Fate/the alter   作:zaregoto

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#02 剣の英霊

 その日は酷い大雨になった。

 豪雨が降り、雷鳴が轟いた。しかしそれでも、そのようなことは問題ではない。問題なのはこの状況であった。

 まるで地獄の再現。道々には人であったものが、数多く転がっている。辺りを見回しても、生命力を発している生物は草木を含め、存在していなかった。 

 

「これは、どうして。どういうことだ」

 

 漆黒に染められたコートを見にまとった男は愕然としていた。その男の課せられた使命は、決められたものを受けとるだけの至極簡単なことだったはずだったのだから。

 男は村であった場所を歩く。死体を越え、状況を把握する。そのときであった。

 

「---エミヤキリツグ・・・」

 

 突然、背後から声をかけられた。気配も感じられず、そこらじゅうにあった死体が起き上がったのではないか、と思ったほどであった。

 居たのは白い礼装を見にまとった女たちであった。

 

「これが例のものです」

 

 渡されたのは木箱。古びた、ただの木箱であった。

 こんなものをてにいれるために、このような状況を作り出したのか?このものたちは。

 

「我々はこの事態の後始末を行います。では、あなたは城へお帰りください」

 

 淡々とした口調で話続けた。

 そうして、彼女らは辺りに散らばっていった。

 

「くそ、どうしてこんな」

 

 男から後悔が消えることはなかった。まったく関係のない村であるのにも関わらず、彼は自分のことのように感じているのだ。

 

「誰だ!」

 

 倒壊した家屋から突然音がした。まるで生命力を感じなかった村なのに、それは生き物が動く音だったのだ。

 

「だ・・れか」

 

 地獄の中にある希望とはこのことだったのだろう。音の先には、まさに虫の息である少年が現れたのだ。

 

------------------------------

 

「なんで、ここに。どうして俺を?それにキリツグって・・・」

 

「一度にいっぺんに質問するな。俺は一人しかいないんだよ。いいか?いま必要なことはどうやってあの変態青タイツから逃げおおせるかってことだ」

 

 青年は凄まじい戸惑いの色を見せていた。青タイツにいきなり襲われ、殺されそうになったのだ。それをいきなり現れた黒い男に救われたのだ。戸惑わない訳がない。

 

「逃がすと思うか?わりぃが、これも命令なんだよ。早く死んでくれればそれですむんだよ」

 

「こんなとこで死ぬわけにはいかない。俺にも、この子にも確かに未来があるからだ。明るいか暗いかなんて分からねぇ。それでも、未来ってのは全ての人間にあるんだよ!」

 

 青タイツはニヤリと頬をあげた。辺りの空気が変わる。

 

「そうかよ、確かにそうだ。それがお前の覚悟ってわけだ。だったら俺も本気で相手にしないと、お前に悪いよなぁ!」

 

 青タイツは手に持った赤い槍を構えた。目に見えるほどの闘気が槍からは発せられていた。あれをもらったらまずい、並の人間でもあんなのくらったらひとたまりもない。魔術で強化されている俺の体でもただじゃ済まないだろう。

 しかしこの感覚どこかで・・・。

 

「お前、もしかしてサーヴァントか?」

 

「なんだ、お前わかってなかったのか?俺はてっきり、聖杯戦争の参加者だと思ってたぜ」

 

「サーヴァント?聖杯戦争?なぁ・・・あんたらいったい何を・・・」

 

 少年は先程よりもさらに戸惑っていた。

 

「槍ってことはランサーか・・・。なるほど、俺なんかじゃかなわないな・・・」

 

「おとなしくやられてくれるか?坊主ども」

 

 そんなわけあるか。こんなところでやられるわけにはいかないんだよ。

 心の中でそう叫んだ。英霊であるとわかってしまったがゆえに、先ほどまでの威勢はどこかへ消えていた。しかし、それでもやられるわけにはいかないんだ。

 俺は今持っている宝石すべてを床一面にばらまいた。

 

「何をしてんだ?」

 

 あっけにとられているランサーを後目に俺は続けた。

 この方法は時臣氏から学んだ、やってはいけないこと。宝石魔術に使うこれらはひどく高価であり、中には家丸ごと一軒買えるくらいの値段の物さえあるのだ。さらに宝石は高ければ高いほど良い。それは純度の高さによって魔術の高等さが変わるからだ。

 なので時臣氏は釘を刺した。まぁ、遠坂たるもの常に優雅足れだとかなんかで、優雅さに欠けるからだと言っていた。俺にはよくわからないが。

 

「俺はお前には勝てないよ。あんたは並の英霊じゃあない。わかった、だからこそ・・・」

 

 散らばった宝石一つ一つに意識を集中する。数にして約10個。できない数じゃあない。

 

「逃げる!!」

 

 宝石に魔力を込める。それも限界を超えるほどに。

 その瞬間、宝石一つ一つが連鎖したかのように輝きだし、爆発した。

 

「なっ!?」

 

 その爆発はもはや、想像できる爆発を超えていた。廊下は木端微塵に崩れ落ちた。

 

「うひゃーやりすぎた。さて!逃げるぞ少年」

 

「え!?お、おい!いいのかよこんなことして!」

 

「いいんだよ!エセ神父がなんとかしてくれる」

 

 俺は少年とともにその場から、文字通り一目散に逃げ出した。

 

********

 

「ここだ、ここが俺の家」

 

 逃げている最中に少年の家へ行くという結論を得たので、現在は少年宅の門の前にいる。全速力で走ってきたので、二人とも肺はショート寸前だった。

 

「なぁ・・・あんた。あんたも魔術師なのか?」

 

「は?あんたもって、少年君も?」

 

 門を開きながら少年は言った。どうやら、彼は無関係ではなかったらしい。なんだ取り越し苦労だったのか、とまでは言わないが、表情がこわばっていたことには自分でも気づいていた。

 

「ああ、見習いでもない素人よりも素人だがな」

 

 なるほど・・・。すたれた魔術の家系かなんかなのか。道理で、魔力量もお粗末なわけだ。

 

「あと・・・あんたキリツグって言ったよな。切嗣・・・、衛宮切嗣とはいったいどういう関係なんだ?」

 

「さすがに、衛宮切嗣は知っているか。いや・・・命の恩人なだけだよ」

 

 この少年でも流石にあの衛宮切嗣のことは知っているらしい。確かにあれほど魔術師らしくない魔術師はいないからな、ほかを探しても。時臣氏も、切嗣に対しては憤慨していたっけ。

 

「知っているも何も、切嗣は俺の親父だ」

 

「・・・へ?」

 

 今、聞き捨てならないことを聞いたように思えた。なるほど切嗣の息子。・・・は?

 

「ちょ、まて・・・。じゃあお前は・・・」

 

「何がじゃあなのかは分からないが、俺は衛宮士郎だ。よろしく」

 

********

 

「つまりなんだ。俺は初めから間違っていたってことか?」

 

「いや、助けてくれたことには感謝してるよ」

 

 衛宮邸でお茶をすすりながら俺は、彼に、彼は俺に、今までのことを話した。

 

「違うんだよ、俺はお前を巻き込まないつもりで。いや、切嗣は魔術師であることを打ち明けてて、そうか、すでに巻き込まれてたってことになるのか」

 

「あ、ああ。いや、巻き込まれているわけじゃあない。俺は自分の意志でここにいるんだ。じいさんの跡を継ぐために」

 

「じいさん?」

 

「あ、いや」

 

 始めらから間違っていた。そう言ってしまうと、ほんとにそうなってしまうのが癪だ。しかし、結果的に彼に会い、彼を救えたことは行幸であったのだろう。今晩のあの時間に、俺が学校へ行っていなければ、彼を救えなかった。こう思えば、まだ救いがある。

 

「キリ、いやペンドラゴンさんは」

 

「キリツグでいいよ。その方が呼びやすいだろ」

 

「じゃあキリツグ、聖杯戦争のことはわかった。それはいいんだが、あのランサー?だったか。アイツはどうなったんだ?」

 

 士郎は不思議な顔をしながら、俺に聞いた。確かにそうだ。アイツはあのあとどうなったんだ?名は知らないが聖杯の座に呼ばれた英霊だ。その全てのサーヴァントが並のものではないだろう。故にあれくらいの事でやられるような・・・・。

 

「そうだ。まだアイツは生きている。確実にだ。だったら、始めにやることは、目撃者の・・・・」

 

「キリツグ?」

 

 その時外で轟音が轟いた。恐らく門扉が破れたのだろう。俺たちは交わす言葉もなく、急いで外へ向かった。

 

「ったく、こんなところにいやがったのか坊主ども」

 

 そこには、まったくの無傷の状態で仁王立ちしているランサーがいた。

 

「よぉランサー。怪我でもしてたらどうしようと思ってたんだ。そのぶんなら大丈夫みたいだな」

 

「あたりめぇだろうが、バカ。あの程度俺には屁でもねぇよ。お前こそ大丈夫か?足が震えてるぜ?」

 

 ランサーは見抜いていた。俺が感じている恐怖を。まったく、俺が何に恐怖を感じているのか知っているのにも関わらずだ。殺気を垂れ流しにしてるくせに。

 

「悪いな、こいつは武者震いだ」

 

 そう言ってポケットに手を突っ込む。先程確認した残りひとつの宝石を掴む。

 

「士郎」

 

「え?」

 

 俺はランサーに感ずかれないように、士郎へ耳打ちした。

 

「俺が宝石を投げたら、それと同時にあの蔵に走れ。そのあとは俺が何とかする」

 

「何とかって・・・、分かったよ」

 

 そう言った瞬間に俺はランサーに向かって宝石を投げつけた。時間を置いていたら、ランサーにバレると思ったからだ。

 

「なっ!?はやっ」

 

「くっ!?」

 

「走れ!」

 

 そのまま蔵へ逃げ込み、鍵をした。しかしこのままでは先程の門のように木っ端微塵にされてしまうだろう。

 

「士郎さっきいってたよな?お前の魔術は強化の魔術だって」

 

「あ、ああ」

 

「それでこの門を強化するんだ。少しだけ耐えられればいい」

 俺は士郎に状況を説明する代わりに、士郎の事を話してもらっていた。その中で強化の魔術を使えることを聞いていたのだ。さらに、それしか使えないということも。

 

 蔵の反対側をぶち壊し、士郎だけでもこの場から脱出させないと。そのあとは。、、、。そのあとは、あのサーヴァントと戦わなければならない。つまり、俺自身もサーヴァントを召喚するということだ。

 

 しかし、残念なことに聖遺物も、あまつさえ、召喚の魔方陣もない。どちらも、この短時間でできることではなかった。

 

 その時、俺は気づいた。足元の違和感に。足元から感じられる、微かな魔力。

 

 俺は強化をしている士郎を後目に、足元を確認した。月明かりのみの視野だが、それはなんなのか、確実に理解できた。これは。

 

「これは、運命なのかもしれない」

 

「え!?なんだって?」

 

 俺は、唱える。言葉を紡ぐ。 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 紡ぐ。記憶の中にある、言葉を。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 触媒も、何もない状態。それでも、今はこうするしかなかったのである。

 

――――告げる。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 慎重に。

 

「誓いを此処に」

 

 且つ迅速に。

 

「我は常世総ての善と成る者」

 

 本当はこんなはずじゃなかった。俺はここに戦争をしにきたわけじゃあない。確かに、イリヤと約束したが、それでもだ。前段階としては、切嗣に会いに来たのだ。

 

「我は常世総ての悪を敷く者」

 

 しかし、今更後悔しても遅い。もう、すでに運命は決定している。これは偶然なんかじゃあない。あの場所あの時間に士郎に出会ったのは、必然だったのだ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天」

 

 ここに命運は決した。この戦争に足だけではなく、からだ全体を突っ込んだのだ。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 と、同時に扉が破壊された。士郎は後ろへぶっ飛ぶ。しかし、陣に変化はない。

 

 失敗した!?神秘を呼ぶ触媒もない召喚ではやはり、無理があったのか?

 

「なかなか手間取ったぜ。あの坊主の強化だろ?やるじゃねぇか」

 

 死が近づいてくる。着々と俺の死期が迫る。

 

「こんな、ところで!」

 

 その瞬間左手の甲に、痛みが走った。同時に噴煙がまう。

 

「な!?こりゃあ」

 

 徐々に靄が晴れていく。

 

 それは聖杯の神秘。

 

 銀の甲冑を纏い、金髪で、碧眼の少女が、そこにはいた。

 

「問おう、あなたが私のマスターか?」

 




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