天(そら)別つ風   作:Ventisca

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リアルで言う東京湾での戦いです。


第弐拾捌章 第五十五次帝都湾戦闘

 ブンカーから出撃して十分、『島風』の37ノットで通常航行という速さに振り回されながらようやく湾の出口にさしかかった。

迷彩のコートを靡かせながら、島風はずっと腕時計に目を落としている。

 「うんっ、もう天津風おっそーい!!」

 「ええ!?」

湾の出口は風が強く、天候とは裏腹に波が高い、南洋とは逆に内海でも潮が荒いのがここら辺の海だ。

それにしても、この風速20メートルの中で37ノットという速度で遅いと言われる筋合いは『天津風』にはないだろう。

 「いつもはここまで8分で来るのにー」

 「私は巡航速度を守ってたわ、そんな飛ばせばいいってもんじゃないのよ?」

 「むうー」

なんやかんや言いつつ、湾を出た。

湾の出口にある数個の小島には、分厚いコンクリートの要塞が気づきあげられ、砲身の長い大砲がその隙間から伸びている。

外に出ていた人達が手を振ってくれた。

 「〝外洋に出たらす警戒してくれ、そこから数キロ県内に来ているはずだ”」

提督が通信で注意を促した。

『天津風』は『島風』を先頭に砲撃の準備を整える。

そしてやがて一般船舶からの救難信号をはっきり捉えた。

 「Z01010、砲雷撃戦入ります!」

 「ちょっとまって!」

『天津風』はさらに増速した彼女について行くのがやっとだった。

手元の速度計は40ノットを振り切っている。

二人の間隔を30メートルほどに保ち、硝煙の匂いをたどって戦闘海域と思しきところに接近した。

ようやく船舶の煙を発見し、近くに艦娘の姿も確認する。

 「〝海護の神風です、まってました!”」

海上護衛総隊は、今は二等駆逐艦に分類される神風型や峯風型などで編成された護衛専門の隊だ。

従って、戦闘を主眼としないため、対艦戦闘より対空戦闘を専門とする、対艦はせいぜい魚雷くらいだろう、そのかわり対空対潜は得意とするので護衛には十分だろう。

 「どうすればいいですか」

ただぶっ飛ばす『島風』に代わって『天津風』が質問した。

 「〝とりあえず、煙幕の類があればうれしいんですけど…”」

自分はもっていないので、少し前を奔る『島風』に聞いてみる。

 「島風!」

 「もってるよー」

 「なんだ聞いてたの」

船団の全体が見えると、その数機を後ろに敵艦隊の影も見えた。

 「じゃあ、いっくよぉー!!」

『島風』は縦長い手榴弾のような煙幕筒のピンを抜き、勢いよく飛び出した。

蹴立てる白波は本人の五倍近い大きさがあり、『天津風』はそれに被らないように横に避けた。

 「まったく、元気だけはいいわねぇ」

『島風』は船団の航跡を隠すように煙幕を引き、後方の視界は真っ白になった。

 「島風、牽制で魚雷撃つわよ」

 「〝りょーかーい”」

 「ていうか、いまあなたどこにいるのよ」

 「〝煙幕の外くらい?”」

 「早く戻ってきて!、行き過ぎよ!」

『天津風』は『島風』が見えるところまで戻ってくるのを待って、魚雷のセッティングを始める。

射程を長くするために雷速を38ノットに落とし、放射状に一定間隔で後方に発射した。

合計9本の雷跡は煙幕の中に消えていった。

 「これでひとまず…」

船団に追いつくために前を向いたその瞬間、『天津風』は右側面から微かな殺気を感じた。

 「島風!」

その言葉に反応して『島風』はすぐさま九十度舵を切って減速した。

敵は前に見越し射撃をしている、この状態では減速が正しい判断だろう。

例に漏れず砲弾が弧を描いて飛んできた、それも数発じゃない。

辺り一面弾着の水柱に覆われたが、『天津風』は落ち着いて砲弾が飛来した方向を見た。

 「軽巡ツ級!!?、どうしてこんな近海に!?」

『天津風』はすぐに三式弾の弾倉を捨て、徹甲弾を装填した。

これまた牽制で砲弾の発射源に向かって二十発打ち切って、すぐに『島風』の下に向かった。

 「島風、どうするの?」

 「もちろん」

『島風』は槍の安全ピンを外した。

 「倒すに決まってんじゃん!!!!」

停止状態に等しい速さから瞬く間に目の前から消えてしまった。

 「ちょっとしまかぜぇ!」

『島風』の根端はわかっている、ゼロ距離まで近づいてあの自己鍛造弾を食らわせるつもりだ。

だが、あのツ級に単艦で接近など正気の沙汰じゃない。

当の『島風』は、コートを激しくたなびかせ一心不乱に突っ込んでいる。

その直線的速さに似合わず、左右へ器用に小刻みに砲弾を回避している。

周りから敵駆逐艦が少しずつ接近してきているの、それを邀撃しながらあの速度の『島風』を追いかけるのは不可能だ。

 「もうっ、無茶ばっかりして…」

その間に『島風』はツ級に対して数百メートルに接近していた。

 「…隙が、ないっ!」

悲痛な愚痴も虚しく、敵のツ級は周りにばらまく砲弾の中に正確に狙いを定めた射線の砲弾を混ぜて、迂闊に接近できないようにしている。

魚雷も発射されたが、これに関しては『島風』の機動性の敵ではない、仮に射線に入ったとしても、その速度からのジャンプでいとも容易く避けられる。

そもそもこの速度でのジャンプ回避が自殺行為なのを除いて、いまは近づくことが段々と困難になっていっている。

やっとのことで『天津風』は『島風』の近く、と言ってもまだ数百メートル離れているが、意思疎通で行動ができる範囲に入った。

それを確認すると、『島風』は槍を両手で構えた。

 「天津風、よろしく」

 「ええっ!?」

援護を押し付けて『島風』は直角に曲がり、ネコ科の肉食獣のような姿勢で突撃していった。

蹴立てる波より低く姿勢を落とし、スピード任せで吶喊するつもりらしい。

 「ちょっと島風!」

もはや避ける気はなく、『島風』は弾着の水柱の中を進むように距離を詰めていく。

速度は45ノットを超えているが、本人には全く問題もないし、気にする素振りもない。

数十メートルまで詰めると、もはや全ての敵弾が至近弾になり、引き返すことは不可能だ。

そして、ツ級の砲身口が確認できる距離になると、『島風』は槍の手元にある引き金を引いた、この速度だとこの距離で起爆させなければ有効な距離を保てなくなる。

 「あなたって遅いのね」

キメ台詞を吐き捨てると、自己鍛造弾が炸裂し、ミスナイ・シャルディン効果で先端の金属が爆圧で変形して鋭い槍先となってツ級をいとも簡単に貫く。

おまけに至近で爆発したために、爆圧と焼夷効果で敵は跡形もなく吹き飛んだ。

『天津風』からは、閃光が走り爆炎に『島風』が飲み込まれたとこまでが確認できる範囲だった。

 「島風!」

『天津風』は急いで駆け寄った。

周りにはまだ駆逐艦クラスの敵が居るが、今の軽巡に比べたら容易いものだ、そんなことよりも『天津風』は『島風』の安否が気になった。

あれだけの威力の爆発を手元で受けたら、多少は怪我をしているだろう。

 「大丈夫!?」

すぐに『島風』の前に回り込む。

 「もう、来るのがおっそいよ!」

そう言って『島風』は柄の部分だけになった槍を投げ捨てた。

 「島風、手が……!」

気にもしない顔をしている彼女の手元は、血で手を洗った様に腕までどす黒く染まっている。

 「あ…」

 「全然大丈夫じゃないじゃない!!」

本人は素知らぬ顔をしているのが信じられないくらいの傷だ、やはり破片がいくらか刺さっている。

『天津風』は急いで太ももに括りつけてある救急キットを取り出し、包帯を巻いてとりあえずの止血を試みた。

 「一応、手も指もついてるわね…」

いままでの過酷な惨状の経験から、最悪の自体を想像したが、本当に破片による裂傷だけらしいので安心した、それでも負傷しているだけで『天津風』としては心が痛むばかりだが。

 「さっさと雑魚を倒してくるから、島風は船団に追いついていて」

 「うん、わかった」

負傷がよほど響いているのか、『島風』は大人しく言う事を聞いてくれた。

 「さてと…」

『天津風』は空になった弾倉を捨てると、また新しい弾倉を装填した。

五隻なら、今の彼女には物の数ではない、勝敗は目に見えている。

 十分で蹴りがつくと、『天津風』は急いで船団に戻った。

すでに湾内に入っていて、護衛している第一〇四戦隊も輸送船の最後尾をゆっくりと進んでいた。

『島風』はあの後『神風』以下からの応急処置を受け、完全に止血したところで一段落を終えていた。

 「島風!、大丈夫!?」

 「うん、全然。ちゃんと手当してもらったし」

 「ならよかった…」

胸を撫で下ろし、ふと船団のほうを見た。

五隻の輸送船とソ連籍の駆逐艦一隻で編成された船団は無傷同然で、最後尾の輸送船は信号旗でユニフォーム、ウィスキー、数字旗の1で、「〝貴艦の協力を感謝する”」と知らせている。

 「提督、任務完了よ」

 「〝こちらもレーダーで確認した、ご苦労様。怪我はあるか”」

 「島風が中度の裂傷、すぐに手当してほしいの」

 「〝わかった”」

なにはともあれ、船団のお迎えは済んだ。

だが、戦闘中からそれらに関係のないものを〝聞いて”いた。

上空を飛び続けるレシプロ機の音、チラッと見上げてみたがどうやら海軍の偵察機のようだ。

いったい何の用があって戦場の真上を蠅のように飛び回っていたのだろう、今はもうその偵察機の姿はない。

 「はぁ~」

『天津風』は腑に落ちないため息をついた。

 「大丈夫?」

横に居た『島風』が喋りかける。

 「大丈夫かですって?、それはこっちのセリフよ。戦闘中とはいえ自分の傷くらい確認しなさいよ、特に手だったんだから!」

『天津風』も経験したことだ、戦闘中はアドレナリンラッシュのせいで小さな傷は全く気づかない。

擦り傷切り傷の類はもちろん、よほどの激戦なら多少の骨折でも気づかないこともあるらしい。

 「ごめん、でも全く気付かなかった」

 「もう、気をつけなさいよ!」

『天津風』の忠告に対し『島風』は予想外の返答をした。

 「でもずっと感じなかったの、痛みが…」

『天津風』は肩の力が全て抜けるのを感じた。

やはり恐れていた事が〝されて”いたのだ。

 「島風…、それいつから……?」

 「ずっとだよ、ずっと。先月の全速運転の時も、私の砲が暴発したときも、施術を受けた時も、今まで受けた注射も全部、何も感じなかったよ」

彼女は素直にそう答えた。




本物の帝国海軍の海上護衛総隊は海防艦や特務艦などでも編成されていますが、今回は手ごろな二等駆逐艦ということで神風を登場させてみました。
今後彼女らにはお世話になると思います。

流れで次の章まで投稿しましたが、また少し間が開くと思います。
それでも1週間とはかからないと思います。

引き続きご愛読よろしくお願いします。
評価や感想も是非よろしくお願いします。
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