東方狂宴録   作:赤城@54100

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地道に更新、一日一話。

でもそろそろじれったい気がしないでもない。


第七話『俺と説明と開業準備と』

 前回……じゃなくて第六話のあらすじ

 ・あ……ありのまま今起こったことを話すぜ!

 「俺は慧音に引っ張られたとおもったらいつのまにか意識が飛んでいた」な……何を言ってるか―――

 ・分かりやすく言うと、首が絞まって意識が飛びました

 

 

 

「本当にすまなかった」

「……もう謝罪はいいのだが」

 

 あのあと意識が回復した俺が見たのは、濡らした布を額にのせてくれようとしている慧音だった。だが次の瞬間慧音は、瞬間移動でもしたかのような速度で離れて土下座。

 で、先程のようにひたすらに謝り続けているわけだ。

 

「私はもう気にしていないんだ、次から気をつけてくれれば構わない」

「そうはいかない、吸血鬼の君が気を失うほど私は強く首を絞めたんだ。お咎め無しは納得出来ない」

 

 もうずっとこの調子。

 真面目なのはいいことなんだけど……堅物なのはどうかと思う、対応が難しい。

 

「やれやれ……自ら罰を受けたがるとはな。君でなければ妖怪に取り憑かれたか、はたまたそういった嗜好を持った人物かと疑ってしまうよ?」

「ぐっ……だ、だがやはり私のしたことは酷い行いなわけだから」

「被害を受けた本人がいいと言っているんだ、どれだけ君が罰を求めても私は与えない。そもそも君は恩人だ、その君に罰など与えれぬよ」

「しかしだな「ならばこうしようか」……む?」

 

 まだ食らいつく慧音を遮り、本日二度目の提案をする。いい加減止めないと、俺が疲れるからだ。

 

「君は私に食事を作ってくれればいい」

「それが何になるんだ?」

「私を救うことになる。残念ながら今私は仕事が無い、即ち金も無い。金が無くては食事が出来ないのはいつの世も道理、故に私は食事が出来ない。食事が出来なくては大概の生物は死ぬ、故にこのままでは餓死もありえる」

「その君に食事を作ればいいと……?」

「如何にも。……とは言っても、やる仕事はもう決まっているから明日明後日ぐらいのものだがね」

 

 客が来たら、の話ではあるけど。仕事は決まっているけど、仕事があるか分からない。

 ……なんだこの矛盾は。いや、だが事実か。

 

「だがどのみち、君には当分食事を作ってやるつもりだったぞ?」

「それはそれだ。君の考えと私の頼みが偶然一致しただけ、そう考えるべきだ」

 

 まだ何か言いたげではあるが、有無を言わせぬように言葉を切る。

 ……阿求もそうだったが、どうもお礼やお詫びやらはキッチリしたがる奴が多いな。いや、今いる知り合いがそうなだけか?

 

「…………分かった、君がそう言うならそうしよう」

 

 渋々、といった表情ではあるが納得してくれたようだ。よきかなよきかな。

 

「とりあえず昼御飯を作るが……何が食べたい?」

「フム……いや、任せるよ。ただなるべく早く出来上がり、空腹を満たせるものが望ましい」

「……そういえば朝は食べてないんだったな。よし、じゃあ中華系でいいな?」

「構わないよ」

 

 少しヘビーな昼飯だな、まぁ作ってもらえるのはありがたい。気絶してた時間があったせいか阿求の家を出た時より腹も減ってるし。

 慧音が調理に取りかかる中、暇を潰せるものはないかと部屋を少し見渡す。

 …………ん?

 

「慧音、この机に置いてある札はなんだ?」

「ん? ……あぁ、それはスペルカードだ」

「スペルカード?」

 

 スペルカード……確か、弾幕ごっこに使う札だったか?

 自分の技を封じ込めておいて、宣言して使用する所謂必殺技だったような気がする。原作では主人公はぶっちゃけボムだからなぁ……細かく覚えてねぇや。

 

「完成したら説明するから少し待っててくれ」

「了解した」

 

 返事をしながらスペルカードについて考える。

 スペルカードは弾幕ごっこだけでなく通常の戦闘でも使えるのだろうか? ……恐らくだが使えるはずだ、何せ自身の技を封じ込めるものなのだから。非殺傷や殺傷の設定が出来て、それで殺さないようにするのだと思う。そうでなきゃ技を込めたりなんか出来ないだろうし。

 戦闘時ならばスペルカードは出が速く、宣言さえすれば即座に使えて大技も素早く使えるだろう。デメリットらしいデメリットも無い。

 

 うーん……考えれば考える程欲しくなる。あれば弾幕ごっこに持ち込んで死ぬことのない戦いに、戦闘なら殺傷設定にして使えばいいし。

 ワラキアだとなんだろう……狂喜やら惨劇やらしか名前が浮かばないな。後は物語にでも沿った名前か……?

 何にしても暗かったり、長かったりする名前になりそうだな……。俺としてはもっとシンプルな感じにしたい、具体的にはマスタースパークみたいな感じに。

 ……いや駄目だな、なんか似合わない。ワラキアだとレーザーとかビームみたいのが似合うイメージが一切出てこない、やはりワラキアはマント翻しとくしかないか……。

 

「よし、出来たぞ」

 

 半ばヤケクソな結論に到達したところで慧音が来た。

 料理は青椒肉絲と普通、しかしかなり山盛り。……この量をあの時間で刻み、炒めたのかと疑問に思ってしまうくらいの山盛りだ。

 

「随分と速いな?」

「中華だしな、それに具材を切るのは一瞬だ」

 

 確かに半妖の身体能力なら一瞬だろうけど……量を考えると微妙な感じだ。

 いやしかし、慣れてればなんとかなるか?

 

「さ、食べてくれ。沢山作ったからな」

「あぁ、頂くよ」

 

 言いながら、一旦思考を中断してご飯のよそってある茶碗を受け取……る……。

 …………いやいやおかしいって。なにこの量?山盛りてんこ盛りとかいうレベルじゃねぇぞコレ。いつもの感覚で持ち上げたら向かい側見えねぇよ、どうやったらこんな奇跡のバランス発揮するの?

 

「ご飯はお代わりもあるからな」

 

 なん……だと!?

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

「……馳走になった」

「うむ、御粗末様」

 

 笑顔で食器を片付ける慧音を見ながら思う。よく食いきれた、と。

 正直途中で諦めたくなったりした、だけど持ち直して完食……当分肉はいらない。ピーマンと筍も嫌になりそうだ。

 

「しかし見ていて気持ちがいいくらい食べるな、食べ方も綺麗だし作った側としては嬉しいよ」

「そうかね? まぁ、あれだけ美味しければ自然と食は進むよ」

 

 答え、そして頑張ってゲップを抑える。危うく大きいのが出るところだった……。

 そんな俺を尻目に、何かを思い出したように動く慧音。振り向いた時、その手にはカードが握られていた。

 

「それは……スペルカード、だったね?」

「あぁそうだ、この幻想郷において非常に重要なものだな」

 

 言いながらカードをテーブルに置く慧音。カードは鮮やかな色をして、微妙にそれぞれ違いがある。

 

「スペルカードというのは幻想郷での特別な決闘法で使われるカードでな、所謂必殺技のようなものだ」

「ほぅ? ちなみに、その決闘法とは?」

 

 慧音の言葉に相槌を打ちながら質問する。

 決闘法は間違いなく弾幕ごっこだろうけど、ルールはよく分からないからな。本編でも特に語られてないし。

 

「決闘法は弾幕ごっこと呼ばれるもので、種族として弱い人間でも強い妖怪に勝てる可能性がある、唯一無二の決闘法だ」

「ふむ……実に興味深い。どのようなものか教えてくれるかね?」

「あぁ、構わないぞ。元よりそのつもりだったしな」

 

 どこから取り出したのか、慧音は紙と筆、墨を机の上に置いた。

 

「今から話していくから、メモ代わりにでも使ってくれ。分からないとこがあったら質問していいからな?」

「う、うむ……」

 

 なんか授業みたいになってしまった……。そりゃあ慧音は教師だから自然とそうなるのかもしれないが、一昨日まで高校生やってた俺にとって授業なぞ地獄(または寝る時間)でしかない。

 だがなってしまったものは仕方ない、既に墨と水が溶けている硯に筆を浸しメモをとる準備をする。

 

「よし、じゃあまずは簡単な説明から―――」

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

「―――と、いうわけだ。理解したか?」

「うむ……十二分に理解させてもらったよ……」

 

 満足気な笑顔を浮かべる慧音に言いながら、俺はグッタリとする。

 あれから二時間、いやそろそろ三時間になるか? とにかくそれだけの時間説明を受けていた。

 前半は弾幕ごっこのルール、中盤はスペルカードの注意点、後半は妖怪の歴史……あっるぇー? しかも後半の歴史がメインだったような?

 …………まぁルールを知れたから良しとしよう。媒体になるカードも五枚貰えたし。

 とりあえず、ルールを簡単に纏めるとこんな感じだ。

 

 ・決闘開始前に相手に自分のスペルカード枚数を宣言し、それを最大枚数とする。

 ・相手への直接攻撃は禁止とし、また弾幕を消す等の能力も禁止とする。

 ・スペルカード使用時には名前を宣言してから使用しなくてはならない。

 ・勝敗は被弾による気絶、及びスペルカードを使いきった者を敗者とする。

 ・あくまで決闘なので、勝者は敗者の命を奪ってはならない。

 

 とまぁ、こんなところか。本当はもっと細かいのが色々あるんだが、そこは割愛する。長くてメモに書けなかったし、何より覚えてないからな。

 それにしても妙且つ、よく出来たルールだ。互いに土俵を合わせることで不利を無くす、妖怪との腕力や生命力の差もこれなら問題ない。速度や体力はアレだが、元より弾幕を張れる時点で解決したようなものだろうし。

 ……まぁ、それでもスペルカードの枚数という差ばかりはどうしようも無いのだが……仕方ないことか。

 

「あぁ、最後のは守られるか分からないから気を付けろよ」

 

 ジーザス! いや予想はしていたけども!!

 

「多分大丈夫だとは思うけどな。弾幕ごっこで勝負してくれる奴等は理性があるから、無理難題は言われても殺されはしないはずだ」

「フム……成る程」

 

 しかし、だがしかしだ。その無理難題で死なないとも限らない、主に精神的に。

 だったら普通に戦うほうを俺は選ぶぜ!! 折角ワラキアの体なんだし使わなきゃ損だ、いや流石に殺し合いみたいのは怖いけどね? 精神抉られるよりは楽かなって。

 

「……そういえばズェピア」

「なんだね?」

「教師としてやることについての説明……まったくしてないな」

「……………………」

 

 完全に忘れてた……。

 

「まぁ、大して長くもないから大丈夫だが」

「……すまない」

「いや私も調子に乗って歴史についてまで語ってしまったからな……。静かに聞いてもらえるのは久しぶりだったから……」

「……苦労しているようだな」

「あぁ、本当に……」

 

 若干変な雰囲気になりつつ説明を受ける。

 と言っても、大したことじゃなかった。内容は至って簡単、算数と理科を教えればいいらしい。国語と社会は慧音が自分で教えるから残り二つを、とのこと。

 進行の仕方は慧音がお手本を見せてくれるそうだから……思ったよりは楽そうだな。教科書もあるから、これならなんとかなりそうだ。

 

「じゃあ明日、よろしく頼んだ」

「任せたまえ、期待に応えてみせよう」

 

 立ち上がり荷物を纏める。

 まぁ、教科書と貰ったカードなんだが。

 

「気を付けてな、スペルカードは早めに考えておいたほうがいいぞ」

「フム……忠告は有り難く受け取っておくよ」

 

 手を振られながら歩き出す。

 さて、家に工具はあったから看板でも作るか。木とかを適当に集めれば作れるだろうし、筆もあったから時間さえかければなんとかなるはずだ。幸い時間ならタップリとあるし。

 

 少しだけこれからの生活にわくわくしながら、俺は早歩きで家に向かった。




そろそろ一日三話か四話いってもいいかなぁ…と考え中。

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