艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第九話 5 もう何も怖くない

目を閉じて雷撃をその身に受けようとする赤城、艤装を解除したのであれば跡形も残らない筈だ。

一航戦の誇りは翔鶴に託した。

敵編成についても大神に伝えた、戦いは大神が勝利に導いてくれるだろう。

 

思い残すことがあるとすれば、大神にちゃんとした謝罪を出来なかったことだ。

思いつく限りの謝罪の言葉を尽くしても足りない、土下座したって足りやしない。

彼の怒りを、思いを、全てこの身で受け止めて、初めてしでかしたことにつりあうだろう。

それができないのが唯一つの心残りだ。

 

 

 

だが、雷撃の衝撃はいつまでたっても来ない。

加賀たちの「どうして……」という涙交じりの声が聞こえてくる。

目を開ける赤城。

 

その眼前には筑摩の雷撃から赤城をかばう大神の姿があった。

霊力で分身体はやがてうっすらと消えて――いかない。

大神本人に庇われたのだと知り、赤城の目から涙が溢れる。

 

「何故ですか、大神隊長……こんな愚か者を庇って」

 

「言ったはずだ。俺が居る限り、誰一人として艦娘を沈めさせはしないと。昏き深海の怨念には染めさせないと」

「だから……だから私は雷撃処分で爆散すれば、沈むことなく消えれば大神隊長の迷惑にはならないと」

「そういう問題じゃない! 愚かな事をしたと思っているのなら、君たちにしかるべき処分を与えられる。反省させることも出来る!! けど、居なくなってしまったら、終わりじゃないか! 深海との戦いはMIで終わりじゃない! それに君たちの生は深海との戦いだけで終わらせて良いものじゃない! この間の夏コミの時のように、生を謳歌するべきなんだ、君たちも!!」

 

大神の言葉に肩を震わせる赤城たち。

そうだ、作戦の説明にもあったではないか。

MIの戦いは、深海棲艦への更なる攻勢の為の、太平洋奪回の為のものであると。

そんなことも忘れてしまっていたのか、自分達は。

 

「ごめんなさい、大神隊長……」

 

謝罪の言葉を口にする赤城。

だが、それだけで終わらせられないのも事実だ。

 

「赤城くん、みんな。歯を食いしばってくれ。これから制裁をするから」

 

苦虫を潰したような表情で大神が赤城たちに命令する。

自分達のしでかしたことは痛いほど分かっている、全員が殴られることに備える。

 

「赤城くん!!」

 

そして、大神は、6人を順に殴りつけた。

これを黙って耐える赤城たち。

 

なぜなら大神の表情は苦痛に染まっていた。

殴っている側なのに自分が殴られている以上の痛みを感じている様子の大神を前に、どうして泣き言を言えるだろうか。

 

「赤城くん、加賀くん、蒼龍くん、飛龍くん、利根くん、筑摩くんに処分を言い渡す。本作戦の完全終了後、君たちには懲罰房へと入ってもらう。期間は一ヶ月だ」

 

当然の処分だ、むしろ軽いと言っても良い。

 

殴られた頬の痛みに、処分の重さに赤城が耐えていると、不意に大神が抱きついてきた。

 

「お、大神隊長!?」

 

今度は何をされるのか、いや、大神が処分というのであれば、それがどんなことであろうと全て受け入れようと赤城は振り向いて大神を注視する。

しかし大神は涙を流していた。

 

「よかった……今度ばかりは間に合わないかと思った!!」

 

独断専行した者に処分を与える司令官代理としての立場をかなぐり捨てて、艦娘を案じる、生存を喜ぶ大神の素の姿がそこにあった。

それで、赤城たちの涙腺も決壊した。

 

「ごめんなさい、大神隊長!! 勝手なことをして!!」

「大神さん、心配をかけさせてすいませんでした!!」

「隊長ー! 申し訳ありませんでした!!」

「隊長さん、すいませんでした!!」

「隊長、すまぬ! 我輩が! 我輩が!!」

「隊長、失礼なことばかりしてごめんなさい!!」

 

加賀が、蒼龍が、飛龍が、利根が、そして筑摩が大神に抱きつき涙を流す。

口々に謝罪の言葉を出す。

 

「もういいんだ。君たちが生きていてくれた、処分も与えた。あとは作戦終了後改めて反省してくれれば、それでいい」

 

何かを悟ったような大神の言葉。

 

「だが、情報によるならMI攻略には赤城くんたち正規空母の力が必要だ。君たちにとっては連戦になってしまうが艦隊再編成を行い再攻撃を行う!」

「ですが、私達は中破しています。艦載機を発艦させる事もままなりません」

「なら先ずは君たちを回復させる。狼虎滅却 金甌無欠!」

 

大神から柔らかな光が溢れ、赤城たちを回復していく。

敵の爆撃、雷撃によって傷ついた身体が回復する、喪われた艦載機さえも。

だが、大神に殴られた痛みさえも消え去ってしまっていた。

大神は制裁として殴った事実はそのままに、艦娘の痛みは最初から癒すつもりだったのだろう。

 

けど、それではいけない。

 

二度と愚かな真似をしない為にも、大神に殴られた痛みはずっと覚えていなくてはいけないのだ。

 

「大神隊長! 私達の愚かさを戒める為にも、もう一度制裁をお願いします! この痛みだけは癒しては、決して忘れてはならないのです!!」

「……分かった、赤城くん!!」

 

再度赤城たちを殴りつける大神。

そして、その終焉と共に、岩礁から金剛たち6人が姿を現す。

 

「隊長ー。艤装を付けた艦娘を殴ったりして、手は大丈夫デスカー?」

「問題ないよ、金剛くん。こちらも霊力で保護はしてある」

 

金剛が大神の手を取って心配するが、大神の手は目立った傷痕もない。

 

そして、何の因果だろうか、そこにはかつてMI作戦での出撃を予定しながらも、珊瑚海海戦での損傷により待機を余儀なくされた、翔鶴、瑞鶴の姿もそこにあった。

 

「五航戦、私達の無様を笑ってもいいのよ」

「笑えないよ……私だってマリアナで外されたらって思ったら、他人事じゃないもの」

 

加賀の自嘲に応える瑞鶴、どこか言葉遣いが優しい。

 

「赤城さん、一航戦の誇りは未だ受け取れません、私達だって警備府で隊長と培った五航戦の誇りがあるんです。一航戦の誇りは自分でお守り下さい」

「そう……ね、勝手に押し付けようとしてごめんなさいね」

 

翔鶴の指摘に今更ながらの自分勝手を知る赤城。

 

そこには完全な形での南雲機動部隊がそこにはあった。

いや、今この機動部隊を呼ぶのには南雲の名は相応しくない。

 

「新生南雲……いや、『大神機動部隊』!! 運命を打破し、全員必ず帰還せよ!!」

 

大神のその言葉に収まった筈の赤城たちの涙が再び湧き出る。

 

あんなことをしでかした自分達をまだ信じてくれるのか。

ならば、全てを彼に捧げよう。

艦娘としての全てを。

正規空母としての力を、乙女としての心を全て。

大神さんが居ればもう何も怖くない、彼と同じ道を行き、同じ日に果てよう。

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

 

艦隊構成。

 

MI独断専行組

赤城 加賀 蒼龍 飛龍 利根 筑摩

 

救援

翔鶴 瑞鶴 金剛 神通 朝潮 秋雲 大神

連合艦隊

赤城 加賀 蒼龍 飛龍 翔鶴 瑞鶴 大神

金剛 利根 筑摩 神通 朝潮 秋雲




大神の真の必殺技、私物化炸裂。
処分は初期のプロット通り、変更はしていません。

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