天(そら)別つ風   作:Ventisca

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引き続き戦闘シーンです。
今回、残酷な描写があります。


第壱拾壱章 戦火の中で

「左舷軽空母に砲撃集中!!」

二水戦は隊列を崩し、それぞれ狙いを定めた敵に急行する、『天津風』は先頭切って前方5キロにいる軽空母ヌ級を集中的に砲撃した。

『時津風』は弾倉を再装填(リロード)しているが、中破以上の損害を被ったであろう軽空母に、周りを分析する能力は残っていない。

空には味方と敵の艦載機が入り乱れ、黒煙を上げて堕ちる飛行物体があるがそれがどちらのものかはよく分からない。

弾倉の中が空になったのを確認すると再装填のため一時逆方向に舵を切った。

敵はもはや戦闘能力を喪失し、敵機も追い回されるだけになっている。

 「みんな大丈夫?」

再装填して周りを見渡した。

『初風』『雪風』は100メートルほど北で手を振っている、『時津風』はすぐに寄ってきた。

 「まだ先に敵がいるみたい」

『天津風』は無線から完全に注意を逸らしていた、それはしかたないがこれから問題になってしまうだろう。

 「そりゃそうよね、輪形陣の機動部隊だもの」

呆れにも似た溜息を零す、だが落胆ではない。 

 「ここから10キロ先に巡洋艦隊規模の敵艦隊を発見したらしいよ」

 「規模は?」

 「まだわからない」

一度『神通』が全員をある程度まとめて、先に進んだ一航戦達に追いつかなければならない。

きなくさい辺りを見回しながら、妙な違和感を感じた。

『加賀』の感が確かなら、早朝前から少なくとも捕捉されていたはず、なのにこちらに殺到してくる敵はあまり多くなく距離的間隔も開き過ぎている。

戦場に来て『天津風』は今までにないくらい頭が回っていた。

35ノットで前方の機動部隊に追いつくと、すぐに『神通』が情報を共有された。

 「“前方にいる敵艦隊はBB1、HC1、HTEC(雷装巡洋艦)2、DD2。攻撃隊がすでに向っています。敵には雷装巡洋艦がいます、十分に気をつけて”」

二水戦はそのまま機動部隊を追い越し、前方の敵へ目掛け邁進する。

 「“十六駆、先行しなさい”」

 「了解!」

いつもなら内心嫌な先行命令も、今は軽く受け止められる、自分達以外に強力な仲間がいるというだけでかなり楽になっている。

速力はそのままに、四隻は前方へ全力航行する。

このまま流れを崩さずに、敵艦隊に大打撃を与えたいものだ。

後方へ戻る艦載機とすれ違い、再び攻撃に向う機体が自分達のすぐ上を通り抜けていった、だが一部が前方ではなく十時方向へ飛んでいった。

『天津風』は妙に思った、敵を識別したなら、自分達にも情報を遣すはずだ、だがあの方向に敵がいることは知らされていない。

疑問の眼差しを『時津風』に向けた、『時津風』は状況を察し頷く、以心伝心とはこのことだ。 

 「旗艦、十時方向に別の敵が居るのですか?」

『時津風』も何か気が詰り、『赤城』に問いかける。

 「“どういうことですか”」

答えたのは『加賀』だった、しかしどこか妙に冷酷だ。

 「十時方向に、何かあるんですか?」

しり込みせず『時津風』は問い続けた。

 「どう?」

『天津風』は『時津風』に問いかけた、問う人が違うといわんばかりにヘッドホンを示した。

 「“感が良いですね、たしかにあちらにも敵が居ますが、貴女方はそちらの敵に集中していただければ結構です”」

敵だけがいるのではない、と『天津風』も直感的に気付いた、だが何がいる?答えは一つしかないはずである。

無駄な事の詮索は、確かに戦闘の邪魔にしかならない、そのことを重々理解した上での“配慮”なのかもしれない。

前方に再び黒煙が垣間見える、敵は目前だ。

急降下する『彗星一二型』が雲間から見え、猛撃を加えているのが分かる。

距離は5キロほどしかなく、こちらの砲撃も届く、だが今はまだ友軍機が低高度雷撃を敢行しているため、対艦射撃はまだ行えない。

まず前の敵を片付けなければならない。

 「神通さん、前の敵が片付いたら、十時方向にいるはずの敵に向っても良いでしょうか」

『天津風』が問いかける。

 「“貴女達だけで良いのなら構いませんが、無理のないよう”」

 「ありがとうございます」

前を見据え、覚悟を決めた。

一航戦の二人が言うのを憚るのももっともだ、そうしても分かってしまう事だとも分かっているだろう。

だが、あの二人は偵察機の眼を通して見たはずなのだ、私達に憚る事を。

 「砲雷撃戦、用意!!」

前方には、艦載機隊の第一次攻撃を逃れた無傷の雷巡チ級が二隻漂っている。

 「距離4000、相対速度プラス5ノット、各自誤差修正次第撃ち方始め!!」

『天津風』が指揮し『時津風』が測敵する連携がなされた、ここで初めて訓練で教わった連合艦隊時の戦闘形態がなされた。

空母の攻撃隊の露払いに過ぎないが、水雷戦隊の駆逐隊の大事な任務だ。

浅い放物線を描いて砲弾は間違いなく至近弾を与えている。

 「“前方より魚雷、警戒しなさい”」

『加賀』から情報が与えられた、すぐに『天津風』は単眼鏡で数キロ先を見つめる。

魚雷の雷跡がはっきりと確認できる、数ははっきり分からないが、当てるために放ったものではないのでこちらの陽動が目的だろう。

 「前方へ魚雷の針路と平行に進撃、敵に接近し雷撃するわよ」

『天津風』は戦陣を切り、放射状に広がりつつある魚雷群へ突っ込んだ、三隻も続く。

40ノットの魚雷と全速航行35ノットで、相対速度は75ノットにもなる、だがこちらは駆逐艦、回避はお手の物だ。

前から自分目掛けて突進してくる魚雷二本に眼を点けた。

 「・・・いける」

放射状に発射されているとはいえ、間隔は曖昧で20メートル無いくらいと目測する。

前のめりになり、空気抵抗と勢いに負けないように『天津風』は全力で魚雷と魚雷の間に突入した、同時に前方には雷巡がいる。

白い雷跡を引く魚雷は水面下ギリギリを突進してくる、最後まで目を離してはいけない。

魚雷は曖昧な兵器で、特に敵のものは針路が真っ直ぐなのかも未だに分からない。

冷や汗一つ流さず、魚雷は後方へと過ぎ去り、一息搗くまもなく砲撃を開始する。

敵との距離はもう1キロない、直射の砲弾は敵を翻弄している。

弾倉二十発のうち九割を命中させ、再装填のために体を横に倒し回避行動に入った。

瞬く間に状況を察した残りの三人から砲撃が容赦なく浴びせられる、そして雷巡は藻屑と消えた。

魚雷は結局、虚しくも後方へ過ぎ去り、この敵艦隊も無力化された。

 「“後方に十八駆を控えさせています、早く行って彼女達の手助けを”」

『神通』はもう十六駆が離れることを考慮して攻撃の手を緩めぬよう代役を用意していた。

 「はい」

『天津風』は冷静に身を翻し、再び全速力で先程気がかりだった方向へ向った。

だが“彼女等”、もとい献身隊が居るならば、救うために力を添えるはずだが。

一航戦達がそうしない理由があると考え、そうでない事を『天津風』は願った。

そもそもこの献身隊の事は我々の司令部以外知らされていない可能性がある、提督でさえ直前に知らされたのだから。

急ぐ彼女等を尻目に後方ではいま咆哮が燻っている、また別の部隊が発見されたのだろうか。

心配を抱えながら『天津風』は別の意味で覚悟を決めていた、最悪の事態を想定して心を落ち着かせる。

 「電探に感有り!」

『時津風』が叫んだ、距離にして10キロ地点の所に、何かしらあることが推測される。

目視では到底確認できないが、無線封鎖時でも回線が繋がる距離である事を確認して呼び掛けることにした。

 「こちら十六駆、献身隊応答してください」

しばらく待ったが反応は愚かあちらの通信機の電源が入っている兆候が無い、ノイズさえ拾えず返答の兆候は無い。

 「いそぐわよ」

先を急かす『天津風』だったが、反面行きたくない気持があった。

最悪が現実になろうとしている気がしてならない、短い付き合いだったが、なにより提督の意向に背くのが気に入らなかった。

作戦上仕方ないとはいえ、自分の力不足で救えたはずの味方が死んだとなっては耐え難い。

北方に数キロ移動しても、『加賀』の艦載機隊やそれらしき面影は認められない、すでに5キロ移動している。

もう一度電探を睨んでいると、突然通信が入った。

 「“そちらに行ってはいけません、今すぐ引き返してください”」

『赤城』がいつもに無いほど声を荒らげている。

 「何故です、彼女等を見捨てないのは提督の意向あってのことです。それなのに・・・」

 「“そちらに増援を送ってあります、貴女達の力添えは不要です”」

最後まで言いきらないうちに遮られてしまった、『天津風』は一層反感を強める。

 「三笠たちを見捨てるんですか、私にはそんな事出来ません!!」

『天津風』は以前として移動を止めない。

 「“早く引き返しなさい、彼女達はもう・・・・・・”」

『赤城』は言葉を詰らせた、その言葉の先は容易く想像がついた。

なぜ助けないのかなど、そのような疑問が愚考だった、だがまだ認められない、まだ助けられるかもしれない、『天津風』は心の中で叫んだ。

 「嘘よ、嘘よ嘘よ・・・!!」

前方に黒煙の柱を多数確認した、そこにはまだ敵機と味方艦載機隊、そして駆逐イ級が確認できる。

だが、『三笠』『初瀬』『朝日』達は確認できない。

『天津風』は引き金を絞る指に力を込めた、もはや躊躇の時間は無い。

 「あいつらを全員沈めなさい!!」

真っ先に突撃する『天津風』に続き、三人が発砲し『時津風』も進行する。

白波を蹴立て勢いのまま肉迫し、弾倉が一杯であることを確認して的を絞る。

敵駆逐艦二隻が反応し、こちらに発砲してくる、だが砲弾は右へ左へと避けて行く。

引き金を思い切り絞り、報復に似た感情で砲弾を敵に浴びせる。

砲弾がなくなっても接近を止めず、激情に任せてそのまま突進した。

再装填が終わると、すでに虫の息の敵にさらに猛攻を浴びせ、完全に無力化したのを確認するとその場で立ち止まった。

見守るように艦載機隊が遥か上空を旋回しているが、そんなことに気を配っている暇は無い。

後方からの援護もありすぐに片付いたが、まだ本命が居ない。

 「こっちの電探じゃ誤差が大きくて探せない」

『時津風』が後方から追いついてきた、小型電探は誤差数キロある、ここじゃあてにならない。

一刻も早く見つけ出さねばならないと焦っていた、こういうときに焦りは一番禁物だが、唯でさえ薄い希望が敵に吹き消されてしまう。

 「しかたないわ。手分けするわよ、空には注意しなさい」

『天津風』は散開するよう指示をだし、自らはさらに北上した。

確認できたのは駆逐艦だけだが、もし、もし彼女等を撃沈するような敵が目視範囲内に居ないのならば敵艦載機の仕業であるだろう、十分警戒しなければならない。

 「どこにいるのよ、三笠・・・」 

彼女が見せた笑顔が最後にならない事を祈りつつここまで来たが、今やその望みは翳んで締まっている。

彼女達がどんな針路でここまで来たかは知らないが、ここにくるまで一度も接触しなかった所を見ると、全く違う航路で『彩』島に接近していることだろう。

そして何より彼女達は囮、敵を引き付けるような極めて危険な航路を辿らされたに違いない、無論それでは助かる余地は無い、それでいいのだから何の問題も無い。

それが腹立たしくて『天津風』はここまで来た、捨て駒など存在し得ないというのに、武器としか見ない上層部のせいで嘗ての英雄が死ぬのは我慢ならない。

俄かに、東のほうから嗅ぎ慣れた臭いがした。

もっとも、一番認識したくないし、自身無理矢理身につけた必要な能力だったが、これは間違いなく血液の臭いだと確信した。

速力を落し、慎重に近辺を探す、目視範囲は黒煙と水煙のせいで50メートルに満たない、ひょっとしたら負傷しただけでどこかに漂流しているのかもしれない、そう思って探し続ける。

あたりはもう血と機械油の異臭が充満していて、正常な周辺認識ができないレベルだ。

そして足元の海は朱色に染まっていく、引き金から指を離し、腕に少しずつ力が入らなくなっていくのを感じた、だが何故か歩みは止められない。

 

目の前の光景に、声にならない怯えを叫んだ。

 

一面にばらまかれた内臓と思しき破片と、熱と爆風で変形した武装、見るも無残な“肉の塊”はもはや人という原型が無い。

歪んだ海面に漂う肉片からはまだ血液と体液が滲み出て、白い骨の破片がばらまかれ、あたりに死臭を立ち込めさせる。

もはや、“これら”を人と認識する事は出来ない。

これは何?

 「あ・・・うぁ・・・ぁ・・・・・・」

視線が定まらず、脳が無理矢理に焦点をずらそうとする、だが次第に焦点が落ち着いてくる。

足元が血で覆われていることをようやく認識し後ずさりした。

人体とかろうじて認識できる腕や足、指や体の破片が思わず目に飛び込む。

断片からは骨と筋肉の組織、血管が露呈していることまでが詳細に分かる、誰もそれを認識したくないのにそれを目で追ってしまう。

言葉が出ない、衝撃の大きさに現状を把握できず、味方に知らせることも出来ない、そして『赤城』『加賀』が押し留めた理由をやっと理解する。

これはもはや死体とも呼べない、何人分なのかも分からない。

敵を呪ってその体を起こすことも、死を悼み遺体を持ち帰ることもできない。

喉の奥から上がってくるものを押さえ込み、『天津風』はしゃがみこむ。

頭を抱え、自分の認識が甘かった事を恨み、手が小刻みに震え自分では制御できない。

はちきれんばかりに絶叫した。




残酷な描写について釈明。
参考にしたのは地雷を踏んだ兵士の死骸や、爆弾の被害を被った者です。

今回、ストーリーの質を高めるためにどうしても残酷な描写は必要だと思っています。
人が目の前で死んでいるという重さが伝わればと思います。

引き続き、ご覧になっている方々に感謝します、今後ともよろしくです!
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