Fate/the alter   作:zaregoto

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#03 丘の上の墓標

 俺の記憶は曖昧だった。

 

 あのとき、彼に会ったことは覚えている。それ以前、自分が何をしていたのか、覚えているのか?明確に、と問われたら答えられないと思っていた。

 

 俺はどこから来たのか、どこで生まれたのか、何が好きなのか、何が嫌いなのか。俺が俺をいきる上で必要な情報が所々欠けていたのである。

 

 もしかしたら、俺は何者でもないのかもしれない。そんなときに俺にいきる希望を与えてくれたのが、切嗣の存在であった。

 

 切嗣という英雄の存在。

 

 彼の噂は予々聞いていた。魔術師らしからぬ男。破綻者。魔術師殺し。いい噂は聞かなかった。故に、俺は耳を背けた。彼の存在は俺の中で唯一無二の英雄であったからだ。そう思えたのは後からで、当時はそんなこと考えていなかった。無意識に必要な情報のみをインプットしていた。

 

 まるで機械のように、都合のよいもののみをダウンロードした。

 

 そうしなければ、壊れると分かっていたのだろう。体が勝手に動いていた。切嗣の存在に近づくべく、俺は日々修行に明け暮れていた。それが己が己足る所以なのだろう。俺が完成したのは、恐らくそのときであったからだ。

 

*******************************

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。問おう、あなたが私のマスターか?」

 

 靄のなかから現れた騎士。セイバーのサーヴァント。三騎士の内の一画である。俺は、ギャンブルに勝ったようだ。最優のサーヴァントを引き当てることに成功した。

 

「そうだ。とりあえず、あのサーヴァントを退けろ。俺たちを救うんだ」

 

 まさに行幸。ここでこのサーヴァントを引き当てる俺だ。人生における運を使いきったといってしまっても、過言ではないだろう。しかし、やはりセイバーだ。ステータスが半端じゃあない。

 

「了解した」

 

 そういい放ったセイバーはライサーに文字どおり突っ込んだ。何かを掴みながら、なんとか黙視できる速さで。

 

「くっ!?」

 セイバーの発する圧力に、ランサーは圧されていた。直接攻撃が通ったわけではない。しかし、彼が後ずさっているのは確かだ。

 

「覚悟しろランサー!」

 

「貴様、セイバーのサーヴァントだな!?」

 

 あちらはセイバーに任せて、今は士郎だ。扉ごと吹っ飛ばされたのだ。怪我は重症ほどではないだろうが、放っておくのはまずいだろう。

 

「士郎!無事か!?」

 

 そこで俺は驚くべきものを見た。

 

「あ、ああ」

 

 無傷で士郎は座っていたのだ。無傷、かすり傷ひとつもなかったのだ。士郎は治癒の魔術は使えないはず。なのにも関わらず、あったであろう、あるはずの傷は完治していたのである。

 

「・・・どこか、痛いところはないか?」

 

「いや、まったく。俺、こんな頑丈だったかな?」

 

 外も内も無傷。まさに神秘。笑いながら俺に話しかける士郎を、俺はただただ凝視していた。

 

「とりあえず、ここから離れよう。あれに巻き込まれたらまずい」

 

 そう言って、あの戦闘を見やる。まるで戦争そのものだ。これが聖杯戦争。なるほど、間近で見ればそのすごさが分かる。

 

「これが・・・」

 

「さっき話した聖杯戦争だよ。怪我しないうちに離れないと」

 

 もう一度念を押しておく。それは彼の顔が驚きから別のものへと変わっていたからだった。

 

 覚悟、あるいは闘志。まるで魔術師の顔ではなかったのだ。

 

「変なこと考えてないだろうな、士郎」

 

「・・・あの子、女の子だったよな。なんで、女の子が」

 

 なるほど、そういうことか。正義の味方。

 

「あれは女の子でも、英霊だ。さっき話したろ?神秘の権化、俺たちが太刀打ちできる存在じゃあ・・・」

 

 そう話している最中に士郎は土蔵を飛び出した。

 

「あ!おい!士郎!」

 

 俺もそれに続いた。激闘を繰り広げる二人の英雄。それを眺める士郎。なんだか、絶妙な構図が広がっていた。

 

「くっ!下がってください!」

 

「士郎!」

 

 セイバーにも釘を刺される士郎だった。それでも士郎のやる気は削がれていない。

 

「くそ。こんなこと続けていても埒があかねぇ。ここでお前を打ち倒すには!」

 

 ランサーは何かを始めようとしていた。それがなにか。気付いたのは俺とセイバーの二人。

 

「受けてみるか、我が必殺の槍を!!」

 

 ランサーはセイバーに向けて槍を構える。

 

「やはり宝具!マスター!彼を下がらせてください。巻き込まない保証はない!」

 

 セイバーの表情には鬼気迫るものがあった。たとえ最優のサーヴァントであっても、あれがヤバいことは理解できている。この俺でも分かるんだ。サーヴァントならそれ以上に理解できているだろう。

 

「お前にも宝具の使用を許可した方がいいか!?」

 

「いえ、私なら、なんとかなります!ですから早く!」

 

「おうともさ!行くぞ士郎!」

 

「な、何を!」

 

 士郎を無理矢理連れていく。この青年は状況を理解できていない。あれほど言ったのにもだ。巻き込んでしまった俺が言うことじゃあないが、なぜ君なんだ!

 

「へっ、言うじゃねぇかセイバー。俺の一撃。受けきれるか?」

 

「受けきらなければ、この聖杯戦争勝ち残れない!こいランサー!」

 

「そりゃあそうだ。だが、ここでやられてしまっては、もともこもないぜ?」

 

 ランサーの内魔力が急激に上昇していく。彼の赤い槍の赤さが更に増していくように見えた。

 

 これは、本当にヤバい。ここで、セイバーが?令呪を使ってでも、宝具を使わせた方がいいのか?

 

「その心臓、もらい受ける!!」

 

 これは、まずい!

 

刺し穿つ(ゲイ)----」

 

「セイバー!!」

 

「----死棘の槍(ボルグ)!!」

 

 俺の叫びと同時に、槍が放たれる。轟音をたて、大地を抉り、その槍は一直線にセイバーの心の臓へと向かっていく。

 

「くっ!?」

 

 一瞬だった。彼の放った槍は確かにセイバーへと届いた。しかし、何かがおかしかった。

 

 ランサーこそがそれがなんなのか理解していた。

 

「貴様・・・防いだな。この俺の必殺の槍を!!」

 

 そう。セイバーは生きていた。必殺の槍であるはずの宝具による攻撃を、セイバーは防いだのである。いや、正確にはいなした、といったほうがいいだろう。並外れた反射神経により、その勢いを殺し、軌道をそらしたのだ。

 

「くっ・・・流石だなランサー」

 

 それでもセイバーの表情は苦かった。鎧が少しだけ欠けている。衝撃を殺すだけで、これだ。流石は英霊だ。俺たちがかなう相手ではない。

 

「けっ・・・必ず殺さなきゃあ意味がねぇ。だからこその必殺なんだよ。さらに、俺のマスターは臆病でな。これが通じなきゃ、潔く退散しろとの命令だ」

 

「逃がすと思うか?ランサー」

 二人の間に見えない火花が散る。

 

「いいよ、セイバー。さあアイルランドの御子。今すぐここから去れ」

 

「な!?マスター!」

 

 あからさまに驚いた表情を俺に向け、すぐ視線をランサーへと戻した。

 

「へぇ今のでもう分かっちまったか。そして物分かりのいいマスターらしいな。俺のマスターとは違って」

 

 セイバーは見るからに悔しそうな顔を俺に向けた。

 

 その顔は、ただの少女のものだ。こんな状況じゃあなければだがな。

 

「・・・・」

 

「そうにらむなよ、セイバー。お前だってその体じゃあランサーに負けちまう可能性だってある。相手が退いてくれるっていってるんだ。ここはそうしてもらおうぜ」

 

「へっ、よく状況を把握出来てるじゃねぇか。ま、俺だってこんな横槍が入っていなきゃ、お前と決着をつけるさ。じゃあな坊主ども、セイバー。次会うときまでにやられてんじゃねえぞ」

 

 逃げていくランサーのその背中は、逃亡者のものではなかった。彼の瞳からも勝機も闘気も消えていなかった。

 

 流石は英霊、というわけだ。

 

「何故ですか、マスター」

 

 セイバーの表情は以前曇ったままだ。その上この俺を睨んでいる。悔しそうに見上げるその顔を、可愛いと思ったことは口に出来ない。したら恐らく、いや確実に殺されるだろう。

 

「いいじゃないかセイバー。聖杯戦争は始まったばかりだ。まぁその前に、そこにいるヤツが動かなかったからっていう理由もあるのだけれどな」

 

「・・・・」

 

 そうなのである。つまりは第三者がいたから、敢えてランサーを逃がしたのだ。あれが、もしランサー側の人間だったら、俺たちのほうがやられていたろう。

 

「よくわかったわね、セイバーのマスターさん」

 

 門扉の向こうから、真っ赤な服を着た、女の子があらわれた。真っ赤な男を引き連れて。

「どうする、凛」

 

「よしなさいアーチャー、あの人なかなかやるようだし。恐らく互角の闘いになるでしょう。更にセイバーを引き連れて。まぁ、あのお荷物・・・って、衛宮くん?!」

 

 士郎の方を見て、リンと呼ばれた少女は驚愕した。ここにいるはずない人間を見たような、そんな顔で。

 ん?まてよ?リンだと?

 

「お前、遠坂!?何でこんなところに?!」

 

「それはこっちの台詞よ!まさか、さっきまで学校にいた生徒って・・・」

 

「あ、あぁ。それは恐らく俺のことだ」

 

 一瞬にして、空気が軽くなった。シリアスムード全開だったのに、やはり子供はすごいな。

 

「あー、内輪ネタで盛り上がっているところ悪いんだが、そろそろ俺の話も聞いてもらっていいかな?遠坂凛さん?」

 

 終わりそうになかったので、釘を指しておいた。さすがは俺だ。空気の読める男である。

 

*******************************

 

「なんでこうなった」

 

 落胆したような声で遠坂は言った。それもそのはずだろう。今自分は敵地のど真ん中にいることになる。彼女はそこで、美味しいほうじ茶を啜っているのだ。

 

「話は分かったわ、あなたが私の父の知り合いで、その繋がりで私を訪ねようとした、と」

 

「その通り」

 

「あなたは私が聖杯戦争に参加すると、思ってなかったの?」

 

 表情そのままに遠坂は聞いた。

 

「それは思っていた。だけど、それでも俺には頼れる場所がなかったんだよ」

 

「それでもよ!あなた、敵陣のど真ん中に飛び込んでくるつもりだったわけ?」

 

 遠坂は憤慨した。何に怒っているかってのは理解できる。しかし、だ。それでも俺には、拠り所ってのが必要だったんだ。

 

 言い終わったあと、彼女は再度ほうじ茶を啜る。というより、場を繋ぐために無理矢理喉に通しているようにも見えていた。

 

「それはお前も同じだろ。今お前は、敵陣のど真ん中にいる。違っているか?」

 

「それは!・・・そうだけど」

 

 痛いところをつかれた、というような表情だった。まぁ、それもそのはずだろうな。勝手に入ってきたのも、彼女自身だから。

「ま、お前と士郎が知り合いだってのはわかった。だからといってはなんだが、同盟を組まないか?」

 

「え?」

 

 そう。同盟だ。これは先程思いついた。自分はあまり徒党を組むことは好まないが、今回は小さな戦争である。何も、一組のみで挑む必要もないだろう、と考えていたのだ。

 

 遠坂は少し考えたあと、決心したような顔をして言った。

 

「いいわ、キリツグさん。同盟を組みましょう。でも2つだけ条件がある」

 

「条件だと?」

 この場合、そんなこと言ってられないだろうと思うのだが、これも彼女の性格故だろう。遠坂たるもの常に優雅たれ、か。

 

 この子はどこか優雅さに欠けるのだがな。

 

「ええ。まず始めに、教会に言って衛宮くんのこれからを相談すること」

 

「えー、あの根暗神父に?」

 

 また会わなきゃならないのか。

 

「次に、あなたの事を事細かく教えること、わかった?」

 

 俺の返答をことごとくスルーして、二つ目の条件を述べた。

 

「なんで、俺の事を」

 

「さっき聞いたけど、あなたは色々とわからないことが多いのよ。キリツグ・E・ペンドラゴンさん、ペンドラゴンって、アーサー王のファミリーネームよね?」

 

 その時、セイバーが反応したように見えたが、敢えてスルーしておく。

 

 俺の事を、か。なるほど、この子は頭がいい。俺の黒い部分を理解している。自分自身でも、分からないことが多いが、分かっていることだけでいいか。

 

「まあな、それも含めて話すよ。俺は--------」

 

*******************************

 

 士郎と遠坂、そしてアーチャーは教会へ行った。俺はできれば会いたくなかったので、同席はしなかった。渋々、凛もそれに同意した。そんなときに、俺は何をしているかと言うと、俺はこの町の墓所へと歩いていたのだ。

 

 時間はすでに遅いが、今回起こったことを整理すると同時に、気持ちを落ち着かせるにはちょうどいいと考えたのだ。

 

 気持ちが落ち着くかは、わからないが。

 

「キリツグ、どうかしたのですか?」

 

 気づけば、歩みを止めていた。知らないうちに、物思いに耽っていたのだろう。我ながら、恥ずかしい行動だ。

 

「いや、何でもないよセイバー」

 

 初めは誰の同席もいらないと、セイバーの提案を拒否したのだが、セイバーの希望と言うか、強制的なものというか、そんな感じのやつで、無理矢理着いてきていた。

 

「そういえば、今日は月が綺麗なんだな」

 

「ええ、今宵は満月のようです」

 

 セイバーも月を眺めながら言った。

 

「ん?なんでこの世界の者ではない英霊が、そんなこと知ってるんだ?」

 

「我々サーヴァントは、聖杯の座に着いた際に、舞台上の情報がインプットされます。ですから、日常生活には困らないのですよ」

 

「便利なんだなー、聖杯ってのは 」

 

 神秘を呼び出す聖杯だ。それくらいの事簡単にやってのけるのだろう。

 

「着いた」

 

 話しているうちに、目的地に着いた。

 

 丘の上にある彼の墓の前まで、俺はゆっくりと急いだ。

 

「よう、切嗣」

 

 かつて救われた英雄が眠る、石の塊の前に、俺とセイバーは立っていた。両人とも、複雑な表情を浮かべながら。

 




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