MIより有明への帰途につきながら、大淀とAL方面の状況などを確認する大神。
『AL作戦の方は上手く行ったのかい?』
『ええ、敵基地の強襲・破壊に成功したと連絡を受けております。それで隊長、永井司令官からもう一つ連絡を預かっております、実は――』
……
…………
『深海棲艦を鹵獲しただって?』
『はい。どうやらその深海棲艦――北方棲姫は駆逐艦以上に幼い容貌だったらしく、組し易しと判断した海軍から深海棲艦の調査の為に使用したい、と依頼したそうです』
使用したい、その言葉に何か嫌なものを感じる大神。
かつて京極との闘いで用いられた降魔兵器を思い出してしまう。
『艦娘が囚われている可能性があるのなら、速やかに浄化したほうが良いんじゃないかな?』
『最終的には隊長に赴いていただき浄化する予定だそうですが、深海棲艦については分からないことが多すぎるとの事です』
『……分かった。華撃団の任務はAL方面の攻略までだし、それはおいておこう。後で米田閣下たちに確認するよ。響くんたちはもう帰還したのかな?』
深海棲艦の調査をするには、華撃団には技術人員が少ないのは事実だ。
餅は餅屋に任せるべきかと、とりあえず納得する大神。
『いえ、永井司令官の判断でMI同様、敵増援に備え現地にしばらく滞在するそうです』
『それについても分かった。こっちは一泊して明日には帰還出来る予定だ。救出した艦娘たちの受け入れ準備を頼みたい』
『部屋割りなどは既に決まっております。ただ、浜風さん、谷風さん、雲龍さん、大鯨さんの制服については準備が遅れていますので、別の艦のもので代用する予定です。宜しいでしょうか?』
『大淀くんに一任するよ。ただ、早めに本来の制服を用意してほしいと明石くんと夕張くんには伝えておいてくれ』
『うふふっ、分かりました、隊長。お帰りをお待ちしていますね』
それを最後に大淀との通信を打ち切る大神。
浜風たちの方を向く。
「と言う事で、浜風くん、谷風くん、雲龍くん、大鯨くん。君たちにはしばらく本来の制服ではない格好で過ごしてもらうよ。悪いけど」
「いえ、このように歓迎していただけるだけで十分です」
「そうですねぇ、自分のものでない制服を着るのも悪くないと思います」
「隊長、あんま細かいこと気にすんなよ。禿げるぜ!」
「禿げっ!?」
谷風の言葉に、思わず頭を確認する大神。
少しは気にしていたらしい。
その様子を見て艦娘たちがクスクスと笑う。
だが、浜風だけが笑っていなかった。
何か懸念事項があるのだろうか。
「何か気になることがあるのかい、浜風くん?」
「……あの、サイズの方は大丈夫なのでしょうか?」
「サイズ?」
「ええ、非常に……非常に言いにくいことなのですが……胸の」
「あ」
結論として、大丈夫ではなかった。
帰還後、仮の制服として比較的ゆったりしたデザインの夕雲型の制服が浜風に与えられたのだが、それでも浜風の胸を収めるには小さく、ブラウスのボタンがはまらなかった。
また、その大きな胸の間に夕雲型の制服が挟まり、浜風の胸を一段と強調している。
思わず鼻の下が伸びそうになる大神。
「あ、あまり見ないでいただけますか……」
流石に恥ずかしさが勝ったらしく、胸の部分を隠そうとする浜風。
艦娘たちの視線も冷たい。
「ごめんなさい、浜風さん。空母か巡洋艦の制服を用意しなおしますので――」
「いえ、大淀さん。浜風は駆逐艦ですから、駆逐艦の服で、このままで問題ありません」
「そうですか? なるべく早く本来の制服を用意しますので、少しの間我慢してくださいね」
「はい、出来るだけ早く、お願いします……」
そう言って谷風と共に与えられた自室へと向かう浜風。
日も落ちてきたので、6人への鎮守府の案内は翌日改めて行うこととなった。
だが、大神には行うことがある。
MI攻略の途中報告だ。
確かに独断専行した艦娘に対し処罰は与えた。
だが、それを許した大神の監督責任もある。
一刻も早い報告を隊長である自分の口から行う必要があるだろう。
そう思い、大神は米田、山口両大臣への通信を開き、報告を行った。
大神の報告が終わった後、やがて米田が口を開く。
『連絡は受け取ってるが、なるほどな。薬を盛られるとはやられたな、大神』
『はい。まさかそんなことをされるとは考えもしなかったので』
『いや、大神。お前はそれで良い。お前が艦娘を信じられなくなったら、艦娘もお前を信じられなくなる。そうしたら艦娘は真に力を発揮できなくなる、そうなっちまったら元の木阿弥だ。大神、悪いが今後もお前には痛い目を見てもらうぞ』
『米田閣下、それは酷くないですか? それに監督責任も……』
『勿論、隊長として監督責任は発生する。減棒は覚悟しておけ。だけどな、今回作戦会議で発生しちまったミス、敵戦力の完全な見誤りを補い、MI島攻略を勝利に導いたのは大神、お前の功績だって忘れてないか?』
『あ……』
確かに米田の言う通りだ。
赤城たちを助けることしか考えていなかったので、その点は完全に頭になかった。
『その顔は、艦娘を助けることしか頭になかったって顔だな』
『すいません、米田閣下』
『お前らしいよ、大神。艦娘に対して独断専行の処罰は与えたんだろう? 監督責任についてはお前の減棒で済ませる。それで終わりだ、それ以上の処分はしないように俺達で何とかするさ』
『それにAL/MI作戦は峠を越えたとは言えまだ継続中だ、大神くん。今は作戦の成功に傾注してほしい』
『分かりました、山口閣下。あ、あと一つ尋ねたいのですが、鹵獲したと言う深海棲艦についてなのですが――』
『やめとけ、大神』
尋ねようとした大神の言葉を米田が遮った。
『米田閣下?』
『山口が言っただろう。今は作戦の成功に傾注するべきときだと。作戦の完全な成功までは余計なことは考えない方がいい、大神』
米田のその言葉に大神は一つの確信を得る。
だが、米田や山口の言うとおり、今は作戦に傾注すべきだろう。
『分かりました、では失礼致します』
その言葉を持って通信を打ち切る大神。
それから数日間、大神はMIで中間棲姫にうけた傷を明石の説教と共に治したり、報告書などの書類作成に明け暮れながら過ごしていった。
そんなある日、大神の元へ海軍からの要請書が舞い込んで来る。
そこには、『深海棲艦研究の為、霊力技術の協力を請う』と書かれてあった。
次回の反応が怖い