「オータムクラウド、完売いたしましたー!!」
「みんな~、アッキーのサークルに来てくれて、ありがとうデース!!」
時間は12時を回って少し。
秋雲の予想通り、オータムクラウドの新刊は全て完売した。
ただ、新刊の残り数を秋雲と連絡して並ぶ人の数を大神が調整したため、知らずにオータムクラウドに並んで新刊を買えなかったものは居ない。
大神との握手を求める人との握手と会話もこなしながら、列を整理し人数を把握する。
伝説のモギリとまで呼ばれたその名は伊達ではない、世界が変われど未だ健在である。
『ウチのサークルにも列整理で欲しい』
と思ったサークルが多数居たとか居ないとか。
「結局金剛くんにも手伝わせてしまったね、すまなかった金剛くん」
「構いまセーン! 私は隊長の傍に居られればそれだけでHappyなのデース!!」
大神に冷たい飲み物の差し入れに来てから、結局完売まで大神と行動を共にした金剛。
もちろん、ただ差し入れに来たわけではない。
金剛も最初は大神との会場デート(のつもり)までは、日陰で秋雲たちの手伝いでもしようかと考えていたのである。
しかし、大神に近づこうとする女性ファンに目を光らせるため、大神の傍を離れるわけにはいかなくなったのが正しいところである。
実際、大神に告白をするつもりだった大神ファンの一部は、大神の傍を全く離れるつもりの無い金剛の様子に諦めて、握手だけでもいいかと妥協していた。
並ぶ大神と金剛はまさしく美男美女であり、和洋は違えど同じ白地の服装はペアルックのようにも見え、割って入る隙が見えなかったからだ。
もちろん、それはそう見えただけであり、
「大神くん、お疲れさま~!!」
有明の女王こと鹿島の前ではそんなものは無いに等しい。
後ろから大神に飛びついて抱きつく鹿島。
「鹿島~、何してるデースカ!!」
「もちろん、大神くんを労わりに!」
「鹿島くん、俺汗をかいているから、汗臭いだろう? 離れた方がいいよ」
「そんなことはありません! ああ、大神くんの匂いがこんなに……」
そう言って大神に顔を埋め、匂いを嗅ぐ鹿島。
「鹿島! 隊長を労わるなら離れるデース! 隊長も疲れてるんデース!!」
「そうですね、大神くん。私、大神くんのために特製のドリンク作ってきたんですよ! 水分補給、疲労回復どっちもバッチリです!!」
大神から離れると、トートバッグからストロー付きの水筒を取り出す鹿島。
ちょうど大神の手持ちの飲み物も切れている。
「ありがとう、鹿島くん。じゃあ、貰おうかな」
そういって鹿島特製のドリンクを飲もうとする大神。
「ちょっと待つデース! 隊長は大事な人デース! 毒見が必要デース!!」
「ああっ? 金剛さんちょっと待ってください!!」
金剛が大神の手から水筒を奪うと、一口ドリンクを飲んだ。
「変な成分は入ってまセーン。普通に甘くて冷えてて美味しいデース、隊長、オッケーデス!」
「もう、流石に場は弁えてます!」
違う場だったら何か仕込んだんかい。
「お、確かに身体に染み渡るようだ。鹿島くん、ありがとう」
「これで、隊長と間接キスデース!!」
「えっ!?」
金剛と大神の間接キスに周囲が騒然となる。
「もう、金剛さんが毒見しなければ、二人だけの間接キスだったのに……」
「ええっ!?」
更に鹿島の仕込み間接キスに周囲が騒然となる。
この3人はどういう関係なんだ、とツイートが乱れ飛ぶ。
周囲の好奇の目が大神たちに集中する。
「……えっと。それじゃ、秋雲くんのところに一度戻ろうか」
「了解デース!」
「分かりました、うふふっ」
流石に居づらくなった大神は金剛と鹿島を連れそそくさと立ち去る。
その様子を見て、次のコミケで大神、金剛、鹿島の三角関係本を作ろうとするものが、多数続出したことは言うまでもない。
「んあー、大神さん遅かったねー、って鹿島さんも来てたんだ」
スペースで秋雲を尋ねてきたサークルの応対や、ダンボールの処理をしていた秋雲たち。
大神が遅いなーと思っていたが、鹿島の存在だけで察したようだ。
一方周囲を見渡す金剛。
「あれー? 比叡たちはまだ来ていないのデースカ?」
「まだ来ていないよー」
「おっかしいデース。12時には来る様に言ってた筈なのデースが……」
そのとき、榛名の声が聞こえてきた。
「榛名は大丈夫ではありません!」
『榛名は大丈夫です』が口癖の榛名が、大丈夫ではない。
あまり猶予のある状況ではなさそうだ。
「ちょっと行って来る!」
大神が声のした方へと行く。
会場を走るのは禁止なので、急いで歩いて。
その頃、誤ってコスプレエリアに入ってしまった榛名たちをカメコたちが取り囲んでいた。
特に金剛に匹敵する人気を持つ榛名への人の集中がすごい。
そして、その中には下からスカートの中の写真を撮ろうとするものが大勢居た。
いわゆるローアングラーな人たちだ。
「何されたって、榛名ちゃんは大丈夫なんでしょ? コスプレイヤーなんだから、キャラ設定は守らないと」
「そんな……榛名は、榛名は大丈夫ではありません! 下から写真を撮らないでください! 下着が見えてしまいます!!」
コスプレエリアに居るのだから、榛名のことをコスプレイヤーと思いこんでいるようだが、実際は本物である。
下着の写真など取られたくないに決まっている。
最初に写真を撮影することを承諾して、どんどん構図がおかしくなっていったときに止めるべきだったのだが、こうなってしまってはどうしたらいいのだろうか。
かと言って、こんな中で実力行使なんてできない、自分だけでなく大神の名にも傷が付く。
スカートを押さえながら困り果てる榛名、僅かに涙がにじむ。
そんな時、大神がやってきた。
「榛名くん!」
「大神さん!!」
大神の自分を呼ぶ声に、思わず高く跳躍してコスプレエリア外の大神に抱きつく榛名。
高く跳躍したことで榛名の下着があらわになるが、一瞬のことでカメコたちは反応が遅れる。
いや、それ以上に重要なことがある。
「榛名くん、大神さん……って、まさか本物の榛名ちゃん!?」
大神の背中に隠れる榛名、欲望に満ちた視線とレンズが怖かったのか大神の戦闘服を掴んでいる。
比叡たちも大神の傍へ駆け寄る。
「ウチの艦娘たちに、榛名に何か?」
榛名の様子によからざるものを察した、大神の口調が少し強くなる。
「すいませんでした! てっきりコスプレイヤーの方かと思って……」
「……分かりました。でも、コスプレイヤーの方でも同じことです。同意が得られない事はさせないでください」
そう言うと、大神は榛名たちを連れその場を立ち去った。
後に残ったのは、本物の榛名に嫌われてしまったと後悔する者たちであった。
更にスタッフに注意されたのは言うまでもない。
でも大神の戦闘服を掴む榛名は、大神の発言を聞いて様子が一変していた。
顔を朱に染め、動悸が治まらない。
『榛名に何か?』
大神が自分の事を呼び捨ててくれた。
姉の金剛だって呼び捨てにされていないのに。
そのことが嬉しい、嬉しくてたまらない。
『ウチの榛名に何か?』
ああ、榛名は"大神隊長の"榛名なんだ。
『俺の榛名に何か?』
大神さんのものなんだ。
何か間違って覚えてしまっているようだった。
終わらせるつもりが終わらなかった(^^;
主に鹿島と金剛のせいwww
目標、五話より長くならないようにしよう。