「・・・・・・」
暗い洞窟内で2つの陣営が向かい合っていた。
片方は敗北の色が
見える。片膝をつく刺青の男と、うつ伏せている神父。神父の周りには赤い水溜まりができている。神父は既に、絶命しているようだった。
「何故だ、キリツグ!何故、お前は勝利している!?何故、何故!」
刺青の男、アンリマユは叫び出す。
「お前は俺だろ!何故、俺と戦って勝利できる!?いいのか?この勝利の意味は・・・」
「分かってるよ、
既に人間であることを諦めた騎士王は、淡々と喋り続ける。
「だったら何故」
「うっせえな。もうもどれないんだから、しょうがないだろうが」
血に染まった聖なる剣をアンリマユに突き立てる。
「・・・ッカハ!」
突き刺した所から、泥があふれでる。黒く、黒く、真っ黒な泥。血の代わりにそれが出ているように見える。その泥は、まるで元からそうであったかのように騎士王の体にまとわりついた。
「個が、全に勝るわけがない・・・!俺がお前の中に帰る?ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな!元は、この俺だ!」
「知るかそんなもん。誰がそれを決めたんだよ」
騎士王は突き刺した剣を捻り、さらに強く差し込む。
「くそがぁぁぁ!!
アンリマユのもつ宝具が発動する。これは、自らの傷を、相手に写すというものだ。しかし・・・。
「何故だ・・・。何故発動しない」
騎士王は平然としていた。
もし本当に宝具が発動しているなら、痛いなんてものではない。死ぬ。ソレ以外の感情は思い浮かばれないはずだ。
「ハハハ。発動しているよ。発動してる。だけど、だけどな」
ヘラヘラと笑いながら、剣を持つ掌へ無意識に力が込められる。
騎士王は口から血を吐きながら、続けた。
「もっと痛いことがあるんだよ。俺には」
そう呟く騎士王を眺める魔女と狂戦士だった。魔女の表情はどこか寂しげで、狂戦士は静かに変わりゆく騎士王を見据えていた。
何かに気付いたのか、騎士王を睨み付けていたアンリマユの口角がつり上がっていく。
「は、ははは。ハハハはは、は、は、はははは!!そうか、そうかそうかそうか。あいわかった!お前は、お前は既に敗北していたんだったな!俺たちが、
まるで悪魔のような表情を浮かべながら、ゲラゲラと笑い出す。
「だが覚えておけよ、騎士王。俺は、終わらねえ。俺は、消える訳じゃねえ。お前の中に帰るだけだ。お前が主導権を握れるという保証もねえ。最大のギャンブル。お前は、それを分かった上で、だからこそこの俺を聖剣で殺したんだろう。やっぱりお前は人間だよ。人間以外にはなりきれない。騎士王なんかって呼ばれてはいるが、ただの人間だ!その体で、どこまで戦えるかな?キリツグ・・・」
消滅していく体にはお構いなしに、捨て台詞を吐くアンリマユ。つり上がった口角は戻らない。
そして、アンリマユは本当に消滅した。
「くっ・・・!?」
アンリマユの消滅のすぐあと、騎士王の体に変化が訪れた。肌は徐々に浅黒くなり、あるはずのない刺青も。さらに、持っている聖剣さえも輝きを失い、黒くいびつな光を放ち始めた。
「マスター」
心配そうに声をかける魔女。つらそうにその魔女を見返す騎士王。しかし、瞳から光は消えていなかった。
「大、丈夫。大丈夫、なはずだ。大丈夫じゃなきゃ、全部が無駄、に・・なるからな」
心臓の鼓動が早くなる。早く早く。血が全身に巡り、心臓に戻る。人間として当たり前の現象の速度が急激に上がっていく。
目の前が黒くなる。まるで全てから否定されているみたいに、虚構へと反転する。
ああ、そうか。
これが、これ・・・が。
「マス、ター?」
人間ですら、騎士王ですらなくなってしまった
そして微笑みを浮かべ、口を開く。
「全部、てめぇの自業自得だ。
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数日前。とある公園のベンチ。夜。
「・・・・・・」
黒いスーツに身を包んだイギリス人が、タバコをふかしながら座っていた。
キリツグ・E・ペンドラゴンその人である。
アーチャーと共に間桐桜を救いだして、少しだけ時間をもらい、1人物思いに耽っていた。とはいえ、少し先にアーチャーと桜はいるので、何かすればバレるのは目に見えていた。
「くそっ・・・」
アンリマユに、自分の真実を聞かされた。出生?と言ってもいいのか分からないが、それと同じような内容。俺が、アーサー・ペンドラゴン?笑わせるな。
確かにあの内容だと、エミリアに俺は、アーサーと名付けられた。だが、騎士王ではない。そう信じたかった。だったら俺は誰だ。キリツグという名と、E、エミヤというミドルネームも、全て衛宮切嗣から勝手にもらった名前だ。
「俺は、誰でもない、んだよな」
言っても仕方がなかった。
変えようのない事実だから。俺が泥のなかから生まれた非人間で、不完全な英雄。
ふざけるな。
「ふざけるな・・・」
心で思ったことを無意識に呟いてしまった。
「だから、師匠は、俺をここに寄越したのか?俺を、終わらせるために?そんな・・」
疑心暗鬼。
冬木市に着いた頃と、心情はうってかわっている。これでも我慢強い方だと思うが。
全ての人間が、黒く見えてくる。
それでも、
『馬鹿弟子が。違うと言っているだろう。何を聞いていた』
『何って!何も教えてくれないじゃないですか!』
『ならば盗め!受け身になるな』
でも、それでも、師匠は、師匠だった。
時計塔での日々が思い浮かぶ。監禁されていた聖堂教会でも、それ以前の失われた記憶の事でもない。彼と、時計塔へ通うみんなの姿。
あそこに、俺の人生はある。だから、だからこそ。
俺を人間として扱ってくれた場所。俺を拾い、救い上げてくれた、数少ない人間のいる場所。彼らが何をしようが、俺は、彼らの味方だった。今さら裏切られても、信用しなくなることなんてなかった。
「あとで、電話をしよう。ミスタ・ウェイバ、出てくれるかな?」
そういえば、ルヴィアに勝たせてやれなかったな。いつも本気になってしまう。
ルヴィアには、言わない方がいいか。彼女はきっと、俺を救いに来る。
師匠が出てくれなくても、掛け続けよう。もしかしたらこれが、最後になるかもしれないから。だからこそ、俺がこれからやろうとしていることの全てを彼には話そう。
キリツグは決意する。
まずは、騎士王になる。アーサー王に。それから・・・。
決意を新に、立ち上がる。そしてそのままアーチャーたちのいる方向に向かった。
急ごう。遅くなると、凛がうるさそうだからな。
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「なんだ?」
衛宮士郎は奇妙な感覚に襲われた。この状況こそ奇妙だが、それとは別の煩わしくない感覚に。
体の中の毒が洗われたかのような感覚だ。
英雄王とイリヤたちは俺にはお構いなしに論争を繰り広げていた。まぁ、イリヤが一方的にギャーギャー言っているだけだが。
その英雄王が味方になった?本人は違うと言っているが、それでも心強いことには変わらない。
「そういえば、ギルガメッシュ。さっき騎士王がどうの、って言ってたような気がしたんだけど、一体とういうことだ?」
ギルガメッシュは「ふん」と鼻で笑い、続けた。
「言葉通りの意味だ。我はこちら側の陣営につく、とな。雑種の脳はそこまで役立たずなのか?」
「うるさいな!・・・で、騎士王ってのは、セイバーのことだろ?でもなんで」
その言葉を聞いたギルガメッシュは不思議そうな顔をして、すぐにニヤリと口角を上げた。
「そうか、やつめ。伝えていなかったわけか。なるほど、ともあれ伝えたところで、どうにかなる問題でもないわけだが」
「伝える?いったいなんのことだ」
士郎からしたら、本当に初耳の情報だった。そもそも、桜の一件以来、キリツグとはあまり関わっていなかったのだ。
「我から伝えるのも野暮というものだが、仕方ない。時間が時間だ。よかろう。我手ずから教鞭を取るとしよう」
「あ、ああ。よろしく頼む」
妙に乗り気なギルガメッシュは不審だが、それこそ時間が時間だ。
「ほれ人形。喚いてないで座って聞いていろ」
「イリヤは、人形じゃなーいー!!イリヤはイリヤスフィール・フォン・アインツベルンなんだから!」
やっぱり、先が思いやられる。
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「そんな・・・。セイバーが偽物で、キリツグが本物?でもキリツグはただの人間で・・・」
「正確には元騎士王、だ。それに、もし我の予想が正しければ今ごろは泥にまみれているはずだ」
淡々と喋り続けるギルガメッシュは、一切表情を変えなかったが、そう話しているときだけ、不愉快そうに見えた。
「それは、分かった。だけど、なんでそれが俺たちの側に着くことになるんだ?」
そう問われたギルガメッシュは、その双眸を俺に向けた。
「もし聖杯を手に入れることが目的なら、わざわざこっちに着く必要はないはずだ。むしろ、その、敵になったキリツグと一緒になれば、勝利は・・・」
「なればこそだ!」
ギルガメッシュが一喝した。ボーッとしていたイリヤも、若干腰が引けていた。
「あんなものに躰を浸しおって・・・。万全な状態の貴様だからこそ、潰しがいがあったのだ!」
ギルガメッシュは、本当に悔しがっていた。
「よって、我手づから罰を与えよう、とな」
「・・・分かった。お前がキリツグと戦いたいのは。それでもだ。お前はイリヤに手を出した。すぐに信用なんて・・・」
悔しそうな顔をすぐに戻し、冷淡な瞳をこちらへ向けた。
「信用とは・・・。ククッ・・・。笑わせてくれるな
やっぱり、こいつは信用できない。いつ、裏切るか。イリヤを襲うか・・・。
その時だった。一通り事情を話終えたとき、玄関の開く音が聞こえた。
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「中にいた人間は、暗示をかけて山を降りてもらったわ、マスター」
「あぁ」
人の気配が失われた柳洞寺に、黒ずくめの男と、魔女の姿があった。
魔女は男にたいして、不信感を抱いているようだった。その目がそれを物語っている。
あなたは、いったいどちらなの?マスター。
キャスターは、そう問いたかった。あの一件があってから少したっているが、姿の変化以外に変わったところが驚くほどなかったのだ。
人間のキリツグ?反英雄のアンリマユ?それとも・・・。
「ん・・・」
瞬間、感知用に展開した結界が反応した。
「キリツグ・・・」
どうやら赤い外套の弓兵が、帰ってきたようだった。
「どうしたアーチャー。やけに帰ってくるのが早いじゃないか」
アーチャーの目が、キリツグを見据える。彼もキリツグの変化に気付いているようだ。
「・・・いや。どうやらあちら側にかの英雄王がついたようなのでね。逃げ帰ってきたところだ」
「アーチャーにしては、やけに素直に答えるじゃないか。しかし、そうか。ギルガメッシュ、やはりそう来るか」
キリツグは顔色一つ変えず、淡々と述べた。
「そちらは、ふむ。手筈通りに進んだようだな」
「そう見えるか?」
「違うのか?」
アーチャーに問われたキリツグは押し黙った。
「・・・まぁ、深くは追及しないさ。私は私のために弓を射るだけだからな。しかし、だ。なぜここにあの狂戦士がいる?」
アーチャーは話題を変え、あの時消滅したはずのバーサーカーに目をやった。
「あの神父にもそう言われたよ。そんなにおかしいか?」
「当たり前だろう。あのセイバーとの契約を破棄し、代わりにキャスターに私の契約を奪わせた。そこまではこれまでと変わらない。むしろ以前より、お前が消費する魔力も減ったはずだ。方法は問わないとしても、あのバーサーカーとも契約したとなると・・・」
キリツグはまだ表情を変えない。
「裏技だ」
そう言って、キリツグは懐から数枚のカードを取り出した。
「それ、私が前に言った・・・」
「これは、英霊そのものを封印した魔術符だ」
その言葉を聞いたキャスターは驚きの顔を浮かべ、口を開いた。
「まって!英霊ですって?!そんなこと、ありえないわ!」
そう。ありえない。
本来なら聖杯戦争という大規模な魔術を用いて召喚される存在だ。一体一体が世界を揺るがす存在であり、それが同時に7騎存在しているこの戦争も、本当のことを言えばあってはならない。
しかし。
しかしだ。このカードは、その英霊を封じている。正確に言えば英霊そのものの魔力の型だ。
「だが、これは存在している。出典はわからないけどな。聖堂教会で封印されていたのを、まぁ、抜け出したときの騒ぎの中で、かっぱらってきたわけだが・・・」
キリツグはその中でも、騎士、セイバーの絵が描かれたカードを選んだ。
「奇しくも、このカードを本来の使い方で使うときに必要なキーは、英霊召喚の際の詞だ。まぁ、今回は短縮するけど・・・」
カードに、自身の魔力を流し込む。
その魔力に反応し、カード内の魔力が逆流する。
その魔力が、カード保持者の体にまとわりついた。
そして・・・。
「
起動キーとともに、キリツグの体が光に包まれる。
「これは・・・」
「途方もない、魔力」
アーチャーとキャスターは固唾を飲んで見守る。
光が晴れたころには、騎士の甲冑を纏うキリツグが現れていた。
「裏技だろ?このカードを使えば、英霊の、力を使えるってわけだ」
「確かに裏技だな。そうかなるほど。そのキャスターのカードを使って、契約破りを模したわけか」
「模したわけじゃない。それそのものを使ったんだ」
話を聞いていたキャスターは、突然分かったような表情をした。
「だから、あの時いきなり私の魔力が急激に下がったのね」
「やっぱり影響があったのか。それはすまなかったなキャスター」
「一時的なら大丈夫よ。けれど、ずっとそのカードで私になり続けられたら・・・」
「どちらかが、存在を吸われる、な。それもそのはずだ。これは、その英霊そのものと言ってもいい。このカードの英霊がお前だったってのは、完全に偶然なわけだが・・・」
とてつもない確率だがな。アーチャーは人知れず思った。
「英霊となった私でも無理よ。神代の魔術師ならばなんとかなるかもしれないけど。なんだか嫉妬しちゃうわね。それを作り上げた魔術師に。そう・・・でも・・・」
キャスターはそこまで言って、口をつぐんだ。
キャスターは気づいていた。彼は先ほどの英雄王との戦いでもこのカードを使っていたのだろう。しかし、その時の姿形と、今では、明らかに違っている。姿形もそうだが、そもそもの核さえも。
「どうした?キャスター」
「・・・いえ。なんでもないわ。それより、これからどうするの?山門を下らせたのはいいけど」
彼は考えるそぶりを見せず、はじめから決まっていたかのように言う。
「そうだな。とりあえず、聖杯を顕現させる。この聖杯戦争を完遂する」
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4.
今回の聖杯戦争は、明らかに異端であった。そもそも、暗殺者のクラスである英霊は召喚されなかった。その代わりに、復讐者のクラスの反英雄が召喚された。
さらに、この聖杯は、器があればどのような時にでも顕現が可能である。魔力のあるなしに関係なくだ。
それは、この偽聖杯が別の方法で魔力を供給されているからだった。