東方狂宴録   作:赤城@54100

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少し遅れましたが投稿。


第四話『俺と優しさと緊急事態と』

 慧音に付いていくかたちで歩く。なんでも、そう遠くは無いし近くには花屋もあるんだとか。……花と聞いた瞬間とある妖怪を思い出した俺は決してビビりでは無いだろう。

 さて、今は案内してもらってる道中なわけだが変なのが一人居る。

 

「何故ついてきた妹紅」

「暇潰し」

 

 妹紅(こやつ)である。どうやら妹紅は案内について来るらしい。なんか企んでると疑った俺は悪くない。

 

 なんだかんだで三人で横に並び、歩きながら他愛も無い話をする。と、いうか二人が話しているのを隣で聞く。

 慧音が礼儀の話をして妹紅が縮こまり、妹紅が竹林に居る姫との喧嘩話…所謂愚痴を話せば慧音が呆れる。慧音が子供達の悪ふざけの話をすれば妹紅が笑い、妹紅が今日のことを話せば慧音は微笑みながら聞く。

 母と娘のような、されど親友のように話す二人。たまに俺にも話題をふってくるが、あまり乗らずに返す。好意を無下にするようだが、この二人の雰囲気は壊しがたい。

 だがそれを察したのか、慧音と妹紅は苦笑する。

 

「別に遠慮する必要は無いんだぞ?」

「慧音の言う通りだ。確かに悪戯はムカついたが、それだけだ。嫌ったりはしてない」

 

 ……優しいね、本当に。一人でこの世界に理由も分からず放り出された身としては、この優しさが本当に温かい。

 

「ありがとう、その言葉でいくらか救われたよ」

「そうか? 私達としては当然のつもりだったんだが……」

「まぁそれより、だ。君の居た、外の世界について聞かせてはくれないか? 興味があってな」

「フム……では何を話そうか」

 

 外についてなら、話題もいくつかあるだろう。さて何がいいかな?

 ……そう思った矢先。ふと、声が聞こえた気がした。何かに怯えるような、そして驚いたような声。遠いからか、小さくて聞こえにくかったがこれは恐らく。

 

「…………叫び声、いやコレは悲鳴か?」

「何!?」

 

 呟いた俺の言葉を聞き、目を見開く慧音。妹紅はなにやら目を閉じている。

 

「……うん、多分間違いないよ。あっちのほうで少し大きな妖力が結構な速さで移動してる。悲鳴があったなら、多分人間を追いかけてるからだと思う」

 

 どうやら妖力を探っていたらしい。妹紅の言葉をそこまで聞き、俺の体はその方向へ動き出した。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

 それは、あまりにも急だった。

 食事が終わり、ズェピアに住むことになる家まで案内をする道でのこと。殆ど無言で、話かけても受け答えも遠慮気味、恐らく私達の会話に割って入らないようにしているのだろう。

 妹紅と苦笑しあい、そんな必要は無いと言えば苦笑しつつもズェピアは感謝の意を示した。

 種族こそ吸血鬼ではあるが、こういうところは妙に人間らしい。やはり精神が人間だからだろう、喋りは丁寧で礼儀正しいのも好感が持てる。

 

 ……ただ、表情の変化が乏しいのに関しては少々惜しい気もする。端正な顔立ちだから微笑みぐらいすれば女性の評価は軒並みに高くなるだろうに。

 まぁとにかく、彼は話す気にはなってくれたみたいだ。しかしズェピアが話をしだすかと思ったら、突然動きが止まった。何事かと見つめてると

 

「…………叫び声、いやコレは悲鳴か?」

「何!?」

 

 ズェピアの呟いた言葉の意味を理解しきれず、目を見開いてしまった。私の耳にはまったく聞こえなかったが、その表情は真剣そのもの。

 隣では妹紅が目を閉じている。恐らく、妖力を探っているのだろう。

 

「……うん、多分間違いないよ。あっちのほうで少し大きな妖力が結構な速さで移動してる。悲鳴があったなら、多分人間を追いかけてるからだと思う」

 

 冷静に妹紅が語る。人が追われているならば見過ごすことは出来ない、すぐに行けばきっと間に合うだろう。

 

「お、おいズェピア!?」

 

 だがいきなり、ズェピアが走り出したことで動くのが遅れた。呼びかけたが聞こえなかったのか、凄まじい速さで走っていく。

 その方向は、妹紅の指差した方向。

 

「まさか、戦うつもりか!?」

 

 無謀だ、あまりにも無謀すぎる。いくら吸血鬼でも、外から来たのと幻想郷に住んでいた妖怪とでは強さに差がありすぎる。それに、彼曰く中身は至って普通の人間…実戦慣れもしていないだろう。

 だが、飛び出そうとする私を妹紅が何故か止めた。

 いくら妹紅でも、今の緊急性は理解しているはずだ。つまり、止めたことにも意味があるのだろう。

 

「妹紅、何故止める?」

 

 だからこそ、冷静に質問が出来る。私の質問に、妹紅は同じく冷静に答えた。

 

「大丈夫、アイツ強いよ。少なくとも私ぐらいには」

「な、何を言って……?」

「身のこなしを見て思ったんだけど、アイツは隙が少ない。まったく無いとは言えないけど、でも殆ど無かった。だから妖怪はアイツに任せて、私達は里を見回ろう? 誰がいなくなったのか調べなくちゃ」

 

 驚愕、それしかない。彼は普通の人間だと語っていた。だがあの妹紅がこれだけ言う、つまり実力は本物なのだろう。

 考えてみれば、すぐに走り出したのも倒せると判断したからの行動に思える。疑問は残る、残るが信じるしかない。

 

「すまない、ズェピア。よろしく頼む……」

 

 姿はとうにみえないが、声に出して頼む。疑問などは今は捨て置き、生きて帰ってこいという願いとともに。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

 つい走り出してしまった、けど仕方ない。折角戦える体なんだ、救える可能性があるならやるしかないだろう。

 ワラキアの体だからか、走り続けても疲れる感じはしないし、速度もかなりのものだ。

 ……だが、遅い。本来ならこの体はもっと速度を出せる、しかしあくまで動かしてるのは俺だ。あまり速すぎると目が追い付かなくなり、木にぶつかって自滅や進む方向も滅茶苦茶になるだろう。

 

 だから速度を抑えて走るしかない…故にどれだけ速くても遅く感じてしまう。限界ではない速度で急がなくてはいけない、これ程焦燥感を煽るものは他に少ないだろう。

 ……やれやれ、いくら体の性能が高くても、動体視力などの感覚に関するものが低くては宝の持ち腐れだな。しかも

 

「クッ……音が聞こえん……」

 

 先程声が聞こえたほうに走りながら、より明確に方向が分かるようになる手がかりを求め耳をすます。が、速度が速度だけに風を切る音もあり思うように聞こえない。

 人里から出るとき慧音に話かけられたっぽいのに聞こえなかったし……やはり鍛える必要があるな、コレは。

 ……ん?

 

「これは、爆発音か…?」

 

 向かっている方向とは違うが、確かに聞こえる。少し速度を緩め、その方向を向くと煙が上がっており、大変なことになっているのが分かる。

 気になるが、今はそれどころじゃない。

 

「……む、この声はさっきの?」

 

 突然、先程聞いた悲鳴に似た声が聞こえた。速度を緩めたから、聴力を正常に働かすことが出来たのだろう。

 

「フム、これは後で礼を言わねばならんな」

 

 爆発音の主に感謝しながらまた走り出した。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

「ハッ……ハッ……ハッ……!」

 

 私は走る、暗いながらも月に照らされた道を。背後から追いかけてくるのは異形、即ち妖怪。

 こんなことになるなら、言い付けを守ってれば良かった。まさに後悔先に立たずというやつだろう。

 本来なら禁止されている夜間の散歩。だけど、どうしても本や人の話ではなく自分の目で風景を見たいと思い寝たふりをして抜け出した。

 

 暗いながらも、月に照らされた森は思いの外歩きやすく、私の歩みは止まることなく進み続けた。通るのはいつもと同じ散歩道で、そこは妖怪が出ることは無い特別な道。

 だけど、少しでも道を逸れれば話は別で安全どころか命の保証さえ無い。

 だからこそ、いつもと同じ道をいつもと同じ感覚で歩いていた……同じではない点を完全に忘れて。それに気付いたのは唸り声が聞こえたから。

 

「この声は、いったい……?」

 

 辺りを見渡しても、声の出所は分からない。ただ、間違いなくあの唸り声は獣……恐らくは妖怪のそれ。

 気付いた途端、鼓動が速まる。今はいつもとまったく違う点がある、それは時間だ。

 昼と夜とでは、妖怪に関しての危険性は天と地ほどの差がある。まず、夜では道や場所に関する約束ごとは意味を成さない。感情が昂り、彼等の持つ欠片の理性さえも吹き飛んでいるからだ。さらに動きも速くなり、逃げれる可能性が大きく下がる。

 ……元々病弱な私では逃げれる可能性なんか無いのだけど。

 

「だけど、こんなの……」

 

 嫌すぎる。寿命ならば仕方ないと諦めることが出来る、けれど食べられて死ぬなんて嫌だ。だから、現れた妖怪に驚き叫びをあげながらも走り逃げた。

 それに、まだしたいこともある。友達も作ってみたい、外をもっと歩きたい、食べたいものもある。

 ―――恋だって、したい

 

「■■■■■■!!」

「っ!!」

 

 聞き取れない、ある意味妖怪らしい叫びをあげながら襲いかかってくる。それに驚き、疲れもあって転んでしまった。

 口の中が渇き、だけど眼からは涙が流れる。

 

「誰か……助けて……」

 

 掠れて出にくく、それでも出てきた言葉は叶わないと分かっていてる望み。呟き終わると同時に振り上がる妖怪の右腕。最早逃げれぬと諦め、恐怖に目を閉じやってくるであろう痛みに備える。

 

 

 

 ……しかし、奇跡は起きた。

 

 

 ―――ドゴォッ!!

 

 

 耳に届いた破砕音。不思議に思いながらも、そっと目を開く。すると、そこには

 

「まったく、こんな展開でくるとはね……。マンネリズムすぎて少々拍子抜けだよ」

 

 私の前に立ち、まるで舞台に立っているかのように振る舞う男性がいた……。




王道というべきか、テンプレというべきか

そこが悩みどころ

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