網戸に水滴がついている。夕方ごろから一刻ほど、横殴りの雨だったのだ。今はもうやんでいて、虫の鳴き声がさざめいていた。時折木の葉が傾いて、ぴちゃんと音をたてながら水を落とした。ゆっくりと傾いていく葉は、どちらかというと水に操られているようだ。誰の意思でもないことはわかっていた。雨水が、土に帰ろうとしている。なんとなく、そう思ってしまっただけだ。
魔理沙は、窓を開けた格好のままで考え込んでいた。網戸に水滴がついている。そう思った時に、なにか動けなくなってしまった。指で、網戸を押した。網戸についた、水滴をだ。窓の縁を濡らしてはいけない。考えた訳ではなかった。頭ではなく、躰。染み込んだ常識が、そうさせただけだった。
外に押し出そう。そういう気持ちで触れた。細い網目を通して、水滴は魔理沙の指に張り付いた。ちょっとしたパニックになった。押せば、出る。ぼんやりとそう思って行動したのだった。水が指につく。そんな当たり前が、どこかに飛んでいた。
迷いこんだ幼子に抱きつかれている。そんな気分だった。どうしたらいいのかわからない。押しても、外にはいかないだろう。引けば、指についた水が部屋に落ちるだけだ。なにか、理不尽に囲まれている。理不尽が、私の指にすがり付いている。そして、離さない。
土に帰れよ。語りかけた。土に、帰ってしまえ。こんなところにきてどうするつもりだ。なにもないじゃないか。お前には、なにもない。外のやつは、うまくやった。いるべきところから、いるべきところへと、うまいこと行きやがった。なんで、お前にできないんだ。言葉は、堰を切ったように湧いてきた。
部屋なんかにきて、どうするんだ。繰り返した。どうするんだ。目を閉じた。音。虫が鳴いている。それだけだった。耳ではない。そう思った。私は、耳で聞こうなんて思っていない。水の言葉は、きっと耳なんかで聞こえやしない。心。鼓膜ではなく心を、なにかが震わせる。それを待っていた。答えろよ。魔理沙の言葉も、喉を震わせている訳ではない。水に、耳などないのだ。時間がたった。関係はない。言葉なんていくらでも言える。心を震わせるのは、並大抵ではない。
夢をみた気がした。眠ってはいない。しかし、目を開けるとやはり夢だったという気がする。指は乾いていた。夢のなかで何をみたのか。束の間、考えた。家族。浮いた言葉は、どこか現実味がなかった。
私だったのか。窓を閉めながら、そう思った。
今日は雨でした