東方狂宴録   作:赤城@54100

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初投稿ではありませんがよろしくお願いします!
あと戦闘描写には期待せず、気持ちと妄想で補完をお願いします!!


第十四話『俺と向日葵と最凶と・下』

 自身を強者と称し、また事実この幻想郷でも指折りの実力者である大妖怪――風見幽香は問いかける。

 

「貴方、本当に何者よ……!?」

 

 相対するはただひたすらに笑う一人の吸血鬼、ワラキア。

 

「何者? その質問になんの意味がある? 無意味で無粋で無価値で無駄で無様で無用なその問いに、なんの意味がある!?」

 

 問いかけには答えず、狂気を残したまま吸血鬼は言い放った。今は流れていた血も綺麗に止まり、顔だけは元に戻っている……が。

 

「多重人格……?」

 

 幽香の呟きに、再度目が見開かれ血を垂れ流す。

 

「否、否否否否否否否!! そのような分かりやすく下らなくツマラナイ結論などでは無い!!」

 

 大袈裟ともとれる動きをし、血を吐き出しながら叫び出す。

 

「元より死して身は無くなり、幾度の再演を繰り返し繰り返し繰り返し数多を刻み殺し潰し晒しひたすらに惰性的に恐怖を演じ!! その度に演じる姿を変えて替えて代えて換えて交えて飲み尽くし!! 自身を象った時は死せる時!! それが私であり、タタリというものだった!!」

 

 自身とは何か、それを自虐しつつ叫ぶ。

 

「されど、今は恐怖でも何でもない何かによって形作られた……嗚呼理解不能理由不明不愉快不快!! 意味も理由も何もかもが不明!! 何故だ何故だ何故ダ何故ダ何故何故何故何故何故!?」

 

 困惑、それが感情の全てなのか。彼は叫びを上げ続ける。

 

「狂ってるのは間違いなさそうね……」

 

 叫ぶワラキアを見、出した結論はそれ。

 確かに彼は狂っている、それは間違いないだろう。放つ言葉、表情、気配、どれもが常人のそれとは違いすぎていた。

 

「―――あぁ、そうさ。確かに私は狂っているよ、間違いなく狂っている」

 

 ケタケタと、不気味に笑いながらワラキアは言う。

 

「しかしそれはいけないことかね? 常人が在るというならば、狂人が在るのもまた世の常のようなものだ」

 

 ケタケタ……ケタケタ……ケタケタ……耳に残りそうな声で笑い続ける。最早笑いだけを聞いてみれば恐怖を覚えかねない、そんな声で。

 いくら大妖怪とて、風見幽香は女性だ。これには気味の悪さを覚える。

 

「さて、そろそろ動こうか。ただ立ち尽くすなど滑稽以下でしかない」

 

 両手を広げ、口は三日月に裂けたまま。垂れる血も気にせず、ワラキアは動いた。

 

「カット!!」

「チッ!!」

 

 舌打ちをしつつ攻撃を避ける、狂っていても技の制御は完璧らしい。

 

「ククッ……!」

 

 笑いとともに放たれる弾幕、込められた魔力は最低限で最大限の威力を叩き出す程に練り込まれたもの。

 自身も同じように弾幕で相殺するが、これでは先の繰り返しだしジリ貧だ。

 

「仕方ないわね……」

 

 先ずは接近しなければ話にならない、多少のダメージは覚悟して飛び込む。

 

「キャスト!!」

 

 それを見たワラキアが手を振るうと突然、幽香に黒い姿の何かが襲いかかってきた。全身が、衣類どころか顔までも黒い故に分かりにくいが、齢20に満たないであろう青年。

 その青年が手にナイフを持ち、斬りかかってくる。

 

「鬱陶しい!!」

 

 吐き捨てながら殴りかかるも人のものと思えぬ挙動で避けられ、逆に斬りつけられてしまう。傷は浅いが、関節を傷付けられたため少しばかり厄介だ。

 先ず僅かに痛むのは堪え、青年を潰そうと探す……が、どういうわけか見つからない。完全に姿が消えていた。

 

「これも能力……? 厄介な……いったいどんな能力よ!」

 

 能力に対しては深まった謎を愚痴る。

 

「キキキッ……」

 

 だが気にする暇はない、素早く笑い出したワラキアのほうを向く。直後、その顔は驚愕に染まる。

 

「なっ……!?」

 

 目に映ったのは回転しつつ迫る大きな黒い円盤。察するにワラキアが姿を変えたのだろうが、流石に焦る。

 迎撃は危険と判断し、一旦回避する。

 

「鼠よ廻せ、秒針を逆しまに誕生を逆しまに世界を逆しまに!!」

 

 しかしワラキアはぐるりと反転し、追撃を仕掛けてきた。

 

「くぅ……!」

 

 なんとか体を捻り、肩口を薄く斬られる程度に留める。だがやはりと言うべきか、再度反転してきた。

 今度ばかりは回避しきれず、ドズッ……と身体に突き刺さる音が幽香の耳に入る。

 

「廻せ廻せ回せ廻せ廻せ廻せマワセェェ!!」

 

 歯をくいしばり、抉られる痛みに耐える。肉体は妖力で強化したため真っ二つにはならなかったが、完全に防ぎきっているわけではない。

 離れた位置に現れたワラキアを見る幽香だが、かなりの重傷だ。右肩から腰の左側にかけての深い傷は隠しきれるものではない。

 

「キキキッ!! 切開ハ優雅ニ残虐ニ、見目麗シキ花汚泥ニマミレ刻マレルハ開花ス狂喜、雅足ルカナ剪定ノ式!!」

 

 自虐と自賛とを織り混ぜた叫び、朦朧とした意識の中で聞きながら幽香は判断する。

 

「……………………」

 

 無言で傘を構え、残りの妖力全てを注ぎ込む。

 回避されるであろうが、それはそれだ。とにかくやらねば気がすまない、やられっぱなしは性じゃない。

 朦朧とした意識からは想像もつかないような濃密な殺気、それを受けたワラキアは笑みをさらに深める。三日月のような口はさらに裂けていき、全身からは狂喜の感情が放たれる。

 

「キ――キキッ!! 来るか来ルカクルカ!? 絶望喝采終焉喝采幕引キ喝采、活路見イ出シ起キ上ガルカ!?」

 

 耳に入る声で位置を予想する。

 傘を構え、妖力は万全でこそないが充分の域。彼女は宣言する。自身の信じるその技を、放つために。その技は実に単純、妖力を収束させて放つだけの分かりやすく―――故に凶悪。

 

「……くらいなさい」

 

 

 ―――起源【マスタースパーク】

 

 圧倒的な破壊力を秘めた光線がワラキアに迫る。最早一秒と経たずに彼に直撃するであろう、そんな絶望的な状況。

 

 

「ヒヒッ……」

 

 ……にも関わらず、彼は変わらず笑っていた。手を前に出しながら、呟く。

 

「……カット」

 

 小さな黒い渦が生まれる。光線にぶつかり、押されながらも消えることなく耐える。

 

「カット……カット……!」

 

 徐々に言葉に力が入り、同時に渦も大きさを増す。

 

「カットカットカット!!」

 

 さらに大きく、人の身長などは優に超え、押し返していく。

 

「カットカットカットカットカットカット!!」

 

 叫びの中、渦が光線と削り合う。

 

「カットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカァァァッット!!」

 

 そして、渦はその大きさを増し、巨大な台風へと変貌。黒い台風は幽香の光線、マスタースパークを――飲み込んだ。

 

「……そう、これも乗り越えてくるのね」

 

 腕をダラリと下げ、それを見つめる幽香。食らえば死ぬであろう迫る渦を避けようともせず、ただ見ている。

 諦めたわけではない、ただ認めたのだ。己の、敗北を。

 黒い渦、笑みを浮かべるワラキア、それが意識を失う前に幽香の見た最後の光景であった。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

「ご満足頂けたかな?」

 

 先程とは違い静かになった場に、ワラキアの呟きを聞く者は居ない。

 荒れ果てたその場には重傷を負った倒れ伏す風見幽香と彼のみ。ククッ、と怪しく裏声で笑い幽香の近くまで歩く。

 

「麗しく、情欲を誘いはするが―――故に毒だな」

 

 着ていたマントを幽香に羽織らせ、横抱きに抱える。マントを羽織らせたのは衣服がボロボロだったため、色々と見えてしまいそうだからだ。まぁ、大きな傷があるから欲情より先に恐怖がありそうだが……。

 さて置き、ワラキアは離れていたので無傷な向日葵達……の中央に幽香を寝かせた。元々妖怪は縄張り的に寄り付かないし、ここならさらに見つけにくいだろう。

 

「さて、後は……」

 

 そっと向日葵に手を伸ばし、一つ根から引き抜く。非常に長いが問題は無いらしく、どこからか取り出した鉢植えに無理矢理植え込み、同じくどこかへと鉢植えを消しては歩き出す。

 もう用は終えた、そう考えれば普通の行為か。

 無言で森のほうに歩く。一度入り口付近で立ち止まり、振り返ったが……。

 

「……………………」

 

 結局何も言わずに去って行った。

 

 

 

「あややややー、これは凄いです、大スクープです! 早速記事にしなくては……!!」

 

 シリアスな雰囲気で終わると思ったら大違い、そんな台詞が聞こえてから何かが羽ばたく音がしたという……。




とにかく書きたかった、ワラキア書きたかった、そんな回でした。

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