Fate/the alter   作:zaregoto

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#17 記憶

「・・・・・・う、ん」

 

 暗い暗い場所で、少女は目を醒ます。風が不気味なほどに音をたて、吹きすさぶなか、少女は辺りを見回した。

 

「ここ、は?」

 

 少女の頭は理解に及ばなかった。確か、あのときキリツグさんの所へ行って、それで。

 

 そこから先が曖昧だ。しかし、眠ってどれくらいたったのだろう。扉もなければ、窓もない。そんな場所ゆえに今がいつなのか、はっきりとわかることはなかった。

 

「よぉ、目ぇ醒ましたか」

 

 不意に、背後から声をかけられる。驚いて振り向くと、その瞬間うっすらと明かりがついた。

 

「あなた、は?」

 

 そこにいたのは、見知った人間だった。いや、似ているだけだ。だからこそ、誰だと問うたのだ。

 

 それはキリツグに似ていた。体は浅黒く、奇妙な入れ墨を施されているが、それでも似ていた。容姿だけではない。何故か別のなにかも似ているように感じたのである。

 

「俺は、お前を理解するものだ」

 

**********

 

 キリツグはまたも縁側で遠坂と二人でいた。しかし今回は、遠坂は眠っていない。グーパン食らわされる心配はないだろう。

 

「いやー、静かだなぁ」

 

「・・・・・・」

 

 遠坂に聞いてみる。しかし、応答はない。

 

「ここにいるのは俺ひとりかなー?」

 

「あなたは」

 

 遠坂は口を開いた。先ほど起こったことを話してから初めて口を開いた。

 

「あなたは、なぜ守れなかったの」

 

「・・・・・」

 

 声のトーンは普通だ。端から見れば、普通の、ただの、どこにでもありうる会話。しかし、状況を知っているキリツグからすれば、それは悲痛な叫びに他ならなかった。

 

「いえ。違うわね。あれは、私のせいよ。私の誤り」

 

「違うな。あれは、俺の失敗だ」

 

 今度はシリアスな声のトーンで話す。

 

「俺が気を抜いたからだ。言い訳にしか聞こえないだろうが、あのときは桜のことは考えてられなかった」

 

 遠坂が何を思っているか分からない顔をこちらに向けた。

 

「大丈夫さ。俺がなんとかする」

 

「でも」

 

「しなきゃならんのだよ。そうしないと気がすまない。そういうもんだろ?男ってのは」

 

 遠坂の瞳に滴が溜まる。

 

 そうだったな。この子も、まだ、ただの女の子だった。

 

「それで悪いが、士郎のことを頼む。あれは、恐らく耐えられないだろう」

 

 アイツもどうしようもなく男なんだが、異常なほどに正義の執行者だ。アイツの性格上、助けにいく他、考えることはないだろう。

 

「ええ。分かったわ。ありがとう、キリツグ」

 

「それは、俺が帰ってきたときに取っておいてくれ」

 

 そして俺は縁側から庭へと出る。

 

 サァーっと、優しい風が吹いた。

 

「キリツグ・・・・・・桜を、お願い」

 

 そう言われた俺は、遠坂の方に向き直した。そして、サムズアップポーズをして、衛宮邸を出た。

 

 背後に弓兵の魔力を感じながら。

 

**********

 

「まさかここまで事が早く進むとはな」

 

 そこは教会。対峙するのは神父と入れ墨の男。

 

「はじめは驚いたぜ。お前みたいな神父が、俺みたいな反英雄に話をもちかけるなど。神様には程遠いが」

 

「神とは、それぞれの中にあるものだ。形をもつものではない」

 

 薄暗い礼拝堂で語り合う二人だった。入れ墨の男は不適な笑みを浮かべる。

 

「あんたの願い。この偽聖杯が本物になり得たならば、叶えられるだろう。だが、これは違うものだ。アインツベルンの物ではない。故にちゃんとした器も存在していない。アインツベルンのガキを器に出来るかどうかも、わからん」

 

「心配はいらないだろう。時が来ればいずれな。お前のほうは、器足り得るものを手に入れたのだろう?」

 

 今度は神父が笑った。

 

「やっぱりか。あれをよこしたのはお前だったのか。なるほど、だからこそ、ここまで早く事が進んだわけか」

「私の愉悦のためだ」

 

「ふうん。まぁいい。ここで俺は失礼するよ。恐らくだが、客人が来るはずなのでね」

「ああ。よい夜を」

 

 そう言って、入れ墨の男は礼拝堂を後にした。そのすぐあと、奥からは重々しい足音が近づいていた。

 

「ふん。あのような泥と手を組むなど。貴様も落ちたものだな」

 

「ギルガメッシュか」

 

 ライダースーツの青年、英雄王ギルガメッシュが現れた。

 

「事と次第によっては、貴様の命もここまでだ。この我を、飽きさせてくれるなよ」

 

 それだけ告げてギルガメッシュは霊体化していった。

 

「飽きる、か」

 

 神父は遠い目でどこかを見る。

 

「既に私は、この世界に飽きているのかもしれないな、衛宮切嗣よ」

 

*********

 

「なぁそろそろ姿を現してもいいんじゃないか?アーチャー」

 

 キリツグはなにもない空間に声をかけた。既視感。まぁいいか。

 

「勝手な行動は許さないとあの男に釘を指したのにも関わらず、お前は一人で行動か?キリツグ」

 

 霊体化を解いたアーチャーからそう言われた。

 

 あの男とはもしかしなくても士郎のことを言っているのだろう。まぁ、そうだろうな。これじゃあ、言ってることとやってることがおかしい。

 

 しかし今回のこれは、士郎の無鉄砲とは違う。勝算ありきのものだ。それがなければ、一人では行かない。

 

「お前もいるじゃないか」

 

「ふん」

 

 アーチャーはキリツグから視線をはずし、遠くを見るような目で話始めた。

 

「お前は、私と同じ存在だ。それはお前が言っていたこと。それに加えて境遇も似ているとはな」

 

「アーチャーは、分かっていたのか?俺のことを」

 

「薄々はな。お前も気付いてはいたんじゃないのか?」

 

 気付く、か。確かに気付いてはいたのかもしれない。だが、誰からも言葉にされなかった。だからこそ、現実を目の当たりにすることはなかった。しかし、アヴェンジャーの言葉で、それは確実性をおびはじめた。あのときは、なにも分からない振りをしたんだが。

 

 セイバーも、いたしな。

 

「さあな。それを確かめるために会いに行くだけだ。アーチャーも、教えてくれるのか?」

 

「時が来ればだ。しかし、教える前に私の悲願は達成されるのかもしれん。いや、達成させると言った方が適している」

 

 アーチャーの顔は見えないが、声はどことなく寂しそうだ。

 

「ともかく、まだ俺たちは協力関係ってことでいいのか?」

 

「それは、お前が決めることさ。私はしがない弓兵。記憶喪失の名もない英雄を演じるだけだ」

 

 アーチャーの願い。彼の口から告げられない限り、確証は持てないが恐らく、その願いは俺の決めたこととは相反しているはずだ。こういうところは似ているのか?いや。

 

「お前、面倒くせぇな」

 

「五月蝿い。お前に言われたくないな」

 

「まあいいか。とりあえず霊体化しとけ。一応一人で行くってことになってるからな」

 

 そして、アーチャーは何も言わずに霊体化していった。

 

 また、俺一人の空間が出来上がる。

 

 俺はこれから、どうすればいい?話を聞いたとしてどうにかなるわけでもない。

 

「本当に、儘ならないな」

 

 俺は、アヴェンジャーの元へと急ぐ。

 

**********

 

「俺は行く!キリツグがそうしたなら、俺だって」

 

 衛宮邸では士郎が深夜にも関わらず叫んでいた。

 

「行かせることはできないわね。アナタが行っても足手まとい。それに一人でということだったしね」

 

「遠坂は、心配じゃないのか?」

 

 そう問われる凛の心のなかはぐるぐると回っていた。

 

「心配よ。当たり前じゃない。だけど、私はキリツグを信用してるは。彼なら必ず桜を助け出してくれる、はずよ」

 

 確証はなかった。だが、今はそう思うしかなかった。

 

「士郎。マスターを待ちましょう」

 

「セイバーも!?俺だって、キリツグを信用してるさ!だけど、何かしないわけにはいかないんだよ!」

 

 悲痛な叫び。士郎から発せられたのは力を持たないものの叫びなのか。

 

「少し黙っていなさい、坊や。アナタのそれは心配なんかじゃないわ。自らの正義が執行できない悔しさ。そうなんじゃないの?」

 

 キャスターの言葉は、士郎の心を抉った。士郎自身はそんなこと思っていない。しかし、それでも彼の心は抉られていたのだ。

 

「そんなこと・・・」

 

「僕たちにはキリツグさんを待つ義務がある。衛宮。少し黙れ」

 

 慎二がそんなことを言った。かく言う慎二も動きたくてしょうがないと言った様子だった。

 

「私たちはここを守るの。彼らの帰ってくる場所をね。それに、アーチャーも向かったわ。多分、大丈夫」

 

 力を持たない俺の心は荒んでいた。こういうときに役に立てない事ほど、悔しいことはない。俺はなんのために鍛錬を、セイバーと稽古をつけていたんだ?

 

 こういうときのためじゃないか!

 

「俺は、行く。行かなければならない。でないと、俺が、俺の心が、壊れてしまう!」

 

「士郎!」

 

 士郎は叫んだ。心の内を叫んだ。彼を彼足らしめているものが、声を発した。

 

 そんな討論を繰り広げているなか、ソイツは現れた。

 

「さすがだねぇ坊主。男じゃねえか」

 

「?!」

 

 なにもない所から声がする。この声は・・・。

 

「ランサー!あんたは、また来たの?!」

 

「おうおうそう叫ぶなよ、嬢ちゃん。今回は、いや、今回もか。争うために来たわけじゃねえ。マスターの命令じゃねえしな。単独行動だ」

 

 ランサーが肩に槍を抱えながら、現れた。

 

「キャスター!あなたも何故気付かなかったの?!」

 

「何もしてこなかったから。何かをしていたら、即殺していたわ」

 

「おう、怖ぇ怖ぇ」

 

 ランサーはヘラヘラと笑う。俺達が戦闘態勢をとっているなかだ。流石は英雄というべきか。確か、クーフーリンと言っていたか?ケルトの英雄。

 

「話がある、坊主」

 

「な、なんだよ」

 

 一呼吸おいて、ランサーは答えた。

 

「お前のプライドを折らない闘い、手伝ってやるよ」

 

**********

 

「ここで間違いないだろう」

 

 アーチャーが霊体化を解かず俺にそう告げた。目の前にあるのは古い洋館。知れ渡っているのならば、お化け屋敷とか、そういう風な呼び名がついていることだろう。それほど、ここは奇妙だった。

 

「確かに、風情は出てるな」

 

 俺は恐る恐る近づき、洋館の扉のノブへと手をかけた。

 

「・・・・・・」

 

 扉はギィという音をたて、開く。

 

 中も風情を裏切っていなかった。壊れた家具に、ホコリの匂い。人が住むには少し大変そうだ。

 

 俺は辺りを見回した。月明かりだけだ洋館内を照らしている。

 

「来たぞ、アヴェンジャー」

 

 俺は叫んだ。高い天井だからか、声が反響していた。

 

「おう、よく来たな」

 

 更に薄暗い、数ある部屋の一室から、声がした。

 

「こっちへこい」

 

 俺は声のする方向へと向かった。

 

 その部屋の扉を開く。そこは大きな窓があり、月の強い光が差し込んでいた。

 

 アヴェンジャーは部屋にある椅子にあぐらをかきながら座っていた。こいつ、器用なことをする。

 

「よくここが分かったな」

 

 不敵な笑みを浮かべ、そう言った。

 

「まあな」

 

「そこにいるアーチャーのお陰か?」

 

 気付かれている。まぁ当たり前か。最弱とはいえこいつもサーヴァント。

 

「バレたか。まぁいいさ。アーチャー、出てこい」

 

「了解した」

 

 そう言われアーチャーは霊体化を解いた。

 

「約束とちげぇなぁ。確か一人でこいと言ったが」

 

「勝手に着いてきたんだ。仕方ないだろ」

 

「へぇ?まあ、一人でこいって言ったのは、お前のためなんだがな」

 

 アヴェンジャーは胡座をとき、椅子に座り直した。とは言っても礼儀のなってない格好にはかわりない。

 

「さて、桜を渡せ」

 

 そう言ったのだが、アヴェンジャー少しおかしな顔をした。

 

「あ?ちげぇだろ。お前が言いたいのは、『俺のことを教えろ』じゃないのか?」

 

「それも知りたいさ。だが、それは2番目だ。桜を救わにゃ、意味ないだろ」

 

「偽善者ぶるなよ、お前のクセに。・・・・・・まぁ、いい。桜はこの奥にいる」

 アヴェンジャーとキリツグはにらみあった。キリツグは明確な嫌悪。しかしアヴェンジャーの視線は、それとは違う。いや、これも嫌悪なのだろう。言うなれば、同族嫌悪か。

 

「急がなくても、大丈夫。なにもしていないんだからな。まぁ、流石に彼処にずっといるのは体に悪いが」

 

 そのやり取りを見ているアーチャーは、ずっと黙りこくったままだった。話に入れないのか、入ることをしないのか。アーチャーの場合は後者だろうが。

 

「とりあえず聞いとけ。お前のためにはなる話だからな」

 

 キリツグは人知れず息を飲んだ。

 

「じゃあまず、どこから話そうか。そうだな。俺が生まれたときから、だな」

 

*********

 

 俺達が生まれたのは第三次聖杯戦争の最中。アインツベルンが無茶な方法でサーヴァントを召喚した結果、アヴェンジャーという悪の塊が産まれ出でた。

 

 しかしまぁ、お前も知っている通り、俺は最弱のサーヴァント。英雄がぞろぞろいるこの聖杯戦争で生き残れるはずがない。

 

 アインツベルンの策略もむなしく、俺はすぐに敗退し、聖杯へと帰っていったわけだ。

 

 だが、そこからが間違いだったのさ。

 

 もちろん、俺という悪を呼び出した時点で、間違いは起きていた。しかし、聖杯へと帰ったことで、それは完遂された。

 

 俺という悪が、聖杯を汚染した。

 

 それ以降、英雄とされない者さえもがサーヴァントとして召喚されるようになったってのは、まぁ関係ないか。

 

 第三次は、聖杯の「器」が破壊されたことにより終結した。

 

 そして、ここからお前の物語が始まる。

 

 聖杯戦争の関係者として裏方に徹していたある魔術師が、聖杯のかけらを手にいれた。無論、偶然ではない。自らの意思で探し、見つけ出した。

 

 その魔術師は、それを故郷へともって帰り、これを利用できないかと考えた。

 

 故郷には数人の魔術師がいてな。魔術師たちはこのかけらを使って、擬似的な聖杯戦争を起こせないかと考えたのさ。

 

 聖遺物なら問題なかった。なんせ、そこは騎士王アーサー・ペンドラゴンの生まれた地とされる場所であり、そこにはあの、聖剣の鞘が存在していた。

 

 まぁ、今その場所はなく、鞘も紛失したとされているが。

 

 魔術師たちは、聖杯召喚の儀を執り行った。

 

 しかし、失敗に終わった。名もない魔術師の集まりだ。高貴な家柄の者など一人もいない。失敗は、目に見えていた。さらに、歪んだ聖杯ならざる物が産まれてしまい、魔術師たちはそこに飲まれてしまった。

 

 この騒ぎは、誰の目にも止まることなく、終わりを告げた、かに見えた。

 

 それから約70年後、ある英雄の墓の前に、一人の赤ん坊が召喚された。

 

 生まれた、とか置き去りにされた、とかじゃない。召喚されたのだ。つまり、あの時に行われた召喚の儀は成功していたのさ。数人の魔術師の命と、70年でコツコツと組み上げられてきたエネルギーによって。

 

 そいつは、サーヴァントだった。

 

 1本の剣、聖剣を抱えながら産声をあげた。

 

 そう、そいつは騎士王アーサー・ペンドラゴンその人だった。

 

 

**********

 

「・・・・・・」

 

「なんだ?それほど驚いていないようだが」

 

 キリツグは、アヴェンジャーの話を聞いても表情ひとつ変えなかった。依然として、姫を救う騎士のような面持ちである。

 

「驚いてないってのは、嘘だ。今じゃ、俺んなかの何かが、こう、グルグル回ってるよ」

 

「ふうん・・・」

 

 アヴェンジャーは面白くない、とでも言いたげな顔を向ける。

 

「まぁいい。その先を話そうか。もしかしたら、ここからお前の記憶と一致していくだろう」

 

**********

 

 赤ん坊として召喚されちまったのは、魔力の不足と儀式が不完全だったためだ。ただ、呼ばれている最中に退行したわけじゃない。そいつは元々赤ん坊だったんだよ。

 

 まだ物心もつかない、純粋な光と闇を持つ生命に、俺たちは目をつけた。正規の聖杯ではない故に、俺達側からの接触も容易だったのさ。だからこそ、その時の状況と、「これから」を考え、赤ん坊の時代から召喚した。

 

 もちろん、英雄アーサー王じゃない。ただの赤子のアーサーだ。王でもなければ、英雄でもない。さっきいったろ?英雄じゃないものでも召喚されるようになったって。こういうこともあったのさ。

 

 だからこそ、何色にでも染まるはずだと考えた。俺たちはその赤ん坊を、泥に浸した。

 

 しかし俺たちの泥を一身に受けた赤ん坊は、あろうことか受肉してしまった。これは、俺たちにとっても計算外だった。こんなことになろうとは。他のサーヴァントを召喚させようにも、魔力もなにも残ってない。故に俺たちは、その事象を放棄し、次の機会を待った。

 

 だがここでひとつ問題が起きる。それは、アーサー王のいる時代の未来だ。アーサー王になりうる人間が召喚され、受肉されてしまっては、誰がアーサー王になる?

 

 しかし、それは些細なことだった。

 

 本物のアーサーの家族は、息子の失踪に嘆き、それを打ち払うかのように、また子を成した。

 

 次の子供は女の子。

 

 名をアルトリア。アルトリア・ペンドラゴン。

 

 その娘が、今現在どのように扱われているかは、容易に想像できるだろう?

 

 歴史には強制力というものがある。あるひとつの転機に至るまでに、無理矢理アーサー王という存在を作り上げたのだ。それが、アーサー・ペンドラゴン。今の歴史のアーサー王だ。

 

 何故聖杯戦争におけるアーサー王は女なのか。それは、まぁ、俺たちの仕業ってわけだ。

 

 だが勘違いするなよ?俺達が無理矢理作り出した訳じゃない。歴史がそうさせたんだ。

 

 それに、お前がここに来なければ、アルトリアは産まれなかった。言い方は悪いが、アイツはお前の代わり。でもよかったじゃないか。兄妹が、遠く離れたこの土地と、時代で出会えたのだから。

 

**********

 

「なるほどな。やっぱり俺は、ただのにんげんじゃあなかったのか」

 

「いろいろと匂わせていたつもりだったんだがな。お前が違うものに染まっていったおかげで、お前の中の俺たちは、さっぱりお前への干渉ができなくなっていった」

 

 外は強い風が吹いているのか、窓をガタガタと震わせていた。

 

「どういうことだ?この世全ての悪が、俺の中にいたってのか?」

 

「黙って聞いてろ。最後まで話してやる。お前が自分を保っていられるか、それが問題なんだが。まぁ、それは心配いらないか」

 

**********

 

「ランサー・・・。ランサー!」

 

 士郎は走っていくランサーの背中をやっとのことで追いかけられていた。その背中に対し、声を投げかける。

 

「なんだよ坊主」

 

 うるさいとでも言いたげに、気だるそうに答えた。

 

「お前は、なぜ俺に協力する?」

 

 それを聞いたランサーは足を止めた。いきなり止まったので、背中にぶつかってしまった。

 

「っ・・・!急に止まるなよ!」

 

「俺はただ、あの男が気に入らないだけだ。いや、目的もあるんだろうがな。それは、達成出来てから話すことにする。それまでは、不可侵だ」

 

 士郎の目を一真に見つめ、そういった。

 

「ランサー・・・。何か、あるのか?」

 

「言ったろ?不可侵だと。先を急ぐぞ。あの黒いマスターが、どうなるか。もしかすれば、お前にかかってる」

 

 それ以降は、言葉を交わさずに走る。

 

 この男は、悪い奴じゃない。根拠はないが、そう思った。走る背中を追いかけながら。

 

 ランサーの目的。この男なりの正義があるのか。そうであると信じていたい。

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