天(そら)別つ風   作:Ventisca

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引き続き、一航戦と空母棲鬼との戦いです。
空母娘の航空機運用に関しては、ほとんど艦これアニメの方をオマージュしてます。


第壱拾肆章 幾千想念の決着

「悉く沈めてあげましょう、空母棲鬼」

『加賀』は矢を放つと、精密誘導のため五機の操作に集中した。

本来なら各機にまかせるが、他は戦闘機と僅か一個小隊の攻撃機しか残っていない、まともな戦力はこの『彗星一二型甲』五機だけだ。

目を瞑り、先頭の機の“眼”を借りて戦況を見極める。

前方は二重三重と敵機が待ち構えているが、どれが戦闘機かなど判別はつかない。

高度10メートルにつけ、命中しにくい上から撃ち下げられる格好になった。

速度250ノットで水面ギリギリを飛んでいるため、敵機も多少対応が遅れている、だがそれでも五十機前後が食いついている。

下に抱えた500キロ爆弾が起死回生の一手になることを祈り、そのまま突撃する。

『空母棲鬼』まで1キロしか距離は無いが、真正面からかかっては良い的になる、あくまで安全な投下を企てている。

 「加賀さん!」

『赤城』が叫んだ。

一瞬攻撃機から注意を逸らし、周りを見たが対応している暇など無い、敵機が迫っている事はわかったが、『赤城』のためにもどうにか『震電改』に食い止めてもらうしかない。

あと一歩の所で爆弾の投下コースに侵入できるが、その微妙な線を敵機は重点的に守っている。

時間も無い、これ以上敵機に接近されたら、成す術のない二人は撃沈される。

こうなれば、もはや手段は選んでいられない。

 「残存攻撃機突入、援護しなさい」

護衛戦闘機もつけずに突入など撃墜必死だが、僅かな可能性を生かすためにもはや犠牲など厭わない。

二機の『流星改』先頭に上空を同じ『彗星一二型甲』が飛行し、どれが本命か分からなくした、もっともこの攻撃に意思が反映されている反射的なものではないとは言い切れない。

20ミリ機関砲二門を搭載する『流星改』が切り拓き、『彗星一二型甲』は銃座の機関銃が周りの敵機を牽制している。

『烈風』はすでに弾を撃ち切った機が大半で、護衛にできるほどの戦力ではなくなっているが、敵を惹き付ける役には立っている。

 「このままでは埒が明かない・・・」

以前として周りを周回するばかりで、集中力を浪費するだけだ、これほど形振り構わず行動しているのに、数には敵わないということだ。

『加賀』にもはや選択の余地は無い。

 「各機散開、吶喊」

『加賀』は賭けに出た、艦載機は一流の中のさらに一流ばかりだ、そう自負しているしなにより艦載機に信頼を置いている、だからこそこの自殺行為な攻撃の命令を下した。

バラバラになって血眼に突入を始める。

まず一機目が他の本命でない攻撃機と共に上昇する、周りからは機銃弾が雨霰と打ち出され、主翼はすでに穴だらけになっていて何とか飛んでいる。

右後方にいた『流星改』がエンジンに被弾して脱落した、だが構わず急降下爆撃が敢行できる高度3000メートルを目指す。

エンジン出力に物を言わせ、一気に1000メートルまで上昇した、ここまで来ると下方の敵からの撃ち上げの射撃が多くなり避けにくくなってきた。

ここからが腕の見せ所だ、爆弾を抱えた鈍重なまま如何に攻撃を効率よく避けるか、長年培ってきた技術が物を言う。

機敏にフラップを動かし、主翼と海面を垂直な状態にする行動を幾度と繰り返した、長時間そのような飛行を続けると揚力が全て失われエンジンに過大な不可がかかる。

下から撃ち上げる敵機からすれば、投影面積が小さいため当てにくくなる、だが一歩間違えれば失速してしまう。

高度2000メートルまで上昇すると、高空を飛行していた敵機が襲い掛かってきた。

数が少ないため、機首の機銃で適当にあしらって回避行動をとった、この高度までくるとエンジンが本調子を出し、速度は280ノットに達する。

高度3000メートル、丁度『空母棲鬼』の直上に達した、ここから急降下爆撃を開始する。

無事について来た別の『彗星一二型甲』は、この高度で待機する、現状ではそれが一番安全だ。

500キロ爆弾を抱えた『彗星一二型甲』は急降下前の短い背面飛行に入った、目下では追い回される味方の艦載機しか見えない、もっと遠くには、味方の艦隊が打ち上げる対空砲が薄っすら見えた。

機首を落し、そのまま急降下の態勢に入った。

速力は300ノットを超えて、機体は海面と垂直になる、恐ろしい勢いで高度が下がり、あっと言う間に1000メートル降下した。

真下からは垂直に撃ち上げられる『空母棲鬼』の対空砲が確認できたが、単艦では高が知れいている。

高度1000メートルで爆弾を機体から放し、ダイブブレーキを全開にした、爆弾が投下された頃にはもう高度は700メートルしかない。

急いで機首を起こし、水平飛行にもどった。

爆弾は見事に敵に命中し大打撃を与えたようだ、だがこの機体は潮時だった。

周りから『空母棲鬼』の直援機が群がり、あっと言う間に蜂の巣にされてしまった。

だがまず一発は命中させた、これでようやく中破判定というところだろう、普通の深海棲艦なら一発で轟沈または大破必死の攻撃だったが、効くと分かったなら続行するしかない。

近くではまだ『震電改』が粘っている、だが先程より接近している。

 「あと少し頑張って、震電・・・」

たった五機で数十機を相手取り、さらに数機を撃墜している、試作機としては十分すぎる機体だろう。

だが、事はまだ始まったばかりだ、あと四発命中させれば戦闘不能に追い込めるだろう。

次の『彗星一二型甲』が上昇を始めた、だが今度は先程より食いつきが激しい。

爆弾投下のチャンスを少しでも多く得るため、今度は二機同時に上昇した、周りは爆装のない機が二機追随した。

後方から追ってきた敵機が銃撃を加えてきた、後ろの二機は爆弾がないため機敏に回避することができた、逆にその二機に食いつくように敵機を誘導する。

高度2000メートルまで上昇すると、今度は残った二機の『彗星一二型甲』も上昇を始める、この流れを止めるわけにはいかない。

だがここまできて、敵機の攻撃が二人に届くようになった。

今更動くわけにもいかない、なにより二人は思うように動けない、『赤城』は止むを得ず生きている右舷の高角砲で射撃した。

 「くっ・・・!」

今はこの状況に歯を食いしばって耐えるしかない、この状況を打破するためにも早期の決着が望ましい。

上昇する『彗星一二型甲』二機の眼下では、力尽きたように『烈風』が黒煙をあげて海に突っ込んだ。

もう艦載機達の持続力も限界だ。

状況に拍車を掛けるように、攻撃機を追って上昇してくる敵機は多くなる。

八機ほどの攻撃隊に、五十機も六十機も迎撃に向ってくる敵機がいるような状況だ。

だが、この状況は有る意味望ましい、敵が全力で守りに徹しているという事は、そうしないとまずいということだろう。

先頭の『彗星一二型甲』から見る前方は、敵機が発砲した曳光弾の筋で多い尽されている、機体を左右に振って狙いを定められないようにはしているが、時折主翼に命中する感覚があった。

先に上昇した二機が3000メートルを突破し、同時に急降下爆撃を開始した。

敵機の何重もの弾幕を突破し、『空母棲鬼』をはっきりと確認した。

突然、隣の機が火を噴いた、敵機の弾丸が運悪く燃料タンクに命中したようだった。

高度1500メートルとまだ高いが、標的は定まっている、何とか爆弾を投下し機首を起こしたが、操作不能でそのまま海面へと落下していった。

一発目が投下されたが、その着弾を待たずに二発目が投下された。

高度700メートルできっちり機首を上げ、機尾に命中した二発の閃光を確認した。

それを確認するとすぐさま機を高度100メートル以下につけて、この空域の脱出を図った。

『加賀』は残った最後の二機を誘導し始めた。

『空母棲鬼』は、爆煙と煤に巻かれながらも、上空の攻撃機を睨んでいる、だが、はっきりとした反攻はすでに出来ないほど損害を受けているらしく、彼女も大分大人しくなっている。

 「さあ、沈みなさい」

『加賀』が、二機が高度3000メートルに達したのを確認して、最後の攻撃を開始した。

敵機は体当たりも辞さない勢いで迎撃に向ってきた。

だが速力350ノットに近い急降下中の攻撃機に真横から当てるなどほぼ不可能だ。

高度1000メートル、一発目の爆弾が機体から離れた、その直後、後方の『彗星一二型甲』のエンジンブロックが砕け散った。

 「・・・そんな」

高角砲の砲弾は、後ろにいた『彗星一二型甲』のエンジンブロックを貫徹し、機体を砕け散らせた。

『空母棲鬼』自信もチャンスを狙っていたのだ、最後の精密誘導で、最初に突入してくる機を『加賀』自信が誘導していると読み、後方の回避行動の甘い機に攻撃を集中させたのだ。

 「だが、もう遅い・・・!」

だがそれでも、一発目は全く動かない『空母棲鬼』に命中した。

辺り一面に火花が散り、途端に敵機が大人しくなった。

500キロ爆弾を四発、あの状態で喰らってなお無事な艦など居るはずがない、少なくとも航空機の運用は不可能になったはず、だがこれでやっと大破判定というのが恐ろしい。

 「大丈夫ですか?」

『加賀』は上空から敵機が失せたことを確認すると、ようやく膝を突いた。

 「なんて無茶を・・・」

『赤城』は安堵の涙を流し、傷ついた『加賀』を精一杯抱きしめる。

 「まだ終わっていません。彼女を、海底(みなぞこ)に還さなければ」

敵である以上、やはり最期まで相手をしなければならない、完全に沈めなければ敵はある程度の期間を置いて再びこの海に姿を現すだろう。

 「飛龍、そちらは大丈夫ですか」

後方で以前奮戦している二航戦に声をかけた。

こちらより敵の手数は多いが、味方も多いのでなかなか良く戦っている。

 「“そちらこそ!”」

 「こちらはカタはつきました、早く殲滅してください」

 「“了解ッ・・・!”」

こちらで戦っている間に、敵の部隊が二~三個集まってきているが、数が多いだけでそれほど苦戦する要素はない。

 「“二十駆を迎えに行かせます、しばらく待機を”」

『神通』が気を利かせて迎えを遣した。

 「ありがとう」

『加賀』は艦載機を全て呼び戻し、整備と補給をする、だが元も数から半分ほどになり、損傷の激しい機体を含めると三分の二の損失になる。

 「もう一踏ん張りです」

応急処置用の包帯を丸々一個使い、『加賀』は左足の処置をした、『赤城』は大事をとって右腕を固定し最小限の処置を行った。

突然、『加賀』は強い衝撃に右肩を押され、半回転して海面に叩きつけられた。

反射的に右肩を左手で押さえた、暖かい血が手を伝うのが分かった。

 「往生際の悪い・・・!!」

それでも、納得の行動だ。

『空母棲鬼』は予想通り沈んでいない、だが死にかけていることに違いはない。

だが、そこに油断していた、死にかけた者は失うものは何も無い、つまり何もかも捨てて文字通り全身全霊で攻撃してくるのだ。

 「ナンドデモ・・・クリカエス。シズマナイカギリ・・・・・・!」

黒煙の中から砲弾が飛来し、近くに着弾して水柱を立てた。

『空母棲鬼』の遥か後方で、稲妻のような閃光が眩く。

 「そう、なら沈みなさい」

『加賀』は何かを確信したように言い捨てた。

次の瞬間には、『空母棲鬼』に無数の徹甲弾が降り注いだ、しかも半端な大きさではない。

 「“Critidal hit!!”」

無線に明るい声が響いた。

 「遅いわよ、金剛」

『空母棲鬼』の背後からやってきたのは、別の航路を採っていた第三戦隊と三航戦だ。

10000メートルの距離から、35,6センチ砲弾が『空母棲鬼』に降り注いだのだ、瀕死の彼女には最期の一押しになっただろう。

 「“手遅れにならなくて良かったです”」

『榛名』は安堵の様子で『赤城』に声をかけた。

 「まさか、敵の輪形陣を突っ切ってきたの?」

 「“ええ、それ以外に手段はありませんでしたから”」

謙虚に『榛名』は答えた。

敵の旗艦が不在とはいえ、島を回りこんでここまで半日で到達するのは、戦艦の火力と彼女等の速力あっての結果だろう。

 「“まだ、砲撃は必要ですか?”」

今度は『霧島』が訊ねてきた、相手はもう戦闘不能だろうが、それでも『加賀』としては気が落ち着かなかった。

 「もう一度お願いします」

距離は縮み、砲撃はほぼ水平になっている、しかし主砲ともなると再測距が必要だ。

陣形で『空母棲鬼』に一番近い『比叡』がその役割を担った。

 「“目標まで距離9530、方位192。主砲、斉射、始め!”」

『加賀』の居るところでは、発砲の閃光のあと少しおいて発砲音が響いてきた、体の中心に響くような音で、この距離でもはっきり分かった。

五秒ほどで、徹甲弾は着弾した、三十二発中、二十発以上は命中している、もはや敵に助かる見込みは完全になくなった。 

 「最期の言葉は、底(そこ)で勝手に言ってなさい」

『加賀』は無残に沈み逝く『空母棲鬼』に一別くれてから、その場にしゃがんで肩の具合を看た。

 「今度こそ、大丈夫ですね」

『赤城』は『加賀』の肩に包帯を巻いた。

 「ここまで手負いになるのも初めてです」

残念そうに『加賀』は視線を落とす。

 「私はどうしようかと思いました、あなたが感情に流されるなんて。それほどの人を亡くしたのだから仕方ないですが」

 「不甲斐無いばかりです。赤城さんまで巻き込んで、こんな目にあわせてしまうなんて・・・」

意外にも『赤城』は笑って首を横に振る。

 「でも嬉しかったです、わたしのために私の所まで来てくれるなんて」

 「当然です、今の私にはあなたしかいないんですから・・・」

安心したように『加賀』は『赤城』の胸に顔を埋める、双方が無事であったことが何よりと互いに思った。

 「もう、無茶はしないで下さいね。お願いよ」

『赤城』は優しく『加賀』に促す。

色々な意味が込められている言葉だと思い『加賀』は以後このような事はしまいと胸に刻んだ。

 「はい、もちろんです」

まっすぐと『赤城』の顔を見て言った。

ようやく、二十駆が迎えに現れ、『赤城』が左肩を貸して『加賀』を立ち上がらせた。

 「さあ、いきましょう」

 

 事は済んだが、まだまだやることはある。

第三戦隊と三航戦が合流して戦力は大幅に拡張された、あとは残的の掃射と『彩』島と周辺の島嶼の確保だ。

一航戦は、補給艦娘達のいる後方へ下がり、大雑把な治療を受けることになる。

第一線には戦艦娘四隻と空母娘三隻がいるので、戦力に問題はない。

だが、一航戦の負担も考えて、戦闘は今日中に終わらせ、明日には帰路に着かなければいけない。

この海域にはまだ指揮系統を失った数百の深海棲艦が徘徊している、目に付くだけでも沈めれば今後のこの海域進出は楽になる。

艦隊は前に進み続け、午後に入って『彩』島を索敵範囲に収めた。

二水戦を筆頭に、航空隊が島の周辺を虱潰しに攻撃し、約十個の敵部隊を確認した。

『赤城』と『加賀』共に戦力外通告が代わった『飛龍』によって下されたが、二人とも依存はない。

日が陰るまでに、艦隊は百隻の深海棲艦を撃沈し、幽閉されていた『彩』島は無事に解放された。

手に負えないここまでの航路の安全確保は別の艦隊の仕事だが、主たる任務が遂行された以上、これより難いものはないだろう。

一航戦と二航戦、三航戦、第三戦、水雷戦隊三個含むこの艦隊は、大破二隻、中破一隻、その他損害艦三隻、艦載機九十八機損失という損害で勝利に終わった。

『天津風』の初めての本格的艦隊作戦も、二日という時間で無事幕を下ろし、安心と落胆で肩を落とした。

後は帰って存分に休むつもりだ。

 

 

 




これにて『彩』島攻略作戦は終了です。
注釈を入れますと、空母棲鬼の砲撃戦闘ですが、元の艦艇と艦これ内でのスペックを考慮しての射撃能力で設定しております。

大まかな流れとしてこれで序盤はおしまいのつもりです。
これからは前中盤と後中盤、そして終盤で構成する予定です。
前中盤は戦闘シーンはほぼ無く、ストーリとこの小説の世界観を掘り下げて書くつもりです。

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