天(そら)別つ風   作:Ventisca

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おまたせいたしました、19章です。

この小説の最も闇の部分です。
あくまでも、彼女たちは本物ではありません。
彼女たち艦娘はいったいどうやって生まれてきたのか。
科学技術が進歩し、“過去”に彼女たちが実在していたのならば、この世界では復元可能でしょう。
ですが、そう綺麗な“製造過程”にはならないとおもいます。
ここから、この世界の核心に接触していきます。
トンデモ設定必至です。

連続投稿するので、どうか続けてお読みください。


第壱拾玖章 艦娘(わたし)の真実(こと)

 「なによ、これ―――。いったい何がどうなってるの!?」

目の前のガラス越しの光景に足が竦む。

あまりの精神的衝撃に声を荒らげ、不安と悪夢に苛まれたその声はこの空間に木霊した。

提督ですら目を背ける、そのガラスの先には何ら殺戮も残虐も無い、だが……。

四方10メートルほどの大きな空間の中には、真っ白な空間が広がり、そこには壁と床を埋め尽くす遠心分離法のカスケードのようなものが整然と並べられている。

 

まず、知識としてあった艦娘(わたし)の過去が嘘と分かった。

 

その上にはさらに電子機器らしき真鍮製の容器が幾重にも重なる。

天井には何らかの演算装置やトランジスタらしきものがぶら下がっていた。

 

そして、思っていた自分が嘘に思えた。

 

各パーツの淵は燻銀に光を放ち、清潔な印象とは裏腹に薄暗く陰気な空気が漂っている。

機器から配線が張り巡らされ、天井や床下へと接続されていた。

 

さらに、他の艦娘から教えられたことが半分嘘と分かった。

 

そしてその中央にきっちり収められた木製の凡庸な椅子が異彩を放ち、“彼女”はそこに座っていた。

というより拘束具で固定されている、といったほうがいい。

 

むしろこの情景を見ていないから他の艦娘も“騙されている”のかもしれない。

 

無残にも、何十にも包帯が巻かれ、重ねられた患部からは体液かどうかよく分からない液体が痛々しく滴っている。

確認できるのは包帯の合間から除く黒い髪と右半分の顔だけである。

その“彼女”の背中には何本もの長い金属製のロッドが突き刺さり、あたかも制御棒のような様子で禍々しく小刻みに震えている。

 「私の姉妹は…、島風の妹はどうなってるの?」

『天津風』はふらつきながらも立ち上がり、『明石』を睨みつけた。

しかし、途中でその眼差しは遮られた、『明石』の顔から微笑が失せていた。

 「専門的な話になりますが、彼女は見つかった場所が悪かったんです」

 「は?」

『天津風』はさらに追求した。

 「結論だけ言わせてもらいますと。彼女の場合DNAの情報自体に放射能汚染が広がっていて、除染が完全でないまま彼女の肉体要素を構築したためにいくつかの部位の細胞が放射化していたことに原因があります。艦娘の特性上、マイトーシスまでの期間が長いため広範囲の細胞が汚染され取り返しのつかない状況になってしまいました」

話は少しも分からなかったが、小難しい説明をするところを見るとまったく理解させるつもりが無いらしい。

 「じゃあ、いまのこの状態は何なの!?」

 「半ば諦めた状態です」

『明石』ははっきり言い切った。

 「現在は包帯と強制注入気により辛うじて生命を保っていますが、これ以上の組織の壊死が進んだら命の保障はできません。現在では一日に40リットルの血液、体液を補充していますが、その大半が体外に流れ出している状態です。もはや彼女の細胞は正しく修復、分裂を行う事ができていません」

自分の義理の姉妹というだけではなく、倫理的に感情が昂った。

これが人の所業かと思えるほどの光景だ。

包帯から滴る体液や血液を背中から無理矢理補給し、辛うじて僅かに生き残った組織の深沈代謝を助ける。

だが、ほかの体は生きながらに腐り、死んでいっている。

 「意識があったら間違いなく気が狂うような痛みでしょう。ただ、今はトリクロロメタンで意識を飛ばしています。しかしこれも長くは続きません、このまま30ppmの濃度で使用を続ければいずれ植物状態になり脳死します」

メタン系の臭いの現況はここにあったようだ。

だが、完全密封のガラス壁を通しても感じられるほどの臭いの濃度、30ppmは管理濃度の約十倍に達する。

それを継続的に使用すれば中毒状態になり、絶命するのは必至だろう。

つまり、こうでもしないとこの状況を維持できないという事だ。

 「こんな状況で、生かしておく理由はあるの?」

もし意識があるのなら、殺してくれといわんばかりの状況だ、なにせこうしている間にも体は死んでいっているのだから。

 「彼女は仮にも島風型駆逐艦二番艦ですよ、苦心してサルベージ(修復)したのに、そう簡単に処分できるものではありません」

 「“処分”?あなたにとって私達はその程度のものなの!?」

怒りに振るえ『天津風』は『明石』に詰め寄る。

 「ええ、私はそう思考するよう作られました」

『明石』はまったく表情を変えずに言い放つ、だがその瞳はどこか贖罪の色に塗れ、涙を湛えている。

 「私も所詮は艦娘。悲しみ、慈しみ、同情、道徳観、倫理観。

これらのものから切り離された私の感情は、ただ貪欲に、知識ある者としてより良いもの、より効率の良いものを求める探求の好奇心の塊なんですよ」

彼女の言葉に提督は唖然とした、いままでは、『明石』がここの総括と思い込んでいたが、その彼女ですらもなんらかの意図があって作られたものだという人類の願望器だったのだ。

 「ここが、深層ということか」

提督は頭を抱える。

自分は、こんな残酷な真実を知らずに生きていたのかと思うと、なんともやりきれない。

そして、自分は彼女達のことをそれ相応に知っていると高ぶっていた自分が恥ずかしくなった。

 「いずれ生き絶えてしまうのならば、あなた(天津風)に少しでも真実を知ってもらおうと思いましてね」

話しの最後に『明石』が付け加えて、しばらく口を閉ざした。

一人の少女(天津風)には、これは容量過多な真実だ、並の人間なら発狂してもおかしくない、しかもひょっとしたら自分にもこういう経緯が隠れていても不思議ではないからなおのことだ。

どう作られ、どんな経緯があるかは知らない、だがまともじゃないことは確かだ、艦娘(わたし)は作られていた。

作られた艦娘として、彼女達はここで生まれた、ということだ。

しかし、『天津風』の脳は冷静に状況を整理し、次の質問を叩き出す。 

 「何故、あなたたちは私をここに呼んだの」

『天津風』は提督と『明石』に涙で潤んだ目を向けた。

提督はそばまで歩み寄り、『天津風』と同じ目線までしゃがんで、零れ落ちる涙を拭った。

 「……すまない、私もこれほど凄まじいものとは知らなかった。君には荷が重過ぎる真実だ、知らなくてもよかったかもしれない。すべて私の判断ミスだ」

 「―――いえ、貴方のせいではないわ。無知な私が言い出したことだもの、器が足りなかった自分の責任もあるわ」

『天津風』は両手で涙を拭い、提督の顔を見て言った。

 「私は、少なくともあなたには見せて正解だったと思っています。No.016181、天津風」

その番号に、『天津風』はどこか懐かしさを覚えた。

 「もちろん私も、あなたが作ったのよね」

 「はい、あなたは特別手のかかる艦娘でしたよ、でもその価値はあったかと」

 「そんなあなたが言うくらいだから、私どれだけ特別なの?」

振るえる手を押さえて、『天津風』はまっすぐ質問した。

この質問の答えにどんな事実が混じっているか分からないが、もう大概のことでは動じないつもりだ、

 「おや、敷島さんから伺ってませんでしたか」

『天津風』は黙って頷いた。

 「まったく、彼女も意地悪ですね。相当あなたを吃驚させたかったんでしょう」

 「説明してもらいましょうか」

『明石』は首を横に振った。

 「あなたにはもう必要ない情報ですよ、いずれ・・・」

 「はぐらかさず話してくれ。俺も、敷島からはそれ以上の話は聞いていない」

提督が催促した。

困った表情を浮かべ、『明石』は一瞬考えたような素振りをしたあと、すぐに話を再開した。

 「簡単に言うなら、あなたは艦娘になるときプロセスが他の艦娘と大きく異なるんですよ」

 「だから、より人間に近い、と言うの?」

重ねて質問する。

 「そうです。ほかの艦娘には無い大きな特徴があります、提督もそれを見据えての秘書艦信任でしょうから」

疑うような目線を『天津風』に向けられ、提督はそれを掃うように首を振った。

 「いいや、俺は個人的に君に惹かれるものがあって、いや正直見惚れて、この役職にまで君を信任した、わざわざ今年の二水戦の編成に十六駆を組み込んだのも、言ってしまえば君が目的だ」

『天津風』はきょとんとした顔になり、提督ほうから目を逸らした。

素の自分を認めてくれていたという喜びと、“見惚れて”という言葉の真意。

 「…そう、提督(あなた)は私のことをちゃんと見ていてくれていたのね」

 「もちろんだ、だが君にはそれいじょうの価値があると聞いている」

 「どういうこと?」

提督の言葉に、いままでの疑いが全て晴れ、少しでも提督を変に疑った自分を恨んだ。

だが、再び疑問を再燃させたのは提督だ。

 「今回の見学の真意はそこにあります」

『明石』が言った。

 「こんな惨状も、あなたにとってはこれから先を判断する要素の一つでしかありません」

 「おいおい、まだ何かあるのか」

聞いていたのと話が違う、と言わんばかりの顔で提督は『明石』に訴える。

 「これから先……。戦いの勝敗?」

提督も『明石』も揃って首を横に振った。

 「もっと先、戦いが終わった世界について。らしい」

提督が言った。

 「随分と大きなお話ね」

ここまでまったく話についていけていなかったが、全て自分が深く関係していたとは思いも因らない。

自分だけ特別とは、まさに世界を救うべく作られた“プロトタイプ”に相応しい任務だろう。

だが、『天津風』自身速度以外は平凡な駆逐艦娘で、救世主ではないようだ。

 「でも、まだ戦いの中盤なんでしょう?。少なくとも私の知識では、そうなってるわ」

自分の知識はすでに偽りが隠されている事が明確なため、自分の言葉に少なくとも保険をかけた。

 「実に堅実な経験主義者ですね、素直で聞いたことを粗方信じてしまうタイプですよ」

 「大きなお世話よ。第一、教わった事を覚えておくのが普通でしょう」

『天津風』は再び『明石』を睨む。

 「なぜそのように教えているか分かりますか?」

 「勝つと分かっている戦いに全力を出すわけ無いでしょう」

『天津風』は即答した。

 「ご名答」

 「これは政治上の問題もある」

提督が続ける。

 「我々海軍は軍事予算の三分の二を授かっている、紛れも無く君たちのためだ。だがそれは上の政治屋には要らない情報だ、軍人と違い彼等は金を大事にする、だから勝つと分かった戦にはそれ以上の“賭け”は必要無いと判断するだろう。だが先例に漏れず、こういう国から負ける。常に敵の一枚上手を行かなければ勝利はありえない」

 「敵を欺くにはまず味方から?」

『明石』は少しほくそえんだ。

 「お上の方々を敵と形容するとは、あなたも私達と同じ現場の者ですね」

 「間違ってない。だが、一枚上手がどれだけ難しいか、見て分かっただろう」

 「ええ、痛いほどね」

『天津風』は話の合い間をみて溜息をつく。

 「この戦いに勝つまでこの研究は続く、こんな忌々しいことまでして我々提督はこの戦いを続けたいとは思っていない」

 「でも、いままで十数年戦い続けてきたじゃない」

『天津風』が食いついた。

 「早く終わらせたいなら、とっとと敵を殲滅すればいいのよ。まぁ、そうしない所を見ると、そうできない事情がありそうね」

 「その通りだ。この戦いを止めない理由は、世界の願望が絡んでいる」

提督は掃き捨てるように言い放った。 

 「国家間での戦争なら未だしも、敵は得体の知れないモノよ。戦いを続けも小さな国や交易が死ぬだけじゃない」

一通りの教育課程を終えた彼女等だからこそ展開できる持論だが、この戦いの心理はもはや数十年前の教科書のものとは異なっているようだ。

 「必要なのは敵だ、それも人類共通のな。皆が望んだ結果だったんだよ、この戦争は」

 「この戦いは、私達だけでなく何を生んだというの?」

皮肉交じりに『天津風』は提督に言葉を投げかける。

『天津風』に備わっている倫理観は、少なくとも戦争を良しとしない、まずもって正しい感情だろう。

だが、この世界はこの長い戦いを望んでいた?、戦いのためだけに作られ、人知れず尽して死んでいくしかない艦娘(わたし)という存在を作ってまで?

 「まったく耳が痛い。耐えかねるよ、一人の男として恥ずかしい限りだ」

 「別に、提督(あなた)を責めているわけじゃないわ」

 「だが、君たちの役に立つために我々はこの職に就いた。しかし事態は公転しないばかりはここ数年でさらなる泥沼に迷い込んでいる」

提督は自分の力不足を悔いた。

今更な事だが、今までの自分が行ってきた事は本当に彼女達の為になっているかと考えると、不安で堪らなくなる。

今年こそ、この戦いを終わらせようと誓い、そんな一年が何度諦めさせられたか。

新たな真実に触れる度に、知恵を絞り、彼女達にハッピーエンドを迎えてもらおうとシナリオを修正した。

そして、今年がラストチャンスとなった、なってしまった。

人類の希望なんて大義名分はもはやこの戦いに無い、作られてなお利用されても、純粋に尽くし無垢に自分達の下にいてくれる彼女達に提督達は賭けた。

 「だからこそ、君(天津風)は君たちにとって最後にして最大の希望だ」

ついに提督はこの真実の極論を語った。

ここまで話した以上、もはや提督に成せる事は少ない、あとは『天津風』がどう受け取るかだ。

自分を利用した愚かな人類を恨むか、真実を打ち明け戦いを終わらせようとしている提督を信じるか、すべて彼女自身に懸かっている。

 「ここまで知ってもなお、提督について行くかはあなたの自由です。といっても断った所でこの世界は終わったりしませんがね」

『明石』が最後に付け加える。

『天津風』はそっと目を閉じ、僅かな期間の記憶に耳を傾けた。

戦場にいたのはほんの一ヵ月弱だったが、それでも耐えかねるほどの事実を真実を目にしてきた。

死ぬまで戦いに挑み、見果てぬ限界を目指しひたすら勝利を求められる。

そのうえ自分達はまともな人間ではなかったという真実に重ね、これ以上は技術の限界が見えている。

結局、私達は最期まで戦い続け、私達の為に自らの命さえも賭す提督たちを看取り、まして自らまでも海の底に逝ってもなお、こんな戦いが続くと言うならば―――。

 「話は半分も分からなかったけど、私が必要と言う事は分かったわ。いいわ、あなたの言う希望、その大役私が引き受けさせてもらうわ」

いつものように、自信と期待に満ちた声色で言い放った。

自分が特別な艦娘だと確定した以上、もはや彼女の心の中に迷いは無い。

他の者に出来ない様な事を、自分だけが出来るという大役に、『天津風』は自分を鼓舞せずにはいられなかった。

言葉通り、話の筋しか理解していない、だが、『三笠』や今も現役の艦娘、これからすぐに生まれてくる新しい艦娘のためにも、自分の努力で彼女達が戦わなくて済むのならば、喜んで尽力したい。

 「ありがとう、感謝してもし切れない。やっと俺達提督の夢が叶う」

提督は胸を撫で下ろし、安堵の表情に満ちた。 

 「脅すつもりはありませんが、話はこれで終わりじゃないんですよ?」

『明石』が口を開いた。

 「知ってしまった以上、もう抜けることはできないんですよ。本来これらの情報、特に艦娘の製造過程については国一番の秘密ですから、知ったことがバレたら消されますので、そこら辺は気をつけてください」

 「時津風や十六駆の仲間にも言っちゃだめなの?」

 「ええ、もちろん」

一人で背負うには重過ぎる真実だ。

だが同時に、こんな事を知るのは自分だけで十分だとも思った、知らぬが仏という奴だろう。

 「じゃあ、知った側にも特権はあるわよね?」

『天津風』は『明石』に踏み込んだ。

 「真実の破片だけでは物足りませんか?」

 「ここまできたら、全部知りたくなるじゃない」

精一杯の皮肉を込めて『天津風』は自分の単純な探究心を『明石』にぶつけた。

『明石』はそんな『天津風』の言葉に秘められた皮肉を認めるかのように頭を振る。

横を向き、『明石』はさらに廊下の奥へと手招きした。

 「この先に一級秘匿の資料室があります」

ガラスを通った光が、暗がりに立つ『明石』の瞳を不気味に光らせる。

 「少し、歴史の勉強をしましょうか」

 




まずこの世界の艦娘の秘密に触れていただきました。
メインヒロインの天津風についての秘密はまだまだついて回りますが、今回でこの小説のダークな世界観が伝わったらなぁと思っています。
この世界では他の国も同じような事をやっています。
本家艦これで実装されているドイツ、イタリア、アメリカ。
最近で言えばイギリスの艦娘も、このような過程で生み出されています。
そうでもしないと深海棲艦に勝てないからです。
 では、なぜ深海棲艦は存在するのに本物の艦娘は存在しないのか。
次章ではそれも含めて、この小説の世界設定にふれていきたいと思います。

ご不明な点や疑問がありましたら、お気軽に質問してください。
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