今回あたりから、実際の地名を使います。
南方司令部から直接作戦艦隊にZⅡ作戦ホ号が下令された、艦隊行動を第二段階に移す命令だ。
ホ号の内容は以下の通り。
1、南方海域強襲偵察艦隊ハ濠大陸旧都市ケアンズへノ上陸行動ヘノ以降及ビ上陸ヲ実施サレタシ。
2、主力艦隊ハ予定通リ、ソロモン群島ヘノ陽動作戦ヲ開始サレタシ、ホ-115785868。
ハ号とニ号は旧珊瑚海攻略の命令だったが、先の戦闘で敵艦隊が離散してしまったため事実上攻略の戦術的要点である敵艦隊の殲滅が叶わない上に、この陽動に既に敵艦隊が反応しており、戦術的勝利の達成が不可能なため消滅してしまった。
そして『天津風』の居る南方海域強襲偵察艦隊は、もはやこれ以上の戦闘は想定していない。
弾薬は背嚢に入っているものの、航行中はもちろん装填は不可能、このまま上陸の線で模索している。
対して『武蔵』が旗艦を務める主力艦隊は、深海棲艦の主力及び哨戒艦隊の中枢が跋扈していると予想されるソロモン諸島への揺動奇襲作戦を敢行する、この成功を祈るばかりだ。
主力艦隊は戦艦と巡洋艦、そして航空母艦が半分以上を占める超重量級の艦隊だ、したがって艦娘同士の間隔か極めて遠距離に設定され艦隊の幅が大きくなる、今回はそれらが有利に働くようにソロモン諸島で広範囲に対して攻撃をかける根端だ。
主力艦隊は“新英島”を北回りに迂回し、既にソロモン諸島への空襲を開始している、こちらもグズグズしていられない。
しかしながら、大陸の周りには敵巡航艦隊が東側だけで3コ艦隊が水偵の偵察で核にされている。
こちらは駆逐艦娘それぞれに十発入弾倉3セット、魚雷四本のみ、神通の主砲弾は約三十発残っている、かなり危うい状況である。
艦隊は速度を33ノットに保ったままケアンズを目指しているが、なにせ何十年も人が入っておらず上陸地点が定まらない可能性があり、その上濠大陸周辺は岩礁が多く干満次第で上陸地の選定は海図が頼りにならない。
太陽が南中したころ、艦隊の緊張も頂点に達していた。
主力艦隊は全艦が交戦状態に突入した、敵の規模は推測で戦隊五個、水雷戦隊三個、航空戦隊三個、さらに追加で哨戒艦隊の巡洋艦隊が六個加わっている、これで陽動作戦は成功ということになる。
主力艦隊が何時まで請け負えるか分からない、こちらも早くしなければならない。
「神通さん!濠大陸が見えます!」
先頭を征く『時津風』が叫んだ。
『神通』は単眼鏡を取り出し、前方を確認した。
確かにそこには薄く広がる大陸が確認できた、蜃気楼が酷く距離は定かではないが、ようやく目標地点が視認できた。
「艦隊減速、旧濠大陸へ接近します」
速度を28ノットまで徐々に落し、艦隊は陣形を複縦陣へ変えて大陸へ接近する。
皆無意識のうちに上陸を急いでいる、晴天の上に波高も低い、発見されたらまず回避は不可能だ。
そして精神的にも宜しくない、言うまでもないがここは敵の懐であり、深海棲艦の勢力が及ばない地位までは少なくとも600キロ以上ある、皆上陸したくて堪らないのだ。
大陸が視認できる距離まで近づくと、艦隊は更に減速する。
『神通』は図嚢から小さく折りたたまれた資料を取り出した。
この海域、旧豪州大陸の東側はレーンの先、南方乙海域の中にあると同時に管区外である旧地図海域の中心である。
『神通』の持つ資料には、全ての情報が書かれているわけではない、もとい資料が残っていなかったのだが要点は押さえていたため問題はない。
少なくともこの海域はレーンの内側である“ライン”と呼ばれていた。
このラインの内側の港湾は例外なく全て要塞化されており、港湾の入り口には機雷等の障害が設置されていることが予測される。
アクティブソナーに『天津風』は耳を澄ます、最も海中の障害物が機雷かどうかなどソナーだけでは判断はできない。
大陸まで20キロを切った当りで、案の定ソナーに反応があった。
「機雷です!それもものすごい数!」
ソナーのピンガーは、海中で障害物に当たり乱反射して返って来る、しかし深度がかなり深い。
「恐らく対潜水艦用のものでしょう」
『神通』は素早く識別しそのまま前進を続ける。
大陸まで10キロ、目視で大陸内地の様子が確認できる。
海岸線は防潜網と老朽化で浮上してしまった水上艦艇用の機雷で埋め尽くされており、海岸は見渡す限りコンクリートで固められている、しかしトーチカなどの武装は全く目につかない。
「戦闘態勢を維持したまま、上陸準備に入ります」
地図の通り地形が残っているならば川の河口に小さな湾を利用した港があるはずだ。
「“二時の方向に港湾確認”」
0.8メートル測距義を装備する『初風』から入電があった。
一面がコンクリートで固められているため微妙な遠近感か掴めない上に、コントラストにも差がないため入港できる場所を探すのにも一苦労だ。
艦隊は既に陸から4キロ地点にまで接近している、陸の動きは完全に無い、やはり無人と考えていいだろう。
速度を15ノットまで落とし、大陸に垂直の進路を執る、上陸は目の前だ。
大陸の全容は一文で表せるほど情報量が少なかった、継ぎ目のない鉄筋コンクリートの海岸、その上に等間隔で立つ三脚型の低い鉄塔、その海岸に流れ着いた機雷や一般小型艦の残骸、そして果てしなく奥まで続くような荒野一色の大地。
「各人、周囲及び上方警戒!」
『神通』は先頭切って港湾に進入した。
港湾は小さく奥行き1キロ程しかない、その一番奥に潜水艦のブンカーのような建物が辛うじて海面に顔を出している。
「上陸できそうなところあった?」
後ろから『時津風』が尋ねる。
「ぜんぜん」
『天津風』はもちろん、他の全員が捜索しているが全く見当たらない。
見渡す限り全ての海岸線が、高さ3メートル程度の二重のコンクリート壁で覆われており、登れそうな場所は無い。
「仕方ありませんね」
そう言うと『神通』は徐に左腕の四門の14センチ砲の安全装置を外した。
「なにを―――」
真後ろの『天津風』が全てを言い終わらないうちに、『神通』は徹甲榴弾を発砲していた。
ブンカ―のシャッターに過たず四発直撃した。
「さあ、早く上陸しましょう」
「はい……」
未だ炎の収まらないシャッターを潜って、ブンカーの中に進入した。
全員が懐中電灯をつけ、辺りを捜索する。
このブンカーは見立て通り潜水艦用のようで、海面からドーム状の天井まで10メートルと無い。
「この建物自体は、1900年代前に作られたようですね」
『神通』は天井を指さした。
よく見ると、このブンカーだけコンクリートではなくレンガとモルタルでできており、天井には日光採取用の天窓が設けられている。
奥行き100メートルほどの暗闇の行き止まりにたどり着くと壁がコンクリートに変わり、桟橋の代わりのように小型潜水艇が放棄されている。
「ここから上がれそうね」
『天津風』は潜水艇にヒョイと飛び乗る、周りを見渡すと、壁に小さく穴が開けられており上までの階段が設置されていた。
「神通、ここから上がれそうよ」
「随分小さな入り口ですね、それにコンクリの壁も随分分厚い…」
強引に穴が開けられた痕跡があり穴は縦横2メートルしかなく、ここの唯一の出入り口にしては随分小さい、そしてこのコンクリート壁の厚さたるや、5メートルはくだらない。
全員水上武装を背負い、拳銃を手元に置いて急な階段を上る。
不気味なほど空気は澄んでいて、まるで家具の無い新居のようだ。
海からは見えない大陸の様子に心高ぶらせ、第一陣に『時津風』が潜水艦用のハッチを空ける。
開けた途端、赤い外気が舞い込んで来る、砂煙とそれらを激しく焦がす日光の光が『天津風』の眼に刺さる。
冷静にも『神通』は『時津風』が外に飛び出た後少し待つように皆に忠告する。
「どうなっています?」
『神通』は質問した。
「……なんもないよ!」
彼女の呆気無い答えに一同はさらに自分の眼で確かめようと『神通』を急かした。
たまらず『神通』は階段を最上部まで駆け上がり外に飛び出す。
三番目に飛び出した『天津風』の目に飛び込んできたのは、正に『時津風』が発言した何もないという表現が最もでだった、だが少し違う。
高い陽光に照らされる赤土の大地は、まるで何も書いていない白紙のように“無”だけが存在している、だがそこにはナンセンスに無数の鉄塔が突き刺さっている、それも不規則に、それ以外の人工物は確認できない。
「とりあえず、先に進んでみましょう」
『神通』は一列に展開させ、四方と上空の警戒を促した。
鉄塔までは5キロほどあり、その数たるやまるで夏の田園の様だ、長けが不ぞろいなのがその表現を一層型にはめる。
やがて鉄塔の群生地に到達すると、足元が赤土ではなくそれらで覆われたコンクリートだと分かった、しかし依然として建物等は見えない。
見上げれば鉄塔が風に唸りを上げ、錆びた表面の塗装を桜吹雪のようにばらまいている。
鉄塔の機能も全く考察がつかない、鉄塔間の空中線も無く塔本体に危機や装置も見受けられない、しかし共通しているのはこれらが間違いなく鉄でない金属であることと、形状が角ではなく円であることだ。
『神通』は皆を下がらせ、ホルスターからエンフィールド回転式拳銃を抜き撃鉄を起こす。
少し回りを確認すると彼女は一番遠くに見えているであろう鉄塔に向けて撃鉄を落とした。
六発の弾丸を発砲し終わると、辺りは苦しいほどの沈黙に包まれる。
『神通』は拳銃のリボルビングドラムを開き、薬莢をその場に落とした。
「陽炎、本部に報告。Lポイントを確保」
「了解」
クイックローダーで再装填を終わらせると『神通』は拳銃をホルスターにしまい、これからの方針について話し始めた。
「いいですか皆さん、これより作戦はヘ号、ト号と以降していきます。まずこれからについてはヘ号、現Lポイントの維持です、これから主力が到着するまでの最低三日間は私達だけでここを確保します、もっともこれについては陸に居れば良いため問題にはなりません。しかし問題はト号です、この段階では護衛された一般艦艇がここを目指してフェアファックス港から出港します、その艦隊の入港を何としても成功させること。この二つが私達の主力が到着するまでの任務です」
何としても成功させる、この力強い言葉の裏にはとてつもない難題が潜んでいた。
何と言っても、エスコートしなければならないのは一般艦艇、護衛に艦娘が付いているとはいえ相当消耗してくるはずだ、そして最悪戦闘状態のままここに入港させなければならない、そうなれば露払いは我々の仕事になるし、エスコート地点から入港の間どうやって敵を殲滅するかが最大の課題になる。
この際敵に発見されないという楽観的な考えは捨てておいた方がいいだろう。
「こちら南方海域強襲偵察艦隊陽炎より司令部、Tポイントを確保。繰り返す、Tポイントを確保」
ここからが本命です。
先のご感想、誠にありがとうございます!
この上ない励みとし、これからも執筆に邁進しますのでこれからもよろしくおねがいします。