「はぁっ!!」
キリツグは剣を振った。
「フン!」
ギルガメッシュは表情一つ変えず、剣を受けきる。
キリツグがセイバーと同じ姿になってから、どれくらいたっただろう。恐らくまだ数分しかたっていない。だが、それ以上の時間がたっているような気がしてならなかった。
二人の剣を追う。
一撃。
二撃。
そして三撃と。
これが英霊の、戦いなのか?人の出る幕でないことは、はっきりわかる。更に言えば、これまでの戦闘との比ではない。
そんな戦いに、キリツグが関与している。
彼はなんなんだ?思えば、はじめからだ。彼はどうしてここにいる?俺たちが巻き込んだのか?それとも、俺たちを巻き込んだのか?
彼について、知らないことが多すぎる。1度、遠坂がいたときに少しだけ話していたが、それもあたりさわりのない、普通の話だった。
そりゃあ、人は誰しも嘘をつく。しかし、これには限度がある。このことは話すべきだったんだ。
彼は、英霊なのか?
「・・・や」
なぜ黙っていた?どこにそんな必要がある?
「ぼ・・・・や」
彼は俺に嘘をついていたんだ。どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、ドウシテ!!
「ぼうや!!」
「はっ!?」
キャスターに声をかけられて、ふっと我にかえる。
俺はいったいなにを?
「大丈夫?一人でブツブツ言っていたけど」
「ああ。大丈夫だ。少し、疲れただけ」
キャスターが、それにイリヤが心配の眼差しを送る。俺はどうしてしまったんだ?まるで、何かが俺の中に入ってきたみたいな、そんな感覚だった。
士郎は、二人の戦闘に目をやった。
----------
「我が財よ!」
無数の宝具が飛んでくる。俺はそれを全て叩ききった。それでも、攻撃の手が弱まることはない。
「あんたの倉庫は、四次元ポケットかよ。どれだけ入ってんだ?!」
「どこまでも、だ。この世の財の全てがここに詰まっているわけだからな」
正直、勝算はなかった。イリヤを救うために割り込んだはいいものの、このままでは自分が危ない。
「そんなに入ってんなら、少しくらい俺にくれたっていいだろ?」
「フン!戯れ言を!これは全て、我のものだ!」
「我が儘か!」
そんな会話を続けながらでも、戦闘は続いていた。いや、俺からしたら続けざるを得なかった。
ここで攻撃の手を緩めれば、確実にやられる。野生の感が、そう伝えていた。
やむ終えないかもしれない。この状態で出来るかどうか分からないが、やってみるしかない。
「やった場合、魔力はどこから消費されるのか。気にしたら負け、か?」
「何をブツブツ・・・」
ギルガメッシュが剣を構え、特攻してきた。
「言っている!」
「うぉっ!!」
キリツグはそれをなんとかかわし、出来るだけ距離を取る。
それを見たギルガメッシュが、なにかに感ずいたのか怪訝そうな目を向けた。
「何をしようとしている?」
「何って、あんたを倒すんだよ、王様」
「はっ!それこそ戯れ言だ。我は我にしか倒すことはできない!」
会話を続ける。
「戯れ言なのは分かってるさ。あんたは強い。とてつもなく、だ。だが、それでも、俺はあんたを倒す」
「やって見せろ、騎士王!!」
二人は距離を一気に詰める。キリツグは下から、ギルガメッシュは上から剣を振った。
ガキィィィイイィン!!!
重い金属音が響き、およそ人間のものとは思えないほどの衝撃が辺りに伝わる。
二人は拮抗状態だ。二人の足元には衝撃によって出来たクレーターが、彼らの異常さを物語っていた。
「っく!」
キリツグが膝をついてしまった。
「どうした?騎士王」
「なんでもない、さ!」
キリツグは剣を振り切った。今度はギルガメッシュ側が距離を取った。
「あんたも、本気を出せよ!悪いが、その程度じゃ、俺は倒せないぞ。その慢心が、あんたを殺す!」
「はっ!慢心せずして何が王か!だがまあよい。我が
そう言ったギルガメッシュが、異次元空間、もとい彼の宝物庫から、一本の剣を取り出した。
いや、あれは、なんだ?
あれをなんと形容したらいいのかわからない。剣?槍?歪な色を放ちながら、螺旋回転するソレを見て思った。
「あれは、やばいな」
キリツグは無意識にそう呟いていた。およそ勝機という勝機が、見いだせない。
「さあ、いくぞ。騎士王!」
ギルガメッシュは乖離剣を頭上に掲げる。
空は割れ、大気はその剣の道を作り出す。
「やってやるさ。俺は騎士王様だ!」
キリツグは鎧を纏わせるために使う魔力を全て剣に集中した。すると、キリツグの服装は元のものに戻る。それに呼応して、キリツグの剣は、とてつもない輝きを放ち始めた。
二人の世界が作り出された。天国と地獄を彷彿とさせるそれは、この世の終わりを見せているかのようだった。
「
「
剣撃が放たれる。
ゴオォォォォオォ!!!
この世のものとは思えないほどの轟音が響き渡る。
二つの波動は、そして、ぶつかった。
カッ!!
爆発、だろうか。辺り一面が真っ白に映る。
先程のものとは比べ物にならない衝撃がやってきた。士郎たちは、キャスターの結界によって、なんとか身を防いでいた。
衝撃による砂煙が晴れる。
「くっ・・・そ・・・」
見えてきた光景は、右腕を庇い方膝をつくキリツグと仁王立ちしているギルガメッシュだった。
「フン、他愛ない」
キリツグが押し負けた。その結果だけを残し、キリツグは気を失った。
----------
「王よ、あなたには人の心が分からない」
円卓のある騎士が、騎士王アーサー・ペンドラゴンに告げ、円卓を去っていった。
王は常に孤独だった。選定の剣を引き抜いたあの時から、王は、アルトリウスは孤独となったのだ。
王は、異常だった。そもそも、前提として彼は違ったのだ。人間として育てられず、ただ王であるために育てられた。
生まれながらにして化け物。人と竜の間に出来た異端児。その上、彼の目にはブリテンの平和のみしか存在しない。かの王、魔竜ボーディガーンすらも凌駕する怪物だ。
キャメロット城が笑顔に溢れていても、彼は苦悩していた。それを眺めるのは、師マーリン。
選定の剣を引き抜くとき、彼は言った。
「君がこの剣を引き抜いた瞬間、君は君ではなくなるよ。そして、きっと、君はむごたらしい最後を向かえる、と」
彼はそれでも剣を抜いた。
「俺は理想の王としてあるべきだ。このブリテンを導くことこそ、俺の悲願なのだ。たとえ自分が化け物となろうとも、王であることを望む」
そして。
そして。
そして後に彼が、そして彼の息子が命を落とすカムランの丘を目の前にし、輩を排するため足を進めていた最中、一筋の光が、王を包んだ。そして王は光の粒となって消えていく。
それを見ていたのは、すべてのブリテンの民。すべての人間が王の奇跡だと、そう理解した。ただ一人、塔に幽閉された魔術師を除いて。
「なるほど。君は、君の運命は、変貌してしまったようだね。どうやらこの世界の過去で何かがあったらしい。君という存在が消えてしまった。これが良かったのか、悪かったのか。・・・いや、どうやら後者のようだ。この世界には、すでに終わりが訪れた。王よ、あなたという終わりを失ったこの世界は、終わってしまったようだ。恐らく、この世界の可能性は消え、新たな世界が生まれる。いや、どうやら私の予言は合っていたようだね。これが、君の、アーサー王としての最後。君は終わることも、始めることも出来ぬまま、君の世界は消えてなくなる。これが、君のむごたらしい最後。あぁ、悲しい。私の記憶も、消えてなくなるのか。中々に楽しい世界であったのに。最後に、一人の友人として、この言葉を送る。アルトリウス、よく、お休み」
その瞬間、その世界は消えてなくなった。
---------
「そうか、なるほど。俺は、そうだったのか」
少しの静寂のあと、キリツグは目を覚ました。どこか悲しそうな、いや晴々しそうな顔をして。
「騎士王。貴様、まさか」
ギルガメッシュの表情が高揚する。
キリツグはすっくと立ち上がった。ギルガメッシュに押し負ける前とはどこか、違っている。
「思い出した。全てというわけではないが、我が繁栄と衰退。あぁ、そうか。俺は、まだ終わっていなかった」
「面白い・・・面白いぞ!騎士王ォォォオオオ!!」
ギルガメッシュが乖離剣を振る。その瞬間、剣から暴風が巻き起こった。
しかしキリツグは焦ることなく、その一撃を凪ぎ払う。
「俺は、やり直すべきなのか?前に1度セイバーに言った。過去を変えることは、その時代に生きる総ての人間を否定することだと。だが、これでは」
「王であったことを否定するのか!?」
「違う!」
キリツグは咆哮した。
「これは俺じゃない。俺の垣間見た運命は、彼女の運命だ!俺が、押し付け、行使させた!俺が、たどるべき運命を!だから・・・」
キリツグは聖剣を地面に突き刺す。そこから魔方陣が形成される。
「俺は、彼女を!」
王は叫ぶ。宝具の名を。
「
辺りが光に包まれる。しかしこれまでの光とは違う。この暖かな光は。
「これは・・・」
ギルガメッシュは驚いていた。まさかここまでとは。しかしそれ以上に高揚していた。この戦いに。自分と同位置で戦う人間が現れたことに。
かつて戦った征服王を思い出すギルガメッシュ。
「フハ・・・・・・」
知らぬ間に笑みがこぼれる。
「固有結界・・・!?」
キャスターが呟く。
「俺の見た夢。それは、人間として、ただ純粋にブリテンを救いたかった!これは、その、夢の形!」
キリツグの背後、士郎たちがいる場所にはイリヤのいた城ではない、別の城が形成されていた。
そして、そこから一人の騎士が現れる。
城の上から眺める士郎は、目を凝らした。
「あれは?」
騎士はゆっくりと、キリツグの元へと行く。キリツグはゆっくりとその人物を見た。
「よく来てくれた」
キリツグはゆっくりと微笑む。
「ガウェイン卿」
「王よ、また貴方と巡り会えた。今度こそ、この剣を貴方に捧げる!」
「頼もしいぞ、ガウェイン!」
現れたのは円卓に属する太陽の騎士、ガウェイン。
「その剣、エクスカリバーの姉妹剣か。それも我が財!来るがいい!」
ギルガメッシュはもう一度、あの攻撃を仕掛けようとしている。
「しかし、私は貴方の夢。サーヴァントとなり得た私とは別の存在。そう思うと、些か悪い気がします」
「何を言うかガウェイン卿。お前が別の存在だとしても、俺はお前を求めたんだ。お前らを、な。旧友とまたこうして共に戦えること、誇りに思う」
ガウェインは不思議な顔をし、そしてすぐに微笑んだ。
「ん?何が可笑しいんだ?」
「いえ。貴方は変わったようだ。今の貴方ならば、恐らく・・・いえ、なんでもありません」
ガウェインはそう言って自らの剣を引き抜いた。
「旧友との再会に花を咲かせているところ悪いが!いくぞ!騎士王!」
ギルガメッシュが地獄を振るう。
「
「いくぞ!ガウェイン卿」
「はい!」
キリツグとガウェインも剣を構える。迫る一撃から城を守るように立つ。
「
「
キリツグは考えていた。自分の成すべきことを。アヴェンジャーから人としての過去を告げられ、さらには王としての過去を思い出した。この戦いが終われば、俺は。
この場所に立つことさえも、おこがましいのではないだろうか。この世界のブリテンの未来を作ったのは俺じゃない。キャメロット城を守ることは、あってはならないのでは?
本来なら、ガウェインは俺のことを知らない。だからこそ、これは偶像なのだ。俺の夢見た偶像の形。言い替えてしまえば、ただの妄想だ。
彼は、キリツグは苦悩している。
「
「
3つの攻撃がぶつかり合った。
----------
「ライ・・・ダー」
桜は落胆し、膝をついた。
アヴェンジャーの令呪により、自分で自分の首を突き刺したライダー。
「か・・・は、さ、さくら」
ライダーは息も絶え絶えの状態だ。恐らく、すぐ消滅してしまうだろう。
桜とライダーの側に、慎二は駆け寄った。
「ライダー・・・くそっ・・・僕が、不甲斐ないばかりに」
「慎二・・・貴方は変わった。今の貴方ならば、桜を任せられる」
「うるさいぞ!当たり前じゃないか。桜は僕の妹なんだから。僕は、ライダー、お前と戦いたかった」
慎二がそんなことを言うなんて。凛は素直に感心していた。一月前の彼ならそんなことは言わなかった。しかし、彼は変わった。キリツグと出会い、彼に救われてから。
ライダーは慎二の言葉を聞き、少しずつ消滅していく。そんな中、桜の方を向いた。
「桜、貴方はもう少し自分を出すべきです。そうでもしなければ、彼は振り向いてはくれません、よ」
「ライダー」
涙を流しながら、桜は聞き入る。
「化け物として扱われてきた私には、ここでの生活は輝かしいものだった。私を呼び出してくれたことに感謝します。本当に楽しかった。あぁ、それと、キリツグにもお礼を。彼には、とてもよくしてもらった」
体の半分はもう、光となっている。彼女は、聖杯に帰るのだ。
「ライダー!」
慎二の慟哭とともに、ライダーは消えた。桜の腕に確かな温もりを残して、聖杯へと帰っていった。
静かな、時間が流れる。
その中で、慎二は沸々と煮える怒りを抑えられなくなっていた。
「アヴェン・・・ジャァァアア!!!」
慎二が吠える。それでもアヴェンジャーはニヤニヤと嘲笑っていた。
「ははっ!たかが英霊が一体消えただけだろ?何をそんなに怒ってぅごほっっぅ!!」
アヴェンジャーが後ろへぶっ飛んだ。
凛はその状況に、目を疑った。慎二が右手に傷を負いながら、アヴェンジャーに振り抜いていたのだ。
「くっ・・・お前!どこにそんな力が」
「くそ爺のやってたことと同じだ。僕は、桜と同じ痛みを受けた!この身に、蟲の力を住まわせてな!」
「あんた・・・慎二!なんてことを!」
凛は慎二に叫ぶ。しかし、慎二は後悔した表情を浮かべていなかった。
「僕は、弱かった。間恫の家に生まれながらも、魔術回路を持たない役立たずだった。たが、それが理由じゃなかったんだ。僕は、強くなる努力をしていなかった!僕は知ったんだ!強くなる方法を!衛宮を、遠坂を、キリツグさんを、そして桜を見て!」
「だからと言って、蟲を体に入れるなんて・・・。そんなことをして、強くなったとでも・・・」
「わかってる!」
慎二は食いぎみに答えた。
「例え魔術回路が発現したからといって、いきなり強くなるわけじゃない。だが、僕は、ライダーと一緒に戦いたかったんだ。だから、無理をしてでも強くならなくちゃいけなかった!それが、以前の僕との決別の証なんだ!」
そうだ。以前の慎二ならば、こんなことは愚か、ライダーのために涙を流すことはしなかった。それどころか、誰かのために戦うなんてこと、あり得なかった。
この男は、学校の人間を殺そうとしたんだぞ?だが、彼の言葉に嘘は見えない。
「さあ来い!アヴェンジャー。たとえセイバーが役にたたなくとも、僕がお前を倒す!」
決意。
慎二の表情からはそれが、見てとれた。
その時だった。
「よく言った!坊主!」
その言葉と共に、後方から槍が飛んできた。
その槍は、アヴェンジャーが産み出した影を突き刺し、投擲者の元へと戻る。
「お前、随分と変わったな。なんていうか、魂が」
「ラ、ランサー?!」
赤い槍を肩に携え、青い槍兵が須賀田を現した。
「あんた、今までどこに。それに、士郎はどこへ?!」
「うるせぇな、その話はやめろ。思い出すだけでむしゃくしゃする。あの狂戦士、次に会ったらただじゃおかねぇぞ」
きまりの悪そうな顔とも、悔しそうな顔ともとれるような表情を浮かべ、その槍をアヴェンジャーに向けた。
「はっ!やるぞ坊主!俺は今、凄く苛ついてんだ。てめぇの戦いだろうが、勝手に助太刀するぜ」
「足手まといにはなるなよ!犬っころが」
「てめぇ後で穴だらけにしてやるからな」
----------
「はぁ・・・はぁ・・・」
固有結界が消えた。あっという間の出来事だった。魔力切れだろうか。キリツグの作り出した心象風景は、霞のように消え去ったのである。
「なるほど。確かに、強い」
全てがもとに戻ったあと、ギルガメッシュは右肩を庇いながら話す。
「久方ぶりに我を楽しませるか、騎士王」
「そう、か?俺は今にも倒れそうだがな」
全くその通りだった。ギルガメッシュの負傷状態と比較すると、明らかにキリツグの方が酷い。
それもそのはずである。彼は、英霊化したとはいえ、彼は元は人間だ。人間の体から英霊となったため、英霊と比べると明らかに少ない。
「フハ・・・フハハ!この場で貴様を殺すのは惜しい。幸い時間はまだある。あの聖杯が出来上がるまで、な。それまで、我はお前を待とう。どうやら、まだ真に強者となったわけではないらしい」
「くっ・・・分かるのか」
その通り。彼はまだ完全ではない。半分は英霊と化したのである。所謂、デミサーヴァントというやつだ。
「それまで、死んでくれるなよ。騎士王」
「英雄王」
ギルガメッシュはそう言うと、静かに霊体化していった。
「アイツ、目的忘れてないか?」
そんなことを呟いていると、背後で何らかの音がした。
士郎たちだ。
「キ、キリツグ?」
「ん?あぁ・・・」
士郎は俺の姿を見て、明らかに動揺していた。
それもそのはずだ。俺が、セイバーと同じ姿をして、あの英雄と戦ったのだから。
「その、格好は」
士郎は恐る恐る聞いた。イリヤもそれを見守る。キャスターは半ば分かったような顔をして、見ていた。
「見ての通りだ。どうやら、これが俺らしい」
士郎は、それを聞いてあまり納得していないような顔をしたが、すぐに笑顔を見せた。
「無事でよかった。それに、ありがとう。俺たちを助けてくれて」
「・・・・・・」
その時、士郎の後ろに隠れていたイリヤがキリツグの元へと飛び出した。
「うぉっ。どうした、イリヤ」
イリヤは答えない。だが、キリツグの服に顔を埋めて、涙を流しているのは分かった。
「あり、がとう。キリ、ツグ。・・うっ、グスン」
「約束、だからな」
キリツグはイリヤを優しく抱き止める。
まるで親子のようだ。士郎はそう考えていた。キャスターは、優しく微笑む。
「ねぇキリツグ?」
「ん?」
「また、今度、たい焼きたべよ?今度は私が買ってあげる!」
「・・・・・・」
天真爛漫なイリヤだ。俺はそれに対し押し黙った。
これからやろうとしていることが終われば、俺は。半ば決めかかっていた決意が、少し揺らぐ。ふと目頭が熱くなり、イリヤから顔を背けた。
「どうしたの?キリツグ」
「・・・いや、なんでもない。そうだな。また一緒に買い食いしよう。士郎、イリヤをお前の家へ連れ帰ってやってくれ」
キリツグは揺らぎかけていたものをもう一度確固たるものにする。
「ああ。分かったよ。キリツグは?」
「俺には、やることがある」
声を低くしてそう言った。
「それが終わったら、帰ってくるんだよな?」
士郎の言葉に、なんて言い返したらいいか困った。実を言うと、俺はあまり人と接することが得意ではなかった。幼少期を聖堂協会で過ごし、これといって人と接することをしなかった。時計塔でも、主に師匠としか話さなかったし。
「ああ。もちろん、その通りだ」
俺は、嘘をついた。
「キャスター、行こう」
「ええ」
キリツグはキャスターに魔力を分けてもらい、ゆっくりとその場を後にする。
その際、一度も後ろを振り向かなかった。ここで振り向いたら、決意がまた揺らいでしまうと思ったからだ。
「いいの?マスター」
キャスターが問う。
「ああ、いいんだよ。これが俺の決断だ。さぁ行こう、大空洞へ」
キリツグは、歩みを進める。それを止められるものは、おそらくいない。
----------
「これでいい。まさかこんなときに役に立つとはなあ。やはりすぐに物を捨てるのはよくない」
暗い暗い場所で、アヴェンジャーが言った。
「うん。ちゃんと足止めは出来てるようだな。よし」
アヴェンジャーは、ここにいるはずがない。今、ランサーたちと戦いを繰り広げているはず。
「生きている人間を使うのは忍びない。だからお前を使う。エコ精神万歳だ。これでこそリサイクル」
目の前にある水晶体を、撫でながら言う。
「さぁ、また俺のために動いてくれ、エミリア」