Fate/the alter   作:zaregoto

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#06 二人目

 石が飛んでくる。小さいけど、当たったら痛い。

 

「やーい!捨て子捨て子!」

 

 近所の子供に、僕はいじめられていた。子供らしいいじめだ。陰湿なものではないが、それはそれで堪える。

 反撃は出来ない。したら、またやられる。倍にして返される。それは嫌だ。だから僕はずっと耐えている。

 

「こら!やめなさい!」

 

「うぁー!貧乳がでたぞー!!」

 

「だっ、だれが貧乳ですか!」

 

 その時、助けがきた。いつものことだ。こうやって行為が終わる。そして、また、同じことが始まる。

 

「また、やられていたのですか?」

 

「、、、、」

 

 お姉さんは僕に訪ねるが、僕は答えない。答えても、結局何も変わらないからだ。

 

「やり返せ、とは言わないけれど男の子でしょ?何か思うところはあるんじゃないんですか?」

 

「貧乳のお姉さんはどうして、僕を助けてくれるの?村の人たちは誰も助けてくれないのに」ゆ

 

「ひっ、、、」

 

 明らかに引き吊った顔で、僕を見据える。僕も、お姉さんの顔を、目を一点に見つめた。

 

「同情ってやつ?僕、そういうのはいらないよ。そんなものもらっても、お腹はいっぱいにならないから」

 

「同情って、、、可愛くない子ですね。違いますよ」

 

「じゃあなんなの?」

 

 お姉さんは無い胸を張って、宣言した。

 

「私は王様なんです」

 

***************************

 

「行ってらっしゃい」

 

「ああ。キリツグも」

 

「キリツグ、本当によろしいのですか?」

 

 セイバーは、申し訳なさそうに俺を見つめていた。

 

「言ったろ?士郎を守れって。またイリヤに会ったら、今度こそあんな奇跡は起きないだろ。あることがないから、奇跡なんだから」

 

「俺は、一人でも大丈夫なんだが」

 

「お前は黙って従ってろ。また、あんな風に特攻されたら、たまったもんじゃないからな」

 

 士郎は何か言いたげな顔をしたが、自分が迷惑をかけたことは自覚しているようで、口を閉じた。

 

「ほら、行くわよ二人とも」

 

 凛はすでに門付近まで歩いて行っており、こちらのことはお構い無しだった。さすが、遠坂凜だ、とでも言っておこうか。赤い悪魔め。

 

「はやくいけ」

 

「ああ、じゃあ」

 

「キリツグも、ご武運を」

 

 そういってセイバーは霊体化し、士郎は歩みを進めた。

 武運って、戦いに行くわけじゃないんだから。あ、でも聖杯戦争は常時行われてるのか。気を付けるにこしたことはない、か。

 学校に行こうと言い出したのは凛だった。士郎は病み上がりだし、今日は休んだほうがいいんじゃないかと提言したが、学校で確認したいことがある、といって聞かなかった。

 そうして、誰もいなくなったあと、俺も足を動かし始めた。向かう先は、特になし。ただ、一人で考えたいと思っていたのだ。士郎たちには周辺の調査と言ったが、そんなことをするなんてサラサラなかった。いや、そういうわけでもない、か。多少は敵マスターを探す努力をしよう。

 

「さて、どこへいくか」

 

***************************

 

 たどり着いたのは、ちょっとした繁華街だった。まだ昼間なので、買い物袋を抱えた奥様方が行き交っている。

 

「どうするか」

 

 考え事をしようにも、ゆっくり座れるところも知らない。士郎に町のことを教えてもらえばよかったかな。

 

「ん?」

 

 俺の目線の先には、なんだか見知った顔がいたのである。

 その、少女はたい焼きのお店の前で物欲しそうに立ち尽くしていたのだ。

 

「イリヤ」

 

 俺はたまらず声をかけた。イリヤは、俺に気づき、唐突だったようで、ほほを赤らめてしまった。

 

「キ、キリツグ?!」

 

「昨日ぶりだな。どうした?たい焼き食べたいのか?」

 

「べ、別にそんなこと」

 

 そう言った瞬間イリヤのお腹が鳴り出した。

 

「あ」

 

 赤かった頬は更に赤みをまし、イリヤは顔を伏せてしまった。

 

「いーよ、買ってやる。丁度俺も腹が減ってたところなんだよな」

 

 たい焼き屋の大将にたい焼きを二つお願いした。

 

「ほらよ」

 

 イリヤは伏せた顔をちょこっとあげ、たい焼きを確認したあと恐る恐るそれを受け取った。

 

「あ、ありがとう」

 

「おう。どういたしまして」

 

 辺りを見回すと、丁度よい公園が見つかったので、二人で座って食べることにした。

 

「どうだ?美味しいか?」

 

「これがタイヤキ。甘くて美味しい」

 

 目をキラキラさせながら、パクパクとたい焼きを頬張っていく。

 なぜ、ロンドンで育った俺がたい焼きのことを知っているのかといえば、それは俺の師匠に原因があった。俺の師匠は無類の日本好きであり、彼の部屋には日本特産のものがたくさんある。というか、日本に限らずあらゆる世界のものがたくさんあったのだ。よくわからないゲームのTシャツも置いてあって、なんだか、よくわからないことばかりだった。そのTシャツを重宝している。なんでも、思いでの品、だとか。

 

「金くらい持ってないのか?アインツベルンのご令嬢は」

 

「買い食いはセラが許してくれないの。でも、敵の私にこんな親切にしてくれるなんて。助けてあげないよ?私はあなたを殺すんだから」

 

「別に今じゃないだろ?殺気も出てなかったし。俺は、平和が一番だ」

 

 イリヤはキリツグの顔を凝視した。目を一点に見据える。

 

「な、なんだよ」

 

「そんな人が、聖杯戦争に参加するなんて、なんかおかしいね。話が矛盾してるよ」

 

「お前なぁ、、、」

 

 もとはといえば、イリヤとの約束でこの戦争に参加したんじゃないか。まぁ、本当はそれだけじゃないのか知れないけれど。

 そうしていると、突然イリヤのたい焼きを食べる手が止まった。

 

「どうした?」

 

「もしかしたら」

 

「ん?」

 

「もしかしたら、こんな日常もあったのかなぁ」

 

 イリヤはどこか遠い目をして、話し始めた。

 

「どこかで間違えてなかったら、お父さんとお母さんと、それとお兄ちゃんと一緒に、こうやって公園でタイヤキを食べられたのかなぁ」

 

 彼女の中の叫びが、言葉となって表れていく。

 

「普通に学校に行って、普通に恋をして、それで、それで」

 

「イリヤは、どうしたいんだ?」

 

「え?」

 

 驚いたように声をあげ、俺の方を向いた。

 

「これから、どうしたいんだ?」

 

「わた、しは」

 

 イリヤの迷いは、俺の目から見てもはっきり分かった。この子は、年相応の女の子なんだ。セイバーのような、英霊とは違う。あるべき生活が、与えられるべきなんだ。

 

「私は戦うわ。シロウとキリツグを殺して、フクシュウするの。それで、、それで」

 

「そうか。俺は受けてたつよ。約束だもんな」

 

 そういって、俺はイリヤの頭を乱暴に撫でる。

 

「あぅ、、」

 

「でも、辛くなったら言え。俺が救ってやる。必ず」

 

 俺も俺の思いを口にする。

 

「救って、これでもかっていうくらい幸せにしてやるよ。約束だ」

 

 イリヤは俺の目を見つめ続けた。俺もそれに答える。

 

「ふ、ふん!助けてって言うのは、キリツグのほうなんだから!、、、、、、でも」

 

 ほほを赤く染め、プイッとそっぽを向いてしまった。

 

「約束、だよ」

 

「ああ、約束だ」

 

 そういって俺はイリヤに小指を差し出す。

 

「なあに?」

 

「指切りをしよう。イリヤも小指を出して」

 

「ユビキリ?」

 

 恐る恐るイリヤは小指を出した。その指と俺の指を俺は優しく繋ぐ。

 

「指切った」

 

「ゆび、繋がってるよ?」

 

「これで契約が完了した。そうだな。目に見えない令呪みたいなもんだよ」

 

 怪訝そうに自分の指と俺の指を見るイリヤ。ま、こんな習慣あっちにはないだろうからな。

 

「約束を破ったら、針を千本飲まなきゃいけないんだ。俺も大変な契約を結んじまったよ。イリヤは嫌か?」

 

「ううん。嫌じゃない、、、。分かった!針千本だからね!私がピンチの時には助けてよね」

 

 笑顔になるイリヤ。

 この子は、笑顔が似合う。心からの笑顔。俺は、この笑顔を守らなきゃならない。

 

「じゃあね!キリツグ、今日は楽しかった!」

 

「ああ。俺も楽しかった。また、な」

 

「キリツグは優しく殺してあげる!」

 

「あ、ああ。お手柔らかに頼むよ」

 

 そういってイリヤは去っていった。恐らく俺にとっても、彼女にとっても、心が安らいだ時間だっただろう。

 そう願いたい。

 

***************************

 

 そろそろ、夜になるころだった。俺はまだ、公園に一人座っていた。言い尽くせる限りの平和。ここが、戦場になるなんて、誰が思うのか。

 いや、戦場にするのは俺たちだ。俺たちが勝手に戦場にしてしまう。勝手だよな、ほんと。

 

「おい、お前」

 

「ん?」

 

 突然声を掛けられた。声がした方向には、ライダースーツを着こんだ、金髪の青年が立っていた。

 

「な、なんだ?」

 

「先程からここにいるが、何をしている?」

 

「いや、別に。ただボーッとしてただけなんだけど」

 

 不敵に笑う青年だった。

 

「面白い魔力を感じたのだが、勘違いのようだな」

 

「え?なんだって?」

 

「よい。こちらの話だ。してお前は、酒は行ける口か?」

 

 高級そうなワインを片手に、そういった。

 

「今宵は満月、共に月見酒でもしないか?よもや、王の誘いを断るわけではなかろうな」

 

「王って、、、。いいよ。お供します。王さま」

 

 なぜか、王さまであることに不思議を思わなかった。そうであることが当たり前。そんな感じがしたのだ。

 

「ほら」

 

 ワインだろうか。お酒の入ったワイングラスを渡される。俺はそれを恐る恐る口にした。

 

「う、旨い」

 

「だろう。我が知るなかで最高級の酒だ。不味いはずがない」

 

 なんだろう。濃い味なんだけど、しつこくない。滑らかな舌触り。美味しい酒っていうのは、こういうことを言うのだな、と純粋に思った。

 

「お前は、なぜここにいる」

 

 先程と同じ質問。しかし、この質問は別のものだ。そう肌で感じ取った。

 

「俺自身のためだよ。俺は、自分の意思でここに来た訳じゃないけど、それでも来てよかったと思っている。知ることができなかったことを知れた、というか」

 

「ほう」

 

「王さまはどうしてここに?」

 

 月明かりに照らされた王さまは、神々しく、直視することさえも憚られるだろうと思ったほどだった。

 

「本来ならこのようなことは、ありえないが、許す。そうだな、我はこの世の人間を見ているのだよ」

 

「この世の、ね」

 

「我のいた時代には、どのような階級の人間であっても、役割というものがあった。しかしどうだ。この時代の人間は」

 

 王さまの言葉は、酷く心に響いた。彼の言葉そのものが、ひとつひとつ重みを持ち、俺という存在に強く、働きかけていた。

 

「多すぎる。そう思わんか」

 

 彼が言おうとしていること。なんとなくそれが分かった気がした。確かに、そうだ。俺も、そう思う。

 

「そうだな。確かに多い。それで?王さまはどうしたいんだ?」

 

「どうする、か。減らすしかないだろう。この世の人間は、害悪でしかない」

 

 金言。そうであると思えて仕方なかった。この男の言っていることは酷く破綻している。殺す。そう言っているのだ。しかしそれでも、この男の言葉は、重い。

 

「極端すぎないか?でも、まぁ、流石王さまだけあるよな。ひどい説得力だ」

 

「当たり前だ。我は最高にして最古の王だ。正しくないわけなかろう」

「ははっ!あんた面白いな。要らないやつは殺してもいいけど、俺の大切な人は殺させないぞ?そうなるんなら、俺はあんたに立ちはだかってやるよ」

 

「ふん。貴様のような小物が何を言う。しかし、面白い。よい。許す。そのときは、この我直々に相手をしてやろう」

 

「でも、まだそのときじゃあないんだろ?今はこの酒を味わっていたい」

 

 安心、とは違うんだろうけどなんだかそんな感じの思いを俺は心に産み出していた。この男の包容力は半端ない。

 

「いつの時代も、この月は変わらん」

 

 夜が更けていく。イリヤといたときとは違う、安らぎ。こういうのもアリなんだろう。なんというか、楽しかった。

 

***************************

 

 そのすぐあと、月が陰り、厚い雲に覆われてしまったため、月見酒はお開きになった。また酒を飲ませてくれるか?と聞いたら、気が向いたら、と言われた。流石は王さまだ。抜かりはない。どこのサーヴァントかは知らないが、あの人なら臣下とやらになってもいいだろう。そう、感じた。

 そう。彼はサーヴァントだ。目にした瞬間それに気づいた。彼の纏うオーラが、それを感じさせていた。セイバーのような、神々しさだ。どこかの国の王さまなんだろう。おそらく、彼が今回の聖杯戦争、最大(さいだい)の壁になるのだろう。

 

「ん?」

 

 てくてくと帰路についている最中、滴が頬に伝った。雨だ。そう思った瞬間には、みまごうことなき雨へと変貌していた。

 

「うわー。やべぇ。早く帰らないと風邪ひく」

 

 山を横切っていたので木々に雨が遮られていたが、体がびしょびしょになるのも時間の問題だ。そう思った矢先だった。

 

「ん?あれは」

 

 目の前に、誰かが倒れている。その人は、なにかを呟いていた。

 

「終わりね、、、。もう」

 

 終わり、と言った。俺は訪ねずにはいられなかった。

 

「何が終わりなんだ?」

 

 俺の声に気付いたその人は力なく顔を上げた。

 

「あなたは」

 

 女の人だった。よく見たら身体中に傷があり、いまにも死にそうなほどか細い声だった。

 

「酷い怪我をしてるじゃないか。大丈夫か?」

 

「黙りなさい、あなたには関係のないことでしょう」

 

 冷たくあしらわれた。けれど、そんなこと関係ない。目の前で困っている人がいるなら、助けるほかないだろう。

 

「まぁ、関係ないけど、正義の味方としたら、あんたを放ってはおけないんだよな」

 

 そういって、俺は手をさしのべた。

 

「来いよ。俺が救ってやる」

 

 女は恐る恐る俺の手を握り、そのまま意識を失ってしまった。なるほど、早く帰らなければならない理由がもうひとつ増えたわけだ。

 俺は最大限、急ぐべく体に、特に足に補強の呪文をかけた。

 

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