艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十話 4 死神との闘い

ALでは響たちが、

MIでは秋雲たちが、

そして有明では睦月たちが泣き崩れる。

 

大神との繋がりを失って、力を失い、大神の死を感じて。

 

 

 

だが、一人だけその状況を認めない、大神の生を取り戻すことを諦めない艦娘が――明石が居た。

モニターに映し出されるパラメータを見つめて。

医学的知識とそこから導き出される見解――大神は未だ完全には死んでいない、生きていることを信じて。

それがどれだけ絶望的なだと知っていながら。

 

「死なせません! 絶対にあなただけは!!」

 

周りの艦娘たちが泣き崩れていくことで、逆に明石の頭はパニック状態から脱し、冷静さを取り戻していく。

医師として、そして艦娘として何が出来るのか、医療ポッドを作動させながら明石はひたすら考え続ける。

 

結論は一つしかなかった。

 

自分達艦娘による、大神の霊的治療の再現。

 

皮肉な事に大神の力を繋がりを失ったことで初めて、明石は自らの持つ霊力に気が付いていた。

大神と比べれば小さいが、霊力を持っていることを。

 

なら、これしかなかった。

 

そして、それが再現できる艦娘が居るとするならば、それは常に大神と共に居た艦娘、大神の霊的治癒を何度となく見続け、記録に収め続けてきた艦娘しかいない。

 

即ち、明石しかその条件を満たす艦娘は居ないのだ。

 

見よう見まねで、どこまで再現できるか、明石には自信はない。

一度たりともやったことのない技なのだから当然だ。

けれども、状況は出来る出来ないの問題ではない、やらなければならないのだ。

 

「私の霊力で大神さんを癒す日がこようとは……思いもしませんでした。でも! 大神さんを救う為なら!!」

 

医療ポッドの動作を自動に切り替えて、明石は大神の傍に立つ。

そして、大神がかつて響の局所治療をした時と同じように、傷口に向けて手をかざす。

 

「大神さん、技名お借りしますね。狼虎滅却 金甌無欠……」

 

何度も大神の技を至近で見ていたそれを、見様見真似で再現し霊力を捻出する。

そう言った明石の手のひらから暖かな光が放たれる。

光を浴びた大神の傷痕がわずかに癒え、モニターに映し出されるパラメータが良化傾向を示す。

 

「やった!?」

 

けれども、それは一時的なことですぐに元の値へと近づいてしまう。

 

「ダメなの? 私の力じゃどうにもならないことなの!?」

 

でも、僅かなこととは言え霊的治療は確かに出来たのだ。

どうにかして出力を上げる事さえ出来れば、治せるかもしれない。

 

そして、明石はとある事に気が付いた。

 

自分ひとりの霊力では無理かもしれない、でも有明の艦娘全員でなら或いは――

そう考えたら、明石は近くのマイクを取り叫んでいた。

 

『みんな、力を貸して! 大神さんを救う為に!!』

 

 

 

そして、有明鎮守府の全ての艦娘が手を繋いで集中治療室の前に立っていた。

自分に出来るかもしれない事をする為に。

全ての艦娘の思いは一つにまとまっている。

 

大神の命を救う。

 

ただ、その事を考えて気を、自らの中にある霊力を捻出しようとする。

 

吹雪は最初の出会いから、大神に助けられたときのことを思い出していた。

 

『あの時、大神さんが居なかったら私はこうしていられなかった。だから今度は……私の番!!』

 

鹿島は大神との出会いによって、光がさした自らの生を思い返し祈る。

 

『大神くん、生きていて下さい! 貴方が生きていてくれれば私は他に何もいらない!!』

 

曙が、

 

『褒めてくれなくてもいい、撫で撫でしてくれなくても良い! 生きて、隊長!』

 

足柄が、

 

『師匠として、弟子を泣かせるわけにはいかないの! 死んじゃダメなんだから、隊長!』

 

そして、赤城、睦月、如月が大神にリードされてのこととは言え、合体技にて莫大な霊力を放出したことを思い出し、霊力を捻出する。

 

それらの霊力全てが、大神を想う心、大神を助けたいと想う心によって一つにまとまり、繋がった手を通じて明石に流れ込んでいく。

 

 

 

自らの身体に収まりきらないほどの霊力。

それを受けて、明石は気が付けば一つの技名を呟いていた。

 

「比翼連理……相即不離」

 

そして、癒しの力を一辺たりとも余すことなく大神に注ぎ込む為に大神と唇を合わせる。

大神へと癒しの力が注ぎ込まれていく。

 

見る見るうちに傷口が塞がっていき、大神の顔色が良くなっていこうとする。

 

だが、大神の傷口にまとわり付く怨念がそれを邪魔する。

傷口を癒そうとする力とそのままにしようとする力がせめぎあう。

 

このままでは、やがて癒しの力は尽き果て、元の木阿弥となってしまう。

それではいけないのだ。

 

『負けない……絶対に、負けない。死神なんかに大神さんは渡さない! 私の命に代えても!!』

 

自らの扱える霊力だけではない、明石という艦娘を構成する霊力さえも全て癒しの力へと変えて、大神に吹き込んでいく。

 

それは自分の消滅を意味することに他ならないと知りながら。

 

『大神さん……愛しています…………』

 

霊力に押し流されて怨念が消滅し、大神の傷口が塞がっていく。

 

そして大神の顔色が良くなっていき、呼吸が、そして脈動が自発的なものへと切り替わっていく。

 

大神の健康状態は死の淵から脱し、モニターにそのことが示される。

 

そのことに気付き、喝采を上げる艦娘たち。

先程まで流していた悲しみの涙ではない、歓喜の涙を流して。

抱き合い喜びの声を上げる。

 

「よかった……良かった……」

 

ALでは響たちが、MIでは加賀たちが再度繋がった魂の絆に涙から、絶望から立ち上がる。

 

 

 

しかし、その一方で自らを構成する霊力、即ち自らの命さえも大神へと吹き込んだ明石は、一人その場に崩れ落ちていた。

 

「あは……は、やりすぎちゃった……かな……」

「明石、大丈夫?」

 

大淀が崩れ落ちた明石を抱き上げる。

そして、驚愕する。

明石の腕が、霊力の欠乏により身体が透けて見えているのだ。

 

「どうせだったら、大神さんに抱かれたかった……かな」

「明石、あなたまさか!?」

「大神さんの為だもの、これくらい……当たり前よ」

 

手足が薄れていくと同時に、手足の感覚がなくなっていく。

意識も徐々に薄れていく。

 

薄れ行く意識の中、明石は人魚姫の話を思い出していた。

 

どこまでも純粋に王子を愛しながらも、報われず海の泡へと消えた悲しい恋の物語を。

 

 

 

自分を構成する霊力を全て捧げた自分も、人魚姫と同じように同じように海の泡となって消えてしまうのかもしれない。

 

 

 

でも、違う。

 

 

 

一つだけ違う。

 

 

 

例え命と引き換えになったとしても、私は大神さんを救うことが出来た。

 

だから悲しみではなく、誇りを持って私は旅立てる……行ける。

 

この恋は決して悲しいものじゃない。

 

 

 

もし未練があるとすれば。

 

 

 

一度だけ。

 

 

 

「一度だけで……いいから、大神さんと……勝利を刻みたかったな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、行こう! 明石くん! 狼虎滅却 金甌無欠!!」

 

それは本家本元の癒しの力。

明石を抱き上げ、唇を奪い、癒しの力を吹き込んでいく。

瞬く間に明石の手足の感覚が戻り、意識が蘇る。

 

「大神さん……」

 

逆立った黒髪。

その姿、彼を慕う艦娘が見間違えるはずがない。

 

「心配をかけた、みんな。俺はもう大丈夫だ!!」

「大神さん!」

 

誰あろう、大神一郎が医療ポッドから外に出てその場に立っていた。

 

「みんな行くぞ! 深海棲艦の反攻を打ち砕くんだ! 提督華撃団、出撃!!」

「「「了解!!」」」




前話ラストからの鬱パートお付き合いさせて失礼しました。
感想返しも再開します。

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