新春歌謡ショウを間近に控えたマリアは、中庭で楽器の練習をしていた。
 そこに大神が現れて……

 帝劇中庭シリーズ第5弾です。
 ちょっと短め。

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帝劇中庭シリーズ第5弾です。


今年の歌謡ショウは

 新春公演も間近に近付いたある日、中庭を通りかかった大神は、外から聞こえてくる微妙な音に気が付いた。

 何だろう?ー疑問に感じて、冷たい空気の中庭に一歩踏み出す。

 晴れてはいたが、さすような冷気の、凛と底冷えのする冬の日の事。

 上着を着ていなかった大神は、軽くその身を震わせた。

 軽く辺りを見渡し、歩を進める。

 大神を中庭に誘った音は、まだ断片的に聞こえてきている。

 さっきよりも遥かに大きく鮮明に聞こえてくる音。それはー

 

 「トランペット?」

 

 小さく呟いた声に、ベンチに座り、熱心にその楽器を奏でていた当人は飛び上がった。

 

 

 「た、たたた、隊長!?」

 

 「やぁ、マリア。今日の稽古はもう終わりだったよね?自主練習かい?」

 

 「え?えぇ、まぁ・・・」

 

 

 白い頬を、真っ赤に上気させた彼女は、やっとの思いでそれだけの答えを返し、恥ずかしそうに俯いてしまう。

 大神は微笑んで、彼女の隣に腰掛けた。

 

 

 「新春公演の練習だよね。双六の・・・」

 

 「えぇ」

 

 

 苦笑混じりにマリアが頷く。

 

 

 「楽器演奏と言う題目があるので・・楽器の演奏と言うものを、これまでに取り立ててした事がなかったものですから」

 

 「そう言えば、カンナも沖縄の楽器の練習をしていたな。なんだか三味線みたいな感じのー」

 

 「はい。みんな、頑張っています。私も、負けてはいられませんから」

 

 

 そこで、彼女は溜め息を一つ。

 

 「でも、中々上達しなくて・・・」

 

 俯いた彼女は、手の平でそっと金色の楽器をなでた。

 愛おしそうに。

 大変なはずなのに、ちっとも辛そうに見えない。

 そんな彼女を大神は嬉しそうに見つめた。

 

 

 「ねぇ、マリア。もう一度、吹いてみて?」

 

 「えっ?」

 

 「ほら、観客が居た方が、いい練習になるだろう?」

 

 「・・・いいんですか?隊長もお忙しいのに」

 

 

 向けられた緑の瞳に、大神は微笑みを深めた。

 

 

 「ー君の演奏を聴きたいんだ」

 

 「そうですか?では、観客役を、お願いします」

 

 

 微笑んで、楽器を構えた彼女は、この上もなく真剣な表情をしている。

 それだけで、彼女がどれだけ真摯に、その楽器と向き合っているのかが痛いほど伝わってくる。

 その思いはきっと、公演当日、トランペットを吹く彼女を見るお客様にもしっかりと伝わる事だろう。

 大きく息を吸い込み、彼女が音楽を奏ではじめる。

 それはまだ、音楽と言うには拙いものだけれど、それでもー

 大神は微笑んだ。

 

 ー素晴らしい、新春公演になりそうだった。

 

 

 

 

 

 頑張れー客席から声が飛ぶ。一人ではない。

 誰かの声を皮切りに、何人もの声が重なった。

 純粋に、彼女を応援する声。

 

 その声に応えて彼女が、微笑む。

 その笑顔を何よりも得難いものだと思う。

 きっとお客様方もそう思っている事だろう。

 

 ほんの一瞬、心を落ち着ける様に目を閉じて、彼女は楽器に命を吹き込む。

 一生懸命、精一杯ー時々音を途切れさせながらも、それでも。

 彼女は諦めない。最後まで。

 全ての音を奏できった後、彼女はきっぱりと顔を上げ、晴れやかに笑った。

 

 

 

 そんな彼女の笑顔・・・花組のみんなの笑顔ー

 その全てが、俺の宝物だ。

 何よりも、何よりも大切なー

 どうか今年も、みんなが幸せにすごせますように。

 


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