「すべての人々の幸せを、平和を守るために戦う……それが俺の誇りだ!」
その誇りを胸に帝都東京で、巴里、数多くの都市で戦い続けた。
かけがえのない仲間たちと共に。
刃を振るい続けた、託された愛刀神刀滅却を。
駆け抜け続けた、「太正」時代を。
そして……
「うーん……」
乗っている列車の振動で、遠ざかっていた意識がゆっくりと戻っていく。
確か、帝都から警備府へ所用で向かう途中だったか。どうやら眠っていたらしい。
かぶりを振ると、大神一郎は目を開く。
「あれ?」
だが、目に映る光景は、大神が知る限り乗車前とは似ても似つかぬものだった。
帝都の電車よりも近代的な内装。
板とは比較にならない座り心地の座席。
窓から見える車窓は田園から市街地へと入ったことを彼に伝えるが、とても地方のものとは考えられなく、移りゆく景色からすると速度も段違いに速い。
「どこだ、ここは?」
乗った電車を間違えたのだろうか。
それとも、誰かのいたずらだろうか?
確かめる為、大神は横に置いていたはずの鞄に目をやる。
見覚えのある鞄がすぐ横にあったので抱え、中身を一つ一つ確認していく。それとは別に長袋に包まれたものが立てかけられていたが、今はいい。
勿論周囲に人の視線のないことを確認した上で。
「おかしいな……」
いつも持ち歩いている物以外では、見覚えのない封筒に入った書類しかない。
やはり、誰かのいたずらだろうか?
残念なことではあるが、実行しそうな人間には思い当たる節がある。
ため息をつくと、彼は封筒から書類を取り出し――
「――なっ!?」
そして、中身に目をやり絶句した。
そこには、
とうの昔に卒業した筈の士官学校を卒業した「ばかり」の自分への、
「海軍少尉」及び「警備府」への辞令が、あった。
「帝國華撃団」でも、「帝國歌劇団」でもなく。
到着した列車を降り改札へと向かう大神だったが、中には混乱が渦巻いていた。
何故、自分は士官学校を卒業したばかりになっているのか。
総司令となり大尉となった自分が、何故少尉の任官を受けているのか。
書類の偽造を一瞬疑いもしたが、いたずらの為に公文書を偽造などするはずがない。
だが、
だとすれば、都市を護り戦い続けた記憶は夢、幻だったというのか――
「あ、あの。大神一郎少尉でしょうか?」
思考に埋没した自分を呼ぶ声に視線をやると、少女が一人立っていた。
年は中学生ほど。横髪を垂らし、セーラー服に身を包んだ姿は可憐だが、スカートの丈は短く、覗く太股が眩しい。
僅かに赤面し大神は視線を上に上げると、少女に相対する。
「はい、自分は大神一郎であります」
「よかったー。私、少尉の案内役として来ました、駆逐艦の吹雪といいます」
この出会いが新たな戦いの始まりとなるとは、誰も知る由などなかった。
深海棲艦により海を奪われた世界では陸上移動がより重要性を増すだろうとの推測から、海軍少尉任官を受けた者も電車で移動しています。