ひぐらしのなく刻に ~巡りくる日常(とき)~ 作:十宮恵士郎
前編・後編だけでは伝えきれなかった想い、かつて某掲示板でこの作品を愛してくださった方々への感謝をこめて、外伝と解答編をお送りします。
外伝は、この世界・この時代での圭一をフィーチャーした物語です。
あまり長くはありません。
けれど、この世界で生きている圭一がどんな生活を送っているのか、少しでも垣間見ることができるかと思います。
解答編は、前編・後編・外伝を踏まえた上で成り立つストーリーとなっておりますので
解答編を読まれたい方は、先にこの外伝を読んだ方が良いかと思います。
それでは、どうぞお楽しみください。
――それは月が空によく映える、6月の夜のこと。
「ひゃっははは! あの時のババアの顔ったら、たまらなかったっすねえ!!」
「ああおめえ、そりゃあそうだろうよ。見知った介護サービスかと思いきや、開けてびっくり覆面4人組じゃなあ! そりゃ驚くだろうよ。
……むしろそこでびっくり仰天してもらえるから、こちらとしても襲い甲斐があるんだがな!」
「違えねえや!! はは!!」
興宮の町。その中心部から遠く外れた郊外に立つ一軒のアパート「ハイツ間宮」。ほとんど電気が消えたそのアパートの中でただ一室、電気をつけたままの部屋がある。1階の中辺りに位置するその部屋の中には、酒を飲んで騒ぐ、ガラの悪い4人組の男の姿があった。
4人のいる部屋は投げ捨てられた雑誌やビールの空き缶、ボックスティッシュ、近隣に展開する大型店舗「セブンスマート」のビニール袋(恐らく、彼らはそこで酒を買ってきたのだろう)などで汚らしく散らかっている。その上に、長いこと使われたくしゃくしゃになった、といった風情の汚らしい紙束が転がっていた。紙束の表紙には、簡潔に「計画書」とだけ、ワープロじみた活字で印字されていた。
「それにしても、
語尾を妙に伸ばす癖のある茶髪バンダナの男が、一番奥に座る男に声をかける。
女木、と呼ばれたその男は、スーツに撫でつけた髪、そして眼鏡と一見知的に見える外見だが、服の上からでもわかる屈強な肉体と、眼鏡ごしでもわかる鋭い、しかしどこか腐ったような眼光から、少なくとも単なる会社員などではないことが感じ取れる雰囲気を醸し出していた。
「……そんなもんでもないさ。世の中探せばもっとうまいことやって、うまい汁吸ってる連中がいくらでもいる。僕なんて、そいつらと比べれば単なるチンピラに過ぎないだろうよ。
それより、そういう話をここであんまりするもんじゃないよ。ご近所さんに聞かれたらどうするつもりだ?」
「大丈夫だよ! お前が言ってたんだろうが、両隣りの部屋には誰も住んでねえってよ!! ったく、お前はホントに心配性だな。ま、そんぐらい頭が回るからこそ、頭のワルい俺らのリーダーやってもらってるんだけどな!!」
「違えねぇ!! ひゃははははははっ!!」
細いががっしりとした体つきで、笑顔を絶やさない金髪の男が女木の肩をばしんばしんと叩く。それに応じて、隣に座っている銀色のアクセサリーをくまなく全身に装着している男がかん高い笑い声を立てた。
それを機に、酒盛りが再開される。茶髪バンダナが袋から新しい酒を出し、シルバーアクセの男が配り、金髪と女木が受け取る。そうしてめいめいが新しい酒を開け、ちびちびやっていた時だった。
不意に、部屋の照明が落ちた。部屋の明かりは天井の蛍光灯一つきりだったので、急に室内が真っ暗闇になる。かろうじて、月の光で互いの顔が確認できる程度だ。
「あ? どうしたんだよコレ。停電か?」
「ったくよー、これからだって時にわけわかんねーっつーの。やってらんねー! クソが!!」
「……いや、そうでもねぇみてぇだ。……外。俺たち以外のところ、普通に点いてるっぽいぜ?」
金髪が部屋の奥のガラス戸を勢いよく叩き、全員が一斉に窓を見る。
確かに、町の明かりは普通に点いていた。ということは、停電ではないようだ。
「停電じゃねえって……じゃあ何で電気落ちてんだよ。」
「ブレーカー、なわけはないな。そもそも蛍光灯以外に電気なんか使ってない。」
「……じゃあ、何だってんだ?」
とんとん、と唐突にドアがノックされた。あまりの唐突さに、4人のうちの誰も、それに反応できない。ただ首を僅かに傾げて「空耳か?」と言った雰囲気でそのドアを見る程度だ。
何しろ今は夜だし、四人にこんな夜中に訪ねてくるような知り合いなどいないはずなのだ。
だが再び、どんどん、というノックの音が室内に響く。ここに至ってようやく、4人はドアの外に何者かがいることに気づく。間違いなく、知人ではない。……では、誰?
4人は、何をするでもなく床から動けない。一体ドアの外にいるのは何者か、掴みかねているのだ。
しかし、そのノックの音が突然、どぉん、という、ドアを破らんばかりの轟音を発するようになると、さすがに彼らも腰を上げざるを得なかった。
女木はドアの向こうにいる存在に何か不穏なものを感じたようで、表情が一気に厳しくなる。
だが他の3人は女木の変化に気づかない。一番ドアに近いシルバーアクセが、不用意にもドアに近づいていく。
「……うるせえな! 何の用だおら!! 答えによっちゃあただじゃ……
どわああっ!!」
シルバーアクセがドアの鍵を外した瞬間。ドアがものすごい勢いで内側に開き、彼の顔を強打する。
地面に倒れ伏した彼にも構わず、ドアを通り抜けて室内に走り込んでくる人影。だが月が雲に隠れてしまったのか、その全容は暗闇の中でよく見えない。
やがて、雲が晴れ、月の光が室内に流れ込む。呆然と周りを見る4人組。
突然の闖入者は、ドアを乱暴に破って室内に突入した男が2人と、ドアの前で腕を組んで立つ1人の男の計3人だった。
全員が黒服。大柄で背の高い2人組に比べて、ドアの前の1人は背が低く、体格もそんなに良くはない。だが、この状況で何もせず残る2人の動向を見守っているところからして、3人の中のリーダー格と見るのが適切だろう。
「……ってえ!! っな……てめえら一体なにもんだあ!!
いきなり人んち上がってダンマリかぁ!! ふざけてンじゃねえぞお!!」
鼻を押さえながら何とか起き上がり、叫ぶシルバーアクセ。答えたのは、廊下に佇む男だった。
「女木
突き放したような冷淡な一言。その一言に面喰いつつも、奥に座るうちの一人、金髪が発言する。
「確かに。俺が銛田、こいつが女木だ。……だがお前らは何だ? 何の権利があってこんな……」
「……園崎組だ。名前ぐらいは知ってるだろう?」
4人組の間に緊張が走る。確かに、その名前はこの地元では有名だった。
園崎組。それは興宮を中心に鹿骨市内に強い影響力を持つ暴力団の名称だ。
女木のコネで最近この辺りに引っ越してきた彼らはこの組織に関して詳しくは知らない。だが雛見沢とか言う観光名所の村の名家と提携していてその名家の苗字を掲げていること、最近何やら暴力団らしからぬ方向に変化しつつあることなどは噂として聞いていた。
……その園崎組が、なぜ!?
シルバーアクセとバンダナは状況を把握しきれずただただ呆然とするばかりだったが、銛田と女木は何か思い当たるふしがあったようだ。
ちらりと目線を交わし、女木が頷くと、銛田が両手をポケットに突っ込んだまま、ドアに向かって歩き出した。酒盛りのとき始終浮かべていた一見柔和な笑みを浮かべながら、ドアの外の男に話しかける。
「ちょっと待ってくださいよ……ヤーさんが、うちら一般市民に何の用です?」
「最近、興宮近辺の老人宅、特に資産のある家が連続して襲われている。抜け目のない犯人で、目撃証言も少なく、証拠をほとんど残さず逃走中だそうだが……知っているよな?」
「……ええ、まあ新聞とか、テレビで流れてましたね?」
穏やかな表情で当たり障りのない返答をする銛田。だが、目の前の男は冷淡な態度を崩さない。
「ニュースの話をしてるんじゃない。お前たち自身に覚えがあるはずだ。……言い逃れがあるなら、やってみろ。」
「ええー、そんな急に言われてもあたしには何のことだかッ!!!」
瞬間、銛田の左手が一閃した。ポケットから瞬時に抜き出された彼の手に握られていたのは……銀色に光る小型のナイフ!
その軌跡が、目の前の男の顔を軽くなぞるように動く。
男は殺気を感じたのか、とっさに後ろにのけ反ってナイフをよけていた。だが、
「シッ……!!」
それだけで攻撃が終わるはずもない。
ナイフを高く掲げる左腕。銛田はそれを、返し刀の要領で男に向かって投擲する!
「……!!」
まさかいきなり凶器を投擲されるとは思わなかったのだろう。男の両目がかっと見開かれる。彼の眉間に向かって迫る小型のナイフ。彼は、それもまた左に頭を反らせることによって避けようとする。だが甘い!!
びしゅっ、という鉛筆で素早く一本線を引くような音がして、ナイフが男の顔の右脇を通過する。
銛田は見た。その時、ナイフの切っ先が男のもみあげの辺りを掠めていたのを。
(…………避けたか。だがそこまでだ。
次の一発は避けられねぇぞ!!)
一瞬の間に思考し、銛田はにいっ、と笑う。その笑みは、先程までの柔和な笑みではない。獲物をいたぶる肉食動物のような凄惨な笑みだった。
ドアの外の男は既に数歩下がり、部屋の外、廊下まで出てきている。
そこまで数歩で距離を詰める。反り返った体勢のままの男に肉迫する。
その腹に拳骨を叩きこんで打ち倒しその後頭を強打して意識を失わせる……はずだった。
「……あ?」
だがどうしたことであろうか。次の瞬間身体を浮かせているのは銛田の方だった。
一体自分がどうなっているのか。
相手は何をやってきたのか。
そもそも今何をやっている!?
足が浮いて踏ん張りがきかない。反撃できない。
無抵抗の状態で、銛田は見る。
黒服の男が腰を低く落とし拳を振り抜き、そして――
「あぁあ!!?」
ハイツ間宮の廊下を、一迅の風が駆け抜けた。
続いて廊下の端の方から聞こえる、銛田の低い呻き声。
……シルバーアクセとバンダナは、ここへ来てようやく、おかしなことが起こっていると気づいた。
銛田は喧嘩慣れしている。その銛田が奇襲を仕掛けたのだ。避けられる奴などいるわけがない。
ましてや相手は反撃さえできず、ドアの向こうに倒れこんだはず。
――一体いつの間に、形勢は逆転した!?
「おとなしくしろ!」
「……なに、しやがんだ! 放せ……はなせ!」
2人のチンピラが呆然としている間にも、事態は動き続けていた。
室内にいた2人の黒服のうち、1人が部屋を出て銛田の吹き飛んだ方へと向かう。
そして銛田と揉み合っているようだった。
声だけでははっきりとわからないが……銛田の声は弱々しい。
とても、優勢に振る舞っているようには思えない。
「……いちち。かすっただけだが、結構効くもんだな。」
「大丈夫ですか、Kさん!?」
「問題ねぇよ。それなり……
お前ら、手荒な歓迎ありがとうな。……準備運動ぐらいにはなったぜ。」
不意に室内に響いた声。
バンダナとシルバーアクセは、いつの間にか、銛田が襲いかかったあの小柄な男が自分たちの目前に立っていることに気づいた。
右手には、どこから取り出したのか、黒光りする特殊警棒が握られている。……銛田はあれにやられたのだろうか。
顔からそれなりに出血しているがあくまで冷静な表情で、男は警棒を構え、室内に残ったもう1人と並んで、銛田以外の3人の悪党と対峙する。
……“K”とか呼ばれたこの男、何者だ? とシルバーアクセは自問する。
ひょっとしたら、体格は見せかけで、傍らの大柄よりもヤバいのでは……?
心の中に広がる恐れ。それが思わず、口を突いて出た。
「……な、何だよ! 何すんだ! 銛田が、俺らが、何やったって言うんだよお!!」
「この辺り一帯の老人の家を襲って、金を盗った。その卑怯なやり口は許せねえ。……だから、シメに来た。」
「な、何だよそれ……暴力団のクセして、警察みたいに!! 第一……証拠はあるのかよぉ!!?」
「悪いが、多分警察よりお前らのことはよく知ってるぞ。女木、お前の愛人のこともな。」
「……何?」
「自分のしでかしたことに無関心で、のうのうと仕事してたからな。職場にお知らせを入れた上で、ちょっと“揉んで”やった。喋らなければどんな目に遭うか、懇切丁寧に説明したらあっさり吐いたよ、お前がかすめ取った情報の全てをな。あの女の吐いた情報と、事件の内容を合わせて、お前たちの犯行はもうほとんど露見してる。」
「……なんだとぉ……!」
シルバーアクセとバンダナが戦慄する。既に自分たちの悪行は割れている。おまけに、女木の彼女まで接触済みだ。
“揉んだ”と言っても、文字通りの意味ではあるまい。女にすら容赦しないこいつらに捕まったら……一体、どんな仕置きが待っているんだ!?
「……に、逃げろおおおぉぉぉぉ!!!」
「うわあああーーーっ!!」
「ま……待てお前ら!!」
死に物狂いで奥のガラス戸に飛びつき、開けて、女木の一喝にすら構わず外に飛び出すシルバーアクセら2人。
だが、もちろんそんなことで逃げ切れるわけなどなかった。
「……うわあああああああ!!」
「や……やめろ、来るなーーー!!」
窓の外から、2人の悲鳴が聞こえてくる。
中の人間がベランダから外に出てくることを想定して、外で黒服たちの仲間が待ち構えていたのだろう。二人はそれにまんまとかかった。
部屋の中には、もう所在なげに立ちすくむ女木一人しか残っていなかった。
「残りはてめえ1人だぜ、兄ちゃん!」
大柄な方の黒服が、すかさず女木に襲いかかる。
だが……
「……かはっ!!」
腹に異物を叩きこまれたかのように咳きこみ、棒立ちになった。
異変に気付いた小柄な男が身構えるが……遅い!
女木は、腹に一発喰らわせ、脱力させた大柄な男をショルダータックルの要領で押し、Kと呼ばれた男の方へ吹き飛ばす。
さすがのKも、防ぎきれなかったようだ。大柄の男と一緒に、廊下へと弾き出される。
「Kさん!! くそ、この……っ!」
さっきまで銛田の相手をしていたもう一人の黒服が、事態を察知して戻ってくる。
が。その間に女木は、するりと流れるようなステップで廊下に踏み出てきていた。そして腰を沈め、両の拳を顔の前にもってくる……ボクシング独特の構えをとる。
踏みこみ、顔に一撃をくらわせようとする黒服。女木はその大振りなパンチの内側に入り込み、突き上げる拳でその顎を思いきり強打する!!
「ふがぁふっ!!」
大きく後ろに吹き飛び、しゃがみ込む黒服。未だ意識はあるようだが、体がふらふらと左右に傾き歩みすらおぼつかない。これでは戦うことなどできないだろう。
「まさか格闘家崩れとはな。面倒な奴だ。」
女木が振り向く。
そこには、気絶した部下を引きはがして立ち上がったKの姿。
Kは、右手の特殊警棒を構え、戦闘態勢をとる。
対する女木も、窮屈になったのだろう、スーツの上を脱ぎ捨てワイシャツ姿になる。
「お互い部下に恵まれないねぇ、ヤクザさん。計画のために集めたものの、役に立たないクズばかり……結局最後に物を言うのは、自分の拳というわけだ。」
「悪党らしい傲慢な物言いだな。お前も、あいつらも、大して変わりはしないだろ?」
「……言わせておけばっ!」
女木が、素早いステップで前進。ジャブを数発、Kに向かって繰り出す。
Kはそれを右手の特殊警棒でことごとく弾き捌いてみせた。続いて後退しようとするが、すぐ後ろに倒れた仲間がいることに気づきその場に踏みとどまる。そのまま警棒を、女木の二の腕目がけて振るった。
だが、女木もその程度の攻撃など受けはしない。のけ反って攻撃をかわすと、そのまま軽いアッパーをKの腹部に向けて放つ。
それを警棒で弾くK。反撃を恐れた女木が後ろに下がり、Kも体勢を整えるためにその場に残る。
二人は一旦距離をおく形になった。女木は一見余裕を保ち、溜息をつきながら頭をぽりぽりと掻いているが、表情にはあまり余裕が無い。
……時間が経てば経つほど、自分に不利なのを察しているのだろう。
部屋に踏みこんできた大男2人こそ戦闘不能だが、バンダナとシルバーアクセを捕えた面々がまだ残っている。彼らが応援に来れば、ますます逃げるのは難しくなる。
「どうした、早く来いよ。それとも観念したか? このままやっていても捕まるだけだと。」
「やってみなけりゃ、わかるもんか……!!」
再び前進し、拳を繰り出す女木。それに対し警棒を繰り出そうとした瞬間、Kは大きく目を見開く。……女木の手に、催涙スプレー!!
瞬時に腕で目を庇うが、時既に遅し。噴き出した煙はKの顔目がけて殺到し、確実にその視界を奪う。
目に直接吹きつけられるのは防いだが、しばらくは行動どころか目を開けることすらできない!
「……くっ!!」
「油断したね! 終わりだ!!」
勝ち誇った表情で笑う女木。唸る拳をKの右腕に叩きつけ、その警棒を叩き落させる。
勝利を確信した、歪な笑み。
その表情のまま、渾身の右ストレートを放つ。ようやくKが目を開けるが遅すぎる。右ストレートは間違いなくKの右頬を打ち抜くだろう。避ける暇などない。Kには、成す術など何一つない。
が。
その時、女木は確かに見た。迫る右ストレートを視界に捕えたKが、ゆっくりとその拳の方向に向き直るのを。
自然と、Kは正面から右ストレートを見据えるかたちになる。そして――
「バ…………バカな……!?」
骨がみしりと歪む、嫌な音が響く。その一撃は、間違いなくKの頭蓋にとてつもない衝撃を与えたはずだ。
だが……Kは倒れない。揺るがず、崩れもせず、立ったままの姿勢で額に突き刺さった女木のストレートを受け止めていた。
……いや、問題はそんなことじゃない。Kは……この男は……「自分の顔目がけて拳が迫って来ているというのに、まったく眼光を逸らさなかった」のだ。
ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。
銃弾などでは決してないが、それでも仮に元格闘家の右ストレートだ。それを……それを一度も目を逸らさずに、額で受け止める……だと!!?
Kの、その恐怖さえ呼び起させる真っ直ぐな眼差しに、女木は完全に気圧されていた。
だから、直後にKが繰り出したその一撃を、防ごうとすることすらしなかった。
「ぐえっ……げほっ……!!」
Kの繰り出した正拳突きは、女木の腹部を捕えていた。
体から力が抜け、女木は地面に崩れ落ちる。
「……“弾丸”、と……呼ばれた僕のストレートを……額で受け止めるなんて……バカな」
「フン、そいつは残念だったな。……弾丸なら、もう喰らったことがある。繰り返す時間の中で、何度も倒れた。何度も死んだ。もう、銃弾を喰らって死ぬ程度のことは、恐れやしないさ。」
Kの言っていることの意味が、女木にはよくわからなかった。
……だが、そう啖呵を切るKの顔が、とても眩しく見えた。
自分がいつかは目指して……そして諦めていた高みに、よく似ている気がした。
だから……訊いておかねばならないと思った。意識を失ってしまう前に。
「……お、お前の……名前は……?」
女木の意外な問いかけを聞き、一瞬Kは当惑したように表情を曇らせる。
だがすぐに真顔に戻り、豪気な笑みを浮かべるとこう答えた。
「…………園崎圭一。
園崎組幹部にして、園崎家頭首の夫、園崎圭一。
それが、俺の今の名だ。」
<了>
後書きと呼べるほど、大したものではありませんが、こぼれ話を少し。
この外伝で描き出した通り、「ひぐらしのなく刻に」における圭一は、園崎組の若頭を務めています。
魅音と結ばれ、その父が未だに組長を務める園崎組に出向している形です。
圭一の人柄に惹かれる組員も多く、「K班」と呼ばれる独自のグループも形成されています。
そして、園崎組本来のお勤め(縄張りでの収益の管理、その縄張りを荒らす者の粛清)以外に
重要な仕事を請け負っています。
それは「惨劇の撲滅」。
鷹野と山狗部隊が引き起こしてきた惨劇が二度と雛見沢や興宮で起こることのないよう、この地に迫る不穏な影と日夜戦っているのです。
この辺りは、もう少し作品を長く続けて語っていきたかったのですが……いつまでも未練がましく言っていても仕方ないので、ここまでとします。
前編・後編・外伝。
これだけでも、一応物語としては成り立っているかとは思いますが。
もしこの雛見沢の住人たちのその後がまだ気にかかる方がいらっしゃるなら、
どうぞ解答編をお読みください。
「解答編」と呼べるほどきっちりと謎が解かれているわけではありませんが、
この雛見沢がどこに向かっていくのか、その展望がある程度見えることと思います。