Fate/the alter   作:zaregoto

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Staynight篇
#01 青年の名


 俺はあの災害のあと、聖堂協会に保護された。誰一人身寄りもなく、まさに天涯孤独な状態であったからだ。故郷の村も、なにもかも、俺には残っていなかった。

 

 しかし、なぜ俺が。確かに魔術の素養はあったものの、特筆すべきものではなかったはずの俺が、どうして保護されたのかというと、それは故郷にあったはずのものがなくなっていたからであった。

 

 それは聖剣の鞘、とも呼ばれる、聖遺物。

 

 アヴァロン。かつて、アーサー王が聖剣エクスカリバーを納めていた鞘である。アーサー王の故郷とされる村にあった、とされているものであったのだ。真実は分からない。しかし、聖堂協会がここまで動くとなると、確かに俺の側にあったのだろう。

 

 さらに俺はアーサー王の子孫と推測された少年だった。確実性はないものの、俺自身がアーサー王の聖遺物であることは、言うまでもない。本当に俺がそんな存在であったのならばの話だが。

 

 聖堂協会に保護されたはいいが、俺は全く魔術に対する知識を持ち合わせていなかった。父も母も、魔術師ではなかったように思える。本当はどうかは分からないが。

 

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 俺は冬木の町を歩いていた。というよりも、途方に暮れていたといった方が正しい。あの少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンから言われた衝撃の事実。

 

 衛宮切嗣の死。それは俺にとっては目的をいきなりむしりとられた行為に他ならなかった。切嗣に救われ、切嗣を追い、切嗣を目指した俺にとって。

 

 ヒーローの死というものは、それをそう見ていた人間にとって人生の転機のようなものだ。それを良い方に向かわせるか否か。それができるのは自分だけなのである。

 

「俺はなんのために、魔術を学んだんだろうな。まぁ切嗣と会うためだけに魔術を学んだわけじゃあないけど」

 

 それでも、目標はあった。切嗣とともに人を救う。それが俺の目標であった。彼と同じ舞台に立てば、俺もヒーローになれるんじゃあないかと、そう確信していたからだ。

 

********

 

「お兄ちゃん、ううん、キリツグって呼ぶね」

 

 イリヤスフィールは笑顔になって俺に言った。

 

「あなたも殺さなくちゃいけないみたい。キリツグっていう名前だし、それにどことなくあの男に似ているし、それに」

 

 彼女の笑顔は、この状況でなければ、ほほえましく、無邪気にしている少女のもののはずだった。しかし、いまの彼女の笑顔からはひどく不気味さが感じられた。感じられるほど、俺は恐れていた。彼女の中にある。底知れない闇に。

 

「今は凄く暇なの。まだサーヴァントも揃いきってないから、聖杯戦争はまだ始まらない」

 

 戦いに飢えている。まったく、どこの闘士だよ。

 

「だったら俺もサーヴァント召喚しないとな。俺にだって聖杯戦争に参加する権利くらいあるはずだ。そうすればもっと楽しくなると思うぜ?お前にとっては、だがな」

 

 声をひきつらせながら言った。俺にとって今できる最大のことであったのだ。

 

「うーん、じゃあキリツグは私に殺されてくれる?聖杯戦争が始まったら」

 

 またこれだ。どうやら、イリヤスフィールは、よほど切嗣のことを恨んでいるらしい。いったい、何があったのか。

 

「そうだな殺されるかどうかは分からないけど、お前を退屈はさせないつもりだ。これでも一応魔術師なんだ。魔術師のプライドなんて持ち合わせたつもりはないが、男としてはこんなところで犬死にはできないんだよ」

 

 そう言った俺の言葉を聞いたイリヤスフィールは、殺気をおさえた。俺でもわかるくらいに、ここ一帯の空気が変わった。

 

「分かった。うん、じゃあまだ殺さないでおいてあげる。それにまだお日様がでているもの。できれば戦争はしたくないものね」

 

 万事休す、とはこのことだ。寿命が縮まった気がする。

 

「そいつはありがとうな、お嬢ちゃん。お前の慈悲に感謝するよ。これで貸し1だな」

 

 手をフラフラとして、体の緊張をとく。まだあの状態が続いていたら危なかった。どちらにとっても、だ。

 

「私のことはイリヤで良いよ?どうする?お茶でも飲んでいく?」

 

 イリヤは後ろに手を回し、不気味ではない、無邪気な笑顔を向けた。アインツベルンの老害はこんな少女にまで、こんなことをさせるのか。そう思うと、腹のそこにあった何かがふつふつと煮えていく音が聞こえるような気がした。

 

「いや、遠慮しておくよイリヤ。このあとはやることがあるんだ。わるいな」

 

「そう、つまんない。まあいいわ、もう一人のお兄ちゃんに会ってくるから」

 

 彼女の口からはもう一人と放たれた。もう一人、俺と同じ?いや、そうそうそのような状況になる人間なんていない。であれば、切嗣の

関係者なのだろうか。

 

「もう一人って、どういうことだ?」

 

 考えるのをやめ、素直に聞いてみることにした。これ以上考えていても、答えはでないと、そう悟ったからだ。

 

「この町にね、切嗣の息子っていう人がいるらしいんだ。つまり、私の弟なの。ふふっ、早く会いたいなぁ」

 

********

 

「衛宮士郎、か」

 たしかにイリヤはそう言っていた。衛宮士郎、衛宮。そんな名字二つとないだろう。切嗣の関係者であることを示している。しかし、彼は天涯孤独だったはず。それに、人となりを聞いている感じだと、誰かと結ばれ、子を成すなんてこと、あまり思えないんだが。

 

 これほど切嗣のことを語っている俺なのだが、実際に彼に会ったことは過去一度しかない。救われたあの日、一度だけだ。なのになぜこれほどまでに彼のことを思い続けられるのか、自分にさえ分からない。この感情が恋だと言われたのなら、そうなのだろうと納得してしまうだろう。いや・・・納得しちゃあだめなんだろうけど。

 

「会ってみる他ないのか・・・いや・・・でもなぁ」

 

 若干の引け目を感じる。彼の息子であるという士郎くんのことは知らなかった。ということは、魔術とは一切関係のない人なのだろう。俺が接触するということは、彼を巻き込むということになる。

 

「巻き込むのはだめだ。こんな世界に、彼を連れてくるわけにはいかない。切嗣だってそうしたから、彼のことは知られていないんだ」

 

 だとしたら、これからどうするべきなんだろう。聖杯戦争には参加するつもりはなかったけど、イリヤと約束してしまったからな。願いはないけれど、参加するしかないだろう。約束は大事だ。

 

 空は赤みを帯びてきていた。もう日が傾いている。こちらについてから、もうそんな時間が経っていたのか。アインツベルンの森にいた時間が長かったせいなのだろう。

 

「まずは、どこを拠点にするべきか。日本はよくわからないからなぁ。俺のいた国よりは治安はいいだろうけど、野宿だけは避けたいよな」

 

 この町のことを知ることも必要だろう。戦っていく上で、戦地状況を知ることは重要だ。こういうとき、俺のことを知っている人間がいれば楽なんだろうな。

 

 いや・・いる。俺のことを知っている人物が一人。魔術教会から派遣されたあの男。俺的には、あの男に頼りたくはないんだが。やむを得ないだろう。

 

「というか、あいつも前回の聖杯戦争の参加者だったはずだ。初めからあいつのところに行けばよかったんじゃないか。いや・・・でもなぁ」

 

 あの男は初めて会った時から信用できなかった。信用にたることをされなかったし、してくれるような人間でもなかっただろう。

 

「行ってみるか・・・」

 

********

 

 あの男のいる教会は、先ほどいた場所からそう遠くない場所にあった。異様な雰囲気を放つ教会。協会がこんなものでいいのか、と思うくらいの場所だった。

 

 俺は教会の門扉をたたく。静寂の中に響く音。不気味そのものだ。本当に来て良かったのかと、俺は内心後悔していた。

 

「邪魔するぞ」

 

 ギイという音を立てながら扉を開く。中は普通の教会だった。いや、ここは普通の教会なんだろうけど、あいつがいるって時点でもう普通じゃないことは確かだった。

 

「おや、これはこれは」

 

 天井から差し込んだ光のもとにその男は立っていた。

 

「久しぶりだな、コトミネ」

 

「だれかと思えば、聖堂教会の異端児ではないか」

 

「うるせぇな」

 

 言峰綺礼。聖堂教会から派遣された第5次聖杯戦争の監督役であり、前回の生き残り。加えて、目が死んでいる男。

 

「なぜ君がここにいる。観光かね?」

 

「馬鹿言うな、俺は切嗣を訪ねてはるばるここ日本まで来たんだよ。観光ってのもあながち間違いじゃあないが、楽しみに来たわけじゃあない」

 

 切嗣、という単語を耳にしたコトミネは、一瞬表情が歪んだ。しかし、すぐに元のいけすかないものへと、戻っていた。

 

「ふむ・・・なるほど。しかし、衛宮切嗣は・・・」

 

「知ってるよ、死んだんだろ?ついさっき聞いたところだ」

 

 淡々とした口調のまま、俺を見据える。

 

「では、なぜここに。目的がなくなったのであれば、早々にロンドンへ帰ればよかろう。まさか、聖杯戦争に参加するとでも言うのではないだろうな」

 

「そのまさか、だよ。わけあって俺も聖杯戦争に参加しなくちゃあならなくなった」

 

 それを聞いたコトミネの変わらない表情は、若干変化したように見えた。

 

「だから、宿を提供してくれ。俺は今どこにもいくところがない」

 

「だれにも頼ろうとせず、協会から逃げ出した君が、まさかこの私を頼ろうとするとはな。面白い。しかし、君の面倒なぞ、見ていられないし、見る筋合もない」

 

 平然と俺を拒絶した。まるで呼吸をするかのように。生理現象なんだろうなこいつにとって。人を苦へと陥れる行為は。

 

「俺だっていやだよ。あんたなんかに頼る行為はな。だが、頼りだった切嗣が死んでいた今、俺の知り合いはお前しかいない」

 

「それこそ筋違いだと思わんかね?面倒を見ている弟子であるならまだしも、なぜ君の面倒を見ないといけないのだ」

 

 この阿呆は何をぬかしているのだ、とでも言いたげな表情で続ける。

 

「聖杯戦争の参加者を保護するのは、監督役の務めだろ」

 

「それは、聖杯戦争に敗退、または棄権したらの話だ。君は敗退も棄権もしていない、さらに参加すらまだしていないのだからな」

 

 こいつは阿呆あろうにも関わらず、馬鹿でもあるのか。かわいそうに、とでも言いたげな表情だ。まぁ、そんなこと一切言ってないんだが。

 

「それは・・・そうだが」

 

 こんな問答を続けていても埒が明かないのは明白だった。この男に俺を救う意志は微塵も存在していない。まったく、聖職者の風上にもおけない野郎だ。

 

「しかし、君の知り合いであった者の近親者ならばこの町にいるぞ」

 

「は?衛宮士郎くんのことか?俺は彼をできるだけ巻き込みたくは・・・」

 

 一瞬、士郎くんの事を言ったのは間違いだったか、と思ったがコトミネは、気にしている素振りを見せなかった。

 

「時臣氏の忘れ形見がこの町に住んでいる。その娘なら君も知ってはいるだろう」

 

 時臣。・・・そうか、遠坂時臣。前回の聖杯戦争で亡くなった遠坂家の当主。

 

「遠坂・・・凛、だったか?そういえば、そうだったな。いやでも、しかし、面識はない。一度彼に写真を見せてもらったが、、、」

 

「だったらそちらをあたりたまえ、迷える子羊よ。神を信仰していない君に、神がほほ笑むと思うか?」

 

 そう言われ、俺は教会を追い出された。

 

********

 

 そうして現在に至る。行く場所は決定したものの、どこにあるかを聞き忘れていた。この町のどこかにあるのだろうが、如何せん広すぎた。

 

 時臣氏の娘、遠坂凛に会うために俺は・・・道に迷っていた。

 

 時臣氏と出会ったのは、俺がまだ聖堂教会で保護されていた時だ。たまたま宝石魔術を独学で勉強していた時、その人と出会い、ご教授を受けた。俺にとってはいけ好かないオヤジだったが、魔術の腕は一流だった。さすがは御三家のひとつに属するだけのことはあった。なぜその時俺に宝石魔術を教えてくれたかは謎だ。そんな人には見えなかったが。人は見かけによらないということだったのだろうか。

 

 歩みを進めていくうちに辺りは夜になっていた。いよいよ宿を探さなければならない時になっていたのだ。早く、遠坂低を見つけないと。

 

 そう思い、俺は坂を上り、上からこの町を見ることにした。御三家のひとつの家だ。他とは一線をかくすものであるに違いない。イリヤのお城然り、だ。

 

「あれは・・・学校か?」

 

 歩いていくうちに学校らしき場所に着いた。学校へは通ったことがないから、とても新鮮だった。しかも日本の学校は海外のものとは少しばかり違っていると聞く。

 

「ん?」

 

 音がした。いうなれば剣戟の音。戦闘音。平穏なこの町には似つかわしい、戦争の音だ。それも、この学校の中から。

 

 俺は意を決してこの中に入った。関係者ではない俺にとっては不法侵入他ならないが。それでも、音の主を知りたかった。

 

「誰だ!」

 

 男の声が響いた。警備員に見つかったのかと肝が冷えたがそうではなかったらしい。そのすぐあと、見知らぬ青年が走って行ったのだ。俺と同じように不法侵入でもしたのだろうか。

 

 いや違う。これは、魔力の波形。

 

「まさか・・・」

 

 すぐに門をよし登り音のした方へと急いだ。どうやらグラウンドだったらしい。だったというのも、クレーターのうよな穴ぼこだらけで、グラウンドとよぶには少しばかり、気が引けたからだった。

 

 俺の予想は的中していた。ここでは戦争が行われているようだった。それもただの戦争ではない。そう、聖杯戦争だ。

 

 俺はすぐに逃げていった青年の方へと向かった。

 

********

 

「カハッ・・・」

 

 俺は青いタイツの不審者に蹴り飛ばされた。常人のそれとは違う、明確な殺意。それを孕んだ一撃だった。

 

「わりぃな坊主・・・見られたからには、生かしちゃおけねぇんだよ。大丈夫だ、苦しむ暇もなく、お前を殺してやる」

 

 俺の命はここで終わる。じいさんの夢を達成できぬまま、俺は終える。なにもできない。そうならないために、毎日鍛練をかさねていたのに。俺の人生はなんだったんだ!

 

 そう思った、時だった。

 

「な・・・!?」

 

 ものすごい速さで何かが飛んできた。あれは、黒板消しか?

 

 青タイツに直撃し、黒板消しらしきものは粉々に砕け散った。

 

「大丈夫か?兄ちゃん。間一髪だったな」

 

「あ、あんたは・・・」

 

「まあいいじゃないか。とりあえずこの場をなんとかしねぇと」

 

 俺を救った男は、じいさんに似ていた。風貌がそうさせるのか。いや違う、この感覚は違う。まるで、ヒーローに出会ったかのような感覚。

 

「お前、何者だ!」

 

 チョークを持ちながら、男は名乗った。

 

「キリツグ・E・ペンドラゴン。正義の味方だ」

 

 その時、青年、衛宮士郎の目には彼が目指す男、衛宮切嗣と重なって見えていた。

 

 

 

 




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