Fate/the alter   作:zaregoto

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#EX1 あの日の前

 ロンドン。

 

 時計塔内。

 

 黙々と魔術の鍛練に励む少年が一人。

 

「ふぁー・・・。眠・・・」

 

 励んでいるわけではなかった。

 

「ったく・・・。お師匠のやつ、一体どこに行ったんだよ」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら、師匠から言い渡された課題に取り組む。

 

 少年が鍛練を行う部屋は暗く、本で埋め尽くされていた。物置小屋と言っても過言ではないほど、埃っぽい。それでもそれは気にならないらしく、鍛練だけは続けた。

 

「魔術回路ってのは、そんなに大事なのかねぇ」

 

 言い渡された課題は、魔術回路の開閉。普段開きっぱなしの回路を自分の力で操作する鍛練だ。本来なら、初歩中の初歩なのだが、彼はそれができていなかった。何せ今まで、魔術のことは知ってはいるものの、使おうとは思ってこなかったからだ。

 

「あー・・・面倒くさい」

  

 思っていることが、口から出てしまう。

 

 彼の才能は、ないわけではない。寧ろ、大きな可能性を秘めている。だからこその鍛練なのだが、その本人がやる気にそれほどやる気になっていないのだから意味がない。

 

「別に、こんなことしなくても、あの人には近づけると思うんだけどなぁ」

 

 あの人。彼を救いだした、彼にとっての英雄(ヒーロー)

 

 彼が、なんやかんや言いながらも鍛練をやめようとしないのは、そこにあった。

 

 あの人のようになりたい。そう願うからこそ、嫌々ながらも続けている。彼自信、少なくとも自分の力になることを理解していたからだ。

 

「やめた」

 

 やめた。

 

「あー。自主練だ自主練」

 

 そう言うと、のそのそとたちあがり、部屋のすみにある仰々しい箱を取り出した。そして、首からぶら下げてあるこれまた仰々しい鍵を手に取り、仰々しくその箱を開いた。

 

「・・・」

 

 箱が開かれる。

 中には、7枚のカード。彼はそれを、綺麗に横並びにした。

 

「よし。今日こそ、このカードを・・・」

 

 そう言うと、剣を持った騎士の柄が描かれているカードに手をかざす。

 

 そして、微量な魔力を込める。余談だが、この時点で課題の目的である魔力のコントロールは完璧に出来ていた。

 

「セイバー・・・、剣の霊、女の子、見えない剣・・・」

 

 カードに記憶されている霊体の情報を読み取る。

 

「ホントにこれは誰なんだ?女の子で剣を持った有名な霊で・・・ふむ・・」

 

 歴史上、女性騎士はそれほど多くない。故に彼は悩んでいた。自分が持っているカードで、誰が型どられているか分かっていないのがこのカードだけだったからだ。

 

 

「だが、まぁ、わかったところでって感じなんだけどな」

 

 そんな独り言を言いつつ、カードに魔力を込め続ける。

 

 セイバーのカードに魔力を込めていると、不思議な感じがする。知らないはずなんだけど、知ってるような。デジャヴみたいな感覚だ。もしかしたら、その反対のジャメビュなのかもしれないけれど。

 

 ガチャ・・・。

 

 その時、不意に背後にある扉が開いた。

 

「!?」

 

 咄嗟に振り向き、距離をとる。ゆっくりと開かれる扉から目を離さずに、床に並べているカードを拾っていく。

 

 ギィー・・・。

 

 ゆっくりと、開く。部屋はランタン1個で照らされているため、薄暗い。ゆえに、その扉を開いた犯人を見定めることは難題であった。

 

 しかし。

 

「ケホッ・・・ケホッ・・・。なんですの!?この埃っぽい部屋は!本当に人がいるんですの!?」

 

 声から察するに女性。さらに、その幼さから少女であることが容易に想像できた。

 

「そのへんにいるはずだ。・・・バカ弟子、出てこい」

 

「お師匠!?」

 

 その少女の声の次に、師匠の声がしたので驚いて声を出してしまった。

 

「なんだ。いるじゃあないか」

 

「いるならすぐに出てきてくださいまし」

 

「だ・・・」

 

 誰だ、と言おうとした瞬間、黒い影が目の前に現れた。金色の髪の毛がファサ・・・と舞う。

 

「でないと、貴方の力量を計れないでしょう!」

 

 ガハッ・・・!

 

 視界がおかしくなる。上が下で、下が上で。要するに俺は今、ぶん投げられていた。

 

「おうふっ!?」

 

 そのまま床に叩きつけられ、俺は盛大に腰を打った。

 

「いっつ・・・」

 

「あらあら、貧弱ですこと」

 

 頭上で声が響き、恐る恐る目を開く。

 

「それで、ミスタ・ウェイバの弟子なのですの?」

 

 綺麗な縦ロール。小綺麗な青いドレスを身に纏い、不敵な笑みを浮かべていた。薄暗いため、余計に雰囲気が増す。

 

「私はルヴィアリゼッタ・エーデルフェルト。よろしくですわ?兄弟子さん?」

 

 青い悪魔。見上げるだけの俺は、身震いがしてならなかった。

 

----------

 

 エルメロイ教室。魔術協会の総本山、時計塔の中に存在する教室だ。ロード・エルメロイⅡ世が責任者を務めている。

 元々は、先代のロード・エルメロイ、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの教室だったが、ケイネスの死後まったく見向きもされなくなったので、ウェイバー・ベルベットが受け継いだ。

 

 その教室に所属した時計塔のOB生たちは、いずれも典位以上の位階を取得している。さらには、そのうち数名が時計塔の歴史上でも数えるほどしかいない「王冠」の位階に至るのではないかとされているため、Ⅱ世が教え子たちを集めれば時計塔の勢力図が変わるとまで言われている。

 

 しかし、彼、キリツグ・E・ペンドラゴンには関係のない話だった。そもそも彼は時計塔に所属している魔術師ではなかった。身寄りのないところをウェイバーに拾われただけのことであり、もしかしたらこの場所に、彼はいなかったのかもしれない。

 

 彼は元々、聖堂教会にて保護されていた。否、保護と言う名の監視、もしくは研究。

 彼は奇跡の体現である。産み出された生命であるのだ。封印指定の人形使いのような、人間のコピーではない。完全な新たな生命だった。それに目をつけた聖堂教会と魔術協会は、手に入れるために相当な激闘を繰り広げたようだが、それは今は置いておくことにする。

 

 激闘の末、キリツグの身は聖堂教会に移され、幼少期をそこで過ごすことになる。しかし、ある事件が起きることによって、事態は急転した。何者かによる襲撃だった。その最中、キリツグはそこから逃げ出すことに成功する。彼が逃げ出す中で意趣返しとして、封印されていたカードを持ち出したことは、また別の話。

 

 故に、正式に時計塔に所属することはできなかった。その存在が多方面に露見すれば、恐らく彼はまたあの場所に逆戻りだ。

 

 しかしまぁ、実際、エルメロイ教室の中での彼の存在は、隠されていない。表向きは存在するはずのない空席、万年幽霊部員、ゴーストなどと称されている。裏では、普通に生徒と親交を持っていた。しかし、それも片手で数えられるほどしかいない。

 

 後に彼の近親者とされる者が所属することになるが、今は関係のないことだ。

 

「それで、どうしたんです?そのガキ」

 

「ガ・・・っ!?」

 

 ルヴィアはあからさまに悔しそうな表情を浮かべた。それを横目で見ながら、キリツグは続ける。

 

「託児所でも始めるつもりですかい?先生には、保父さんなんて似合わないと思うんですけど」

 

 最大限の嫌みを述べる。しかしエルメロイⅡ世であるところのウェイバーは眉ひとつ動かさず、口を開いた。

 

「エーデルフェルト家の御当主に頼まれてな。少しの間、ここで預かることになった」

 

 ほんとに託児所みたいなことやってんじゃん。と思ったことは内緒だ。 

 

「それで、なんで俺を探してたんすか?」

 

 半ばその理由を理解しつつ、半分別のことを期待しつつ、ウェイバーの言葉に耳を傾ける。 

 

「頼んだぞ、バカ弟子」

 

 やっぱりそうくるよねー。

 

----------

 

 キリツグがルヴィアと初めて出会ったのが、ルヴィアが12歳のころだった。彼は多分15歳くらいだったと思う。幼い頃の記憶もなく、その幼い頃を知っている近親者がいるわけでもないため、彼の正確な年齢は分からなかった。

 

 その初めて出会った年を境に、毎年やって来るようになった。そして、ルヴィアが時計塔に所属するようになると、当然のようにエルメロイ教室に所属した。

 

 その中でも、キリツグがルヴィアの世話係りになるのが決まっていた。というより、無理矢理決めつけられていた。

 

 毎年、毎回のようにやって来ては、キリツグに決闘を挑むのがルヴィアの癖だ。いや癖というのか?そうしてしまう、と言っているのだからそうかもしれない。

 

 結果を言えば、全ての戦闘においてキリツグが圧勝していた。だからこそ、毎年キリツグに挑んでいるのだが。

 

 彼女は肉体派であるが、それ以上に彼は強かった。ただの人間にはない、凄みがあった。技術があった。それは、普通ではなかった。

 

「また・・・負けた・・・」

 

 今年で17になるルヴィアは、悲嘆し膝をついた。俯いた額からは汗が滴り落ち、トレーニング場の床に小さな染みをつくった。

 

「悪いけど、お前は俺に勝てないよ。もともと魔術が得意ってわけじゃなかったからな。だからこそ、肉体改造に勤しんだわけだが・・・」

 

 キリツグはルヴィアをちらりと見る。初めて会ってから凡そ5年だ。ルヴィアも大きくなった。あのときガキだったヤツは、綺麗な女性になっていた。

 

 身長も伸びて、スタイルもよくなった。2つの実もたわわに実った。ふむ。悪くない。悪くない、けど。

 

「お前だもんなぁ・・・」

 

「何をぶつぶつ言っているのですか」

 

 床を向いていた顔をキリツグの方に向けた。あからさまに悔しそうな顔だ。

 

「別にー。でもまぁ、最初よりはよくなったよ」

 

「最初はあなたを引っくり返しましたわ!」

 

「ばーか。あれはノーカンだよ」

 

 キリツグは手をヒラヒラと振り、トレーニング場をあとにしようとした。しかし。

 

「・・・」

 

 気配がした。熱気。勝利を望む拳だ。

 

 キリツグは振り返らずにそれをかわす。意図せずして通り過ぎるルヴィアの足を、キリツグは掴んだ。

 

「!?」

 

 そのまま、ルヴィアの体をふわりと浮かせ自由を奪った。そして、彼女を床に叩きつけ、首をつかみ更に自由を奪う。

 

「うくっ・・・」

 

「それはいけねぇなぁ。その行いは、騎士道に反するものだ。だが、今の気迫はなかなかよかった」

 

 首をつかんでいる手を弛め、キリツグは彼女を見下げるようにその場に立った。

 

 彼女に対し、手を差し伸べる。ルヴィアはその手をつかみ、自身も体勢を立て直した。

 

「また明日、頼みますわ」

 

「ん?あー・・・」

 

 キリツグは微妙そうな顔をした。頭をかき、ばつが悪そうにしている。

 

「?」

 

「実は、これから行かなきゃならんところがあるんだよ」

 

----------

 

「いつ帰ってくるんですの?」

 

 空港の待ち合い広場に、ルヴィアは彼とともにいた。彼はそれほど大きくないキャリーバッグを片手に、腕時計を眺めた。

 

「さあな。お師匠曰く、お前が終わりだと思ったら、だとよ」

 

「・・・・・・」

 

 ルヴィアは俯いて、口を閉じた。

 

 ルヴィアにとって彼は、兄のような存在だった。過ごしていた年月は短かったけれど、とても充実していたのである。

 

「どうしたんだよ。大丈夫か?」

 

 彼がルヴィアの顔を覗きこむ。自分がどんな表情をしているか悟られないように、覗きこまれる瞬間、くるりと後ろを向いた。

 

「別に、なんでもないですわ!精々鍛練を怠らないことね!私は日々進化しているのですから」

 

「ああ」

 

 ルヴィアには彼の表情は見えないが、声色でわかる。彼は今笑顔で返事をしてくれた。最大限の愛情をルヴィアに向けている。

 

 ルヴィアにとってそれは堪らなく嬉しいものであった。

 

「勝ち逃げなんて許さないから・・・!!」

 

 そう言って、ルヴィアは走り去った。

 

「あ、おい!」

  

 彼の言葉を背に受けながら、そのまま振り返らなかった。この表情を、彼に見られたくなかった。

 

「ハァ・・・ハァハァ・・・」  

 

 足を止めたのは、空港を出てすぐのところだった。そのまま、大空を見上げる。

 

「キリツグ・・・待っていますわ。あなたを永劫・・・」

 

 ルヴィアの言葉は、空の青さに溶けてしまう。少ししてから、彼が乗っているであろう飛行機か飛んでいった。

 

 飛んでいった先を見て、一抹の不安を感じながら祈る。彼の平穏無事な帰国を。

 

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3.

 

 聖杯戦争とは、広義には、あらゆる願いを叶えるとされる万能の願望機・聖杯の所有をめぐり一定のルールを設けて争いを繰り広げるものであるとされている。

 

 ただし狭義として日本の冬木で行われているとされる、サーヴァントを従えた代理戦争のことをいった。

 

 曰く、聖杯を巡る争いであれば聖杯戦争と呼ぶらしく、ここでは冬木で行われる7騎のサーヴァントとマスターによる争いを聖杯戦争と呼ぶことにする。

 

 前述でも記した通り、本来正規の聖杯戦争ではマスターの1人1人がサーヴァントを召喚し、聖杯を巡るものである。

 

 サーヴァントはクラス分けがされており、セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーとされる。

 

 ルール上、1人に対し1騎とされているが中には例外もある。サーヴァント自身がサーヴァントを召喚することも然りである。また、1人が多くのサーヴァントを召喚することもあり得る。それが、可能ならばの話ではあるのだが。

 

 その点で言うなら、今回の第5次聖杯戦争の参加者は、その例外に当てはまるだろう。

 

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『カハハ』

 

 

『どうやら物語もいよいよ佳境に差し掛かってるみたいだな』

 

 

『どいつもこいつも頑張ってるみたいじゃねぇか』

 

 

『カハハ』

 

 

『本来ならこのオレ(・・)が出ていなきゃならねぇわけなんだが、ちと、登場するには早かったのさ』

 

 

『だからこそ』

 

 

『だからこそなんたが』

 

 

『俺ァ悲しいよ、凄く凄く』

 

 

『まぁ、俺ァ高みの見物をしてなきゃいけねぇみたいだから、1つだけこの言葉を送るぜ?』

 

 

『ーーーー俺ァ必ず、帰ってくる』

 

 

 

 

 

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