木製の家屋に、一人の少女と老人がいた。二人は、何かを話しているようだった。
「ということは、これが令呪というものなのですか?おじいさま」
「ああ。儂も、詳しくは知らぬがな」
見れば、少女は上半身を露にしていた。端から見れば、ただのセクハラのようだが、二人の顔からは、そのようなものは感じられない。それどころか、それとは真逆の真剣な表情が見受けられた。
露になっている少女の背中には、何やら刺青のようなものが見える。
「もう、よろしいですか?」
「ああ、すまない」
「いえ、教えてくれと言ったのは、こちらですから」
老人に断りを入れ、衣類を羽織る。
「しかし、まさかあのような者がサーヴァントだとは」
「儂も驚いたよ。一見、ただの赤子。それがあの英霊、なのかもしれないがな」
「おじいさまが仰られる通りならば、あと6騎のサーヴァントが現界するはずなのですが」
「しかし、そのような者は見当たらない、フム」
老人は、少し考えるような素振りをした。
「起こるはずのない事象なのだ、これは。イレギュラー、そう言ってもよいだろう」
「イレギュラー、ですか?」
「ああ」
何が起こるか分からない、と老人は付け加えた。
少女は、傍らにいる赤子をみやった。
「私は、この子を守ります。この子がサーヴァントならば、いつか来る戦いのために」
「それがよかろう。しかし、エミリアよ、お前はこの赤子への接触を禁ずる」
「な、何故ですか!?この子は、まだ赤子なのですよ!?」
表情を変えず、老人は続けた。
「お前が主であると、悟られぬためだ。これも、いつか来る戦いのためなのだよ」
「分かり、ました」
悲しそうに赤子を眺めるエミリアと呼ばれた少女。わずかながら、母性本能が働いたのだろうか。
「この子は、儂が育てる。サーヴァントではなく、一人の人間として。お前のように、優しい子になるようにな」
老人が微笑んだ。それに呼応して、少女も微笑んだ。
「しかし、名はお前が決めるのだ。よいな」
「は、はい」
エミリアは赤子を見る。
名をつけるというのは、とても重要だ。
「そうですね、、、あなたは、あの人のお墓の前に召喚されたあなたは―――」
*********************************
キリツグとキャスターは穂郡原学園の校門へ来ていた。
キャスターは婦人服に身を包み、方やキリツグはとてもとても目立つ格好をしていた。
「やっぱり目立つよなぁ。なぁ?キャスター」
「そうね、その髪色と目の色でも明らかに目立つのに、その格好だもの。異様よ」
士郎からジャージを借りようと思ったのだが、士郎曰く、ジャージは学校にあるとのことで、夏用の体操服を借りたのだ。
言っておくが、今は冬である。
「たいっへん寒いんだよ!アイツは何を考えてるんだよ!」
言わずもがな、遠坂のことである。
彼女にも彼女なりの配慮ってもんがあるんだろうが、これは配慮でないと、俺は思う。まあ、嫌がらせでは、、、ないよな。
「なにも考えてないのではなくて?」
「だろうな、、、」
キャスターと二人で納得し合う。
二人は校門をくぐった。前よりも大きくなっている違和感。凛が言っていたのは、当たっていたようだ。
「これはまずいな。明日にでも発動しそうな感じだが」
「そうね。でもまだ不安定よ。発動すれば、人間の精気を吸いきれないわ」
誰もいない学校は、どことなく哀愁が感じられた。校舎をよく見ると、前に俺がぶっ壊した廊下が見えた。少し直ってきているが、まだ危ないだろう。逃げるためとはいえ、悪いことをした。
「キャスター、結界の起点を探してくれ」
気を取り直して、キャスターに頼んだ。
「ええ。、、、かなりあるわね。これを消すのは骨がいりそうよ」
キャスターが言うには、学校の至るところに魔力の痕跡があるそうだ。取り付けた際では、微弱で凛でも感じられるかどうかのところだろう。
キャスターならば、この魔力でも見つけることが出来るだろうが。
「一個一個やっていくしかないだろう。まぁ、その前に凛たちと会わないとな」
「あの小娘、こんなになるまで、放っておくなんて」
「しょうがないだろ。俺も凛もただの魔術師なんだからな。お前とは違うんだよ。あ、そう言えばさ」
ここで俺は、昨日聞けなかった事を聞くことにした。
「なに?」
「お前の真名はなんなんだ?聞いてなかったなと思って」
「そうね。わかったわ」
少し渋っているように思えたが、それでもキャスターは教えてくれるようだった。
「私はメディア。コルキスの王女、メディアよ」
メディア、か。これは、よく知らないな。裏切りの魔女であることは知っているが、それ言うと怒りそうだ。あまり深くは聞かないようにしよう。
「そうか。改めてよろしくな、メディア」
「あら、あなたは私のことさえも調べているのかと思っていたのだけれど。知っているのではなくて?」
知っていることを言ったら絶対怒る。それ以外は知らないんだが。
「ま、俺に必要なのは昔のお前じゃなくて、今のお前だからな。なにやってても、気にしないよ。自分のパートナーのこと信頼できなきゃ、この戦争勝ち残れないさ」
一度驚いたような顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。
「そう、、、。賢明ね、前のマスターよりは好感が持てるわよ、あなた」
「そいつぁありがとう。さ、行こう」
一瞬微笑んだように見えたが、気のせいか?
俺はキャスターを引き連れて、中へ進んでいった。
*********************************
「来たわね、来たところ悪いけど士郎を追ってちょうだい」
やっと、みつけた凛は女の子の介抱をしていた。女の子は酷く衰弱している。
「一体、何があったんだ?これは、一体」
「サーヴァントね。結構な機動力から見れば、恐らくアサシンかライダー。まったく、士郎ってばそれを追って森に入っていっちゃったのよ」
「アイツ、、、あれほど言ったのに!セイバーは?」
辺りを見てもセイバーの姿は見当たらない。
「分からないわ。いきなり居なくなっちゃったのよ。あれは、とかいって」
セイバーもセイバーだ。そんなことするやつには見えないが、よほどのことがあったのだろうか。
とにかく、今は士郎だ。
「おっしゃ、行くぞキャスター。凛はその子を」
「分かったわ。ったく!アーチャーのやつも、何処行ったってのよ!英霊ってのは、あんなやつばっかなの?」
グチグチと文句を垂れる凛を後目に、森へ進んでいった。
見れば、確かに人が通った後と、わずかながら魔力の痕跡がある。
「急がないと、あの坊や、死ぬわよ」
「分かってるよ!くそ!急ぐ!」
そう言って、俺は足に魔力を込めた。
「あなた、それは」
「あ?なんだよ」
「そのカードよ、1枚1枚に膨大な魔力を感じるわ」
見せてはいないが、キャスターにはばれてしまったようだ。
俺は宝石魔術の他に、カードを使った魔術も使う。協会から逃げ出すときに、かっぱらってきたもんだ。これがなんなのかは、分からないが、大変重宝している。
「いずれ話す。今はそんなことを、、、」
とかなんとかやっている間に、どうやら求めていた場所についたようだ。
そこには、腕から血を流す士郎がいた。そして、本を持った青年と目をおおった女。あれが恐らくサーヴァント。
「士郎!無事か」
「キリツグ、助かった」
士郎は満身創痍。遠くでは分からない、細かい傷で一杯だった。
「くそ!仲間を呼んだか、衛宮め。やれ!ライダー」
青年は俺たちにサーヴァントをけしかける。
「ここで確実に殺します。シンジ、宝具を使用します」
そう言って、ライダーは目をおおっていたものを外した。
宝具?まさか、魔眼の類いか?!
「士郎!キャスター!アイツの目を見るな!」
「フン、遅い」
運悪く、サーヴァントの目を見てしまった俺たちは、体が石のようになり、身動きが取れなくなってしまった。
「、、、、!」
士郎と俺は、口も動かせなくなった。
「これ、は、石化の、、、!」
「さすがキャスターですね。口なら動かせるようですが」
まずい。これは、結構まずい。令呪を使用して、セイバーを呼び寄せたいのだが、声も出せないこの状況では!
「やれ!ライダー!!!」
青年が叫ぶ。俺たちは、死を覚悟した。
死ぬ?俺が?
切嗣に救ってもらったこの俺が、命を落とすのか?
それは、、、、ダメだ!!
迫り来るライダー。それに呼応して、俺の内魔力が上昇していく。俺の持てる最大限の魔力を、口の感覚神経へと向ける。これ以上魔力を行使すれば、俺は死ぬ。だが、ここで、こんな形で命を落とすくらいなら!!
「、、、せ、、い、」
ものすごい速さで迫るライダー。
まだだ!まだ足りない!
その時、何故か士郎の魔力が急激に上昇した。
その上昇に伴い、石化の枷がとける士郎。
「ッカハ!?なんで!?」
それに驚いたのか、ライダーは足を止めた。
「なぜ、私の石化が解けたのですか」
その時だ。
その時、頭上から1本の槍、のようなものが、降り注いだ。
「悪いが、それは私の協力者なのでね。殺されては困るのだよ」
赤い外套に身を包んだ、褐色の男。
「ア、アーチャー?」
「フッ、だらしないぞキリツグ。それに魔女。お前ならばなんとかなったのではないか?」
俺とキャスターに言葉を投げ掛けるアーチャーだった。
青年の顔は、みるみるうちに焦りの色を見せ始めた。
「-----------」
何かを口にしたキャスター。それに呼応して俺の石化が解けた。
「もう少しで解けたのよ、このくらいの魔術。それにアーチャー。私を魔女と呼ばないで。、、、殺すわよ」
「ホウ、やってみるかキャスター」
「お前ら、喧嘩してる場合じゃねぇぞ!さぁ。これで形勢逆転だ。どうする?偽物のマスター」
ライダーのマスターは顔を酷く歪ませた。
「くっ!に、逃げるぞ!ライダー!」
「逃がすと思うか」
アーチャーが言う。
目をおおいなおしたライダーは、冷静にマスターの元へ寄っていった。
「逃げますよ、シンジ」
と、同時にライダーの周りの空気が変わる。
まさか、、、これは。
「避けろ!お前ら!」
「騎英の、、、」
ライダーの魔力が、形を成していく。
「手綱!!」
天馬が姿を表し、ものすごい速さで俺たちに向かって特攻していった。
間一髪で、俺たちはそれをかわした。
彼女たちの通った後には、道が出来ていた。地面は抉れ、木はなぎ倒されていた。酷い破壊力である。
「こ、これは」
驚きの表情を隠せない士郎だった。
「なるほど。ライダーたる所以は、あのペガサスか」
そう言ったのはアーチャー。
「そうか。石化の魔眼、ペガサス。アイツ、ゴルゴン三姉妹の末娘、メドゥーサ」
天馬の飛んでいった方向を眺め、命の危険を感じたものの、情報を手に入れられたことに少なからず喜びを感じていた。
******************************
教会近くのある森の中に、セイバーと、ある男がいた。
「やはり、あなたでしたか」
「、、、、」
セイバーはその男のことを知っているようであった。友人関係ではなさそうだ。それは、彼女の目が語っていた。
「アーチャー」
「久し振りだな、セイバーよ」
月夜に照らされながら、金色に輝く男と、金色を手にする少女は、瞳を交わらせていく。