねぇみてぇだな」
「なんでお前を探さなきゃならないんだよ」
「そりゃあお前、俺が、お前だからだよ。言ったろ?あの時に。いや、記憶が飛んでんだったな」
おかしなことを言う。お前が俺?何を。
「ククク。このおかしな聖杯戦争が、あまり進んでないようなんでな。俺が出てきてやったってはわけだ。言うなれば俺は、ラスボスみたいな存在だ」
「自分で自分をラスボスというな。寒いぞ」
「ハハッ!ちげぇねぇ!」
高らかに大声をあげて笑う。どこか奇妙で、しかし見たことがある。どこで。
「貴様!何者だ!」
堪らずセイバーが叫んだ。それに対し、ソイツはすぐに答えた。
「俺は第7のサーヴァント、
アンリマユが名乗りをあげた瞬間、戦士たちの休息は終わりを告げた。