東方狂宴録   作:赤城@54100

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とりあえず移転での投稿はこの時間に一話が基本となります。
もう一話出すとしたら多分夕方頃にでも。


第三話『俺と晩飯と蓬莱人と』

「とまぁ、こんなところだね」

 

 一通り説明を終え、話を聞いた慧音はなにやら思案顔だった。

 恐らく話の内容を整理しているのだろう、説明下手ですいません。

 

「……成る程、寝て起きたらこの世界に居て、しかも種族さえ違う人物の姿になっていたと」

「そういうことだね、正直嘘みたいな話だとは自覚しているよ」

 

 分かりやすく簡潔に纏めてくれた、流石は教師をしてるだけある。

 ……というか本当に嘘みたいな話だな。だが俺にとってはリアル、現実と書いてリアルと読めるぐらいにリアルな話なんだから仕方ない。

 信じてもらえないという可能性もあるが、それはとりあえず考えない方向で行く。

 

「確かに嘘という可能性のほうが大きい話だ…が、嘘をついてるようには見えん」

 

 お? 良い感じじゃないか? これはひょっとすると、ひょっとするか?

 

「真偽は定かではないが、君を信じるとしよう。住居なら空き家があるからそれでいいかな?」

 

 ……おっしゃあぁぁぁぁぁ! 来たぜ俺の運気の有頂天!!

 

「空き家だったから正直綺麗とは言い難いが不備は無いはずだし、もしあったなら言ってくれ、出来ることなら叶えてやる。質問、または今すぐ叶えてほしいことあるか?」

 

 質問!? ハッ、そんなもの今の俺にはありはしない!!

 ……いや待て落ち着け、落ち着け俺。昔からこの性格で苦労してきたじゃないか、妙なテンションで幾度も痛い目を見てきたじゃないか俺。

 馬鹿な友人の馬鹿な行いに巻き込まれたりしたことを思い出せ……。そう、あれは対策をまったくしなかったテストで偶然滅茶苦茶良い点を取ったから、テンションが上がっていた時のことだ。

 

 

 

『なぁ、お前明日は予定あるか?』

『あ!? まったくもって無問題! どんなとこでも行ってやるぜ!!』

『お、そうか! じゃ明日は北海道と沖縄を日帰り旅行しようぜ』

『OK!! …………え?』

 

 

 

 …………思い出したら悲しくなってきた。

 友人は不思議なことに超がいくつか付く程の金持ちの知り合いが居て、自分用に小型の飛行機を貸してもらっていた。いや、マッハが出るような化け物を飛行機とは呼ばないか?

 確か…………あー駄目だ、思い出せん。いや、そもそも名前はアイツも言ってないから分からなくて当然か。

 

 とにかく、それに乗せられて俺は一日の間に北海道と沖縄を行き来したことがある。

 今考えると、何故アイツが金持ちと知り合いなのか不思議…の筈だがアイツなら『俺だから』で済ましそうだし、納得しちまいそうだ。性格も馬鹿やったりはするけど、嫌な奴では無かったしなぁ……。

 アイツ、今頃何してんだろ? 心配してくれてるかな?

 ……何故かアイツならこの世界まで追いかけて来るような気がしてきた。素でバグ持ちなアイツなら可能な気がする……。

 

「……おーい、聞いてるのか?」

「おっと、すまない。考え事をしていた」

 

 昔の思い出に浸るのもいいけど、とりあえずは今をなんとかしないとな。

 ……質問、か。質問は無いけど、やはりここは地理の把握をしておきたいな。頼んでみるか。

 

「ではいきなり頼み事になるが、地理を教えてくれるかね? 住居と、食材を買う所ぐらいは知っておきたいからね」

「うむ、任せろ。そのぐらいならすぐに叶えてやれる」

 

 胸を張りながら答えてくれる慧音。……やはり大きいな。

 何がとは言わない。言いませんとも。

 

「じゃあ私はそろそろ帰るわね、後はなんとかなりそうだし」

「あぁ、本当にありがとう。感謝しているよ」

「なら今度、私の神社に来て「賽銭を奮発しよう」…分かってるならちゃんと来なさいよー」

 

 手をヒラヒラさせながら教室から出ていく霊夢。

 今気付いたが、子供達は完全に帰ったようだ。俺と慧音以外は誰もいない。

 

「じゃあまずは外に出るとしようか」

「うむ、そうだな」

 

 テクテクと歩きながら話す。

 

「そういえば君は、勉強は得意かな?」

「勉強? ……まぁ、人並みには出来ると思うが?」

 

 慧音の質問に、無難に答えておく。

 正直言うと学力に関してはよく分からない。俺の通っていた公立高校は全国的に見て中の上から上の下ぐらいと悪くは無い。と、いうかそこそこマシなレベルだ。

 一学年につき人数はおよそ200人と少し、その中で俺は70番ぐらいをキープしていた。国語と数学で点を稼ぎ、英語で死んでいた……赤点はギリギリ無かったが。

 この世界なら英語は関係無いと思い、人並みにはと答えた。

 ちなみに友人は常にトップで、ミスは一問か二問程度。弾け飛べばいいよアイツなんか。

 

「まぁ、察してるとは思うが寺子屋は教師が足りなくてな……君さえよければ手伝ってほしいんだよ。無論給料だって出す」

「教師、か……」

 

 考え事をしていたら、どうやら寺子屋の状況を察してると思われてしまったようだ。まぁ、実際なんとなくなら分かっていたけど。

 

「毎日出てくれとは言わない、暇な時にでいいからやってくれないか?」

 

 条件は悪くないし、慧音にはお世話になるわけだしなぁ……うん、受けとこう。教師も悪くないとは思っているのだが。

 

「引き受けた、どれ程出来るかは分からないが全力を尽くすよ」

「本当か!?いやありがとう、一人居るだけで大分違うからな」

 

 そう言いながら慧音は綺麗な笑顔を見せてくれた。最早笑顔が給料ですね分かります。

 了承して本当に良かった。この至近距離で、こんな美人の笑顔なんか滅多に見れるもんじゃないしな。

 ……しかし、あっさりと信用しすぎじゃないか? 流石にいきなり出会ったばかりの人間を雇うってのは……。

 

「っと、忘れていた。君を案内する前に聞いておくことがあったんだ」

「なにかね?」

「嫌いな食べ物はあるか?」

「………………ん?」

「嫌いな食べ物はあるか、と聞いたんだ。少なくとも、今日は私の家で君は食事をするんだからな」

「いや、だが迷惑では」

「なに、私は一人暮らしだ。たまに一人転がり込んで来るが、基本的に家には誰もいない。これなら問題無いだろう?」

 

 ワラキアボディを持ってしても、絶句するしかなかった。てか何さ、初対面な男性を家に挙げるって……自己防衛が完璧だからですね分かります。

 ……こんな短時間に分かりますを二回も言ってしまった。ネタがワンパターン化しないよう考えなくては。………………。

 

「……どうした、急に頭を振ったりして」

「すまない、変な電波を受信してしまっていた」

「よく分からないが、食事は私の家で良いんだよな?」

「あぁ、すまないが頼んだ。嫌いな物は無いから安心してくれ」

「そうか、リクエストはあるか?」

「いや、任せるよ」

「分かった、じゃあまずは食材を買いに行こう。君の家は食後に案内で構わないかな?」

「構わない、君に任せる」

 

 俺の言葉を聞き、歩き出す慧音。遅れないように俺も歩く。

 こうして余裕を持って歩いたから分かったが、どうやら俺は里人の視線を集めているようだ。男女問わず老人、大人、子供、果てには母親に抱かれている幼子まで……。

 里にいる老若男女の視線を一身に浴びてしまっているのだ。一般的な高校生だった自分には辛すぎる状況だ。

 

 ……やはり、この格好が問題なのか? 髪の色に関しては慧音も銀髪だし、さっき見た女性も濃い目の緑だったから問題無いだろう。

 だが格好は別だ。普通に考えて、こんな妙な格好をした奴は居ないだろう。

 

「……どうした、ズェピア。なにやら居心地が悪そうだが?」

「いや、人の視線が少しな……」

「初めて見る格好をした人間なんだ、興味ぐらい湧くさ。それに、どのみちすぐに視線は無くなる。里もそう広くはないし、外来人が来るのは珍しくないからな」

 

 成る程、初めて見る格好をした人間だからか。……格好良い服だと思うのは俺だけかな?

 

「なぁ、私の格好はおかしいか?」

「ん? 別におかしくは無いだろう? もっと奇抜な服装の奴もいるし、霊夢なんかかなり不可思議な格好じゃないか」

 

 うん、確かに霊夢は不可思議だ。腋無いし……脇じゃなく腋なのがポイントだ、ここテストに出るから憶えておくように。

 しかし初めて見る格好か……洋の貴族風な服は見たこと無いのかな?

 

「……まぁ、どうでもいいか」

「何がだ? あ、後その肉をくれ」

「まいどあり!」

 

 気が付いたら肉屋に到着してました。かなり大量に買ってるけど……俺以外に誰か来るのか? その場合は一人しか心当たりないけど。

 

「これで足りるかな?」

「随分と買ったようだね……」

「お前は見るからに沢山食べそうだしな、急な来客にも対応出来るようにしておきたいし」

 

 俺、そんな食べそうか? ……ワラキアの身体だから身長で判断したんだな。

 確かに食べたほうが背は伸びやすいけど、少食でも伸びる奴は伸びるぞ? まぁ折角の御厚意だ、甘えさせてもらうか。それに俺、確かに結構食うし。

 ……でも、食わせてもらうだけは悪いよなぁ。

 

「今日は何を作る予定かね? 内容によっては手伝えるのだが」

「鍋にしようと思ってる、今日は冷えるし誰が来ても大丈夫なように」

 

 あ、今日来るね。じゃないとこんなに誰かが来るアピールはしないだろ。多分、適当な間隔で来たりするから来ると断言しないだけだろうな。

 

「さて、行くか。着いてきてくれ」

 

 早くも定番化しそうな感覚で着いていく俺。と、いうかそれしか出来ないしなぁ……。

 

 

 

…………………………

……………

……

 

 

 

「ここが私の家だ」

 

 辿り着いたのは他の民家と同じぐらいの大きさの家。なんでも、たまに外来人を泊めたりしたり、善良だけど行き場の無い妖怪を泊めたりするらしいが……それだと小さい気がする。

 いや家族で住む家もあるし、そう考えたら余裕のあるサイズなのか? 現代を基準に置くとズレがあってマズイな……今のうちに頑張って修正しておくか。

 

「さ、遠慮はするな。自由にしてくれていいからな」

 

 扉に手をかけながら言ってくれる優しい言葉。ガラガラと引き戸によくある音をたて扉が開かれ―――

 

「ん、慧音か? 邪魔してる……ぞ……」

「…………………………」

「…………………………」

 

 ―――同じ音を立てつつ閉められた。

 しかし俺は目にしてしまった、横になり煎餅を食いつつだらけてる女性を。白髪にリボン、上はシャツのような服を着て下には赤いもんぺ。間違いなく、彼女である。

 

「今見てしまった…よな、間違いなく……」

「あぁ見たね、君とは対極な存在を見たよ」

 

 何かを諦めた表情で慧音は扉を再度開いた。すると

 

「やぁ慧音、邪魔してるよ。……客か?」

 

 無かった事にしようとしてやがる!?

 今の僅かな間に煎餅は片付けたようで、姿勢も寝転がった姿とは違い普通に座った状態。どうやら無理矢理無かった事にするつもりで間違いないようだ。

 

「だが甘い、煎餅の食べ溢しがポロポロ落ちたままだ」

「ッ!!」

 

 慌ててさっきまで顔があった辺りを見渡す女性M。しかし残念。

 

「嘘だ」

「……燃やすぞお前」

 

 人燃やす、ダメ絶対。

 

「紹介する、コイツは妹紅。私の友達で、時折こうして転がり込んで来る…ほら妹紅、挨拶しろ」

「藤原妹紅、健康マニアの焼き鳥屋だ」

「健康を気にするなら炭の煙はマズイのでは?」

「…………………………」

「………………失礼、私はズェピア・エルトナム・オベローン。吸血鬼兼錬金術師だ、ズェピアと呼んでくれ」

「ズェピアか。私は妹紅と呼んでくれ、呼び捨てで構わない」

「了承した、以後よろしく頼む妹紅」

 

 思いの外好感触。慧音がいるのも幸いしてるんだろう。

 とりあえず俺は慧音に付き従い鍋の準備を開始する。どうやらすき焼きのようだ……まぁ、肉を買った時点で作る物はしぼられるんだけど。

 とりあえず俺は野菜をカッt…切っていく。時折空中に放り投げては切り刻むという技をしつつ調理は進む。

 

 

 

「こらズェピア! 食べ物で遊ぶな!!」

「だが断…ごめんなさい、もうしません」

 

 訂正、すぐに止めて真面目に調理した。割と本気で怖かった。後ろで笑ってる妹紅がムカついたからアイツの卵にレモン汁を追加しておいた、悶え苦しめ。

 

 

 

…………………………

……………

………

 

 

 

「いただきます」

「「いただきます」」

 

 後はトラブルも無く完成。各々卵を混ぜたり具材を取ったりして食べる。

 

「うぁ!! 酸っぱ!?」

「うわ! 妹紅口の中の物を飛ばすな!!」

「まったくだ、食事中だぞ?」

 

 なんか妹紅が睨んでくるけど無視した。

 とりあえず、ニヤリと笑っておく。意味は無いけど、なんとなくしたかった。それに気付いたのか妹紅がさらに睨んでくるが、慧音を警戒して攻撃はしてこない。

 ざまぁ味噌漬け。

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

「馳走になった」

「うむ、お粗末様だ」

 

 あの後、妹紅の睨み付けるをくらいながら食事を続けた。別に怖くなかったと言っておく、いやホントに。

 

「さて、ズェピア。食事が終わったし家に案内するよ」

「あぁ、そうしてくれるとありがたい」

「……だがその前に」

「む……?」

 

 その前に? なんか確認するようなことがあったか?

 

「君の技能とやらについて知りたい」

 

 ……………………。

 

 やべぇぇぇぇぇ!!

 なんか滅茶苦茶ヤバい質問が来た!? 霊夢に引き続きまさかの慧音かよ!!

 

「いや、少々説明するのは難しいんだが……」

「大丈夫だ、私はこれでも教師。学には自信がある」

 

 もうやめて! 俺のライフポイントはもうゼロよ!!

 ……だが、まだ大丈夫だろう。俺の灰色の脳はライフがゼロでも輝くZE☆

 

「では、実践してみよう」

「出来るのか?」

「行うのは容易い」

 

 エルトナムの家系に引き継がれる技能エーテライト、それを使えば……!

 

 

 

 …………あれ? 使えない?

 ちょ、え? なんで? 中身が俺だから?

 NOエーテライト? NO固有技能? なにそれこわい。

 ……ならば、これしかない。俺の固有技能の出番だ!! 慧音に手を向けながら口を開く。

 

「君はどうやら半人半妖、いや……半妖獣と言うべきかな? どちらにしろ珍しい種族だ」

「な!?」

「妹紅は不死のようだね、経緯は分からないが…やはり珍しい」

「は!?」

 

 俺の固有技能、『原作知識』だ!!

 ……ごめんなさい、技能じゃありませんね。ただ言いたかっただけです本当にごめんなさい。

 

「これは……情報を読み取った、のか?」

「そうだ。正しくは思考を読み取り、そこから情報を抜き出したのだがね」

 

 多分、エーテライトはそんな感じだったはずだ。PC版の初代メルブラとかやったことないから微妙だけど……。

 家庭版のメルブラは結構やってたのになぁ、エーテライトの話は出ないしロアはざまぁってぐらい扱い悪かったし。こんなことならやっとけばよかった。

 え? あれ原作エロゲーだよって? ……知らんよ、年齢制限なんてみんなそれなりの年になったら破るもんさね。友達なんて14でバイオハザードだぜ? ナイフで無双してたよ、そして俺はハンクが好きです。死神がイケメンすぎます。顔知らんけど。

 

 

 

 ―――――閑話休題―――――

 

 

 

 おk、落ち着いた。間違えた、OKだ。

 とりあえず説明を聞いたからか、納得した表情の慧音。これで納得してもらえなかったら厄介だった、というか詰んでた。

 多分表情が変わらなかったから真実だと思ってくれたんだろう。凄いぜわらきー、流石だぜわらきー。

 

「っと、それじゃあ行こうか」

「うむ」

「じゃあ私は帰るよ」

 

 三人一緒に外に出る。鍵は無いらしく閉めない…が、それもまたここだからこそだろう。

互いに信用し、信頼しあう。現代じゃあ個人同士でさえ難しいことだ。

 ……なんだかんだ言っても俺はアイツを信用し、信頼してたからな。やはり寂しさがある。その点ではやはり慧音と妹紅が羨ましい。

 

「どうしたズェピア」

「いや、なんでもないよ」

 

 暗い雰囲気を察したのか、慧音が聞いてくる。無難といえば無難な受け答えをし、取り繕う。

 まだ心配するかのような表情ではあるが引いてくれた……本当に優しい人だ。

 

「では案内するよ、付いてきてくれ」

 

 慧音の言葉に従い、歩き出した。




新年あけましておめでとうございます。

書きながら、前書きに書くべきだった気がしないでもないと感じるけどまぁいいやと更新。

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