東方狂宴録   作:赤城@54100

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勘違い回その2


第九.五話『巫女と魔法使いと鴉天狗と』

「帰っちゃったなー」

 

 人里のほうを見ながら、魔理沙が寂しそうに呟く。

 まぁ確かに人数がいきなり半分になれば寂しさも感じる、居なくなった内の一人がまたいつ会えるのか分からなければ尚更だ。

 

「そうね、帰っちゃったわね」

 

 それに対して霊夢は淡々と答える。別に寂しくないわけではないが、彼女の性格からして魔理沙ほどではないのだろう。

 

「……にしても、不思議な奴だったな」

 

 霊夢の言葉を聞いたのか、聞いてないのかは分からないが魔理沙は言った。それに対しては霊夢も肯定を示す。

 不思議な奴、それは彼女にしてみれば今日が初対面ながらも数少ない親しくなれると思った男性…ズェピアのことだ。

 

「吸血鬼って割には人間臭い、食事も至って普通。見た目に反して箸を上手に使ってたし」

「箸云々は分からないけど、彼は元人間らしいわよ?」

 

 瞬間、魔理沙が驚いた表情で振り返り聞き返した。

 

「それ本当か!?」

「……えぇ、初めて会った日に彼が言ってたもの。慧音なら直接説明受けてたから細かい経緯も知ってるはずよ?」

 

 慧音なら、と言ったのは霊夢があの場に居たにも関わらず、話を聞いていなかったからだ。ぶっちゃけた話、晩御飯の献立を考えていた。

 しかし霊夢の発言は聞かず、魔理沙はぶつぶつと何やら呟きだした。

 

「てことは、いやでも…ありえない話じゃないか?」

「…………ねぇ」

「いやいくらなんでも、しかしこれぐらいしか可能性はないし……」

 

 返事はない、思考中のようだ。

 

「……魔理沙?」

「そうなると……とんでもない」

 

 返事はない、巫女はキレ気味のようだ。

 

「魔理沙!!」

「うぉ!?」

 

 ビクッと反応した魔理沙を軽く一睨みし、質問する。

 

「で? 貴方の中ではどんな結論に至ったの?」

「……あー、いや、そのだな。あまりにも突拍子がない話というか」

「いいから話なさい」

 

 札を構えだした霊夢に、魔理沙は頷くしかなかった。

 コホン、と可愛らしい咳払いをしてから話し出した。

 

「とりあえず結論に至るまで、追って説明する。まず私が最初に疑問に思ったのは、ズェピアの正体だ」

「正体?吸血鬼でしょ?」

「まぁそれで間違いないんだが、吸血鬼は日の光は駄目なんだ」

「知ってるわよそのくらい」

 

 馬鹿にしてるのか、と言いたげな表情をする霊夢に苦笑しながら説明を続ける。

 

「つまり、この時点で普通の吸血鬼ではない。弱点を克服するのも不可能じゃないが、あそこまで完璧には出来ない」

「……確かにそう易々と克服されたら堪ったもんじゃないわね、吸血鬼って強いらしいし」

「そう、吸血鬼ってのは種族としてはかなりの上位種だ。普通の攻撃では死なない不死性に身体能力、眷属を作り出して強く逆らわない部下を簡単に生み出す」

 

 種族としての厄介さを聞き、霊夢は嫌な表情をする。

 それを見つつ魔理沙はだが、と言った。

 

「同時に弱点が酷く多いんだ。先にも言った日光、流水や人の家には招かれない限り絶対に入れないという行動範囲の狭さ。食い物だってニンニクや鬼だからか炒り豆、武器に関して言えば銀の武器さえ使えば簡単に傷を負う」

「……でも、平気そうだったけど?」

 

 霊夢の言った通り、ズェピアは日光は平気だったし神社までとはいえ敷地内に普通に入ってこれた。食事だって警戒する様子はなかった。

 これではおかしな話にも程がある。

 

「普通ならこれだけ多い弱点を全て、しかも完璧には克服出来ない。……そう、普通なら……な」

 

 ニヤリと笑い、魔理沙は続けた。

 

「普通ではない、吸血鬼としても規格外の存在だっているんだ。それは―――【真祖】」

「真、祖……?」

「そう、【真祖】だ。始まりの吸血鬼にして原点、故に頂点たる存在」

「それは、つまり……」

 

 分野違いで知識の無い話だったが、流石に気付いた。魔理沙もその様子を見て、何より元から言うことは決まっていた。

 

「あぁ、ズェピアは……種族としてはとんでもない化け物ってことだ」

 

 化け物、本来魔理沙はそういった表現は好まない。どんな妖怪が出てきてもあくまで妖怪と呼称するしとある大妖怪のことも普通に妖怪といった表現をする。

 その魔理沙がズェピアを、化け物と表現した。即ち、ズェピアという吸血鬼はそれだけの存在ということになる。

 

「だから最初はアイツの眼は魔眼の一種だと私は思ってた、それで眼を開かないんだと。でも実際は違うと言ったから眼を開けてもらった」

「で、赤面したと」

「……話の腰を折らないでほしいぜ」

 

 照れからか、プイッと顔を背ける魔理沙。

 しかし赤面したのも無理はない。あの眼は、それだけの魅力があった。

 

「不思議な感じ、そう私は思ったわ」

「それは思ったぜ、だけど何よりも」

「そうね、何よりも」

 

 一呼吸置き、二人は声を揃えて

 

「「―――惹き付けられた」」

 

 そう、言った。

 彼の眼は赤―――否、紅かった。ひたすらに紅く、澄み、全てを引き込む……まるで麻薬のような眼。ただ魅了の効果がある魔眼なら霊夢には効き目が無かった、しかしあの眼は根本的に違う。純粋に、愚かとさえ思える程に心惹かれる……そんな眼だ。

 ふと、思い付いたように魔理沙が口を開いた。

 

「きっとアリスは本当にただの眼だと思ったはずだぜ」

「どうしてよ?」

「アレは魔に属する奴には効かないはずだからだ」

「……成る程ね、理解したわ」

 

 彼の眼は魅入れば最後、魔に堕ちてしまうのもありえる……たとえ無自覚だとしてもだ。しかし元より魔の種族、魔法使いたるアリスには効くはずは無い。

 だからこそ、脅威とも言えるのだが……。相手の心を操るのではなく、相手の心が変わってしまう。強制力は無い、しかし誘導力が凄まじい、もし彼があの時眼を閉じなければどうなったか……恐らく、堕ちてしまっていた。

 アレは彼なりに身を案じてくれていた故の行動だろう。

 

「……おっと、少し関係ない話になったな。まぁここまではズェピアに関して。ここから私の仮説に入るわけだ」

 

 やっと本題に戻り、話を再開した。

 

「あの眼は一朝一夕、間違いなく数年やそこらで身に付くようなものじゃない」

「そうね、それは分かるわ」

「そこから考えるにアイツは数十年……いや、数百年ぐらい生きてるだろう」

「まさか、いやでもあの眼は……」

 

 信じられない、だが否定も出来ない様子の霊夢を見てさっきの自分はこんな感じだったのだろうと魔理沙は思った。

 しかしここはスルーし話を続ける。

 

「さらに元が人間と聞いて至ったのは……まぁ、重たい話になるな」

「……どういうことよ?」

 

 先のことは保留にしたのか疑問をぶつけてくる霊夢、無論想定済みだ。

 

「そもそも別の種族になるっていうのは難しいんだ。人間から魔法使いや仙人と成ったのが多くないのはこれが理由だな」

 

 なれるならこの世界に住む多くの人はなるだろう、種族としては人間より遥かに強いのだから。

 

「で、さらに別の種族……妖怪とかになるととんでもない話になる」

「とんでもない話?」

「所謂、外道や外法と言われるような手段を取るしかないんだ。特に吸血鬼の真祖なんかは聞いたこともない、それぐらい危険な手段を」

「なっ……!」

 

 息が詰まる、まさにその状態に霊夢はなった。

 魔理沙も気分は良くないのだろう、表情は少しばかり暗い。

 

「ズェピアはどう考えても自分の欲でそうなったとは考えれない」

「……確かに、ズェピアは自分のためには選ばない道でしょうね。選ぶとしたら……大切な何かにどうしようもない事態が起きたとき、かしらね」

「そう、それが起きたから大切な何かを救うためにアイツは吸血鬼になったんだと思う」

 

 あくまでも仮説、だが彼を知っている人にならば説得力のある話だ。

 関わったのは短い時間でしかなかったが、あの人間臭さはそれをより高めている。

 

「その何かを救えたにしろ、救えなかったにしろアイツはそれからは孤独だったと思うぜ」

 

 外の世界は幻想郷程優しくない、妖怪の逃げ場たる幻想郷でさえ退魔師の類いは居る。それならば外はさらに酷いだろう、平穏を得ることなど出来ず孤独に耐えながら日々を生きる……数百年もの間だ。

 もし自分が同じ立場ならどうだろうか? 少なくとも正気ではいられない、人としての意識はどこかに飛んでしまうだろう。

 

「環境が能力を与えることもあるらしいからな、きっとアイツの持つ眼はそれも理由の一つだろう」

「同族を増やすってこと?」

「多分、な。人なら魔にして連れていけばいい、魔なら血を吸い眷属にすればいい……。そんなことは本来望まないのに、望みたくなってしまうぐらい辛かったんだろうな」

 

 私には分からない、人である限り分かることは無い。そんな含みを、霊夢は言葉から読み取れた。

 

「悲しい話ね……」

「あくまで仮説だけどな、アイツに聞いてもはぐらかされるだろうから聞けやしないし」

 

 あくまで仮説、真実は分からない、だが限りなく真実に近いであろう仮説だ。その場には少しばかり重い空気が漂った。

 しかし同時に、二人はそれぞれなりに心に何かを決めたようだ。それは同情なのかもしれない、恋慕の感情を抱いたわけではないのだから。

 それでも確かな決意を、彼女達はした。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

 ―とある鴉天狗の行動―

 

 少女達が決意をしている頃、最速の鴉天狗こと射命丸文はご機嫌な様子で空を飛んでいた。理由は彼女が今しがた終えた行動にある。

 

「まさかポストが無いというのは予想外でしたが、あれなら完璧ですねー」

 

 彼女がしていたこと、それは新聞配達だ。

 しかし普段しているのとはまったく違う、何せ無料で送るかたちだからだ。しかも届ける家にはポストが無いから取り付けるというサービスまでした。

 その家の家主にそうしてまで新聞を読んでもらいたいのには、勿論理由があった。

 

「私の新聞を読んでもらって疑いが晴れれば問題ありませんよね」

 

 彼女が新聞を読んでもらいたい相手は一度取材を拒否された男性、ズェピアだ。

 拒否の理由は新聞の脚色が激しいこと、確かに多少の色付けはするし噂に過ぎないことも見出しに使ったりはする。だけど、本人としては完全な嘘を書いたりしたことは無いつもりだ。

 自分の書く新聞についてよく理解してもらえば次は大丈夫だろうと、そう思って行動した。

 

「まぁすぐには効果ないでしょうから、とりあえず一ヶ月ぐらいは配達するだけにしておきますか」

 

 今後の計画を立てて笑みを浮かべる文、しかし彼女は知らない。彼は新聞を読まないと。今はその新聞を隅に置いているなどとは、欠片も思っていないのだ。

 

「あやややや~、来月が楽しみです~♪」

 

 ……彼女に、幸よあれ。




なろうでもそうだったように、あややの扱いに疑問を覚える方が多くなりそうなのでこちらでも先に。

ギャグ要員です、悪い意味で扱いがアレなわけではありません。
それとちゃんと設定的にも考えてやってます、悪い意味で(ry

ちゃんとマトモな出番もありますよ! いつか!

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