天(そら)別つ風   作:Ventisca

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満を持して島風登場です。


第弐拾漆章 義姉妹

 「とりあえず、お前の事を洗いざらい」

とんでもない奴と二人きりになってしまったと『天津風』は後悔しているだろう。

准将は、『天津風』の事を聞いて何か企むという事はなさそうだが、幾分頭のキレが良い人物なので、話してもないことでも感づかれるかもしれない、という不安が俄かによぎった。

そして、このようなことについて詮索しながら話したら、それこそ彼女のことだから逆効果だろう。

 「なにか悪いこと考えてませんか…」

 「まあ、そう思われても仕方がない。正直言うと、例のサイエンティストのいう事を全部信じてないのはわかっていると思う、だからその感想を聞いてみたいだけだ。その過程で君の事を知らなければならないと思ってる」

渋い顔をする『天津風』に、彼女は淡々と自分の今思っていることを披けた。

彼女に嘘をついても無駄という以上、彼女も嘘をつかないつもりのようだ。

 「じゃあ、貴女のことについてまず教えてくださいよ」

 「ああ、等価交換ってやつか、悪くない。いいだろう、それと敬語は無しでな」

 「あっはい」

まず何から話そうかと悩むことはなかったらしく、彼女は自分の出生から話し始めた。

軍に提出されている書類等には書かれていない、家のことや父母のこと、学校でのことまで全て話してくれた。

彼女が陸軍防衛軍総司令部のカバン持ちの話など聞いていて面白かったくらいだ。

カバンの中身に仕事関係の物が全く入っておらず、当時の司令官から口止め料を貰っていたらしい。

そして彼女の今の役職は、別に狙っていたということではないらしいが、願わくばと前から思っていたらしい。

海軍との良仲が要求される役職上、かなり勤勉な奴がこの役職に〝飛ばされる”らしく彼女はうってつけだろう。

そのことを彼女も自負している。

階級については、今の立場を複雑に思っているらしい。

今の上司、いわゆる人事部の偉い人からは、ここで打ち止め、つまりこれ以上上がることは不可能だと言われたらしい。

気を利かせた一言として受け取ったらしいが、彼女は心底落ち込んだようだ。

 「〝知らない”というだけでこの世にないのと一緒なのに、よくもまあこんな余計なことを聞いてしまったよ」

彼女はできれば自分で好き放題できるところまで上がってみたかったらしいが、今の階級(准将)では言葉の通り将官に準じる階級で、それほどの力はない。

名前とは裏腹に、将官たちの下働き的な役どころに落ち着くのが常らしい。

人に仕えるのは嫌ではないが、あんなポンコツ上官は嫌だと彼女は声を大きくしていった。

 「弁明の言葉もないわ」

『天津風』も納得した。

せっかく自分を秘書艦として選んでくれたんだから、もっと尽くし甲斐のある人になって欲しい。

そして、できれば私の好きになれるような人になってほしいと、『天津風』は口を滑らせた。

 「案外好きなんだ、あんなの」

上司なのに酷い言い様だと、准将の言葉に反論した。

 「そんなことないわ、提督は少し及ばないところもあるけど、やるべきことはやるし、仕事も早い、そして何より自分から動くし。階級にあるまじき行動力だと思うわ」

 「意外と擁護するのね、やっぱり少しは気があるんじゃない?、というかそうとしか思えないわ」

 「い、嫌よあんなロリコン」

 「まあ……、その趣味は総督(お父様)から引き継がれているようだけど。というか悪化しているような…」

二人して苦笑いした、全くこの面については擁護のしようがない。

 「でもまあ、提督に選んでもらったんだからありがたく思ってるんでしょう?、立場的にも他の艦娘達と一線を画すわけだし」

 「そんなことない!。特別扱いされたことなんてないし、仕事も容赦なく降りかかってくる。なんか前のほうが楽かもしれないとすら思うわ」

『天津風』はため息をつく。

だが准将はそんな『天津風』に微笑みかける。

 「あら、いいことじゃない?。どんな立場になっても接し方が変わらないなんて、提督のあなたへの想いが不変ってことなんじゃない。逆に天津風はどうなの」

 「ずいぶん踏み込んで…」

 「いいじゃない、女どうしですし」

漠然と聞かれると、気構え様がない。

思わず素で答えようとして口をつぐむ。

提督に関して言えば、好き嫌い以前に、それらを考える要素が無きに等しいのが悩みどころだ。

感謝の気持ちはあるが、それはその手の趣向には関係ないだろう。

だが、提督が選んだというのだから、彼方のほうから気があるのかもしれない。

 「別にあっちがどうとか関係ないんだけどっ!?」

 「本当に素直だなぁ、ツンデレさん」

またやってしまったと『天津風』は思ったことだろう、だがここで下手に言い訳すると本当に真意まで伝わってしまうかもしれないと警戒して、それ以上は押し黙った。

しかし、この今押し隠そうとしている感情こそ、自分の一番純情なところなのかもしれない。

 「素直に言えよ、好きだって」

 「本当にそうか……わからないの」

ふむふむと、准将が怪しげにうなずく。

 「なんか余計な事を―――」

『敷島』といい准将といい、なんでこう私にしつこいのかと思うようになってしまった『天津風』。

 「提督と一緒にいて落ち着く?」

 「それはそうよ、今までで一番長く一緒にいる艦娘以外の人、しかも男よ?、ここまで抵抗がないのは初めてよ」

 「はい、あなたは提督の事が好きです」

 「はぁ!?」

思わず『天津風』は座っていた木箱から飛び上がった。

 「天津風が気づいていないだけで、どこか彼を受け入れているんだろう。それに好き嫌い関係なく、一緒にいて落ち着くならそれでいいじゃない」

 「なんで恋愛相談になってるんですか…」

 「一応年上よ、聞いてて損はないわ。先に言っておくけど、そんなおいしい恋愛関係のネタは私にはないので悪しからず」

先に釘を刺されてしまった『天津風』は、上手いことやられたとここでやっと気づいた。

 「年上って、准将何歳?、近かったら今の無しね」

 「あなたが異性だったら、女に歳を聞くもんじゃないと一掃したが。んん、まあ正確には言えないがぎりぎり三十代ってところ」

上でぎりぎりなのか下でぎりぎりなのかは検討するしかないが、普通に考えて彼女のほうが経験は上だろう。

 「で、天津風何歳よ」

『天津風』は表情を強張らせた。

その質問には沈黙で返す他に彼女には手段がないからだ。

 「だいたい十五、六くらいでしょ」

准将は続けた。

 「え」

 「あなたたち、自分たちの居る簪年艦隊の簪年の意味知ってる?。簪年ってのは女性が文字通り簪を指すことが公然で認められる歳で、だいたい十五歳くらいの事を言うのよ」

 「へぇ~」

 「つまり、あなたたちは十五歳から艦娘になれるってこなんでしょうよ?」

これが本当なら、提督のロリコン疑惑が半分事実になってしまったという事だ。

だとしたら、なんともうれしくない真実だ。

 「まあ、門外漢の台詞はここで止めるとして、あなたはどう思うの?。どう思うかを聞いている、実際どうかは関係ない」

 「私の外見的には…まあそれくらいが妥当だと思うのだけれ…ど……」

『天津風』はまた別の事で言葉を詰まらせる。

ふと自分の身体を見回してみたが、身長も足回り腰回りもまあ幼いと言われれば幼い、というか成長しきれていないという感じだ。

俗にいう第二次性徴真っ只中ということだろうか。

どちらにせよ、クエスチョンマークが絶えない。

准将が咥えていた煙草を脇に捨て、立ち上がった。

 「んん~そうだな」

そう言って准将は『天津風』の胸元を摩りまくった。

 「なななな、なにすんですかぁ!」

 「え、いや…どれくらいの大きさかなぁって」

 「デリケートなところを成長の物差しにしないでよっ!!」

『天津風』は顔を真っ赤にして彼女の手を振り払った、准将は大爆笑している。

背後から階段を駆け下りる音が迫ってきる。

すぐにそれが提督のものだと分かった。

入り口を飛び出して、車のエンジンをかける。

 「楽しそうなとこ申し訳ないが、OHO112Sが帝都に発令された。とっとと行くぞ」

提督は運転手の士官が戻ってくるのを待たず、自ら運転席に座った。

 「お呼びだぞ」

准将は自分の荷物をまとめて建物に下がった。

 「私は先に宿のほうにいっとくので」

 「賢明ね」

彼女にかまってはいられない、すぐに移動しなければならない。

OHO112Sとか言うわけのわからない記号の羅列は、簪年艦隊に関する国連上のきまり、条例みたいなもので、内容によっては絶対的施行力を持つ。

そしてその、大日本帝国連邦簪年艦隊規定条例(OHO)の112Sというのはいわゆる緊急発進(Scramble)というやつだ、細かく言えばその優先度二番目のものが施行されたのだ。

『天津風』が車に乗り込むと、後輪が滑るほどエンジンを吹かして、提督は車を発進させた。

 「それで緊急発進の内容は?、こんなところで所属違いの艦娘まで呼び出すことをするなんて。よっぽどなの?」

 「規模はそれほどではないんだが、重要度が半端ないんだ」

提督は『天津風』のほうを見ないまま、前を見据えて続けた。

 「海護総隊のが随伴してるソ連船団が襲われた、だが場所は帝都湾沖数十キロ。しかもこの船団外交官を乗せてるもんだから、上層部が焦ってるんだろう」

 「なるほどね、要するにお偉いさんたちのお迎えってわけね」

 「そうだ」

提督は途中で壁の外の道に躍り出る。

すると、遠くにコンクリートの塊が鎮座しているのが見えた。

 「あれがここの出撃カタパルト施設だ、元は艦艇のブンカーだったんだが、言わずもがなだ」

 「それはそうと、装備はどうするの?。水上航行装置はもちろん武装だってないのよ?」

 「大丈夫だ、島風型の装備が一組あるからそれを使っていいらしい、むしろ君くらいしか使えないと思うんだが」

 「それはそうね」

『天津風』は得意げに言った。

 「あと、今回は島風も出撃するらしいぞ」

 「ほんとぉ!?」

提督はこんな無邪気さをいつも見せてくれればと思ったことだろう。

だが、提督はこの時嫌なものを感じ取っていた、だが今は言うべきではないだろう。

ブンカ―の入り口を顔パスで通り過ぎて、中に入った。

入るなり周りから作業員が集まってきて、提督に詳しい任務の内容などを説明した。

『天津風』はそれを横から聞いていたが、それほど難しいものでもないと思った。

そしてブンカーの中の開けたところに出ると、南方司令部にあるものの数倍の規模の出撃施設が整備されていた。

誘導灯が無数に並び、奥行き25メートルとも見える海へ続くカタパルトは、綺麗に錆止めの塗装が重ねられている。

 「天津風はここで、装備をつけて一番端のカタパルトで準備してくれ。あとは任せる」

提督は上の司令塔に入っていった。

 「ちょ、ちょっと、どうすんのよこんな知らないとこで」

すると、こんどは後ろから足音が近づく。

 「天津風…」

勢いよく振り向くと、そこには待ちわびた義姉妹の姿があった。

 「島風!」

『天津風』は少し冷たい彼女の体を抱き寄せた。

 「なによ案外普通じゃない!」

思わず口から出たセリフに自分でもびっくりした。

もっとこう、無感情で瞬きの数がやたら少なそうな感じを想像したが、彼女の見た目に変わったところはない。

変わったところといえば、やたら露出度の高い服装だろうか。

うさ耳のようなカチューシャに、短さを極めたようなスカート、紅白の長いニーソという特徴しかない外見だ。

きっと相当な服装製作者の思惑が込められていることだろうと感じた。

 「そんなことよりも、今までどこにいたの?」

『島風』は無垢に『天津風』に尋ねる。

 「…今までは別のところにいたわ、あなたが来るのを待ってたんだから!」

彼女とはかなりの記憶の差(ラグ)があるようで、ここでは詳しく話さず極力端的に話すようにした。

 「そんなことより、出撃だよ。とりあえず、天津風の装備は今ここにないらしいから私のをかしたげるっ」

手を引かれ、端のカタパルトに向かった。

アルミ製のケースに入った装備を出すと、『天津風』に手渡した。

艤装は普通だったが、航行装置が曲者だった。

自分のものより若干ヒール部分(舵)が高く、履いて歩きにくいという難点があった。

武装は彼女と同じ12.7センチ連装砲のD型改で、対空戦闘に順応させた砲であり、現在の最新型だ。

『島風』は、腰の部分に大きな魚雷のアダプターを担ぎ、彼女だけの特別な装備である零式五連装酸素魚雷をそこに装着する。

 「本当は、連装砲ちゃんっていう私の武器があるらしいんだけど。AI?とかの開発で遅れてるらしいんだ」

そう言って彼女は槍のようなものを持ち出した。

 「なにそれ」

『島風』が持ってるものは九九式改と刻まれている、長さ2メートルほどの槍状の武器だ。

先端には槍の刃部分にロケット弾の先端と安定翼のようなものが取り付けられている。

いかにも鋭い刃物だが、メインはそれではなさそうだ。

 「九十九式改破甲自己鍛造だんやり、って書いてある」

 「弾擲(だんてき)よ、だ・ん・て・き」

 「だって読みにくいもん…!」

彼女が持っている説明書のようなものに目を落とすと、図解から察するに艦娘用の近接戦闘武器に装甲貫徹用の自己鍛造弾の弾頭がつけられている、なんとも危なっかしいものらしい。

それほど複雑な物とも言えない、使い方など想像にすら及ばない。

 「それ大丈夫なの?」

 「まえ訓練航海のとき使ったけど、眩しいだけでちゃんと使えたよ」

 「そういうことではなくて…」

本来ロケットなどで飛ばす弾頭部分を手元で爆発させて大丈夫なのだろうか、まあ本人が大丈夫と言うから大丈夫なのだろう。

 「〝装備は済んだか?”」

提督が司令塔から呼びかける。

二人は手を振って答える。

 「二人だけなの?」

『天津風』が尋ねる。

 「ええー、私はそっちのほうがいいな」

 「まぁ、二人きりのほうがいいわね、戦力的な面では不安だらけだけど」

そうは言いつつも『天津風』は黙って出撃の準備をした。

航行装置をカタパルトにロックして、出撃準備は完了した。

 「〝敵は一個水雷戦隊、現地には海護総隊の二個小隊が展開して戦闘を行っている。これに介入し船団を無事に入港させよ。出撃のタイミングはそちらに任せる。健闘を”」

提督は出撃装置のスイッチがそっちにあると、上の司令塔の窓から示した。

足元を前に強く踏み込むと、カタパルトが始動するようだ、しかもここのカタパルトは火薬式ではなく蒸気式らしく、レールから蒸気が立ち上っている。

 「島風、大丈夫?」

 「うん、テストと訓練ばっかりで退屈だったんだもん。ドキドキする!」

 「え、初実戦?」

『天津風』は自分の初実戦を思い出して、少し不安になったが、自信と笑顔に溢れる『島風』はそんな不安とは無縁のようだ。

 「まあ、大丈夫でしょう」

深く息を吸って、『天津風』は前に広がる昼下がりの海を見据えた。

 「第十六駆逐隊、天津風。出撃よ!!」

 「艦娘番号Z01010、島風。出撃しまーす!」

 




天津風の連装砲くんも悩んだのですが、やはり連装砲ちゃんABCは登場させない方針にしました、申し訳ないです。
あの手の奴は生物なのかロボット的なものなのかわからないので、作中では簡単なAIを搭載した自動制御の移動砲塔という設定にしています。

引き続きこのぺースで書いていきたいのでよろしくお願いします。
17件のお気に入登録、沢山のご愛読ありがとうございます。
感想等もじゃんじゃん残してってくだしあ・・・。

追申。
今日?から始まった艦これ冬イベみなさん頑張ってください(期間限定メッセージ)。
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