自室のドアを開くと見たこともない世界だったというのは
まぁ、よくある話だろう…いや無いか
誰かに背中を押される感覚があり
私はそこに一歩踏み入れてしまった
振り向くと入ってきた扉はなく
代わりに木製っぽい看板があった
自室はたしか6畳ほどだったとおもう
少なくとも見渡す限りの大草原などという
家屋にあるまじきふざけた間取りではなかった
看板には昔よくやりこんだ家庭用ゲーム機で使われていたドット文字で
「でぐちをめざせ」と書かれている
私はあたりを見渡す
出口どころか何もない
草原のような緑の床に真っ青な空
見た目はかなりリアルな草原であるがその床は大理石のような感触であり
真っ青な空に浮かぶ雲は風に流れるようにゆっくり漂うが全く風を感じない
まるで嘘ばかりの世界だ
私はそう思いながらもう一度看板に目を向ける
看板に書かれていた文字列は消えており
代わりに傷や汚れの目立つボロボロな地図…のような物が貼られていた
緑の草原に建物のようなマークと人型のアイコン
この建物に向かえということなのだろうが
縮尺も方角も分からず目視で見える範囲に建物もない
地図を看板からはがし透かしてみたり
わかったことはこの地図の汚れや傷は印刷されたものらしく
実際は新品のコピー用紙のように綺麗だということくらいだった
仕方なく私は勘を頼りに歩き始める
今までも私はそうだった気がするから
しばらく歩くも建物らしきものは見えず相変わらずの大草原…と思っていたら
いきなり目の前に建物が現れた
前触れもなく唐突にである
数歩下がると建物は見えなくなり数歩近づくと現れる
何を言っているかわからないと思うがそんな状態なのだ
建物の外観は石造りの塔というべきか
苔むしヒビが入り今にも崩れるのではないかと思えるほどそれはボロボロであり
入口らしき扉は開くまでもなく倒れていた
私はそこに足を踏み入れる
そうするしかないし考える時間がもったいないと思った
外からの見た目とは違い
中は真っ白なまるで病院のような内装であり
壁は傷一つなく同じ建物と思えないほどだった
窓の外には公園のようなものが映っているが窓は開かないし壊せもしない
入口から出てみようとふと思ったがその頃には入口は消えていた
奥へ奥へと私は向かっていく
内装に不釣合いな扉
どこか見覚えのあるような木製の扉
どこで見ただろうか
私はそう考えながら扉を開き先へと進む
先程までの内装とはまた違い
今度は細長い廊下に箱のように仕切られた部屋
それぞれの部屋の中には背の低い椅子と机が綺麗に並んでおり30ずつくらいはあるだろうか
…部屋のドアは開かないようだ
外側の窓に視線を向ける
最初の草原とも先ほどの公園とも違い今度はサッカーでも出来そうなグラウンドといくつかの遊具が見える
二階程度の高さであろうか…やはり窓も開かない
廊下を進む
箱のように区切られた同じような部屋が続き最後の部屋の中も一応覗いてみる
背の低い椅子と机が並んでおりどの部屋も違いはあまりないようだ
最後の部屋だけ…一番後ろの端の机の上に花の無い花瓶が置かれていた
少し嫌なことを思い出しそうなそんな気がした
私は部屋から廊下の向こうへと視線を向ける
白い扉があり
私はその扉を開く
流れに身を任せるように
ただただ先を目指す
似たような廊下だが少し違う
先ほどの部屋よりも少し広い箱型の部屋に少し大きい机と椅子が並んでいるのが見える
それがいくつか続いているがやはり中には入れないようだ
部屋の中を眺めながら廊下を歩く
最後の部屋もあまり変わらない
ただ一番後ろの端にある机に傷がついている
その程度の違いがあるくらいだ
私は次の扉を開く
金属製の重い扉
重く…錆び付いた扉
扉には紙が貼ってあるが文字が霞んでいて読めない
なんとなく「立ち入り禁止」と読めなくもない
私は扉の向こうへと進む
扉の向こうは外だった
サビや傷の目立つ高いフェンスに苔むした床
ベンチが一脚あるが長らく使われていないのか埃や汚れが目立つ
フェンスの向こうには町並みが広がっておりだいたい四階程度の高さだろうか
私はそこを少し散策する
さほど広くない屋上らしきそこはほとんどがフェンスに囲まれており
先に進めそうな場所は見当たらない
行き止まりだろうか
私は少し考えてからもう一度先に進めそうな場所を探してみる
給水塔らしきものの奥にフェンスが破れている場所があった
私は破れているそこからフェンスを潜る
白いスニーカーが綺麗に置かれている
踵のところには私の名前が書いてあった
私は後ろを振り返り
笑みを浮かべながら
落ちていった
二度落ちることになるとは思いもしなかった
私の視界は暗くなり
そして意識が途切れた
次 目を覚ました時
私は白い清潔な布団の敷かれたベッドに寝転んで
白い天井を眺めていた
塔の中で見た風景はどこか見覚えがあって
すべて私の記憶にある場所であった
もし仮にあれが走馬灯だと言うならば
つまらないギャグにも程があるというものだろう
私はゆっくりと体を起こし
時計に視線を向ける
夕方の少し前くらいだろうか
私は天井を見上げる
扉が開く音がしてそちらに視線を向けると
よく見知った顔が泣きそうな表情で立っていた
私がヘラヘラとした笑顔を向けると
泣きながら殴られた
グーで殴られた
割と痛かったが多分というか間違いなく私が悪かったのだろう
頭を撫でながら謝っておくことにする