「は?もう聖杯戦争が?!」
仰々しい書物に囲まれた一室で、俺はまるでお笑い芸人のように大袈裟に驚いていた。薄暗く、話しかけている対象の顔もうまく視認できないほどだ。
「ああ。前回からまだ10年ほどしかたっていないのにも関わらずだ」
その男、ロード・エルメロイ二世。初代の名を受け継いだ偉大な魔術師だ。魔術協会から逃げ出した俺は、この人に面倒を見てもらっていた。
「ミスタウェイバー、聖杯戦争が起こるのは分かった。だけど、なぜそれを俺に言うんだ」
「お前に向かってほしい。その地へ。冬木の地へと」
この男はとんでもないことを言い出した。俺にはるか遠く、日本の冬木の地へと向かってほしいと、そう行っているのだ。まだ見習いの身であるこの俺にだ。
「嫌だ。絶対に行きたくない」
「命令だ。行け」
「あんたが行けばいいだろ!?」
「私はいけない。この時計塔の管理をしなければならないからな」
俺にはそれを理由に、ただ行きたくないだけだとしか思えないけどな。
「お前には、目的があると言ったな」
「あ?あぁ。まぁな」
「その目的を果たしに行けばよかろう。衛宮切嗣に会えるのは今回だけかもしれんぞ?」
「確かに、そうかもしれないけど」
「だったら、つべこべ言わず向かえ!参加しろとは言わない。ただ、現界する大聖杯の状態を見てきてほしいだけだ。お前の報告によっては、私の行動の指針が明確化する」
真剣な表情で話した。
「あー!分かったよ!向かえばいいんだろ?!」
「気を付けていけよ、それと、監督役には気を付けろ」
「監督役って、誰?」
聖杯戦争には監督役が存在し、その戦いを補助し管理する。
「言峰神父だ」
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俺は縁側でボーッとしていた。何かをしていたわけではなく、何をしていたんだ?と聞かれたならばそう答えるだけだ。切嗣もここで座って休んでいたのかと思うと、なにかおかしいものが込み上げてくる。
あれから一睡もできなかった。元々寝付きのいい方ではなく、あんなことが起きた日だし、眠れないのも当然だろう。
グーグー横で寝息を立てている遠坂は、純粋にすごいと思った。いつの間にか寝てしまっていたのである。
これからのことについて、ここで遠坂と話していた。士郎があんなことになってしまい、士郎を巻き込まないという選択肢は消え失せてしまったのだ。
元々、巻き込まれていたがそれでも今回のあれは、確実に聖杯戦争に巻き込んでしまった。更にイリヤのこともある。あのこがいる限り、士郎の無事は保証できない。
士郎を巻き込まず、言峰のところで保護させてもらう選択肢しかないが、彼はそれを拒んだらしい。まぁ、彼のあの性格だ。それはないと思ったが、言峰のやつめ。一般人も保護できるんじゃねぇか。
「今日は騒々しい一日だったな。ロンドンから来て、まだそれほどたってないはずなのに、一週間くらいここにいた気がする。そう思わないか?アーチャー」
俺は誰もいない空間に声を投げ掛けた。一般人から見られたらおかしいやつのただの独り言のように見えるかもしれない。だが、俺には分かったのだ。そこにいる、赤銅色の肌を持つ、名もない英雄のことを。
「ふん。私はお前のことなどはしらん」
アーチャーはふて腐れたような顔で姿を見せた。
「まあそうだろうな。あの同盟もお前はきっと反対だったんだろう。何も言わなかったがな」
「よくわかっているじゃないか」
「正直、あの同盟には意味はない。無理矢理意味付けさせるとするならば、士郎の無事を約束させるためだ」
彼らの痴話喧嘩を見ていれば、彼らに面識があったのは明白だ。同じ学校ならば、いろいろ安心だ。俺が昼間の学校に乗り込むことはできないからな。
「何故あの小僧にこだわる。お前は私のような人間だと思ったのだがな」
「というと?」
アーチャーは言うべきか言うまいか迷ったような表情をしたが、決心して話始めた。
「お前は大を救い、小を捨てる現実主義者のように思えたのだよ。あの小僧が死んだところで、お前には関係のないことだ。戦闘において見せたお前の冷静な態度は、それを揶揄していたように思えたのだが、どうやら違うのだろうな」
「別に違わねぇよ。俺は現実主義者だ。だが、あの子は切嗣が守った子。切嗣が成したことを無駄にするわけにはいかねぇよ」
切嗣の正義を無駄にするわけにはいかない。そう思っての行動だった。
アーチャーの言うように、俺は現実主義者だった。10000を救えるなら、100を犠牲にすることすら厭わない。これが、俺の正義。まあ、こんなの正義でもなんでもないと自分でも思っている。しかし、それとこれとは話が別なんだよな。
「ふん。私には関係のないことだ」
「だったら言わなくてもいいだろ。お前、どことなく不器用だよな、アーチャー」
「うるさい」
そう言ってアーチャーは消えてしまった。文字どおり、霞のように消え去った。とはいっても、おそらく俺のことを監視しているだろう。横にいるのは、マスターだからな。
俺は寝息をたてる凜の方を向いた。なんというか、寝ていたら可愛いのに。
そう思って、俺は何故か凜に手を伸ばした。言うなれば出来心が正しいだろう。と、同時に凜が目をさました。
「あ」
「え?」
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頬をパンパンに腫らせながら、お茶を啜っていた。隣にはセイバー。前方には赤い悪魔、もとい遠坂凜がいる。
「大丈夫ですか?マスター」
「命に別状は、ないと思う」
「あんたが悪いのよ。レディーにセクハラするから」
「レディーは急にビンタをかまさない」
「うるさいわね!」
「できれば年上に敬意を払ってもらいたいのだがね」
ヤレヤレといったような形で俺は再度お茶を啜った。
「知らないわよ、そんなこと。あなたの年は?」
「あ?多分20」
「なによ、多分って」
怪訝そうな顔で凛は訪ねた。
「別に関係ないだろ。必要なのは今後のことについてだ」
話そうとしなかったキリツグを表情を変えず、見つめる凛。そんなことを気にもしないセイバーはお茶請けをパクパクと食べていた。
「ふぉんふぉとふぁ(今後とは?)」
「口の物を飲み込んでから言え、セイバー」
「んく・・・はい」
「はぁ・・・。まあいい。今現在分かっている情報を各々出していこう」
現在存在しているのを確認したサーヴァントは4体。セイバー、ランサー、アーチャー、そしてバーサーカー。
ランサーのマスターは未確認。バーサーカーは言わずもがなだろう。
「って、情報少ないな」
「しょうがないでしょ。聖杯戦争はまだ、始まったばかりなんだから」
「まぁ、そうか」
時刻は朝の8時。学生ならもう、登校している時間なのだろうが、眼前の女は一切そのような行動は見せない。
「ん?」
どこかで異音がしたように思えた。気のせいかと思ったが、セイバーもそれに気づいていたようで、その方向に目を向けている。
「あ、士郎か」
「はい。そのようです」
セイバーは、私が見てきます、と言い残し士郎の眠っている部屋へと向かっていった。
それを見た凛は、気をてらったかのように、口を開いた。
「思ったんだけど」
「ん?なんだ?」
それとなく深刻な表情で話始める。
「衛宮くん、彼は異常だと思うの」
異常。凛は確かにそう言った。
そう。彼は異常だ。俺もそう思っていた。しかし、俺は凛の見解を聞くために敢えて訪ねてみた。
「何が異常なんだ?俺にはただの高校生にしか見えないのだが」
「いろいろ、よ。彼は破綻しているわ。それも、人間としてね」
「なるほどな。それで?」
「自分であんな死に突っ込むようなことして、彼は聖杯戦争に参加していないのにも関わらず、よ?確かに巻き込まれちゃったのはそうだけど、それでもよ。あれは普通の人間には出来ないことよ」
確かにそうだ。彼の中の正義の味方像が、ああいうことをいうのならば、あれは確実に破綻した行動だ。
「しかもあの回復力よ。バーサーカーの一撃で、彼の体は真っ二つになった。私も、ああやってしまった。こうさせないために、あの陰険神父のところへわざわざ行ってやったのに。そう思ったわ」
一呼吸おいて、凛は続けた。
「だけど、彼の傷は、まるで元からそんなことなかったかのように治っていった。あんなの、並みの魔術師でも無理よ。まるで奇跡ね。ま、彼にその意識があって、バーサーカーに突っ込んでいったんなら、はじめから説明はつくけど」
「アイツは隠し事ができるタイプじゃあないだろうな」
「そうよ。だからおかしいの。魔術じゃなくて、あれは魔法。等価交換の原則に乗っ取っていない、次の次元のものよ。言うなれば治癒じゃなくて、蘇生ね。あのとき彼は確かに死んでいたもの」
そうだ。アイツはあのとき確かに死んだ。けれど、俺とセイバーが駆け寄って、肩を抱き上げた時にはもう、その痕跡がなかった。まるで、それが、なかったものであったかのように。
「ははっ、それがアイツの宝具なのかもな」
「笑い事じゃないわよ。彼の中の魔力量だってそれほどない。私だって探知できなかったのだもの。それなのに、あれは」
「なるほど、奇跡ね」
もしかしたら、本当に彼は宝具を持っているんじゃあないだろうか。いや、現存していて、能力を発揮できる宝具なんてそうそう存在しない。確か、魔術協会にはそんな宝具があった気もしたが、それはいいだろう。今は、今だ。
「遠坂、キリツグ」
その時、襖の奥から士郎が顔を出した。昨日の夜、あんなことがあったなんてことを感じさせない表情で。
「かなりのお寝坊さんね、衛宮くん」
「あぁ、すまない。いろいろと」
凛が似合わないことを口にした。彼女なりのボケなのだろうか?いや、素でやっているのかもしれない。
「傷はどうだ?」
凛のことはスルーして、士郎に訪ねた。
「傷?いや、それはない。そうか、昨日のことは本当にあったことなのか。セイバーを見て、夢じゃなかったことは分かったけど、にわかには信じられないな。俺が死にかけたなんて」
正確には死んだんだけどな。それは言及せず、聞いてみた。
「なぁ士郎」
「ん?なんだ?」
「お前は、本当に強化の魔術しか使えないのか?」
「え?ああ。そうだけど、それがどうかしたのか?」
「いや、なんでもない。病み上がりのとこ悪いが、飯作ってくれ。腹がへって大変だ」
士郎は、しかたないな、といった表情で台所へと向かった。セイバーもそれにトコトコと続いていく。
今はいいだろう。それに追及しなくても。けれど、恐らくだが、彼のあの回復力には聖杯が絡んでいる。そう思えて仕方なかった。
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やってしまった。しかし悔いはない。あの下品な男をこの手で始末出来てよかった。
黒いローブに身を包んだ女が足を引きずりながら、雨のなか森を歩いていた。現代にいては、とても目立つような格好。魔女のような格好だ。絵に書いたように。
「はぁ、、はぁ、、」
かなりの魔力を消費してしまった。このままでは、私は消える。悲願を達成出来ずに、私の第2の生涯は幕を閉じる。
「くっ、、、このままで、、うっ、、」
足を挫き、その場に倒れこんでしまった。
雨が、女の顔に降り注ぐ。弾丸のように降り続ける雨は、私の今を確かに表していた。
「終わりね、、、。もう」
「何が終わりなんだ?」
女が自分の終わりを感じた瞬間、頭の上から声を投げ掛けられた。
「あなたは」
「酷い怪我をしてるじゃないか。大丈夫か?」
「黙りなさい、あなたには関係のないことでしょう」
女はその存在に冷たく接した。安い同情など、今の彼女にはなんの効果もなかった。むしろ、逆効果だ。
「まぁ、関係ないけど、正義の味方としたら、あんたを放ってはおけないんだよな」
そういって、その男は手を
「来いよ。俺が救ってやる」
女は、その申し入れを、何故か受け入れてしまった。
手を掴む。その手は大きくて、豆だらけで、とてもとても、暖かかった。