東方狂宴録   作:赤城@54100

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前書きのネタに困り始める第八話。

移転前のをコピペするわけにもいかないので中々難しい。


第八話『俺と授業と鴉天狗と』

 太陽が照り、人が起き、妖怪の時間が終わりを告げる―――ようするに朝が来た、それだけのことだが。

 昨日慧音に晩飯まで食べさせてもらった俺は夜はガッツリと寝た、吸血鬼なのに。夕方はポスト作りを頑張ったがやはり素人には難しく、出来ても歪な箱ぐらいのもの。……いっそのこと目安箱みたいにするのも有りかもしれな

 

 ピンポーン

 

 ポストについて変な考えを持ち始めたら、それを止めるかのようにインターホンの音が聞こえた。つかインターホンあったのか。

 ……しかし、こんな朝早くから誰だ? 慧音か妹紅なら声をかけてくるだろうし、阿求はありえない。

 

「今開ける」

 

 考えながらガラガラと戸を開く。するとそこには

 

「あやややや、どうもおはようございます!私は文々。新聞記者の射命丸文と申します」

 

 

 

 ―――ガラガラ、ピシャッ!カチャッ

 

「さて、授業に向けて準備をするか」

「ちょっ、酷くないですか!! うわしかも鍵まで!?」

 

 後ろで玄関が何故かガタガタ鳴っているが気にしない、気にしてはいけない。関わったが最後、間違いなく面倒かつ厄介なことになる。

 

「……………………」

 

 …………おや? 急に静かにな

 

 ―――ドゴォン!!

 

 ……………………は?

 

「あやや、少しばかり強引な手段を取らせて頂きました」

 

 ……あー、成る程。つまり玄関の戸はお前がぶっ壊したと? 風を圧縮でもしてぶつけたか?

 まぁ、とにかくだ。

 

「さて! 早速ですがインタビッ!?」

 

 首根っこを引っ掴み、床に引いて倒す。目を見開いているが気にせず喉に爪を当てる。

 

「君が何者だとか、何が目的だとかはどうでもいい。ただ答えたまえ、人にかかる迷惑について考えたことはあるかね?」

 

 少量の殺気を放ちつつ聞く。

 いやね、別に文が嫌いなわけじゃない。慧音みたいに好きってわけでもないけど、でもそれなりには好きなキャラだ。

 だけどこれは仕方ない、だってコイツは俺の借りてる家の戸を壊したのだから。しかも悪びれもせず。

 いくら鍵を閉められたからといってありえない、というか閉められたら無理だと普通は思うだろうに。

 

「で、ですが貴方が鍵を閉めたからこうするしか……」

「鍵を閉めた、つまりお断りということだよ。契約も質問も、無論記事にされることも」

 

 殺気をやや強めながら言うと流石にヤバいと気付いたのか、文の顔が青くなってきた。さらに心なしか震えている。

 ……やりすぎたな、うん。

 

「謝罪と補修さえすれば許すが?」

「あ、謝ります! 謝りますし戸も直します!!」

 

 出した条件に、即座に飛び付いてきた。まぁ妥当な条件だし当然だな。

 立ち上がり、文から離れる。素早く立ち上がった文は俺から離れ、そして素早く頭を下げた。

 謝罪しているようだが…殆ど聞こえん。早口すぎて断片的にしか聞き取れない。

 

「……謝罪はその辺にして戸を直したまえ。そうすれば用件を聞いてあげよう」

「本当ですね!?」

「本当だ」

 

 何故か目を輝かせ、さらに素早く作業に移る文。幻想郷最速の二つ名は伊達じゃないようで、一人なのに何人も居るかのようなスピードだ。

 ……駄目だ、まだロクに見えん。せめて動体視力を上げないと生き残るのも難しいな……。

 

「終わりました!!」

「む……? もう終わったのかね?」

「はい! 手抜きは一切ありません!!」

 

 そう言いながら文が見せたのは綺麗に直された戸。しかも妖力でも込めたのか明らかに木が良質なものになっている。

 

「いいだろう、用件を聞こうじゃないか」

「はい、実は妖怪達に出回ったある噂を聞いて来ました」

「噂……?」

 

 茶を淹れてやりながら問い掛ける。これも勿論貰い物だ。

 慧音にどんどん借りが増えてく、早く仕事始めたい。

 

「知らないんですか? 金髪糸目、紫の服に黒いマントを羽織った新参の吸血鬼が中堅クラスの妖怪を瞬殺したと噂になってますよ?」

「……………………」

 

 あぁ、一昨日のアレか。

 中堅クラスなぁ……大したことないように感じたけどそこそこだったんだ。

 

「しかもその吸血鬼は日差しを浴びても問題無く行動し、流水や銀の武器の類いも効かない」

 

 あれ? なんか脚色入り始めた?

 

「博霊の巫女、里の守護者、阿礼乙女等とも交流がありリアルハーレムを築いているとか」

「待ちたまえ」

 

 ちょい今のは聞き逃せないね。

 リアルハーレムだ? ふざけんな馬鹿にしてんのか。こちとら灰色に輝く青春時代を生きてたんだよォォォォ!!

 

「噂というのは総じて尾ヒレが付くものですから」

 

 ニコニコとしながらメモを取り出す文。

 いや、だから待て。

 

「質問等、特に記事にするのは禁止と言ったはずだが?」

「うっ……そこをなんとか!お願いします!!」

「断る、害こそあれど益は無いだろう」

「何故害があると!!」

「黙りたまえ脚色パパラッチ、君の新聞を読めば誰もがそう思うはずだ」

「酷い!? それに私のモットーは清く正しいですよ!?」

「ハッ」

「鼻で笑われた!!」

 

 ワラキアボディが鼻で笑えてしまうぐらいとんでもない発言だ。

 文と言ったら脚色が激しい記事を書く、これは最早常識。花妖怪がドSなのと同じくらい常識。

 

「確かに少しばかり表現は変えますがそれだけです」

「……噂の吸血鬼はかなりの色欲魔、私も襲われた」

「え!?」

「成る程、一面の記事を私にするつもりだったわけだ。しかも明らかに評価が落ちるであろう表現で」

「な、なんで分かったんですか……?」

「おや当たりか、私は適当に言ったつもりだったんだがね」

 

 言い終わる前に文の手首を掴む。

 まぁ当たったのはメモに書いてるペンの動きで予測したからだけどな。……使い所の無い、俺の無駄スキルの一つが役に立つ日が来るとは。

 

「これで三度目だ。……私を記事にするのはやめたまえ、死にたくないだろう?」

 

 ニコリと笑みを添えつつ言う、無論握力を込めながら。ミシミシと文の腕が悲鳴をあげる、コクコクと文は首を縦に振る。

 ……これだけ脅したんだし、多分大丈夫だろ。

 

「それでいい。だがもし記事を書いた場合には…分かるね?」

 

 念のためにもう一度言うと、無言のまま首を縦に振り続ける文。そんなに怖かったのだろうか?

 とりあえず手を離し解放する。

 

「君の新聞が真実を伝えるようになったら取材に応じるよ」

「…………分かりました」

 

 やや俯いたまま出ていく文。

 やりすぎたとは思うが、仕方ない。俺の保身のためだ。下手に情報が大きく出回ると大妖怪や鬼に知られてしまう、そうなると高確率で勝負を挑まれるだろう。

 逃がしてはもらえないだろうから戦うしかなく、そうなれば俺の生存率は0だ。早く自分の身くらい守れるようになりたいよ……。

 

「…………支度、するか」

 

 若干気が落ちつつも支度をする。

 昨日渡された教科書類、何故かあった鉛筆と消しゴム、これらを布の袋に入れて持つ。マントの影になっているため袋は見えない……よし、完璧だ。

 どこからどう見てもノーマルなワラキア、いやワラキアがノーマルかは知らんが。

 頑丈になった玄関を開き、外へ出る。あれだけの騒音にも関わらず普通にすごしている里の人達、案外アレは日常茶飯事なのかもしれない。

 

 

 

 寺子屋まで歩いていくと子供達も何人か居た。考えてみたら文で時間をいくらか取られたんだ、それなりの時刻にもなるだろう。

 やや急ぎつつ慧音のもとに向かう。教室に居ない場合、寺子屋の中で慧音の居る部屋は決まっている。職員室……と言うよりは校長室みたいな感じの部屋だ。

 サイズは個室程度、中には来客用の椅子と机、それと別に仕事用であろう机。無駄なものは無く時計と教科書にプリント、後は巻物があるだけ。

 着いた俺はノックし、反応を待つ。

 

「む、ズェピアか。待ってたぞ」

「すまなかった、急な来客に少々時間を取られてね」

「……なんとなく把握したよ、とりあえず入ってくれ」

 

 苦笑する慧音に招かれるままに中に入り、出してくれた茶を飲みながら授業の流れと予定を聞く。

 授業は現代と同じく午前四時間の午後一時間、一時間ごとに十分の休憩を入れる。午前と午後の間には一時間程時間を取り、その時間で弁当を食べたり外で遊んだりするらしい。

 今日のところは三時間目と四時間目が俺の担当で、一時間目と二時間目は慧音が自分でするからそれを見てやりかたを学んでほしいとのこと。

 

「最初の授業になる三時間目の時に自己紹介をするといい」

「分かった、教えるのはこの部分からだな?」

「そうだ、基本的にみんな理解してるから問題も無い」

 

 ……基本的に、というのが引っ掛かるな。まぁいいか、とにかく頑張るとしよう。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

 で、何事も無く放課後だ。

 本当に何も無かった。たまに二次創作だとバカルテッツが居たりするが、そんなこともなく普通の子供達ばかり。自己紹介の時に一人の子供が「慧音先生の彼氏ですか?」と聞いた瞬間、その子供が頭部に強い衝撃を受けて気絶した以外は至って平和だった。

 

「お疲れさま」

「君もな。いやしかし、授業をするというのは中々疲れる。教師というのも大変なのだね」

 

 淹れてくれた茶を飲みながら言う。

 何事も無かったとはいえ、教師をすること自体が疲れた。教科書の内容を分かりやすく纏め、説明する…これを授業中の限られた時間内に一定範囲まで終わらせなければならない。纏めたのが生徒に分かりやすいとは限らないし、下手をすれば逆効果だ。

 

「なに、慣れれば楽になるさ。それに初めてにしてはよく出来ていた」

「ありがたい言葉だ。正直私は頭の中がグチャグチャになっていたがね」

「私には君が慌てる姿など想像出来ないのだが……」

 

 苦笑混じりに慧音が言う。それは俺もだ、ワラキアが慌てる姿なんか想像出来ない。

 

「っと、忘れていた。今日の給金を渡さないとな」

 

また立ち上がり引き出しを開け、茶封筒を片手に戻ってきた。

 

「本当は週一で渡す予定だったんだが、流石に一文無しは辛いだろうからな」

「……恩に着る」

 

 慧音の優しさに感動と胸キュンをしつつ受け取る。バイトをしたことのない俺にしてみれば初めて自分が働いて得た金、感慨深いものがある。

 やったことは二時間の授業だけだが、一食か二食ぐらいは食べれるはずだ。これで慧音に迷惑をかけずにすむ…まぁ、慧音は別に迷惑に思っていないだろうけど。

 ……あれ? なんか茶封筒に違和感が…。

 

「……これは、お札……?」

 

 茶封筒は薄いし、さわり心地からして金属は入っていない…ってことはやっぱりお札か?

 でも、確か幻想郷の通貨って昔のじゃなかったか? それこそ結構昔の…。

 

「最近は外来人が増えたからな、外の通貨も使えるようになったんだ。君もそっちのほうが分かりやすくていいだろう?」

「………………」

「な、何故そんなに深い礼をする!?」

「これ以外に感謝を表せる手段が思い浮かばなかった、それだけだよ」

 

 いや、もうなんか…何も言えない……。あまりにもありがたすぎて何も言えない……。

 

「……えっと、寺子屋は日曜日が休みの週六日、私としては出来れば三日ほど出てほしいんだが構わないか?」

「あぁ大丈夫だ」

「一日あたり二時間か三時間、今日ぐらいのが基本と考えてくれ。何か質問があるなら聞くぞ」

 

 質問か……。

 

「私が体調を崩し、授業が出来ないといった場合にはどうすればいい?」

「君は吸血鬼……いや、妖怪も風邪になるし吸血鬼もありえるか……」

 

 何やら考え込みだした慧音、電話のような便利品も無いし確かにこれはかなり問題だな。

 ……どうしよう?

 

「河童達は確か、でんわとかいう遠くの相手と会話出来る道具を持っていたが私は持ってないし……」

 

 河童スゲェなオイ、電話作ったのかよ。

 

「よし、それは私がなんとかしよう。明日はちょうど日曜日だしな、時間もあるから大丈夫だ」

 

 そして慧音もスゲェです。まさか妖怪の山に乗り込むのか!?

 ……んなわけ無いか。いくらなんでも危なすぎる。

 

「とりあえず、私は帰るとするよ。色々としなくてはならないこともあるからね」

「む、そうか。じゃあまた明後日頼んだ」

「承った」

 

 来たときの荷物+茶封筒を持ち帰路に就く、明日は暇みたいだし家に着いたら計画でも立ててみるか等と、やや子供染みた考えを持ちながら。

 

 家に着いてから茶封筒の中身を確認したら諭吉さんが何人も居て驚いた。付いていた手紙には『明日は色々と見て回るといい』という言葉。

 慧音の優しさに涙腺ダムが決壊しかけながら、早く借りを返せるように頑張ろうと決意した。




注意:射命丸がちょっと不遇です、ちょっと

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