Fate/the alter   作:zaregoto

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#04 願いの価値

 ある満月の晩、少年と男が縁側に座っていた。涼しい風が流れ、風鈴が鳴り響く。

 

 男は最近まで、常に戦っていた。

 

 それは、彼の信じる正義のために。

 

 それは、彼を信じる者のために。

 

 しかし、彼は守りきることができなかった。信じるべき正義も、信じてくれた者たちも。

 

 最後の力を振り絞り、彼は最後に残った彼の正義(彼女)を守ろうとした。それでも、彼には守れなかった。

 

 彼は酷くやつれていた。年相応ではない内面的なものだ。彼は文字どおり、精も根も尽き果てていたのである。

 

「じいさん?」

 

 少年は心配そうに彼を見た。まるで淀みを知らない純真な表情であった。

 

 彼は何でもないよ、と少年の頭を撫でながら言った。少年はくすぐったそうに体をくねらせる。彼は少年を無意識にあの子と重ねていた。雪のように白い、彼の娘。もう届かない、彼の信じる者。彼を信じた者。

 

 月の光が二人を照らす。

 

「ねえ士郎、僕はね、正義の味方になりたかったんだ」

 

 彼は話す。彼自身の思い。叶えることができなかった悲願。自らの中に潜む泥を吐き出すかのように、生き生きと。

 

 そして少年は受け止める。彼の信じる正義(願い)を、自らの意思とを重ねて。

 

「なら、俺が代わりになってやるよ」

 

 その言葉がこの男を救ったのは言うまでもないだろう。

彼は、力なく微笑んだ。

 

**********************************

 

「ここが、切嗣の墓」

 

, 衛宮家の墓と書かれた石の塊の前に黒い服に身を包んだ男と甲冑を纏った少女が立っていた。

 

「なあ切嗣、俺、あんたを追ってここまでやって来たんだ。あんたと張り合えるくらいの力をつけて、さ」

 

「キリツグ」

 

「あん?」

 

 居たたまれなくなったのか、セイバーが声をかけた。

 

「このお墓は切嗣のものなのですか?」

 

「ああ、お前は知らないと思うけどな」

「いえ、知っているのです」

 

「あ?」

 

 セイバーは続けた。

 

「彼は前回の聖杯戦争でマスターをしていました」

「知ってるさ。そのくらいはな」

 

「彼は、私のマスターだったのです」

 

 会話という会話をしたことは、数えるほどしかないですが、と少女は言った。

 

「というと、セイバーはアーサー王なのか?」

 

 セイバーはそんなことまで知っていたのか、と言いたげな顔を向けた。

 

 彼は知っていたのだ。しかし、衛宮切嗣が、どんなことやっていたかまでは知り得ないが。

 

まあ、事前調査は基本だろう。どんなサーヴァントといたのかは知らなかったが、アーサー王を召喚していたのは、後々わかった。

 

「でもまぁ、アーサー王が女の子っていうのには驚いたけどな、今の一瞬」

 

 キリツグはニカッと微笑んだ。

 

 反対にセイバーは困ったような顔をしている。

 

「私はまだあなたのことを知りません。ですが、あなたは切嗣と似かよった場所は見当たらない。一瞬だけ、あなたを間違えそうになりましたが、それでもあなたは彼ではない。会話をしていくうちにわかったことです。あなたに切嗣のような残酷さは感じられない」

 

 墓石を眺めながらそう言った。表情は、どこか寂しさを孕んでいた。

 

 これは、悪口、ではないな。彼女は純粋にそう感じている。悪意は感じられないが、少しばかり恨みを感じる。

 

 俺はそれに対し、反論を開始した。

 

「あの人は、本当にそんな人だったのか?そこに疑問がわくよ。俺にとってのヒーローはあの人なんだ。たとえどんな人間であったとしても、だ」

 俺の反論に対し、驚きながら、少し怒ったように反論しかえした。

 

「あなたは知らないのです。彼が行ったことを。どんなことをしていたのか。それは騎士道、いえもはや普通の人には到底できないようなことをやっていたのですよ?」

 

 俺だったら英霊の尺度でものを話すなと、言うが、これは恐らく、話の腰を折る発言になるだろうから、やめておいた。それでも、反論は続けた。

 

「それはあの人にあの人なりの決意があったからなんじゃないのか?だから聖杯戦争に参加したんだろ」

 

 ああ言えばこう言う、というのはこういうことをいうのだろうとその時感じた。セイバーはどうしても切嗣のことを認められないらしい。前回、いったい何があったのか。さすがに気になるな。

 

「私には理解できないのです。勝負事に勝ちたいからといって、人の道を外れるような行為を行うなど、言語道断です」

 

 正直、カチンときている。度重なる切嗣への暴言、とまではいかないが、それに準ずることを言うセイバーに対してだ。 

 

「はぁ、お前、本当に王様なのか?」

 

 セイバーはその言葉に表情を変えた。堪忍袋の緒というのを間近で見られたような気がした。

 

「それは、どういう意味ですか」

 

「いや、まぁ、その、なんだ。お前みたいな頭が堅くて、本当の正義も知らないようなやつに、よく王様が勤まったもんだ、と」

 

 しどろもどろになりながらも、答える。セイバーの圧が予想以上に凄かった。

 

「それは聞き捨てなりません、マスター。確かに私はブリテンを救うことはできませんでした。しかし、あなたのような一般人に言われたくはありません。私が王であることを否定しては、私とともに戦ってくれた者たちを裏切ることになる」

 

「否定してるわけじゃねぇさ。ただ疑問に思っただけだ。だが、そんなものは俺の妄想だよ。ただのこじつけだよ。だけどな、俺がお前みたいな王様のことを理解できないように、切嗣だってお前のことを理解できなかったんじゃねぇかなぁ」

 

 理解できない。そう俺が言った瞬間、セイバーの勢いが急になくなった。

 

「それは、彼は理解できないというよりも、しなかったの方が近くて」

 

 急にセイバーの声が小さくなった。どうやら、図星だったらしい。この子にも思うところがあるわけだ。

 

 そのまま、少し俯いてしまった。

 

「だから、その分もお前が切嗣のことを理解するべきだったんだよ。前回の聖杯戦争でどんなことがあったかは知らんが、俺があの人のサーヴァントだったなら、まずはマスターを知ることから始めるさ。ま、こんなのはただの一般人の、浅はかな考察なんですがね」

 

 それから、しばしの沈黙が流れた。セイバーには考える。もちろん、この俺にも。

 

 その時、遠くの方から、微かに魔力を感じた。一度感じたことのある魔力だ。恐らく、凛のもの。

 

「これは、凛の魔力だ。何かあったのか」

 

「ええ、どこかで、戦闘でも」

 

 なるほど、聖杯戦争が行われているってわけか。今夜は忙しい日だな。

 

「それに、この感覚、どっかで」

 

 つい最近感じたことのある魔力。強大で底知れない魔力の波形。いや、まさか。

 

------別のお兄ちゃんに会ってくるから。

 

 その時、脳裏によぎったのはあの少女。

 

 切嗣を殺すためにやってきた、あの子だった。

 

「急ぐぞ、もしかしたら士郎、死ぬかもしれない」

 

「それは、なぜ」

 

「とにかく急ぐんだよ。悪い予感はいつの時代でも当たるもんだろ?」

 

 俺たちは切嗣を背に戦闘の場へと走り出した。

 

*************************************

 

 教会を少し行ったところにその場所はあった。場所というよりも、ただの道であったのだが、そこは確かに戦場として成り立っていた。

 

 死地。死の匂いが漂っている。士郎と凛、そしてアーチャーが、斧を持った大男と対峙していた。

 

「無事か!士郎!」

 

 俺たちは急いでそばに寄って行った。

 

「キリツグ!」

 

「遅いわよ!あんたたち!」

 

 まさに虫の息といったところだろうか。彼らの姿はぼろぼろで、よくもここまで生き残れているということだけが、ただただ奇跡だった。

 

 目の前にいるのはあのときのサーヴァント。

 

「あ、さっきぶりねキリツグ」

 

 先ほどぶりの少女、イリヤスフィールは笑顔でそう言った。

 

「ちゃんとサーヴァントを召喚したんだ。約束、守ってくれたんだね」

 

「ああ。約束は守るためにあるからな」

 

「約束って何よ」

 

 凛は怪訝そうな目をこちらに向けていた。まあ、ついさっきまで戦っていた敵と、楽しそうに会話しているんだから、そうなるのも当たり前だろう。だがしかしだ。楽しそうなのはイリヤだけで、俺はまったく楽しくなんかなかった。

 

 俺はセイバーにアイコンタクトを送る。バーサーカー撃て、と。セイバーは頷き、対象に突撃した。

 

「はぁぁぁぁぁー!!」

 

「■■■■■■■■■■ーー!!」

 

 セイバーとバーサーカーの得物がぶつかり合う。火花を生みながら、戦闘を行っていく。

 

「俺はあの子に殺される約束をしたんだよ、不本意ながらだけどな」

 

「あなた、何を言って!?」

 

 凛の表情はますます怪しがっていった。

 

「キリツグ!大丈夫なのか!?セイバーは!」

 

「大丈夫だろ。なんたって、王さまだからな」

 

「は?」

 

「いや、こっちの話さ」

 

「もう!よくわかんないわよ!アーチャー!あんたも援護を!」

 

 アーチャーはちらりとこちらを眺め、不機嫌そうに持っていた双剣を構えた。

 

 ん?双剣?

 

「おいまてよ。あいつ、確かアーチャーだったよな。何で剣を。しかも近接戦闘型のもんをもってんだよ」

 

 そうだ。アーチャーといえば弓。遠距離に優れた英霊だ。英霊は自身の偉業や、装備などの性質によってクラスを振り分けられる。しかし、アーチャーであるはずの彼が刃を手にしていたのだ。

「知らないわよ」

 

「知らないわけないだろ。アイツの真名を聞いたんだろ?それがなんなのかは聞かないが、あれはおかしいだろ」

 

「しょうがないのよ、だって彼記憶を失っているもの」

 

 遠坂は淡々と言ってのけた。おそらく、それはとてもたいへんな事態だ。まぁ相手には真名を知られることはないが、自分も知ることはできない。

 

 彼がどのような人間であり、どのような神秘をはらんでいるのかがわからないのだ。これが、たいへんな事態ではないはずがない。

 

「それにしても、触媒から何が召喚されるかくらいわかったはずだ。それじゃないにしても、その触媒に関係しているやつくらい創造できたはずなんだが」

 

「悪かったわね!触媒は使わなかったのよ!宝石でブーストして、無理矢理召喚したの!」

 

 それを聞いて驚いた。まさか、この娘はおれと同じことをしていたらしい。触媒無しの召喚。俺以外にも行った人物がいたとは。

 

「ま、まぁいいか。とにかく、アイツを退けないと」

 

「ぐぁ!」

 

 そう思い戦闘へと視線を向けた。向けられた先には、方膝をついているセイバーの姿があった。

 

「セイバー!!」

 

 これはまずい。そう確信した瞬間だった。

 

 俺の横から、人が飛び出していた。

 

「!士郎!?」

 

 バーサーカーによって振り上げられた斧が、セイバーに届くであろう刹那の瞬間、士郎はその間に割って入った。

 

 飛び散る血。はみ出した内臓物。バーサーカーによってなされたそれは、士郎を人間からそうでないものにしたのである。

 

 そこにいた人間は彼が何をして、何をされたのか、まったく理解できなかった。

 

****************************************

 

 ここはどこだろう。ここは、いったい。

 

 視認できる限りでは、村のように見えるが、人の姿はない。ゴーストタウンとでも言えるだろうか。

 

 いや、そうではなかった。一人、人影があった。

 

 古びた箱を大事そうに抱えた少年が、噴水だろうか、その前に座っていた。虚ろな目で虚空を見つめている。

 

 しかし、彼を見つけた瞬間に、辺り一面が火の海になった。無惨にも家屋は崩れ、噴水は壊されていた。それでも少年はそこを動かない。

 

「おう・・・・・・・さま」

 

 少年が何かを呟いた。目から涙を流しながら、まるで肉親を思うかのようにいとおしげに呟いた。見た限りでは、それだけが感情という感情を孕んだ行動であった。

 

「僕は・・・」

 

 その瞬間、彼の感情が頭の中に流れ込んできた。

 

 言葉には言い表せない、絶望の感情。色で表せるなら黒。漆黒だ。このままでは、きっと俺が俺という存在を理解できなくなる。

 

 俺は誰だ?

 

 俺は衛宮士郎だ。

 

 違う。それはじいさんがくれた名前だ。

 

 じゃあ、俺は、誰だ。

 

 何かがグルグル回る。

 

 感じてはいけない何かを、今俺は、感じている。

 

 消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろきえろキエロ。

 

 そう。あたまのなかでいのった。

 

 そしておれのいしきはとけていった。

 

 

 まっくろなやみのなかに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目です!士郎!!」

 

 光が響いた。

 おそらく、物体とよばれるものはもうそこにはなく、あるのは現象や感情とか、形のないものだった。一色だけしか存在しなかった世界に、あらたな色が混ざる。

 

 君は誰だ?俺を呼ぶ君は誰だ。

 

 光が差し込んできた。まるで太陽が上がるかのように、差し込んできたのだ。俺はそれに向かって、歩く。

 

 いや、歩いているのではなく、向こうから近づいているのかもしれない。

 

 それでも、それは、確かな形をもって俺を導いていた。

 

 

 

 

 

 




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